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【鼎談】桐生市・石原氏×ニュートロンスター・殿岡氏×キッズバレイ・星野氏(全2記事)

2017.03.23

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街中にビーコンを埋め込む? 群馬県桐生市が行った、大胆なゲーム戦略の舞台裏

提供:NPO法人キッズバレイ

2017年1月、群馬県桐生市が日本初となる街探索型GPSゲーム「2116 feel and color」」をリリースしました。ゲーム制作の指揮をとったのは、同市出身のゲームクリエイターである殿岡氏。目的は街の活性化ですが、その結果はどうだったのでしょうか。今回の鼎談には、殿岡氏のほか、運営を担当したキッズバレイ星野氏、同市の産業経済部産業政策課・石原氏に、ゲームを作った狙いや桐生市が抱える課題などを聞きました。

地方創生加速化交付金8,000万円で制作スタート

―今回、桐生市がGPSとARを活用した探索型観光ゲームを地方創生加速化交付金を活用した戦略プロジェクトの一環として実施されました。今日は概要などについてお話いただきたいと思っています。

まず、このゲームを作るきっかけは地方創生加速化交付金がきっかけだったということであっていますか?

石原智貴氏(以下、石原):そうですね。きっかけは、地方創生の観点の交付金について、内閣府から公募があったことでした。

それをどう使うかという話ではなく、ちょうど殿岡さんが桐生市に戻ってきて創業するということだったので……。殿岡さんが進めていた地方活性化に向けたプロジェクトに使えるものを探しているところ、内閣府からの公募事業を活用できないかということになったわけです。

この交付金は1年限りですが、10/10の交付金ということで、交付金の対象事業であれば、満額国から資金が出るものだったのです。

―ちなみに、いくらくらい出たんですか?

石原:8,000万円で採択されました。今回の交付金は、いち自治体で、4,000万円の事業を2事業までという制限があったのですが、桐生市ではさまざまな政策を複合的に盛り込んだものとして、8,000万円の事業を1本提案し、採択を受けました。

桐生市は人の流れが少なくなっているというか、商店街に新しい人の流れを作ることが必要でした。そうなったとき、殿岡さんが持っているモデルが桐生市の街づくりに生きるんじゃないかと思ったんです。

殿岡康永氏(以下、殿岡):僕自身、以前も京都市でまったく同じ試みのゲームを作ったことがあるんです。そこで地元である桐生市と協働するかたちで、今回のゲーム企画を始動させました。

石原:殿岡さんは桐生市でニュートロンスターという会社も創業されています。事業計画として、ゲームを通じて「街歩きを促進しながら、IoTといった最新技術でのセンサー網を作る」があります。つまり、人の流れからわかるデータを活用して、街の課題に役立てていくものですね。

例えば、ご老人や子供の見守り、公共交通の利便性、教育サービス、防災などにつなげていく。それは桐生市の街づくりにも有益だろうと感じました。地方創生加速化交付金が内閣府から公募されたところだったので、桐生市として申請して、プロジェクトを進めていくことにしたんです。

気になる反響は……?

―実際にやってみた反応や、もし可能であればダウンロード数などを教えてください。

殿岡:反応は……。

石原:1月や2月は、寒すぎたので……なんというかその……(笑)。

(一同笑)

1月にリリースして、私もスタッフの一員としていろいろ周りましたが、手がかじかんでボタンを押せなかったんです……(笑)。

星野麻実氏(以下、星野):雪も降りました。でも、暖かくなりつつある今、ダウンロード数はちょっとずつ伸びていますね。

石原:暖かくなってきて、だんだん知名度が高まってきて。ゲームをやってくれる人が増えてきているところです。やはり、1年間やってみないとわからないですよね。

―利用者の割合としては、地元の方と観光客の方はどんな感じでしたか?

石原:割合的には、地元の方々が多いですね。現状では、まだ観光客は少なく、地元の人が体験するというのが多かったですが、今後観光客が増えていくことに期待しています。あと、やってくれている方のほとんどが若い方ですね。

―だいぶビジュアル的にエッジが効いていましたね(笑)。

殿岡:若者に使ってもらおうと思ったら、エッジを効かせたほうがいいかなと思っていて。

石原:ただ、商店街のイベントで観光ガイドをやってくれている60〜70歳の方々に聞いてみると「わけがわからない」「会話がよくわからない」って言われてしまって。

(一同笑)

「観光ガイドとしてお客様に説明するには、まず自分ができなくちゃ」「やってみよう」と言ってくれていたんですけれどね。

GPSを使ったゲームは、実は日本が先だった

―ぶっちゃけてお話させていただくと、ちょっと、ポケモンっぽいという印象も感じたんですけれども。

殿岡:GDCというゲーム開発者のアカデミー賞みたいなものがあるんですけれど。先ほどお話した京都市で実施したGPSを使ったゲームを2012年に発表したんです。そのとき、アジアで唯一選出されたんです。

当時はまだ、GPSを使った街歩きゲームはあまりポピュラーなものではありませんでした。それも、京都府で言うと東映や松竹撮影所に協力してもらったかたちだったのですが、そういった取り組みもまだなかったんですね。

それがいつの間にか、GoogleがぽーんとIngressやポケモンGOを出して、今のようなかたちになりました。なので、もともと先に街歩きGPSゲームをやっていたのは、うちだったんですよね。

―殿岡さんのほうが先だったんですね。

殿岡:そうなんです。実際にポケモンGOの代表のジョン・ハンケさんにもたまたま講演会でお会いして「うちのほうが先にやっていたんだよ」と話したと思います。でも、向こうのほうが圧倒的にプロモーション力もあるし、ゲームの内容も面白かったです。でも、うちが先にやっていたというのは言いたいです(笑)。

ただ、ポケモンGOが出たおかげで、ゲームの説明をしやすくなったのは、すごくいいなとは思っているんですけど。

―でも、IngressもポケモンGOもビーコンは使っていませんよね?

殿岡:あともう1つ違うのは、ポケモンGOの場合、地域性はそれほどないんですよ。どこでもできるという状態です。うちの場合はここに来ないと始まらない、桐生市に来ないとできないので。そこは違いますね。

石原:有名キャラクターを使うことで、そのファンが押し寄せて……というメリットはありますけれど、一方で版権を使う難しさもあるので。

殿岡:僕たちもそこに関してはいろいろやってきたんです。しかし、期間内にできなかったんです。

―今回のゲームに関しては、ストーリーが具体的で、ちゃんとエンディングがあります。そこはまたアップデートしてシリーズ化することはあるんですか?

殿岡:シリーズ化はできますし、実際に横展開しやすいシステムにはなっています。

石原:今回のゲームも、ほとんどクリアした方でも一部しかやっていないというか、メイン通りだけで終わっているんです。ゲームには「おつかいミッション」などでいろんな小道に入らせるというミッションがあるんですけれど、今後はそれをPRに活かしていかなくちゃいけないかなと思っています。

実際に今、桐生市民が商店街でなかなか買い物をしなくなっているんです。郊外に大型店舗ができて、みんなそちらへ行っているんですね。ゲームをきっかけに商店街を歩いてもらって「こんなところにあったんだ」となってほしい。市民が街の良さを再発見するようなものを、ゲームに期待していますね。

目的はビーコンによる横展開

―ちなみに、そもそもKPIみたいなものがあったんでしょうか?

石原:作っていました。けれど、絵に描いた餅でしたね。計画通りには、まったくいきませんでした。GPSゲームでも1,000人や2,000人単位でした。

当初は秋口にリリース予定でしたが、いろんな支障があったので、結果的に1月12日スタートになったんです。当初の1年目の成果とすると、正直すごく少ないです。ここは、今後どうなっていくかだと思いますね。

それでいうと、初年度は交付金を使えますが、来年以降は民間ベースでどう回していくかが課題になると思っています。

―そこ、すごく興味があります。今後にどうつなげていく考えなのか、実際にどういった部分でお金が生まれる想定なのか。

殿岡:まだ言えないところはあるのですが。言えるところでは、実際に横展開していくのが1つのモデルとしてあります。例えば、ショッピングモールなど、場所を持っているところと一緒に人を呼び込むPRツールとしてやっていくのもアリだと思っています。そこでお金が発生してくるのも1つですよね。

あともう1つは、データのところです。具体的にどうすればいいのかは、その後の話になってくると思うんですけど。

―データの活かし方、見守りのような部分でいうと、個別の家にビーコンみたいなものがあると、なにかデータからわかるものがあるんですか?

殿岡:現状では「どこを通ったのか」がリアルタイムもしくは時間差でわかりますね。

―それでいうと、アプリだと起動しないといけないので、やはりなにかのガジェットのほうが使いやすそうですよね。

殿岡:そこはハードウェア面で、それを一緒にできる会社さんと考えているところです。まだ言えないことが多いのですが、そこもどんどん拡張しながらやっていきたいというのはありますね。

ゲームをきっかけに2〜3年後の課題を解決したい

―なるほど。そもそも、このゲームの目的はインバウンドの強化という理解であっていますか?

殿岡:そうですね。先ほど僕の話がありましたけれど、2〜3年後は桐生市のいろんな課題解決について、どんどんやっていこうかなと思っています。例えば、見守りとかですね。

―インバウンドというより、見守り。これはもう地域の中の話ですよね。

殿岡:そうですね。今回の動きには2つの軸があります。1つはインバウンド。桐生市へ訪れる観光客が、エンターテインメントや遊園地に来る感覚できているというのがあります。1日体験してもらって帰る。そこでの経済効果を狙っています。

もう1つは、実際に住んでいる人たちが便利な生活をできるもの。それは今考えているところですが、waシステムの中でも計画しているものですね。

石原:waシステムというのは、観光客や市民に、実際にゲームでいろいろ動いていただいて、人がどこから来て、どういった行動をとるのかを、ビッグデータというかたちでどんどん蓄積・活用できる仕組みですね。そのデータを活用して地域の企業の雇用創出なども期待しています。

それだけではなく、街づくりの課題……見守りやバスの利便性向上などにつながっていくとさらにいいなと思っています。ただ、それは1年間では達成できないものです。そこで初年度はまず「ゲームで人を呼ぶ」に特化したんですね。

―今回のゲームはとっかかりということですかね?

殿岡:そうですね。1年目はとっかかりを作りながら、翌年からドライブをかけていきたいと思っているところですね。

―その中心となるのが「行動データを蓄積していく」なんですね。変な話、ビーコンをあらゆるものに埋め込むことが、データ蓄積につながっているんですよね?

殿岡:そうですね。風が吹けば桶屋が儲かる……ではないですけれど。そういうところに持っていきたいですね。

データというのは、実際にはリアルタイムで街の状況がわかったりするので、安全にも使えます。さらにいうと商売にも活用できます。いろんな活用パターンができると思うんですよね。

商店街が協力してくれた

―お話をうかがっている印象として、「観光客を桐生市へ呼び込む」と「観光客の満足度を上げる」は分かれていると思います。それでいうと、観光客の満足度や桐生市への理解を深めるところはどうだったのでしょうか。

殿岡:今回、僕がけっこう難しいなと思ったのは、京都市と桐生市では層が違うということです。

例えば、京都ならなにもしなくても観光客が集まってくる状態です。サービスをするとしても、そこに「+α」として上に乗せて行くことになるんです。桐生市の場合、まずは認知度を上げることからスタートします。ゼロから始めることになる。スタート地点が「+α」なのか「ゼロ」なのかは、ちょっと違います。

実際にゼロから認知度を上げるのは、非常に難しい。PRなども打ちましたが……。

―実際に、外部に向けてけっこうPRされたんですか?

殿岡:アプリ自体は2017年1月にリリースしたものなので、今現在では、全国的にはまだまだ認知度がないですね。

石原:そこはキッズバレイさんがいろいろメディア戦略をしていただいていたので、ぜひお話を……。

星野:そうですね。アプリ自体が街歩きゲームだったので、リリースが1月2月だと、ちょっとハードなので……。ちょうど2月中旬くらいからPRを始めたんです。

―1月2月だと、寒いですよね。ポケモンGOも今、誰もやっていないですから(笑)。

星野:そうなんです。春先になって「ちょっと外に出たいな」という時期に合わせるようなカタチでPRを出しました。

それまでは、県内のメディアや新聞に取り上げてもらっていました。でも、そこからのクチコミから実際に「じゃあ、行ってみよう」とアクションを促すのは、ちょうどこれからの時期かなと思っていました。

今日はちょうど商店街が中心となってイベントをやってくれていたりするので、そういうところから少しずつ参加者が増えるようなPRをしています。そういった流れで、盛り上げていきたいですね(笑)。

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