ガロのメンヘラ感はデビュー当時の椎名林檎に通じる!?

山田玲司氏(以下、山田):ガロの表紙。見てこのメンヘラ感。これが当時の雰囲気なの。わかる? この椎名林檎感。

乙君:あーーーー!

山田:デビューの頃の椎名林檎感だし。

乙君:ちょっといいすか。池上遼一特集って!

山田:見逃しませんねえ。こん時に描かれてた『赤色エレジー』って知ってる?

赤色エレジー (小学館文庫)

乙君:せきしょくエレジー?

同棲時代 (1) (双葉文庫―名作シリーズ)

山田:『同棲時代』と『赤色エレジー』と、同棲ものの巨塔みたいな2大大ヒット作っていうのがあって。そいで、『赤色エレジー』ってあがた森魚さんが歌ってたり、林静一さんが描いてたの、知ってる?

乙君:わかんない。

山田:要するにさ、全共闘で敗北した若者たちがどうなるかっつうと、四畳半にこもって、貧乏な暮らしをしながらただセックスするんだよ。

乙君:キャベツばかりをかじりながらね。

山田:そうそう。で、あのチューリップの『サボテンの花』とか、あの時代だよね。四畳半フォークって時代で、あの時代って同時に旅もするの。要するに自分探しもするの。これなかなかすごいんだ、林静一さん。

山田:あのね、「明日になれば、朝が来る」っつって「明日になればもう大丈夫だ」って言ってんだけど「昨日もそう思った」ってこれ有名なやつです。

山田:これ知ってるかな?

乙君:知らないけどこれすごいこれおもしろそう。

山田:昨日もそうだった。「明日になれば大丈夫だ!」って言って、「昨日もそう思った」。ドーン! これ壮絶でしょ。しかも白黒反転しますから。

乙君:ほんとだ!

山田:この感じ。この出口のない感じ。これもまたメンヘラかどうかっつーと微妙で。意外と通り道だったなって気もすんのね。

乙君:「明日バイト探す。昨日もそう思った」って(笑)。

60年代のメンヘラ代表は星一徹

山田:60年代でもっとメンヘラっつったらこっちだと思うんだよね。この人じゃないのかなーって。

乙君:一徹(笑)。

山田:この人は戦争PTSDだと思うんだよね。

乙君:それはそうでしょうねー。

山田:そう! そんで、アレでしょ。シスですわ。

乙君:シスなんだ。

山田:シスと、ダース・ベイダーとルークが別れないで一緒に住んでたらこうなってます。「フォースが足りーん!」パリーンって。

乙君:もうギャグ漫画だからな、俺ん中で(笑)。

山田:でもこういう人っていっぱいいたんだよ。全共闘世代の敵っていうのはこの一徹さんなんだよ。どういう人かっていうと、大戦で連れてかれて、戦争やらされて、ひたすら殴られてきたの。「貴様それでも軍人か」って。「貴様それでも軍人か」って殴られて平和になって帰ってきたのにそれでもやるんだよ。

乙君:それしか知らないんですって。

山田:そう! だから全共闘世代もそれしか知らないから殴るわけ。

乙君:あー、総括だ! って。

山田:総括だ総括だ! って。これが体育会のノリとして運動部にずっと引き継がれているんだよ。

乙君:あー、確かに確かに。

山田:これは困ったやつですよ。困ったシスですよ。

乙君:困ったシス(笑)。困ってないシスもいるのか。

山田:じゃあ、これはメンヘラかって話ですよ。

バカボンに至っては、もはやあちら側に行っている

乙君:え!?

山田:ここに来て僕はちょっと思ってるんです。彼岸に行ってるっていう。

乙君:それはそうですね。

山田:バカボンに至っては向こう側に行っちゃってるし、レレレのおじさんに至っては「The Fool On The Hill」ですわ。あのビートルズの。

乙君:「The Fool On The Hill」ですか。

山田:バカが1人〜って向こう側にいっちゃった。これもう聖人の域に達してる。これも病んでるのかな〜? みたいな感じですよ。

70年代でおもしれーなと思ったのが、アレなんですよ。「頭脳警察」。やべーな55分で頭脳警察の話するか。

乙君:「レレレのおじさんは子供たちに捨てられたって話は本当ですか?」って。

山田:わかんない。なんかね、長いじゃん。

乙君:長いんですか。

山田:マガジンからいきなりサンデーに雑誌を移すとか、とにかく前衛を極めようとした実験的な作品なんで、何が虚で何が実かわかんないのがバカボンなんで。

乙君:俺ウナギイヌに似てるって言われます。

山田:あなたウナギイヌに似てらっしゃる(笑)。

乙君:ハイ、次。

山田:俺60年代〜70年代の誰がメンヘラかって話を、ちょっと話すこと、なんかできないのこれ。ゲストによっては何日間もかかっちゃうの。それくらい70年代ってわけわかんないくらい病んでるし、60年代よりはヤバイ感じなんだよね。

70年代のメンヘラは頭脳警察?

山田:俺80年代〜90年代の方が得意なの、なんでかっていうとその時代生きてたんで。70年代子供の時代だからよくわかんないんだけど。頭脳警察って知ってる?

頭脳警察1(紙ジャケット仕様)

乙君:はい。

山田:ま、頭脳警察の話すると俺また新左翼とか言われるかもしれないんだけど、俺はどっちでもないんだけど、そのー、この人の曲で「仮面劇のヒーローを告訴しろ」って歌知ってる?

乙君:知らない。

山田:これ、すごいんだよ。これ実を言うと、ブリジット・フォンテーヌって人の詩のオマージュなんだよ。どういう詩かっていうと。こうなってます。

みっともないオレはまるでランボー 卑怯者のオレはまるでヴィヨン 乱暴者のオレはまるでユーゴー 梅毒のオレはまるでボードレール でもね君には詩なんてわからない

山田:要するにロクでもない状態ってのを後に持ってきてるんだよね。いわゆる非属なんだよ。アウトサイダーであるっていうことイコール、文豪だっていう、すげーんだぜって言ってんだよ。で、2番になると。

インチキなオレはまるでラシーヌ 露出狂のオレはまるでルソー

山田:ルソーが露出狂になっちゃってる。冷静思想のオレはまるでボルテール。これはまあ良いんだけど、架空のオレはまるでシェクスピア。っていないことになってんだよね、シェイクスピア。

「でもね君には文学は無理だね」って言い切ってるんだよね。

乙君:スノビズムですねぇ〜!

山田:スノビズムです! で、最後に、「テンカンの俺はまるでゴッホ」ってヤバイやつぶち込んでるんでこの作品は世の中に出ません(笑)。

乙君:ゴマすりの俺はまるでベラスケス(笑)。

山田:アル中のオレはまるでユトリロ。

乙君:それはそうでしょうね。

山田:ドジなオレはまるでミケランジェロ。ってかわいいの。これ、元ネタがあって、これがフランスのブリジット・フォンテーヌが。

私はランボウのように穢れている 私はヴィヨンのように卑劣だ ユーゴーのような放蕩者 ボードレールのような梅毒患者 でも恐らく あなたは詩なんてお好きじゃないわね

山田:っていう優しい言い方をしている。君には詩なんかわかんない。どういうことかって言うと、アウトサイダー、イカれてる、狂気に近ければ近いほど「俺すごいぜ、詩人だよ」って当時の空気をすごい濃厚に言ってるなっていう詩だよねって気がするんだよね。

頭おかしい合戦が始まる

乙君:60年代の前衛から頭おかしい合戦が始まるんですよ演劇界では。

山田:その通りっ!

乙君:70年代に入って、つかこうへいが出てくるまでずーっとそれが続いてたんですよね。

山田:こうなりますから! それはこうなります!

乙君:……。

山田:その話をあとでしようかなと。59分なんで。もちろんこの人も出てきます、みんなが大好きなやつ。

そんで、さっきあなたが言ってた変な人合戦で見てもらいたいのがこれですね、スイマーズですね。君とスイマーズご存知?

乙君:知らない!

山田:これバンドブームの時に出てきた、全員がスイミングキャップを被って、スイミング選手の格好をして演奏するってバンドです。これが80年対のイカ天に出てきて人気だったんです。曲は「君とスイマーズ」だけだったんですけど。

乙君:へー。

山田:これ頭脳警察の成れの果てですわ。俺のほうがおかしな人ー! っていうレースが70年代から80年代に始まってくっていう流れですよ。これ、ずーっと思うのが、健全なの。結局「病んでる」「病んでる」って病んでる余裕があるなって感じなの本当に。

乙君:ほー! 笑えていられるってことですか。

山田:この詩のもとに、「俺ってクールだろ」ってやれる。本当は田舎のいい人なんだよ。

乙君:そうそう、みんなぶってるんですよ。

山田:みんな優しいの!

乙君:頭よくって、みんなフィジカルがちゃんとしてるからそれができるんですよね。

四畳半と宇宙がつながる70年代

山田:だからそこまでいってないっていうか、国がそこまで病んでなかったなって感じなの。ついでに言っちゃうと、70年代で言っときたいのは、四畳半でこじれるじゃん、で、旅に行くじゃん、そうすっとどうなるかっていうとアース・ウインド・ファイアが出てくるわけよ。

乙君:言えてないですけどね。アース・ウインド・アンド・ファイア。

山田:ムカつく(笑)。

乙君:ドゥーユーリメンバー♪

山田:そうそうそう、セプテンバー、で宇宙のファンタジー。テレレレ〜♪それが始まる時期にだからアフロなんですねこの人たち。

乙君:あー、アフロだったの。

山田:そう、イデオンがアフロなのは70年代のファンク・ソウル・そしてスピリチュアルなんだよ。何を目指すかっていうと、これおもしろいんだけど、フォース。

乙君:ん?

山田:スター・ウォーズは正にスピリチュアルなの。スター・ウォーズでやってんのってどスピリチュアルなの。フォースを感じろって言ってたね。そしてDon’t think……。

乙君: Feel.

山田:これもあの頃なの。

乙君:これも?

山田:これあの頃ですから。そういう、四畳半って松本零士が一番顕著なの。四畳半のふすまを開けると宇宙ってのよくやるの。この時代に四畳半と宇宙つながりますから。

乙君:でも藤子不二雄もそうでしょ。

山田:そう! 引き出し開けたら未来! みたいな。だから「自分の家と宇宙つながっちゃった〜!」みたいなのが70年代ですよ。

乙君:なるほどなるほど。間がないんですね。SFブームもあるし、そこから、生活からいきなりファンタジーに。

山田:だからラーメンライス大好きなのよ。だけど宇宙も好きなんだよ。だから宇宙でラーメンライスっていう、わけのわかんないことになってくんだよ。

それが70年代。で、そこでイデオンと共に戦後の幽霊っていうのは一回成仏するわけですよ。宇宙のファンタジーに飛んでっちゃうんだよ。そこにバブルの波がやってくる、84年プラザ合意がやってくるんだよ。それでまた新たなおかしな状態が始まるってことなんですよ。

80年代から90年代、その後の最強のメンヘラキャラ選手権っていうのがありまして、俺が選んだ最強のメンヘラキャラってこれですよっていうのを後半やりたいと思うんで。限定放送にいくって感じでどうですか。

有料放送に続く)

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