2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:慶應丸の内シティキャンパス
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服部泰宏氏(以下、服部):これは私が勝手にまとめている経営学のトピックです。
非常に狭いマクロの話から、超ミクロなモチベーションやキャリアの話、そして、真ん中にあたるOSに当たる部分です。右から左へ、1990年から2010年かけて大きく変化していきます。
まずは、ハードからいきましょうか。もともと、これまでの日本で語られてきた、いわゆる人に関わるハードな部分(制度・仕組み)ですね。年功に基づく評価、あるいは長期雇用が堅持された時代がありました。そこから今の業績に基づく評価に変わりましたが、長期雇用に関しては、ある程度、堅持されています。
こういったかたちでシフトしています。
シフトしていない部分も含めてですけれど、例えば、リーダーシップ。ハードなのか、ソフトなのかという分類はともかく、「優秀なリーダーシップとは一体なにか」という語り口、トーンも変わってきています。
古典的な研究として、私がまだこの世界に入る前ですが、「いいリーダー」あるいは「いいマネージャー」のリーダーシップは、基本的には、与えられた仕事をちゃんとこなすことであり、自らの背中で部下を引っ張ることができること、でした。自分のパフォーマンスも高いし、部下に対してもしっかりと指導ができる。
そのセットだけでは息が詰まってしまうので、部下の感情や、生活に対しても意識を向けたり、感情の機敏にも配慮できる、そんなリーダーシップがいいものとされていました。
ここまでは変わりませんが、その後言われてきているのは、もう少し新しいかたちのリーダーシップです。例えば、既存の枠のなかでしっかりと仕事をするだけではなく、必要であれば枠組みすら壊すような人材が、リーダーとして求められてきました。
アメリカでは1970年代、あるいは1980年くらいから登場してきます。日本では1990年くらいから、アカデミックな世界では出てきたんじゃないかと思います。
最近よく言われているサーバントリーダーシップという考え方は、自分が一歩下がって、周囲を巻き込んだり、ともに物事を成し遂げるようなものです。これは今までの「いけいけどんどん!」「俺についてこい!」「俺の背中を見ろ!」とはちょっと違うリーダーの姿。
ちなみにサーバントリーダーシップの大事なところは、単なる控え目なリーダーではなく、したたかさを持っているということなんですよね。
一歩下がったり、サーバントとして召使い的に仕える。しかし、そのなかで徹底的な、したたかさみたいなものを持っている。だからこそ、ちゃんと物事を完結し、成し遂げる。こういうニュアンスを、ぜひぜひ勘違いしないでいただきたいです。
いずれにしろ、こういうものが求められ始めている。あるいは、組織文化への働きかけについては「内向き」「リスク回避」でもなんとかなった時代から、グローバル対応ということで、「外向き」「リスクに寛容」が求められるようになったという変化もあります。
個人レベルでいうと、「1つの組織のなかで昇進をする」、あるいは「同期と競争する」ということ。つまり、1つの完結した組織のなかでいかにその階段をのぼっていくかですね。たぶん、私の父や祖父の世代は、そういう時代を生きてきました。
しかし、私たちの世代はどちらかというと、ある人は「出世」と言い、ある人は「俺らしい人生、仕事をやりたい」と言う。つまり、非常に多様化してきていて、モチベーションが1つの理論や見方では捉えられなくなっています。
それと関連して、キャリアも組織内で完結をするようなものだけではなくて、境界をまたいでいく。つまり、複数の組織をまたぎながら、少しずつキャリアを蓄積していく。越境するような、そういったキャリアの在り方が出てきます。
だとすると、もしこのように左から右へと動いているとすれば、当然ながら組織と個人の関わり合いも、変わっていくだろうと思われます。
後々お話ししますが、組織と個人の関わり合いでこれまで言われてきたのは、「基本的に組織と個人はより強い繋がりで、より濃密で、より密接な関わりがあることが大事」ということでした。例えば「忠誠心」「愛着」という言葉で語られてきました。
しかし、それは本当に今の時代でも成り立っているんでしょうか。まさにハードとアプリケーションの間をパズルのピースで埋めるような話をする必要があります。小さなピースかもしれませんが、そこを埋めようとしてきたのが、私の10年の歩みになります。
さて、ここからは私たち個人と会社、組織との関わり合いがどんなかたちで語られてきたのか、どんなコンセプトとともに議論されてきたのかを、少し考えてみたいと思います。
まず、今までの話です。「心理的契約」が今日のメインテーマなんですが、そこにいくまでの段階として、1990年までの日本の経営学、経営の現場では、どんなイメージで、どんな言葉で語られてきたのかと言うと、「なんらかの理由で組織と個人が強く結びつける「親密な関係になる」でした。
私はこれを「組織のコミット型経営」と呼んでます。組織へのコミットメントには膨大な研究がされていて、そのなかで人が居続ける理由、人と組織が結びついている理由は3つあると定義されています。これがその3つです。
1つは、組織へコミットメントするメリットがあれば、人は居続けるということ。言われてみれば、当たり前ですよね。
メリットとして、ほかの会社に比べて給料が高かったり、会社からベネフィットを得ていると思えば、会社に居続けます。あるいは、日本企業で昔よくあった、年功序列で給料が上がっていく、ポジションが上がっていく。かつ長期雇用で、会社が守ってくれる状態であれば、「生涯賃金として居続けたほうが得」という議論がありますよね。
これは統計的に証明されていますが、ただ1つ注意しなければならないのが、自分より上の人も当然上がっていることです。
平均値で見ると、全体的には転職しないほうが合理的です。しかし、個人レベルで見てみると、ガクンと下がっている人もいれば、非常に上がっている人もいます。ですが、全体的には、居続けたほうがメリットがありますよね。
2つ目のメリットは、そこ(いまの会社)が好きだから。「給料をたくさんもらえる」「辞めると損する」ではなく、「そこにいいメンバーがいて、いいミッションがある」「社会的に認められた会社である」などがあると思います。愛着みたいなものがある。
この2つの側面があり、日本企業は意図的に個人を縛り続けてきたんじゃないかと思います。この考えに従っていれば、定期的に会社に一歩一歩近づいていく、核心部分に自分が入っていく経験をすることになりますよね。
しかも、人間は未来を夢見て生きる動物です。「ここに居続ければ、もしかしたら課長になれるかもしれない」「部長までいけそうかもしれない」「頑張ったら社長になれるかも」と、長く居続けることで報われる未来への、一種の希望みたいなものが会社への愛着を強めています。
実は、日本的な経営は意外に合理的だったとも言われています。
そこで3つ目のメリットです。私たちを組織へと縛り付けている、あるいは拘束するファクターがあり、それが社会への規範やムードだったときです。
私、滋賀大学の教員になって4年経ったころ、地元が神奈川県ということで横浜国立大学から声をかけていただいて、こちらに来たという経緯があります。
神奈川県に住む両親に伝えたとき、さぞかし喜んでくれると思ったら「4年間で大丈夫か? なんて不義理なことをするんだ。お前を育ててくれた4年間がパァになるじゃないか」といろんなことを言われたんですね。もちろん半分は喜んでくれたんですが、半分はおかしいんじゃないかと。
これって、ここ(社会の規範)なんですね。私の父親は公務員だったので、余計にそうだったのかもしれません。「一度入った会社は、基本的には居続けたほうがいい」。64歳になる父親ですが、彼らの世代からすれば、非常に強いものだったんじゃないか。同時にそれは、今の日本企業でも完全になくなっていないものかもしれません。
もちろん、かなりの部分で、特に私たち世代には薄まってきている感覚かもしれません。
いずれにしろ、もともと日本企業には、社会通念みたいなものがありました。今までの経営学でも、人と組織がいかに強い関係であるべきかをベースに議論してきたというか、そういった経営の施策を打ってきた節があったんじゃないか。
しかし、愛着を生み出すことや「入ったら居続けるべき」という社会通念での訴えなどで、これからも会社に人を引きつけ続けるのは難しくなっているんじゃないか。これは90年代くらいからアメリカで言われていますし、最近、日本でも言われ始めています。感覚的には、現場ではもっとはやく言われていたと思いますけれど。
実際には「ゆっくりとコミットメントを強めていきましょう」「ゆっくり時間をかけて組織と個人の関係を育んでいきましょう」と、長期雇用を前提としたものが成り立たなくなっていくような、いくつかのエビデンスが出され始めています。
1つ、調査したことがあります。東証一部上場企業がほとんどだと思いますが、そこにいる社員さんのサンプルです。約580人にアンケートをして「勤続年数」を簡単に答えてもらいます。
「あなたは、その会社で何年目ですか?」が横軸です。縦軸は「あなたは、今のポジションについて何年経ちましたか?」という、職位経過ですね。
例えば、この方は30年勤続してきて、今のポジションになってから10年経過している。つまり、キャリアのだいたい3分の1くらいを、同じポジションで居続けているということですよね。
点が、1人のキャリアの状況です。これが500もの点としてあるんですが、1つ衝撃的なのは、直線に沿って45度の傾斜になっていることです。要するに、入ってからずっと昇進していない層がこれだけいる。「特殊な仕事では?」と思うかもしれませんが、これはすべて将来昇進のありえる、いわゆるホワイトカラーのみなさんの状況です。
もちろん、会社の規模などがごっちゃになっているので丁寧に見ていく必要があります。業界によって長い・短いの差もあります。例えば、ITなら比較的はやく昇進するけれど、運輸系建設業はもう少し長く同じポジションに居続けます。
若干のバラツキがありますが、いずれにせよ大事なのは、この青い三角形の部分です。キャリアの3分の1以上に渡って、同じポジションに居続ける状況を表わしています。この層の人たちが、どれだけいるかということなんですよね。
ざっくりと割合的に言うと、580人中の160〜170人くらいです。全体の5分の1はいる。それくらいの割合だと思うんです。
定期昇進や現在のポジションから新天地へキャリア上の異動を「キャリアの転機」と私は呼んでいます。いずれにせよ、転機を経験している度合いが、日本企業のなかで少なくなってきている。それは、私自身の1つの問題意識でもあります。
これには、いろんな理由があります。1つは成果主義になっていること。パフォーマンスが上がれば昇進できるけれど、そうでなければ昇進できない。あるいは、ここにも書いているとおり、フラット化している。
リクルートさんの調査で、「この10年間のあなたの会社の階層は、一番下からCEOまで何層ありましたか?」と聞くと、だいたい5.5階層〜4.4階層。1階層くらい、これまでの日本の会社に比べて減っている。
「たったそれだけか!」と思われるかもしれないですが、何千、何万人いるなかで1階層減る、昇進の可能性が減るのはものすごい数です。
今まで定期昇進みたいなものでステップアップしてきたものが、徐々に少なくなってきている。先ほどお話した、「長い時間をかけて、組織と個人の関係を近づけていく」ことが難しくなってきている。
さらに言えば、私と父親の認識のギャップが表しているように、「居続けるべきでしょ?」という通念が、必ずしも成り立たなくなってきていることが、観察できると思います。
慶應丸の内シティキャンパス
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