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外国人特派員協会会見『日本外交の裏舞台』(全5記事)

「北朝鮮はさまざまなことをでっち上げる」 半島事情に精通する元外交官・田中均氏が金正恩政権に警鐘

2017年9月5日、外国人特派員協会にて日本総合研究所 国際戦略研究所・理事長の田中均氏の会見が行われました。田中氏は2002年、小泉純一郎元首相が電撃訪朝を果たした際に、北朝鮮側と交渉にあたった影の立役者とされています。混迷する国際情勢に外交のプロが独自の見解を語りました。

(注:全編英語の会見を翻訳書き起こししています)

北朝鮮はさまざまなことをでっち上げる

田中均氏(以下、田中):軍事的圧力と関係のある要因ですが、アメリカのシステムと北朝鮮のシステムがまったく異なるという問題点です。私たちはよく、北朝鮮の女性が核兵器やミサイルに関する攻撃的な声明を読み上げているのを見ますが、あれは日本が戦時中に軍政府によりでっち上げられたアナウンスと同様です。

みんなに信じてほしいことを作り上げるのです。ですから、さまざまなことをでっち上げ、大げさに述べるわけです。私が交渉していた間も、彼らになんらかの声明を述べてほしいとお願いすることもさほど難しいことではありませんした。

それが北朝鮮のやり方なのです。とくにトランプ大統領の政治に関していえば、彼はこのトリックをよく用いていますが、私は実際どのように発表されているのか知りませんが、よく考えられたものでしょうか? いえ、きっとそんなことはないと思います。

彼の述べることは即興で衝動的です。北朝鮮にどのように伝わっているのでしょうか。そのままの言葉で伝わってしまっている危険性があります。それに北朝鮮は民主主義の国でのシステムのあり方を理解していません。ですからそこにもリスクがあると言えるでしょう。

ですから私がお話ししているのは可能性としてではありますが、私たちがこれを軽く見る、もっと適切な言葉で言うとしたら、軍事的対決の可能性を「切り捨てる」べきではないのです。

私たちはこのことを肝に命じておかなければなりません。つまり、半島で軍事的対決が生じたとしたら、朝鮮、そして日本において多くの人々に甚大な被害をもたらすことになってしまうということですから、これは避けなければなりません。

私たちは外交的解決方法を探さなければなりません。そしてこれは優先させなければならない問題であります。これは日本の安全面に関してどうする必要があるかという点で非常に重要な問題となります。

北周辺国の共通利益とはなにか

初めに、我々は北朝鮮、そして中国に対して次のことをわからせる必要があります。北朝鮮がワシントンやニューヨークに到達可能なミサイルや核兵器による軍事的な攻撃をする可能性を高めるにつれ、米国が北朝鮮に対して攻撃を行うリスクが高まるということです。このことを北朝鮮および中国は理解する必要があると思います。これが1つ目のポイントです。

次に2つ目のポイントは、中国、ロシア、韓国、日本、そして米国を含む、北朝鮮の周辺諸国にとって、共通の利益があるということを粘り強く考えることです。共通の利益とは、北朝鮮の非核化です。韓国にとって非核化は明らかな利益です。日本にとってもそうです。

中国にとっては、北朝鮮が本格的な核保有国になることについて中国はどのように考えるだろうということを示すことができます。

つまり、北朝鮮の核開発の目的が、米国(の軍事的脅威)から自由になることなのは明らかですが、米国だけではなく、中国に対してもそうだということです。中国の国防において、このことがどれだけ深刻かはわかりません。ただ、北朝鮮が自らの対中政策の行使において、核能力を使用することであろうことは明らかだと考えられます。

そして、韓国の中で、1つの議論、つまり、韓国も核戦力を持つべきだというとても強硬な議論が立ち上ってくるかもしれないのです。

このようないわゆる核ドミノは、結果的に中国の利益とは見なされないでしょう。したがって、中国にとっても朝鮮半島の非核化は明確な共通の利益となります。だから、我々は一致団結しなければならないと考えます。

米国、韓国、日本、中国が、非核化という共通の利益の上で一致団結しなければならないのです。しかし、それと同時に、このことは北朝鮮に対しても利益となること、今は核兵器なしでは生き残れない、しかし、核兵器なしでも生き残れるのだ、ということを北朝鮮に示していかなければなりません。

米国のティラーソン国務長官が言及した「4つのNO」を思うとき、彼がどれだけ真剣に考えていたかはわかりませんが、彼が次のように言ったことは示唆的だと思います。

「北朝鮮の政権交代を意図しない」「現政権の崩壊を意図しない」「朝鮮半島の性急な統一の促進を意図しない」「米国は米軍の北上の口実を探す意図はない(注:2017年4月に米国の空母打撃群が朝鮮半島周辺に向かうと報道)」。

これが交渉の出発点の軸となるかもしれません。これはすでに2005年9月の6カ国協議の包括的な合意で提示されたことです。そこでは、平和条約、北朝鮮と米国、韓国、日本との間の国交正常化、北朝鮮への経済協力、新しい信頼関係を築く政策、エネルギー協力について協議されています。

解決策はこれらの中にあります。そこで浮かぶ疑問は、我々は次のことをどのくらい上手に成し遂げることができるか、ということです。

北朝鮮への金脈を徹底的に探るべき

つまり、核兵器なしで生き延びることはできるが、核兵器を保有したままで生き延びれないと北朝鮮を説得することです。

実現するためには、北朝鮮への石油禁輸を含む非常に厳しい経済制裁の合意に中国が参加しなければならないのは明白です。そして、我々は北朝鮮の金融機関への資金流入に関わるあらゆる種類の抜け穴を見つけなければなりません。

そのとき初めて、北朝鮮に対して核兵器を保有したままでは生き延びることができないということを実証することができるのです。我々は、北朝鮮との交渉に至る正しい道、交渉のみならず北朝鮮の核問題に対する、真の解決を導くための正しい道を見つけることができるかもしれないのです。

これは、ちょっとわからないのですが、日本の新聞を読んでいると、今日、外交が機能しているのかどうかまったく確信が持てないのです。とても心配です。このようなタイプの緊張のエスカレーションが必然的だと見なされるかもしれませんが、北朝鮮があらゆるかたちで国際法違反を行い、日本や他国を頻繁に脅迫することが日常茶飯事であると見なされるべきではありません。

しかし、ひどく心配です。たとえ北朝鮮に対して敵対的な関係だとしても、誰かがどこかでコミュニケーションの糸口となる必要があると思います。思うに、我々は北朝鮮に、それがアメリカなのか、中国なのか韓国なのか、日本なのかを知らせる必要があります。そういうわけで、私は1年以上の期間に渡って、北朝鮮との対話を維持してきました。

私は、誤解を避けるために、また、その場しのぎで偶発的な軍事的衝突を回避するために、このコミュニケーションの道筋が重要になるに違いないと感じていました。

その期間、日本の国益のためだけではなく、これらのためにも、我々はアメリカや韓国にも意見を求め、北朝鮮に対しても彼らが反応を示すようなやり方でコミュニケーションをとりました。

つまり、彼らは我々の言うことを聞きませんでしたが、しかし、それでも私は心配しているのです。私は、現場から離れてから最近のいかなる公式なやり取りも知りません。

したがって、舞台裏で交渉が行われているかもしれません。米国が、日本が、韓国が、中国が、舞台裏で交渉しているかもしれません。私はそうであることを心から望んでいます。

それが私の言いたいことです。どんな質問にも答えますのでよろしくお願いします。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

北朝鮮とリビアは似ている

司会者:ありがとうございます。とても内容豊富でときどき追いつけないところもあったと思います。私には衝撃的なものでしたが、北朝鮮と米国というもっとも難しい問題を解説してくれたことに敬意を表したいと思います。あなたの言葉では、我々は軍事的衝突の条約の可能性を捨てるべきではないと......。

田中:回避したいというのがポイントです。

司会者:そう、回避。そのためには、北朝鮮が核兵器の保有なしに生き延びることが可能だと認識することが重要だということですね。

今から質問に入る前に、私から1つ質問をしたいと思います。北朝鮮の声明への回答、これはリビアに起こったことと似ている、リビアも同様の約束をしていたと思うのですが、教授はこれについてはどう答えますか?

田中:両方を秤(はかり)にかけならければならないとは思います。ただ、イラクの場合、また他の国でも同じですが、アフガニスタンとか日本の場合でさえも目を向けなければいけないとは思います。ポイントはリビアは米国にとってあまり脅威にはならないということです。北朝鮮は、北朝鮮がやっていることは、米国本土を脅かす能力を開発しているということです。

このことによって、米国の軍事政策に対するリスクの増大が拡がっていくことでしょう。だからこそ、北朝鮮はこのことを理解する必要があるのです。

司会者:ありがとうございます。それが鍵となるポイントなんですね。

核保有は北の保身のためか

では、今から会場からの質問を受け付けます。自分の身元を明らかにしてください。初めに正会員から。ではどうぞ。

記者1:洞察を述べていただき感謝いたします。北朝鮮の目的についてうかがいたいと思います。話を聞いていると、彼らの目的は保身のように思われますが、アナリストの中には、彼らの目的は保身だけではなく、韓国と米国の間にくさびを打ち込むために核兵器を利用することにあるのでは、と言う人もいます。

米国を韓国から遠ざけ、北朝鮮主導の下、半島を統一するために。もし、これが彼らの包括的な目的だとしたら、彼らの核やミサイルの開発計画や実験を制限するためにどのような交渉が可能だと思われますか?

田中:唯一ありうる方法は、核兵器とともに生き延びることはできないということ、です。あなたの言うように、北朝鮮が核兵器に固執したいと願うさらなる他の理由があるのかもしれません。しかし、残念ながら、北朝鮮は核兵器とともに生き延びることはできないのだ、ということを実証していく必要があるのです。

そのためには、さっきから言っているように、彼らに対し最も厳しい経済制裁を課すことです。我々が今までやってきていないような、石油禁輸やあらゆる種類の資金移動、とくに非常に非公式な手段を通して断ち切ることを含む、経済制裁を課すことです。それと同時に我々は中国に対し、核化した北朝鮮は中国の国益にとって有害であると説得しなければなりません。

また同時に、中国に対して、我々は北朝鮮の崩壊を望んでいるわけではないことも伝えなければなりません。我々は十分な保証を提示すべきです。ここでいう「十分」とは、北朝鮮が核兵器なしで生き延びることができるのに十分ということです。

私は、中国との議論の基礎をかたちづくるのに役立つ可能性のあるティラーソン国務長官の「4つのNO」に言及したのです。

また2005年9月に北朝鮮にて調印された6カ国協議での合意、そこから抜け落ちているものこそ、非核化の確認作業なのです。また、それと同時に北朝鮮が信じていない保証を、米国、日本、韓国の真意を、北朝鮮に確実に信じさせなければならないのです。

しかし、その前に、先述したように我々は厳しい経済制裁政策、今まで実施したことのないような経済制裁を行う必要があります。

我々はまずはじめに必ず中国を説得し、そして、国連が石油禁輸を含む最も厳しい経済政策を必ず行うよう説得しないいといけません。

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