役員会議のリアル~GREE・ミクシィ編~

岡島:GREEさんはどういう感じでやってらっしゃるんですか?

田中:法的な取締役会は月1,2回です。社外役員の方とかに忙しい方が増えてくると、毎週開くとか突発的にやるってことが難しくなってくるので、布陣を固めれば固めるほどそこの機動性は低下するのかなと。やり切れていない部分に関しては、会社として利益になるかどうかというところに基準を置いて案件毎に議論していて、事前にプレ取締役会みたいなものをやることもあります。

例え意見が纏まらなくても評決を取ればいいことだし、割れても良いことはあるので、ガチンコでやるのが良いかなと考えながらやっています。ただ単なる事業執行であれば、週2くらいの経営会議で15~20人くらい集まって、その人達で共有して決めてます。最近はそれに加えて事業責任者だけを数人集めた別の会議も作っていて、事業の中だけに留まる話であればそこだけで決めちゃえばいいかなと。逆に人事制度の様に関係者が多いものは20人くらい集めて、長々と議論して、無駄を共有しながら決めていったりします。

荻野:うちはちょうどサイバーさんとGREEさんを足して÷2みたいな感じです。法定の取締役会が月1ありまして、それ以外に経営会議という執行役員8人が集まる会議を毎週火・木の2回やっています。これはもう決議の場なので、アジェンダがあってちゃんと決議をすると。本当にもう意思決定の場ですね。

それ以外に毎週月・水・金の3日間、役員5名が就業時間より1時間早い9時に集まってますが、これはもう完全な雑談です。ただ週に3日の雑談をする中で、先ほど言った「魂の形」みたいな、何を成し遂げたいのかといった価値観のすり合わせをしています。

岡島:GREEさんは雑談系は無いんですか?

田中:雑談というか、猛烈に長い会議をしています。(会場笑)。雑談もそうなんですけど、うちには完璧にアジェンダがありまして、決議事項・相談事項ってあって、話が長くなるのは相談事項です。決めなくてもいいんだけど、今こういう状況なんでご意見下さい、みたいな。

岡島:ワークスアプリケーションズさんなんかは創業以来、毎日毎日トップ3人でランチ食べてますよ。よくそんなに雑談することあるなと思いますけど、そういうのも有りかなと。

川崎:僕もミクシィ入ってびっくりしたんですけど、本当によく話すんですよ。どのくらい話すかっていうと、昨日も僕ら夜12時まで話してますから。(IVS)会場のシェラトンホテル札幌でガチンコの話してました。そういう感じで普通に飲みにも行きますし、かつ役員間での1on1ってのもあるんですよ。だから1つの脳みそが共有されてるってことについては自信ありますね。

岡野:荻野さんの考えていることは大抵わかるようになっていくって感じですかね(笑)。

ワンレイヤー下の会議について

質問者:役員会のもうワンレイヤー下のところの会議の運営とかをどうやっているかっていうのを聞かせて頂ければなと思います。

荻野:うちは先ほど申し上げたように役員会の1つ下に執行役員会と言って執行役員8人が集まる場があって、火・木の週2回あります。あとは人事系だったり、かなりエンドレスで話さなければいけないようなアジェンダがある時には、土曜にずれ込むことを覚悟で金曜日にやるとか、そんなような形です。

曽山:サイバーエージェントの場合は事業ドメインがまず広いということがありまして、まず担当役員ごとに、例えば日高でいうと何社かの子会社を担当として持っておりますので、ここでそれぞれの役員が決めた会議体があります。それとは別に新卒や中途の子会社経営者がいるので、彼らが事業規模別に集まって通称「グループ会議」をやってます。

後はスタートアップばっかりの会議っていうのを月に1回やってまして、ここには経営本部を管轄している常務の中山と私が入って、今の情報共有をして、見ています。

日高:各担当役員ごとに多分会議体があって、それぞれ違っているのかなと思います。例えば僕であれば子会社がたくさんありますので、子会社全体の会議というよりは、各社と僕との会議というものがかなり多いです。子会社毎でいえば部長クラスというか、役員の1つ下の会議というのをやっていると思いますし、事業性にも合わせて各担当役員がやっているかなと思います。

田中:僕のやっているところは、直部下の10人とか20人と1on1でミーティングを週1でしているっていうのと、後は事業別に月次の会議をやって、そこで月次業績を発表してます。後は個別に部長と本部長間での1on1とか、僕が設計すること無くどんどん勝手にやっていってますね。

役員を"辞める"基準

質問者:参考にしたいので率直にお伺いしたいんですけど、皆さんお若いじゃないですか。だいたい後何年くらいやろうと思ってるんですか? 色んな条件があるのでその通りにはならないと思いますけど。

田中:自分でこの仕事をやってることが、この会社のために全くならないと思ったら早く辞めなきゃなと思います。だから未来永劫、絶対やるんだ! って決めてるわけでも無ければ、明日すぐに辞めようと思ってるわけでも無い。後は世の中のためになるのかなっていうのが自分の中の判断基軸ではあります。

岡島:ご家族が病気になってお辞めになるみたいなことは多分無いと思うんですけど、何か自分の中でこのサインが来たら、みたいのあります?

田中:本当思うんですけど、明日交通事故に合うかもしれないし、どんなことだって起きうると思うんですよ。だから明日死ぬかもしれないって思うことが主軸ですね。

岡島:山岸さんは?

山岸:変な話ですけど、創業社長っていうのは会社がうまく行かなくなるか、潰れるか逮捕されるまで基本辞めないっていうのが世の中の常じゃないですか(笑)。特に日本においては。創業からやってる副社長って、川崎さんも一回辞めてますけど、結構途中で辞めるじゃないですか。だからそういうロールモデル的にはずっと続けている日高さんはいつ辞めるのかなとか思いますね。(会場笑)。

個人的には、ソーシャルゲームの責任者をやってる時に、結構自分向いてないなと思ってた時に吉田大成にやってもらって、俺って仕事無いかもって思ってたら去年大変になっちゃいまして、やっぱり仕事あったかもみたいな。今年もまた色々大変で俺の仕事もまたあるかなって感じなんで、辞めてくれって言われるまではとりあえずやろうかなと思ってます。

創業からずっとやってる副社長ってロールモデルが少ないですよね。あとは年配の方と最近結構お会いして、65歳でもすごい現役みたいな人もいるんで、一流のビジネスマンっていうのはこういうことを言うのかなみたいに思ったりもしました。そういう人達はプロフェッショナルな一流サラリーマンって感じの人が多くて、自分とのキャリアは違うしなと思ったりとか、とりあえず今を頑張ろうって感じです。

岡島:ソニーの井深さんと森田さんみたいにずーっと2トップで行かれるケースもあるし、川崎さんのように副社長から起業してってケースもあるし…。

山岸:ソニーとかホンダの役割分担っていうのが、モノ作り系とそれ以外、経営全般みたいな分け方だと思うんですけど、うちの場合は昔から田中が「俺はサービスもわかるし経営もわかるしすごい」とかってよく言ってるんですよ。(会場笑)。

田中:皆さんそう思いますよね?(会場笑)。

山岸:「そんな経営者はネット業界にいない」って豪語してます(笑)。僕がやっているのは、ちょっと前までは誰もやる人がいなくて、問題があったら責任取らなくちゃいけないような仕事をやろうかなと思ってて、最近は人に嫌がられる仕事をやろうかなって感じです。

それっていわゆる2人体制とはちょっと違うと思うんですよね。補完的というか、特にうちの場合は本部長以上が経営会議のメンバーなんですけど、その中だったら誰がやってもいいけど誰もやりたくないみたいなことをやるのが自分の役割ですね。

岡島:田中さん、自慢だけじゃなくて「山岸さんいて良かった」って言っといたほうが良いんじゃないですか?(笑)。

田中:会社を作って成功した要因の1個だと思いますね(笑)。運が良かったです。学生の頃のある日、あるベンチャーのアルバイトの面接に行ったらそこに座ってたのが山岸で、そこから友達になったんですよ。

会社の成長スピードに追いつけなくなったら辞め時

日高:僕は会社作ってからもうずっとしんどいんです。(会場笑)。ノリでサイバーエージェントやってみようって藤田から誘われて、面白そうだなって片足突っ込んだまま15年経ったなっていう感じ。それでネット業界もサイバーエージェントも大きくなってすごく面白いんですけど、自分が仕事に向いてない部分もたくさんあると常に思っています。

いつも思っているのは「いつでも辞めれる」ってことなので、まあ辞めれるとこまでやろうかなっていうのが僕の答えですね。「辞めたいな」って思うことはいっぱいありますし、それくらいしんどいって思ってます。

曽山:私の場合はCA8で入った役員なので、どちらかというと会社の成長角度を自分と比べた時に、その角度より下回ったら絶対外れなきゃダメだと思ってます。会社の成長っていうのは市場の相対感の中で成長していることが前提で、私が見るに、他の役員7人は自分より常に成長していると思うんですよ。なので、自分もそれ以上の成長をしないと意味が無いと思っているので、そういう状況の中でチャレンジしていってる感じです。

岡島:そんなにいつも頑張れます?

曽山:でも2年毎に任期が来ちゃいますし、それだけじゃ無くて私達の場合、明日会議っていう役員の新規事業バトルがあるんですよね。これは藤田を除く1位から7位まで毎回結果が公表されるんですけど、それが半年ごとにあるんで、任期中に4回くらい1位からビリまでランキングされるんですよ。役員がですよ? これがまた本当に辛いんですよね。

岡島:そういう仕組みですけど、でも何かのヒントにはなるっていう。

曽山:そうですね。そのおかげで新規事業がたくさん生まれてるっていうのもあるんで、後進が育ってるってのもあるとは思います。

毎日3000万円使っているプレッシャーに打ち勝つ

岡島:ミクシィさんはどうですか? いつ辞めるかっていうのを今言うと非常にマズいとは思うんですけど。(会場笑)

荻野:大前提で言うと、自分から逃げるつもりは絶対無いですね。どんだけこの後火中の栗があろうと拾いきれる自信はあるので、自分から逃げることは絶対しないです。その大前提の下なんですけど、自分は3年というのを1つの目処に考えています。

ベンチャーやられている皆さんの感覚と近いのかもしれないですけど、10年間何となく営業利益1000万円で自分の会社生きながらえようと思ってる方っていらっしゃらないと思うんですよ。3年後に然るべき成長を遂げてない、事業をやっていてIPOの成長カードが見えない、またはEXITが見えないならば、それはそれで自分から身を引くべきだし、違う角度で山に登れば絶対成功する人はいるんじゃないのかなという風に思っているので、3年後に自分の思ってるだけの成長を会社が果たせていなかった時には、そこがまず1つポイントだなと思っています。

あと、これもまたベンチャーの皆さんと似たような感覚だと思うんですけども、うちの会社の規模でいうとランニングコストが年間だいたい100億かかってます。そうすると月に9億、毎日毎日3000万燃やしていることになるんですけど、僕はベンチャー出身なので「お金が燃える」って感覚がすごいあるんです。

今日この場に来て、夜迎えるまでの間に家1軒建ってるくらいのバリューを会社に提供しなきゃ役員でいる意味は無いんですよね。最低限がそれです。それ以上の価値がないと。1週間意思決定が遅れたらもう2億なので、ビル1棟建ってなきゃおかしいっていう。

結構四半期開示ってタームが短いから辛いって話をよく聞くんですけど、逆に言うと四半期っていうともう20数億とか使っているので、逆に何も出来てなかったらばそれはもういる価値無いんじゃないのと。毎日毎日3000万燃えているっていうプレッシャーで自分がやっている仕事を正当化出来ないなら、多分その時も自分が辞めようと思う瞬間なのかなという気はします。

恩を返せるまでは辞めない

川崎:僕は自分で言うのも何ですけど、結構義理堅い人間だと思ってて、会社を買収して頂いて経営チームに招いて頂いてるってことに関しては、僕はまだまだ恩返し出来てないと思う。恩返しっていうのは、自分の中で区切りがつくってところまでは辞められないって思ってます。

今回事業を任せて頂いたんですけど、僕はあんまり再成長とか復活って言葉が好きじゃないです。そうじゃなくって、ユーザーさんの課題に新しい方法で応えて、新しいユーザーを獲ってくる。その中にこれまでミクシィを使って下さっていた方がいればいいという風に考えているんで、これが出来るようになることが僕の恩返し。ですからこれが出来るまでは辞めるつもりは無いです。

もう1つは、今回新しい体制で、創業社長ってある意味ロイヤルストレートフラッシュみたいな状態だと思うんです。ですから、創業社長がコケコッコーって言ったら、「ああ、8時だ」みたいな。何を言っているのかというと(会場笑)、"時を告げる"っていうのが「ビジョナリー・カンパニー」って本であるんですね。だからこれまでは時を告げる会社だったかもしれない。それは笠原健治っていう日本最高のシリアルアントルプレナーがいるから。

岡島:歩くDNAみたいな感じですよね。

川崎:なので、僕らはこの体制で時計を作りたい。ですから、誰でもこのミクシィって会社の方針と自分の価値観が一致して、それはサービスも事業も収益も全部一体となっている組織を作る。それを取締役会で作って行くので、その中で自分が見劣りするなと思った瞬間が来れば、僕は身を引きます。

岡島:ありがとうございます。なかなか難しいですよね。特に2トップの状態から辞めると不仲説みたいなのすぐ出るじゃないですか。色んな方が色々書かれたりとか。辞めた後に何かするっていうのも中々難しかったりしますしね。

会社は社長の器以上には大きくならない

質問者:山岸さんと日高さんと、元副社長の川崎さんにお伺いします。先日DeNAの赤川隼一さんが「守安さんが社長として随分成長した」と、上から目線で言われていました。(会場笑)。副社長などの側近から見て、社長が成長していったり、気掛かりだった点が解消されている場面や瞬間があると思うんですが、お三方から見て社長がぐっと成長したなって思うタイミングって何処なのかなと。

山岸:創業社長と後から社長になった人だとちょっと違うかもしれませんが、会社っていうのは社長の器以上には大きくならないのかなと思っていて、会社が大きくなる中で非連続に田中自身の器も変わってきたのかなと思っています。

僕が一番最初に「あ、変わった」と思ったのは、社員が100人くらいの頃に田中が全社員に向けて朝会とかでスピーチをするようになったんですね。最初は社員みんなから「田中さんの話つまんない」って僕のほうにクレーム来てて(会場笑)、本人には伝えずに黙ってたんですけど、そしたら半年くらいしたらドッカンドッカン笑いが出るようになったんですね。

社員からも「田中さんの話おもしろい」っていうようになってて、自分を変えようとしてるんだなというのはすごい感じました。本人に聞いたこと無いんで真相はわかりませんが(笑)。

岡島:練習したんですか?

田中:練習はしてないです(笑)。僕も楽天にいたとき、三木谷さんの話を毎週聞いた後に「浩史の話まじつまんねーよ」とか隣の同僚と愚痴ってたりしたんで(会場笑)、社員の気持ちがすごくわかるんですよ。遅刻する気持ちもわかる(笑)。だから多少なにか言われてても、こんなもんだなと思って頑張ってました。(会場笑)。

岡島:場数でうまくなっていったのかもしれないですね。

社長の成長が会社の文化を創る

岡島:日高さん、藤田さんを見てどうですか?

日高:藤田は自身のブログでもよく言っているように、「自分がこの会社で一番成長した」と言って憚らないところがありまして、確かにその結果サイバーエージェントが成長しているんだと思います。色んなタイミングはあるんですけど、一緒に経営していて思うのは、答えが見出だせない時に自分で決めて、それをやり切ることがこれまでに何度かありました。

アメーバを立ち上げる時に、周りは「これどうやって形にするの? 」ってなってたんですね。本人すらわかってなかったと思うんですけど、そういったものに率先して取り組んで、使えるものを全部使って、自分自身が成長していく。他にも上場を決めた時とか自社メディアを作らなければいけないとなった時とか、会社がまだ小さかった時に、誰も決断が下せないような先が見えないことを自分が率先してやってやり切ると。

退路を断ってやり切るってのもよくやるんですけど、それまでにそのまま辞めてしまってるかもしれないというのが振り返ってみれば何度かありました。その時こそが社長が成長したタイミングなのかなと思って、それは結果サイバーエージェントの文化にもなってですね、アメーバを社長がやっているのを見て、僕もやったことないゲームのソーシャルアプリを自分で0からやらなきゃいけなくなったとか、そういう風に会社の文化が出来ていったかなと思います。

川崎:僕ははてなの時に、近藤さんの下で主にビジネスサイドを見る副社長をやらせて頂いてました。僕が入社から4ヶ月くらい経った時って、はてながビジネスモデルをガラッと変えて、創業以来やっていた受託開発から広告に切り替えた頃だったんですね。それが徐々に成果を出してる時に、元CTOの伊藤と僕がいきなり呼ばれて、副社長やってくれって言われたんですよ。

僕は創業メンバーでは無いんですけど、その切り替えっていうか、人の能力を見抜いた時に抜擢する勇気っていうのはすごく感じました。はてなっていうのは京都で創業して東京に来て、シリコンバレーに子会社を作って本社は京都に戻ったんです。これは京都の非常に優秀な大学の学生をしっかり囲って入れるっていう、地の利を活かす見事な判断だったなと思うんです。こういうの1つ1つを見て、すごく尊敬するところがあります。

同じようにミクシィでは、買収されて会社に加わったばかりの1月に朝倉から「組織の変更をやってくれ。うちの人間ではやり切れないところがあるから、入ったばかりの川崎さんがその位置を利用してやってくれ」とバシッと言われたりとか、後は今回の人事もそうですけれども、すごい人だなと思います。

一番最初に朝倉と会った時から、すごい頭切れる人だなってことはわかってたんです。でも新体制になって最初の決算説明会後、社内向けの説明があったんですが、その時の語る力っていうのが、最初に会った時からわずか4ヶ月しか経ってないのにすごく変わったなと思ったんです、偉そうな話ですが。この短期間の間でそこまでマインドを変えられるっていうのは、もちろんそれだけの覚悟があってのことなんでしょうけど、自分がそれやれって言われても中々難しいだろうなとすごく尊敬してます

初期メンバーへの責任が覚悟をつくる

岡島:ポジションが人を作るっていう話も、責任や覚悟が人を変えていくってことなんでしょうね。

田中:そうですね。特にこれ創業した人はわかると思うんですけど、誰も来たがらないような会社に1人1人無謀にも誘って入れるっていうのを、始め100人か200人やっているわけですから、こんなところに来てくれた人に「やっぱダメだったんで」なんて気軽なこと言えないじゃないですか。

色んなステークホルダーが増えていくほど、上場もすれば株主が増えれば増えるほど、とにかく責任が増えていくわけです。ただ同時に、これをあんまり真に受けすぎると体を壊すなとも思っています。これ聞いた話で共感したんですけど、あるリストラのコンサルティング会社の人がExcelで人材削減モデルってのを組んでて、それを取材したテレビが「人間を数字のように扱うのか!」って激怒したっていうんです。

でも1人1人の人生考えてたらExcel永遠に組み終わらないから、すごい1人1人の気持ちを考えたいっていうのと、これExcelなんでって割り切れる気持ちが、両方高次元で存在しないと出来ない仕事だなと思います。

岡島:ベンチャーで人を採用する時の一番の殺し文句は「いつか一緒にやりたいよね」って言っとくのが鉄則だと思っていて、その時断られても、もしくは自分がその時断ったとしても、どっか頭の隅に残っていて、そうやって創業メンバーを集めてる会社ってたくさんあると思うんですね。そうやって集まって来た人を何とか幸せにしたいっていう思いがあるんじゃないですか? 青柳直樹さんとかも8時間くらい口説いてましたよね。

田中:僕は良いなと思ったら無限に誘うんで。青柳さんの場合は、当時年収数千万はあったであろう外資系金融マンだったんですけど、こんなわけもわからない会社に、しかも年収も1/3とか1/4になるなか来てくれるなんてあり得ないって思ってたんで、楽しく8時間くらい話して帰ったんですよ。そしたら来てくれる気があるって聞いて衝撃を受けて、山岸に「そんなことって世の中にあるらしいよ」って話してましたね。(会場笑)。

ミクシィはなぜタレントバイを成功させられたのか

質問者:DeNAの小林です。昨日ミクシィの方と青柳さんも含めて三者で、ミクシィって日本で一番タレントバイがうまくいった会社だよねっていう話をしてました。今回会場にいらっしゃる方々って、これからタレントバイをされる可能性がある会社の方もいらっしゃると思うし、我々やGREEさんやサイバーさんっていうのはタレントバイをする可能性のある会社だと思うんです。

なのでする側とされる側の両方から見て、何故それがうまくいったのかっていう見解を是非聞きたいです。例えばする側から見ると、外から来た奴が上にスポーンと入ると、生え抜きの人が反発するんじゃないかって日本の多くの会社は日和るだろうし、逆にタレントバイをされるほうとしても、自分でメンバー誘って起業してきたのに「実はこの会社買われることになって、俺偉い人になるんだ」と言うと、ついて来た人はいい気をしないんじゃないかと。

こう考えると決断が難しくなるっていうことがよくあるんじゃないかなと思います。ミクシィさんは1回だけじゃなくこれだけ多くの方々を集めて、こうやって新しい体制ですごい高い結束で出来てるすごい稀有な例だと思っていて、どういう点から2つの側面がうまくいったのかなっていうのを是非お聞きしたいです。

荻野:高いレイヤーで人を獲るっていうのは本当にリスクと表裏一体で、相当に強い覚悟をブレることなく持ち続けるっていうのが必要な話だと僕は思ってます。朝倉の会社を買収する時にしても川崎の会社を買収する時にしても、僕は社内から「高いレイヤーの人を買って実際に活用できるの? 社内とうまくコミュニケーション取れるの?」って、正直かなり言われました。

なので今振り返ってみると大きなポイントは2つあったかなと思っていて、1つは受け入れる側の経営陣全体の、その人を受け入れて更に成長していくんだという覚悟。これはその時ものすごく考え抜いていたわけではなくて、多分結果論なんですけど、最近よく川崎とか朝倉とか松岡と「時価総額1兆円を目指そう」っていう話をしているんです。

日本の中で小さく戦うんじゃなくて、大きく世界に打って出ようと思うと必ず、今後も経営を巻き込んでいって、より大きくなっていくという動きはしていくと思うんです。その中において今の経営陣が被買収の経験を持っておりますので、買収される側の経験もよくわかるし、買収する側に求められる受け入れ方っていうのもわかっておりますので、これがまずとても重要だと思っています。理論じゃなくて本質的に、自分自身が被買収されたことある人だとそれは多分わかると思います。

荻野:もう1点は、ミクシイだけが出来ているんじゃないかなと正直思うところがあります。このアプローチを他社さんにおすすめ出来るかっていうと、そうではないんですが。何故うちの会社が、ご質問のような評価を頂けているのかというと、1つは笠原の器だと僕は思っています。

ちょっと歴史的な話になっちゃうんですが、司馬遼太郎の話で『項羽と劉邦』という話があって、どっちが漢の千年王国を作ったかといった時に、それは文武両道の項羽ではなくて劉邦だった。

これを表面的ではなく、これをすごく本質的に感じる部分があって、笠原って本当に任せてくれるんですね。アントルプレナーも皆さんやんちゃじゃないですか。自分がこうだと思ったことは絶対やり抜きたいじゃないですか。信念も持ってるし、それを間違ってると思うことは無い。

でも一方笠原は、自分の株式もあって、我々の意思決定が少しでも間違って株価が5%落ちると、一般の方の生涯年収吹っ飛んじゃうんです。その中において、我々に仕事を一任出来る器の広さ。その経営者としての覚悟に惹かれて人が集まるんです。経営者が微に入り細に入り口出しをしてしまうと、多分皆さんもそういう会社は疲れると思われるだろうし、もっと自分の好きなように思う存分腕を奮いたいと感じると思うんです。

笠原はそういうところに本当に執着しないっていう稀有な存在で、思う存分やればって平気で言ってくれる。このセッションの一番最初で曽山さんが「各社それぞれなので、どれが成功っていうことは無い」と仰ってましたけれども、このアプローチも、たまたまうちならでは成し得られるものなのかなと思います。

サイバーエージェントは閉鎖的か?

質問者:GREEの青柳です。サイバーエージェントのお2人にお伺いします。サイバーエージェントさんって、タレントアクイジション(取得)的なM&A、大きなM&Aはやらないし、そういうポリシーだと理解しているんですけれども、ここにミクシィさんの様な例を見た時に、そういうものを今後取り入れていくお考えというのがどういう風にあるのかっていうのをお伺いしたいなと思いました。

CA8の意図されているところに、健全な新陳代謝とか緊張感の醸成によって経営を良くしようというのがあると思うんですが、メリットとして強い文化が生まれたっていう結果もありつつ、閉鎖性が生まれるデメリットもあるんじゃないかなと思います。

今後、いきなりCA8に入るとまではいかなくとも、買収してCA8候補とかになってもらい、CA8の目的達成のために役立てていこうということはあり得るのでしょうか。またそんな議論が明日会議とかの中で行われているのか、オフレコでも結構ですのでお願いします。

曽山:例えば私達の場合ですと、宇佐美さんとかは元々サイバーエージェントグループに新しく入ってくれて、その後取締役になられている方なので、そのような事例はすでにあるんですね。ただ、これから私達が買収を積極的に仕掛けて、今のタレントバイをやっていくかというと、今の時点でそういう議論は無いです。

ただ、最近は新卒も中途もみんな活躍できるような文化が出来てきたので、中堅で経験のある中途の方に入ってきて頂いている事実はあるんですね。なので会社単位での買収という実績は無いですけれども、そういう考え方として、力のある方に入ってきて頂いてCA8で活躍してもらうというのは、あって然るべきだと思います。そこのせめぎ合いというか、試しながら両方やっていくんだと思います。

日高:サイバーエージェントには強い文化があると言われますし、また自分達でもそう思ってるんですが、文化とかビジョンとかを最初から理解して頂いている状況があれば、そういう買収をしてタレントの方に入ってきて頂いてもうまくいくのかなと思います。例えば2年前に出来て今好調のサイゲームスだと、社長の渡邉と初めて会ってから3週間後くらいにはもう会社があったんですね。

0からのスタートだったんですけど。渡邉さん自身も『渋谷ではたらく社長の告白』を読んだりしていて、そういうところで自分の力を試してみたいっていうのがあって、1回2回飲みに行っただけでしたけど、文化やビジョンの共有が出来るなと思ったケースもあります。なのでやらないというわけではなくて、うちらの文化に融合出来るかビジョンに共感出来るかと。

まあビジョンって字面でしかないので、どちらかというと文化ですね。あとこれまで買収してこなかったというのは、そういうチャンスがあまり無かったというのもあって、その結果、自分達で育てる、小さく産んで大きく育てるっていうのが染み付いてきているので、今はその得意な方法を集中してやろうという感じです。

全ては出会いで決まる

岡島:ありがとうございます。最後に気を抜いてらっしゃる田中さん、この「強い経営チームを創る」について一言無いですかね?

田中:もう終わりだと思って完全に気を抜いてました(笑)。けどやっぱり、ここまで色々話あったんですけど、結局のところ僕は「出会い」でしかないなと思ってます。結局手に回ってくる配牌の中から選ぶしかないので。その確率を高めるというところはありますが。

変な話、僕の場合山岸にしろ青柳にしろ藤本にしろ、友達か友達じゃないかの頃から会社は始まってるんです。これくらいの会社を創業出来る人が周りにいたってことなんで、多分皆さんの周りにもそういう人はゴロゴロいると思うんですよね。それを「出会い」と思うか思わないかだと思うので、いい出会いを見つけて我が物にするということが一番重要だと思います。

岡島:ありがとうございました。皆さんの話をずっと聞いていると「強い経営チームを創る」っていうのは、成長していくイノベーションし続けていくっていう、ここにいる皆さんが強く思ってらっしゃる命題のために、それぞれの戦略で正解は無いと思うんですが、偶然の結果ではなくて必然的にそれを生み出すってことをそれぞれの形でやってらっしゃるという感じがします。