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宇野常寛氏「無駄や過剰さこそが日本的ネット文化を育てる」 ITによる効率化が見落としたものとは?

宇野常寛氏「無駄や過剰さこそが日本的ネット文化を育てる」 ITによる効率化が見落としたものとは?

ITは一般的に効率化やコストカットのツールと考えられているが、日本の場合はむしろ無駄や過剰さの中にそのポテンシャルを秘めているという宇野常寛氏。日本のIT産業を渡り歩いてきた楽天・尾原氏との対談の中で、日本のインターネットの未来を探る。

シリーズ
NHK出版 > 10分対談
2014年1月28日のログ
スピーカー
評論家 宇野常寛 氏
楽天株式会社 執行役員 尾原和啓 氏

「夜の世界」と「昼の世界」

尾原(以下、尾) おかげさまで本(『ITビジネスの原理』)が出来上がりました。ありがとうございます。今回の出版を含めいろいろな活動をするなかで、一番僕が勇気づけられた言葉は宇野さんが編集長である『PLANETS vol.8』のテーマの一つだった「夜の世界」なんですよね。あれから1年以上経っているので、宇野さんの中でこのテーマがどう変わっていっているのかというところから話を始められればと思います。 宇野(以下、宇)  そうですね。「夜の世界」というのは、僕と濱野智史の共著である『希望論』という本のあとがきで、濱野が書いている「昼の世界」と「夜の世界」という概念のことです。かんたんに言えば「昼の世界」というのは、政治や経済など表の世界のことですね。でも、この20年は「昼の世界」がダメダメだったと。 で、もう1つの世界があり、それが「夜の世界」と濱野が呼ぶインターネットやサブカルチャーの世界です。「昼の世界」の人たちからすると、この「夜の世界」はどちらかと言うとヒマな学生や子どもなど、ちょっと社会から外れた人たちが生きているような世界と思われていました。が、実はこの20年で最もイノベイティブなことが起こっていた世界だった、という話です。 濱野はこの「夜の世界」にすばらしいアイデアやすごく斬新なイメージなど、この先、日本だけじゃなくて世界を変えるような宝の山を見ている。僕も彼の言うことにはまったく同感で、その「夜の世界」をテーマに、20年のインターネットの進化史など特に情報社会にフューチャーして、その中にこの先の民主主義の在り方や、あるいは共同体の在り方の道具となるものがいっぱい転がっており、それを希望として提示するために作ったもの。それが『PLANETS vol.8』でした。

参院選に見た日本のソーシャルメディアの”沈没”

 私も最初の座談会に参加させていただきました。  あれから1年以上経ちますが、今、僕が同じこと言っても、短期的にはものすごく説得力がないのだと思います。なぜかというと、日本のソーシャルメディアの世界は沈没しかけているんですよ。  沈没ですか?  そう、沈没です。インターネットで政治が変わると、ここ2、3年、僕も含めて色んな人が言ってきました。でも、ネット選挙が解禁となった夏の参院選挙の結果はご存じのとおりです。  あれですね。まあ、山本太郎という。  結局、どんなに仕組みが整って、どんなにすばらしいウェブサービスがあったとしても、それを使う人間の文化が貧しいと、ろくでもない結果しか生まれません。  炎上マーケティングに負けてしまうと。  結局、今の40歳ぐらいのアラフォーを中心とした「ソーシャルメディア第一世代」が作ってきた文化というのは、良くも悪くも、とにかく炎上で動員する文化です。マスメディアができない新しい革命の形、新しい動員の形を作っていくんだ(キリッ!)ということをずっと言ってきて、僕らも半分くらいそれを信じてきたわけですけど。結果、ネトウヨ最強、放射脳最強という世界が現れ、また証明されたのが夏の参院選だと思うんです。  ソーシャルメディアでの炎上で100万人の敵ができるけど、10万人の観客がいて、そうすると1万人の味方ができてしまう。その1万人の味方は熱量が高いから投票に行ってしまうと。  夏の参院選は良くも悪くも、というか悪くもですよね。残念ながら、この20年で積み上げてきた日本のインターネット文化では政治を変えられない、いや、むしろ悪くしてしまうということが証明されてしまった。とはいえ、それでも僕はこの国の失われた20年の「夜の世界」、インターネットのポテンシャルみたいなものを信じたいんですよね。 たしかに今は間違った結果しか生んでいない。今あるものは間違いかも知れない。しかし、いくつも新しい芽があると思うんですよ。この20年で培ったものの中には、もっと伸びる芽がまだまだいっぱいあり、そこをいかに伸ばしていくかっていう勝負をしなきゃいけない。だから僕はむしろ勝負はこれからだと思っています。  うんうん。わかります。  でも、だからこそ、この2013年夏の参院選における敗北というものを厳粛に受け止めなきゃいけないというのが僕の考えですね。

無駄や過剰さにこそ、日本のITのポテンシャルがある

 なるほど。でも、その中で「明るい芽」というのは、たとえば何でしょうか? もし僕の本の中でそうした芽を見つけていただけていたら、うれしいことだと思うのですが。  そうですね、僕がこの『ITビジネスの原理』を読んだ感想を言えば、インターネットというものは、一般的にはコストカットや効率化のツールだと思われているけれども、実は逆なんだということを尾原さんは書いている。アメリカ的なインターネットはたしかにコストカットと効率化なんだけど、僕らが言ったような日本の「夜の世界」、日本的な情報社会のポテンシャルはむしろ無駄を生む、過剰さを生むところにあるということを一貫して述べている本ですよね。  まさにそのとおりですね。  パラパラ読むと、何か最近のビジネスうんちくを深堀りしていて、ITビジネスの背景を総解説する本に見えるんだけど、裏のテーマが明確にある。超簡単にワンツイートぐらいに要約してまとめると、そういうことなんですよね。  すごい。簡潔にまとめていただきました! ありがとうございます。  この本は、僕らのようなコンテンツ産業にいる人間への、尾原さんからのメッセージだと受け取りました。つまり、インターネットをコストカットや効率化じゃなくて、無駄とか過剰さを生むものだと捉え返したような仕事をしろよ、お前ら! というメッセージです。たとえば、10年前に堀江(貴文)さんが世間を騒がせていたころ、彼はTシャツを着ていた。あれは「オレはゴルフ文化圏や経団連の仲間じゃない」という象徴的なものですよね。新しい勢力の味方なんだよという。  一種のアイコンですよね。  そのアイコンがものすごく機能して、僕もそこでホリエモンという存在に希望を見たわけです。しかし、あれから10年が経ち、堀江さんの世代から受け継いだ僕らは、同じようにTシャツを着ている訳にはいかないと思うんですよ。かと言って、そこでアルマーニを着たら僕らの敗北なんです。アルマーニでもなければ、もちろんTシャツでもない何かを着ていないといけないわけで、それが何なのかをこれから作っていきたいわけです。ヘンな話ですが、最近アウトドア系のグッズに凝っていまして。  あーなるほど。たしかに、あれってまさに過剰な機能のカタマリですよね。  アウトドア系のグッズは一見して機能のカタマリで、コストカットと効率化を極めたものだと思われている。実際にITの人たちってアウトドアのグッズが大好きじゃないですか。  大好き、大好き。僕もです。  アウトドア系のモノって実は過剰なものだし非常に無駄なものだと思うんですよ。普通に東京で都市生活をしていて、あんなに丈夫な服はそもそも要らないし、あんなに風を防いでくれるようなウィンドブレーカーも要らないんですね。でも彼らはそれをカッコいいと思って着ている。これがとても重要なことで、要するにオーバースペックに萌えてるんですよ。

ネットが”文化”になるために必要なもの

 おっしゃるとおりですね。僕もゴアテックスを着るのが大好きですが、結局のところ、その過剰なものが僕たちのパワードスーツなんですよ。それをもってコミュニケーション消費として自分が強くあるとか、そういうものを含めて着ているような気がします。  僕もミステリーランチのバックパックが大好きで、最近の一番のお気に入りです。過剰な効率性、丈夫さ、軽さ。そういうものに僕ら萌えていて、そこにコストカットや効率化と相容れない、加減を知らない文化が生まれる余地があると思います。これを伸ばしていくことが重要なんじゃないかということを、僕らのようなコンテンツ産業にいる人間は考えるべきだし、IT産業にいる人たちは無駄や過剰さを伸ばして文化を育むようなプラットフォームを、いかに作っていくかで勝負してほしいと思います。  僕がGoogleから楽天に行った理由もそこで、楽天の場合は”売る”プラットフォームですけど、多分、今の宇野さんの話ではそうした無駄や過剰さが文化に変わってきているという話ですね。  そのとおりです。堤さんはこの前亡くなりましたけど、たとえば西武的なものや無印良品的なものは、東京の都心部に住んでいる一部のエリートがモノにメッセージを込めて、マスメディアに乗せて送り出していったんですよね。しかし、インターネットの時代では、それをユーザーひとりひとりが作り出していくということを考えていくべきです。楽天、あるいは新しい日本のベンチャー企業にできるかどうかが今、問われていることだと思います。  この文化に変えていくということは、ある種もちろんベンチャー企業から始まるものではあるけれど、何というかコンテンツですよね。コンテンツはやはりベンチャーだけで作れるものじゃないので、その連動体をどう作っていくかなんですよね。  なるほど。それって結構クリティカルな話ですよね。つまり、日本のベンチャーブームは良くも悪くも学生のサブカルチャー的なもので、インターネット登場から20年を支えていたけれど、もうそのタイミングではないと。  ネットの中だけで完結したコンテンツとしてマネタイズするだけであれば今のままでいいのかもしれませんが、それ以上の先ほど宇野さんがおっしゃった社会や文化となると、もう一段階染み込ませるためのドライバーが必要で、それを探らないといけない。それが今回の本の一貫したテーマでもありますが。と言っているうちに10分を過ぎてしまいました。  早いですね。まだまだしゃべりたいことありますけど。じゃあ、続きはウェブで、じゃなくて「メルマガPLANETS」でやりましょうか。  ですね。今日は本当にありがとうございました。

  

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おばら・かずひろ
楽天株式会社執行役員・チェックアウト事業長。1970年生まれ。京大院で応用人口知能論講座修了。マッキンゼーを皮切りに、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、KLab取締役、リクルート2回、Googleなどの事業企画、投資、新規事業など歴任。現職は11職目になる。「TED」の日本オーディションに従事するなど、IT以外にも西海岸文化事情にも詳しい。
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宇野常寛氏「無駄や過剰さこそが日本的ネット文化を育てる」 ITによる効率化が見落としたものとは?

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