ゼネコンはお金のためではなく、日本の誇りのために調整してほしい
安藤忠雄氏(以下、安藤):8万人と、あの場所のなかでスタートしたものですから、例えば景観の問題が出ました、交通の問題も出ました。周囲の環境の問題も出ました。これは基本設計のところで調整をやらなければ、もう少し低くしようかとか、例えばだんだん低くするとできないことはないけれども土が多く出て、残土が処分できないとか。いろいろあってストップしています。
そういうことも含めて、先ほどアーチの問題がありました、今の河野さんの話は私とちょっとズレてたんですが、アーチが700億いるってことを我々は新聞で見たわけです。300億だって言う人もいるし、だけど考えてみましたら1625億のときにもアーチがあったんですよ。急にアーチが出てきたんかと言うわけにはいきませんので、あそこで出てきたんです、わかるでしょ? なんであとで出てきた? はじめからあったんですよ。そのことを考えると、やっぱりもう一回調整がいるんじゃないかと。
私がもしお願いできるならば、国民の一人として、都民の一人として、皆さんと同じ気持ちで、調整できませんか? という話はできると。調整して欲しいなという気はしますが、そういう面では日本の技術、日本人の総力あげて、ゼネコンも金は儲からないけど、日本の国のためだと言ってもらわないと、それが日本の国のゼネコンのプライドなんじゃないかなと思ったりするんですね。
ゼネコンの人たちもこれは儲かるからどんどん行こうとは思わずに、儲からなくても日本の国のために、日本の誇りのために頑張ると言っていただけると結構値段もうまくいくんじゃないかと思ってます。
そしてもうひとつ、今の報道の人たちのお関心、私大阪からやってきたんで、先ほど大阪の方からのインタビューがありましたけれども、日本中の人たちのオリンピックなんです。もちろん東京のオリンピックではあるけれども、国のオリンピックなんです。
そして多くの人たちの関心はやっぱり今、お金ですよね。お金をどうするかという部分も含めてこれからどういう案になるかということを世界に協力してザハ・ハディドさんを選んだわけですから、この方の協調のなかでうまく下げていただくといいなと考えています。今までの流れはだいたい話したと思いますが、あと何かあればどうぞ。
コンペの段階では、徹底的なコストの議論は行っていない
記者:NHKのサトウと申します。他の審査委員の方々の取材をしますと、当時の議論について、コストの議論についてはほとんど行われていなかったという認識を持つ方がほとんどだと思うんですけれども、改めて安藤さんはコストの議論について、十分だったとお考えでしょうか?
安藤:実際には、アイデアのコンペなんですね。「こんな形でいいな~」というコンペですから、徹底的なコストの議論にはなっていないと思いますよ。なぜならそれほど図面がきっちりあるわけではないですからね。そういうふうに私は思っています。
記者:読売新聞のユウキと申します。我々が買い物をするときは、そのモノの値段の高さももちろんなんですが、それがどういう価値を持つかを考えて決めます。安藤さんがこのデザインを選ばれたときに、これがどのようなスポーツ、そして建築としてのレガシーを残して欲しいと思って選ばれたのか。
そしてもう一点、審査の最中のときもこの技術が非常にチャレンジングだったというふうに紙に書いていらっしゃいます。どの辺りが安藤さんの目から見てチャレンジだったのかを教えてください。
安藤:レガシーというよりもとにかく、私一人の意見ではないですけど、日本がこの時期にこれを作ったんだという気持ちで選べるものが良いんじゃないかと思いました。
もうひとつはかなり形態的に個性がありますが、いま時代はコンピュータの時代ですので、この時代にしかできない建築はあると思うんです。1964年のオリンピックの時代とは違いまして、コンピュータで徹底的に解析することによってできあがる、美しい建築ってあるだろうと思って言いました。
そこでこれを選ばせていただいたわけですけれども、あの時代にあの建物ができたということが良いのではないかというのが、ほとんどの先生方の意見でして。実際には最後のほうには割れてたんですよね。同時に審査員のなかで外国の人、ロジャース氏とフォスター氏という国際的にも有名な方がいるんですが、その人が審査していないんじゃないかという意見もありましたが、実際には皆で1日かけてニューヨークのノーマン・フォスターさんと、それから(リチャード・)ロジャースさんと徹底的に打ち合わせをして、俺はこれだという意見を聞いていますし、最終日の日にもちゃんと電話でやりとりをいたしまして「こういう流れだけど、どうなんだ?」という話もしておりますから、メディアのなかには全然聞いていないんじゃないか? というのがありましたが、実際にはそうではなく彼らもちゃんと賛同しておりました。
東京五輪組織委員会会長・森喜朗氏への揶揄について
記者:弁護士ドットコムニュースのヤマシタと申します。本日配布された資料に、2019年のラグビーワールドカップを見据えた、タイトなスケジュールが求められたというふうに書かれていますが、ラグビー界に影響力があって、東京五輪組織委員会の会長を務めておられる森喜朗会長の影響力はどれくらいあったのか。
あと新国立競技場のことを「森喜朗記念競技場」だとか、「森喜朗古墳」といった呼び名が世間から出ていることについて、どう思われるかをうかがいたいと思います。
安藤:2019年のラグビー、そして2020年のオリンピックというときに、オリンピックのことを考えておりました。また、2019年のラグビーのことも知っておりました。そしてネーミングについては近頃時々あちこちから聞こえてきますが、その当時は全然そういうことは聞こえておりません。
そしてよく考えてみると、もしできるのならばオリンピックもラグビーも両方できたほうがいいんじゃないかと思っています。そしてそれが問題になるかというのは私にはわかりませんが、両方あったほうがいいと思っています。
審査委員長としてではなく、一人の国民として計画の見直しが必要だと思う
記者:よろしくお願いします。ジンボウと申します。審査委員会の委員長として審査委員会が選んでデザインでつくろうとしたら、最低でも2520億円かかるとわかった今、審査委員長としてデザインを見直してもいいんじゃないか、見直す必要があると考えるのかどうかお願いします。
安藤:先ほど1625億の話をしましたが、この値段があまり出ていないで、基本設計が1625億、2520億というのが現在ですよね。私は2520億という話をきいたとき「え~~?」と思いましたよ。だからやっぱり、これは調整しないといけないでしょう。それがいわゆる国民の人たちの気持ちじゃないですか。何考えとんねん、と。
そういう時に私は4つのチームがあります、ザハさんもいます。皆で徹底的に討論をして、スケジュールのことがあります、コストのことがありますが、そうするべきでしょうね。それはやっぱり審査員や委員長というよりは、一人の国民としてそう思います。
周辺環境などの諸問題は、コンペ後にやっていかねばならない
記者:週刊金曜日のナガオと申します。このお金の問題と大きさの問題って関連していると思うんですけれども、ザハさんの案を選ばれたときに競技場本体ではないんですが、関連敷地の公園などとして近くの都営霞ヶ丘アパートの退去を求めるということがありまして、それについてどう思われるかということと、そこにまだ住民の方が130世帯くらい住んでいるんですが高齢化されて、皆さんふるさとだと思っているので出て行きたくないとおっしゃっているんですが、そのことについてどう思われるかを、お聞かせください。
安藤:大きいです、建物は。8万人入ると、これくらい大きんですね。それともうひとつ今言われたように周辺環境との問題があります。これをアイデアの基本設計のコンペを終えたあとにやっていかねばならないのです。そのなかで問題がないものはないんです。そんなに全てスムーズに行くということはないですけれども、それをお互いにそれができることによって、自分たちも納得できるという人たちがいると思いますので、今話し合っているかどうかも我々はわかっていないわけですよ。そういうなかでこれからオープンに、オープンに公開しながらやられたほうがいいんじゃないかと。
記者:JSC(日本スポーツ振興センター)は近隣の方と話し合ったほうがいいということですか?
安藤:そこのあたりがね、JSCなのか、ちょっと私がわからないんですけれども、どちらにしても主催がやらなければしょうがないですね。ここに東京都も入ってやるでしょう。皆でやっていかねばいけないのかと私は思います。
リーダーシップを誰がとっているのかはわからない
記者:毎日放送のタブチと申します。下村文部科学大臣をはじめ、いろんな方がこの国のリーダーシップは誰がとっているのかという話があったと思うんですが、安藤さんはいかが思われますか?
安藤:はっきり言うと、家族でリーダーシップは、お父さんなのか、お母さんなのか、子どもなのか、わからないですよね。これが日本の国の中小企業でも社長がトップなのかわからんと、やっぱりリーダーシップがいりますね。
リーダーが強い思いと、強い力と、強い知的能力をもって引っ張っていかなけばなりませんので、これで言うとリーダーはどなたかな、文部大臣なのかな、総理大臣なのかなと思ったりもしますが、私が決めるわけにはいきませんけれども、リーダーがいります。
最後に磯崎さんという建築の大家と槇文彦という大変な建築家がおられますが、槇先生が前から景観が悪いと言っておられます、そしてコストが悪いと、それから可動にしろと。こういうことをいろいろと言っておられます。それはいわゆるこちらのチームとしては、どう受け止めるか聞いてもらわないといけないです。
そこに我々は参加できていないわけですよ。審査で終わりですからね。もうひとつ、磯崎さんはこうもおっしゃられています。「ザハを選んだと同時に案を選んだ、だけどザハを選んだ」と。絶対に、いわゆる国際公約からいって、その人を外すわけにはいかないと。そのことをしっかりと踏まえて考えろと言っています。私も全くそう思います。
そうでないと、日本の国際的信用がなくなります。その点について、磯崎さんの意見を大変尊重したいと思っております。槇先生については、大変頑張っておられると、最後までよく頑張っておられると、すごいなと私は思いますが、私たちにそういうエネルギーがあるかどうかを考えなければならないと思っています。