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外国人特派員協会会見『日本外交の裏舞台』(全5記事)

北朝鮮に対しても「誠実であり続けなければならない」 小泉元首相の電撃訪朝を実現させた男が語った、交渉の重要性

2017年9月5日、外国人特派員協会にて日本総合研究所 国際戦略研究所・理事長の田中均氏の会見が行われました。田中氏は2002年、小泉純一郎元首相が電撃訪朝を果たした際に、北朝鮮側と交渉にあたった影の立役者とされています。混迷する国際情勢に外交のプロが独自の見解を語りました。

(注:全編英語の会見を翻訳書き起こししています)

国家安全保障会議の意義

記者5:トクモトイチロウです。フリーランスです。私からの質問は、日本政府の機能に関してです。あなたは政府を12年前に去ったとおっしゃいましたが、今と昔では何か違いがありましたか?

日本政府には国家安全保障会議(NSC)があります。あなたが1990年代に北朝鮮と関わっていた頃には、それはありませんでした。もしあなたが北朝鮮に対応をしていた時にNSCがあったなら、もっと効果的で効率的な交渉ができたと考えますか?

また、あなたの経験から、第二次安倍内閣ができてから、NSCが日本の外交にどんな変化を与えたと思いますか? 2つめの質問ですが、最近、英国首相のテリーザ・メイ氏が日本のNSCの会議に招待されていたと思います。これは一般的なことなのでしょうか?

私が知る限り、安倍総理はホワイトハウスでのトランプ氏とのNSC会議には招待されないだろうと考えています。あなたのご経験から、これは外交の世界では一般的なことだとお考えでしょうか?

田中均氏(以下、田中):そのご質問はNSCや政治との関わりなしに外交をした経験がある政府の人間に聞くべきでしょう。私は12年前に政府を去りました。協議のために外務大臣が首相のオフィスに向かうことが多かった頃でした。

私が思うに、民主主義国家においてNSCは、国家安全に関する問題を取り扱うことを合法化すべきだと思っています。それに国家安全の問題を扱うのにもっと効果的になるべきです。

私には現実世界でそれがどう機能するのかは分かりません。ですから直接比較はできません。しかし、NSCは日本の国家安全保障問題につながるさまざまな問題についての決議をするのに重要な場だと考えています。それが私の答えです。

私も歳をとったので、2つ目のご質問を忘れてしまったのですが、たしか総理大臣に関してでしたね?それが一般的なのかどうかはよく分かりません。もし私が間違っていないのであれば、NSCで国家の秘密について話し合っているかということですよね? いいえ、違います。

小泉元首相がアメリカに行くとき、私は似たようなことがあったと思います。それが何なのかを具体的にお話しすることはできませんが、日本の首相は日本の国家安全保障会議に招待されていました。

英国首相がNSCに招待されても、私たちと英国、もしくはヨーロッパとの関係に影響を与えるようなことを自由に話すとは思えません。単なる友情や何かよい関係を示すためのデモンストレーションのようなものです。そういうふうに受け取っていただけませんか?

司会者:他にどなたかご質問はありませんか?

北朝鮮外交における「アメとムチ」

記者6:こんにちは。ダニエル・ハーストです。フリーのジャーナリストです。北朝鮮が核爆弾とミサイルをどうやって開発してきたのかのお話をありがとうございます。

すべての問題が完全に廃棄されるような交渉がなされることを期待するのは現実的でしょうか? 完全な廃棄とは対照的な問題についてのお考えをもう少しおうかがいしたいと思います。この問題から完全に手を引かせるようにするのは現実的でしょうか?

そして2つ目に、あなたは制裁として原油輸出禁止措置に関して言及されましたが、どうやって北朝鮮の人々に大きな影響を与えないような方法で進めることができたのでしょうか? ありがとうございます。

田中:私は全ての過程を最初から見てきました。私は1989年に北朝鮮の核問題に関して、アメリカ合衆国の情報機関から情報を聞いた最初の日本人です。それから、北朝鮮がさらに核爆弾を製造しないようにするためにさまざまな行動をとってきました。

1994年のKEDOの枠組み合意はアメとムチで言うなら、私たちはアメを与える側の仕事が多く、プルトニウムの停止と交換に2つの核施設を与えるという約束をしました。モリスは飴を与える方法をとったのです。

2002年、日本の総理大臣は北朝鮮に行きました。私たちは金銭を与える約束はしませんでしたが、将来的な経済圧縮を決めていました。私たちには、1965年に韓国にしたように、北朝鮮にも財源を与える必要がありました。

そして2005年の9月、それもアメを与える方の作戦でした。私たちは北朝鮮が証明可能な核解除と交換に、彼らが子孫を残すことができるという望みを与えたのです。2006年の9月、北朝鮮は最初の核実験を行いました。

それから、私たちはいわゆるムチの側の作戦を取ることにしました。それが私がお話しした制裁です。ムチというなら、いまだにできていないことがいくつかあります。ムチとは北朝鮮を崩壊させることではありません。欲しいものを何でも与えるのがムチのやり方です。

何でもではないですね、理にかなっていて欲しいと思うものという意味です。けれど、北朝鮮にとって選択をさせるためには、彼らに強制をさせることだと思っています。

私たちがまだ行っていないいくつかの制裁や、過去に行った制裁、経済的な制裁。しかし中国が制裁下において、北朝鮮を助けていたのです。ですから制裁は効果的ではありませんでした。

私が言いたいのは、なぜ私たちがもっと効果的な方法で制裁を与えないのかということです。彼らが選択をできるようにするためです。原油輸出停止処置を含む経済制裁により北朝鮮が崩壊すると私たちが思えるでしょうか? 恐らくそんなことはないでしょう。

しかし、中国は自国が国際的な評価を得るために考えを変えはじめています。中国は前に進み出て、効果的な制裁処置をとる必要があります。そして私たちは多くのことを考えるのです。私がお話ししているのは、制裁がうまくいくようにさせてほしいということです。

そして北朝鮮がどういった答えを出してくるのかを待つのです。繰り返しになりますが、中国とロシアを説得する必要もあります。私たちはこれを意味のある交渉のために行っているのです。私たちは北朝鮮を崩壊させるためにやっているのではありません。これがティラーソン国務長官の言う、将来的な交渉の基礎固めとなるのです。

北朝鮮は何を望んでいるのか

記者6:しかし、誰か一人でもこの問題の道筋に向かっているのでしょうか? つまり、北朝鮮は何を望んでいるのでしょうか? 恐らく彼らは平和条約を望んでいるのでしょう。

彼らは休戦を望んではいません。なぜ単純に平和条約にサインしないのでしょうか? 誰か彼らと話をしようとはしていないのでしょうか?

私はよくプーチン大統領について言及しますが、彼は2000年にピョンヤンからここに来ていて、実際には誰も北朝鮮と話していないと言っていました。だから自分で金正日に電話をして、行って話がしたいと言ったところ、彼は来週来るように言ったそうです。

プーチン大統領は北朝鮮へ行って話して、その後、事態が変わったのです。2つ質問があります。1つ目は私たちが問題の核心に迫っているのかということ。そして、誰か本当に金正恩と話をしようとしているのか、ということです。

田中:重要な取引をするということはあなたがおっしゃったとおり、平和条約と核解除の対立を意味します。核実験の凍結や平和条約についてではありません。核解除と評価は試す価値があります。なぜなら平和条約は現状を認識するものだからです。

平和条約は北朝鮮を朝鮮半島の大きな国だと認識することです。それは平常化へとつながると考えています。あなたがおっしゃっていた方についてですが、私の時代に北朝鮮と交渉をした際に、両方の方法を見せたことがあります。

国防会議などの設立がありました。これは金正日が議長で、最高の意思決定の場でした。明らかによく構成された省庁間の会議があり、普通の国家のように見えました。意思決定のプロセスを持っていたのです。

私が仲介人と交渉をする際には、彼らは北朝鮮に戻って国防会議で結論を出すのです。アメリカと交渉をするときよりも、もっとうまく構成された意思決定プロセスが北朝鮮にはあったのです。

今日まで、こういった意思決定プロセスが北朝鮮になかったならば、私たちはもっと苦労をしていたでしょう。金正恩のワンマンな意思決定プロセスはきちんとした意思決定プロセスではありません。それはとても危険なことになるでしょう。

どなたかが国防会議について話されていましたね。国防会議はさまざまな査定でプラスやマイナスをつけます。日本がこれをしようと思ったら、私たちは良い点と悪い点やいろいろなことを正当に評価する必要があります。

北朝鮮の意思決定プロセスが金正恩のワンマン体制であるならば、それはとても危険なことなのです。それは軍事衝突の可能性が出てきますが、私たちは試してみなくてはならないのです。

正しい交渉相手を見つけましょう。そしてまた交渉とコミュニケーションを始めるのです。私はもう政府の人間ではないので、分かりませんが、きっとそういう風になるでしょう。そうなることを祈っています。

でも誰かが始めることが必要だと感じています。それは公式な行動ではないでしょう。けれど事態は不安定であり脆弱なのです。私たちは彼らにたどり着く敵を見つけ、とても危険なことをしているんだと、そしてICBMを開発するなら自分たちが攻撃されるということを分からせなくてはなりません。

交渉に値する信用が北朝鮮にはない?

記者7:マーティン・カリングハムです、ひとつお聞きしたいことがあります。北朝鮮との交渉についての話、北朝鮮は信用できるかという話は毎度上がりますが、何をもってそう言えるのでしょうか。彼らは信用できるのでしょうか。

あなた自身の交渉経験からどう見るのでしょうか。商談の場においても、彼らは基本的にロシアからの経済援助を受けている身であるのに、なにひとつそれに報いてはいません。そればかりか、友好関係にある者すら欺いているのです。そんな中で、どうして私たちが北朝鮮を信じることができると言うのでしょうか。

田中:北朝鮮とは丸1年かけて、25回にも渡る、10時間もの交渉を行いました。それは信用に値するかをどうか、本気で向き合ってくれているかどうかを見るという意味合いもあった、つまりは私たちが北朝鮮を信じることができるのかどうかといったことを見るという意味合いもあったのです。

北朝鮮側の言葉は信じてはいませんでした。信用に値するかどうかを私の質問に対する彼の言動から吟味し、その上で信頼したいという思いがあったからです。彼が国家安全保障決議に対しての行動を何かしら起こすのなら、信じます、と。

実際、私は訪朝した際に北朝鮮首相に各国首相と会談する機会を設けてもらえるかとはお聞きしたのですが、私が金正日総書記と会いたいという要求はしておりません。

彼が信頼に値するかどうかを知りたかったのです。彼というものを確かめたかったのです。北朝鮮との対話の過程として。彼も私に対する信頼を確かめる必要性がありましたし、私もありました。ですので、誰かと会談する機会を設けていただけないかという話をしたのです。

そして何よりもまず、北朝鮮にスパイ容疑で拘束された日本国民の元日経記者を、彼が何の容疑であろうと無事に解放することを要求したのです。南北朝鮮間の海域問題にしても、韓国に正式に謝罪するように要求したのです。

そういったことをふまえて、北朝鮮側を信じることができるのではないだろうかと、また北朝鮮側にとっても私の信頼度を測る材料になったのではないかと。

ですので、私は「総理の1日」として記事にできるように首相の事務所へたびたび出向いたのです。アジア太平洋地域事務総長との首相会談は1年で88回にも上りました。88回です。私の功績も中にはあります。

私はアメリカにも再三出向き、(当時の)リチャード・アミテージ国務副長官とも会談を持ちましたが、北朝鮮がそのことを承知しているか言えば、しているんですね。「田中さんはアメリカとも強い絆を持っている」と。

北朝鮮はアメリカによる死の制裁を恐れていますので、彼らの信頼性を推し量る方法はあるのでしょう。しかしながら最終的な局面で私は尻込みしてしまうでしょうから。私は臆病者です。多分臆病なのでしょう。

嘘偽りや誇張の無い、真っすぐに要求を行う交渉の場においては、何らかの信頼性の発展は望めるのではないかと思われます。ただ、お互いを信じろと繰り返すだけでは何の発展も望めないでしょう。外交は信頼性から成ります。

矢面に立つ者を信頼することができずに結果は出せません。対北朝鮮だけの問題ではありません。対韓国、中国、アメリカ、その他どこともです。信頼は外交において重要です。

誠実であり続けなければならないのです。欺いたり、嘘をついたりしてはいけないのです。それが信頼の証となるのですから。それが私が重要視していることです。こっちで何かを公言しているのに、そっちでは何か別のことを公言している人は誰にも信用されません。

さまざまなところで私は批判の憂き目に会ってきました。首相の訪朝の際にもなんの謝罪文も出しませんでした。私の信頼を崩したくなかったのです。

だからこそ、将来的にも北朝鮮との交渉が続けられるのですから。時として、しなければならないことがあります。さまざまな批判に対する言い訳はいくらでも考えられました。

国内での痛烈な批判に対して、です。しかし、それでもなお、私は自分における信頼というものを保ちたいのです。ですので、言い訳は一切しませんでした。それは私にとっての重要事項ではありませんから。

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