マネジメントに必要な、たったひとつのコンセプト
ベン・ホロヴィッツ氏:サムがこのコースを私に頼んできたとき、彼はこう言っていました。「ベン、15分でマネジメントの極意を教える授業をしてくれないか?」それを聞いて、私はこう思いました。先日『HARD THINGS』という300ページの本を書き上げたばかりだけど、どうやら書きすぎたらしいと。
(会場笑)
でも300ページを50分にまとめあげるだけの時間はありませんでした。なので、マーク・トウェインの名言にあるように、短くまとめるのが大変だったので長く書くことにしました。この講義では、マネジメントに必要な、たったひとつのコンセプトだけを教えるつもりです。
そう、たったひとつの、しかしとても大事なことです。
マネジメントを上手くやるために、会社が小さい初期の頃から本当に大きくなるまで、いろいろなCEOが非常に苦労しているのを見てきました。まさに「言うは易く、行うは難し」です。
このことは、音楽にもなっています。これはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの曲です。
Sometimes I'm right 〜♪(歌を流す)
(会場笑)
そう、これが今日のレッスンの内容を表している曲です。もし音楽の才能があって、もうこれで全てわかったという人は退出して構いませんよ。
言葉にして整理すると、こうなります。
「重要な決断をするときは、自分や自分にアドバイスをしてくれている人の視点だけではなく、部屋にいない人まで含めた全ての人の、あらゆる視点から検討しなくてはならない」
言い換えると、重要な決断をするときには、会社の視点でその決断を見なくてはなりません。そして会社とは、そこで働く全ての人の総和です。あなたの視点に、そうした視点を足さなくてはならないのです。そうでなければ、あなたのマネジメントにまつわる決断は、ねじれたものになり、副作用が発生し、危険をはらんでしまうでしょう。
これは本当に実行が難しいことです。なぜなら決断をするとき、人は多大なプレッシャーの下に置かれるからです。
降格と解雇のどちらを選ぶべきか
それではアジェンダに行きましょう。
私は4つのケースについて説明するつもりでいます。ひとつめは降格です。これは非常に感情的なものです。もうひとつは昇進です。これも感情的なものですね。それからサムのブログの記事を評価します。サムも驚いていると思いますが、300ページの本を書いた後で50分の授業をしろと言われたので、ちょっと仕返ししてやろうと思ったのです(笑)。
(会場笑)
それから私は彼のことを話そうと思います。偉大なマネジメントについて実践した歴史上の人物。今日私が着ているTシャツの人物です。彼が行ったことは、未だかつて行った者のいない人類史上初の試みでした。彼はこれから話す技術を完璧にマスターしていました。
さて、実際の例に行きましょう。もしあなたが役員を抱えているとして、降格すべきなのでしょうか、それとも解雇すべきなのでしょうか? これは私が実際に直面した問題です。素晴らしい努力をし、成果を上げているひとりの役員がいるとします。あなたは彼を雇っています。彼は会社の誰よりよく働き、やるべきことを完璧にやっています。基本的には頭もよく一生懸命働いているため、みんな彼のことが大好きです。
でも事態は彼の能力を上回ってしまいました。今や会社が求める仕事に必要な知識やスキルを彼は持っていません。あるいは社内の競争が激しくなり、あなたは役員のポストにつけておくことができなくなりました。しかし、彼はとてもいいやつです。
さあ、質問はこうです。彼を解雇すべきなのでしょうか? それとも下の役職につけて他の人を上に連れてくるべきなのでしょうか? それも悪い選択ではありませんよね。この問題に対して、どのように決断を行えばいいのでしょう。
従業員を評価しなければ、会社は成長しない
この場合、あなたはCEOです。朝6時から夜10時まで、会社の誰よりも一生懸命に働いている人に対して、「努力は素晴らしいけれど、努力だけでAはあげられない。君の評価はFだ。だから解雇する」と言うことはとても難しいことです。誰だってそんな会話はしたくありません。
実は降格というのはCEOから見れば大きなメリットがあります。なぜなら、彼を会社に留めておくことができるからです。彼はとてもよく働きます。他の社員のお手本になるでしょう。会社には彼の友人がいますし、文化という観点から言えば、これはWIN-WINなのです。
彼は会社に残ることができますし、あなたは自分が直面している問題を解決してくれる別の人を連れてくることができて、彼がいなくなることで発生する新たな問題を増やさなくて済みます。
さて、それでは役員側の視点から見てみましょう。役員としては、もちろん降格されたくはありません、しかし解雇されるのはもっと嫌です。なぜなら次の仕事の面接で複雑な事情を説明しなくてはならなくなるからです。降格というのは、実際には新しい仕事につくようなものです。ただし、少し小さな仕事になるだけです。
(会場笑)
それから、会社というのは人材を評価しなくてはならない場所だということです。人を雇い、従業員としての関係を結んだら、必ず評価します。そうしなくては、会社は成長しないからです。
ひとりの人間の降格や解雇は、組織全体の規範となる
これは実際にあった会話なのですが、私はそのときに「この役員は株を持っているか」と聞きました。「どういうことですか」と聞き返されました。私はさらに聞きました。「彼の報酬は? ディレクター級なのか、それとも副社長級なのか? 何%くらい株を持っているんだ?」CEOは答えました、「1.5%です」と。
私は次に、こう言いました。「さて、あなたが自分の会社のエンジニアだとしよう。そしてここに、セールスのリーダーだった人物がいる。彼の報酬は会社の株の0.1%、0.2%と増えていき、最終的には1.5%になった。そしてそのまま彼がセールスのリーダーでなくなったとしたら、他のエンジニアたちはどう思うだろう?」と。
彼は「それはまずい」と言いました。私も「まずいだろう」と言いました。
なぜなら全く公平ではなくなってしまうからです。それでは彼の報酬、彼の株式を全て取り上げたときに、それを取り戻すために彼は努力するでしょうか? その時、彼は本当に今までと同じ生産性を発揮できるのでしょうか?
それから人々は、降格された後も彼に同じ敬意を払い続けることはできるでしょうか? 今までは高い地位にいたのに、それが低くなってしまうわけですから。
「あなたは今まではセールスのリーダーだった、それが今はここのマネージャーにすぎない。それなのに私に指示をするのか? 電話しろって命令するのか? 降格されたってことは知っているよ。私はこれから成長していくんだ、次の会社ではセールスのVPになるさ」
この判断をするとき、ひとりの処遇についての判断だと思うかもしれません。ひとりの人を降格するか、あるいは解雇するかという話だと考えるでしょう。しかし本当は違います。この会社で仕事に失敗するということはどういうことか? もっとも高い地位にいるときに、その報酬を維持するためには何が必要なのか? 努力なのか、それとも結果なのか? そうしたことを定義しているのです。
もちろん違う状況で違う地位の場合には、異なった答えが出るでしょう。これが外から連れてきた役員ではなく、これまでずっと昇進させてきたような場合は、違った決断になります。
理解しなくてはならないのは、解雇や降格が目の前にいるひとりの人間を見るだけの問題ではないということです。
昇進を希望してきた従業員をそのまま昇進させるか?
それでは2番目の例に行きましょう。素晴らしい従業員が、昇進を希望した場合です。彼はさっきの従業員とは違い、非常にいい従業員です。そしていい従業員は、昇進を希望するものです。
あなたはまず、こう考えるでしょう。確かに彼は優秀だ、昇進を希望しているのは当然だ。それに見合う価値があると自分で思っているから、そう提案しているのだと。彼にはぜひここで働き続けて欲しい。公平でありたい。彼は素晴らしい仕事をしたのだ。昇進させたら、きっと喜んでくれるだろう。子供みたいに一緒に盛り上がれる! 最高! ほら、昇進だよ!
(会場笑)
あなたの側の視点からすれば、素直に昇進させてあげたいというわけです。
それでは従業員の側から考えてみましょう。もちろんあなたが昇進させてあげれば喜ぶでしょう。しかし覚えておかなくてはならないのは、突然ある朝思いつきで昇進を打診してみようと思ったわけではないということです。
よく考え、他の選択肢と比較し、ひょっとしたら他の会社からの引き抜きもあるかもしれませんし、配偶者が昇進について話しているのかもしれません。これは非常に深刻な話なのです。 基本的には、昇進させればいい気分になるでしょう。
偏執狂になって「なぜだ! なぜ昇進させたんだ!?」となる可能性はゼロではありませんが、非常に考えにくいことです。普通はこんな感じになるでしょう。
(会場笑)
知らない人のためにいうと、これはシュモニーダンスを踊るボビー・シュマーダとラウディ・リーベルです(笑)。まあ、こうした反応を得られるというわけです。
イエスということは簡単です。シェリル・サンドバーグの本を読んで、「リーン・イン」してきた人に対して、報いたいと思うのは自然なことです。でも誤解しないで欲しいのですが、あの本は素晴らしいですよ。念のため。
しかしながら……。
昇進に関する正解は「形式的」にすること
昇進について打診しなかった従業員の視点から考えるとどうなるでしょう? 彼らはもしかしたら、昇進を打診した従業員より素晴らしい働きをしているかもしれません。
彼らはこう考えるはずです。私は昇進を打診しなかったから昇進しなかった。彼は昇進を打診したから昇進した。これは何を意味するのか? この会社は本当に能力を評価してはいないのだ。ただ求めたものを与えるだけなのだ。そうなれば、選択肢はふたつしかない。昇進についていちいち打診するようなやつになるか、仕事を辞めて本当に能力を評価してくれる他のところに行くかだ。
つまり昇進しなかった人は、非常に嫌な思いをすることになるのです。会社でさっきみたいなダンスをしている人がいたら絶対にみんな昇進に気づくでしょう(笑)。そうすれば、辞めてしまう人が出るかもしれません。これは最高機密なんだが実は君の昇進が決まった、なんてことはできないわけです。内緒にしておくことはできません。
文化的な結論はこうです。昇進を訪ねてくる人間は、借金があって家族に昇進を要求されているのだろうと他の人に思われてしまいます。そうでなければ、自分が昇進のチャンスを逃していることになってしまうからです。そして経験豊富なCEOに聞くと、だいたいこれは当たっていると言います。
昇進を打診した人間を昇進させれば、聞いてくる人が後を絶たなくなります。
さて、正しくはどうすべきなのでしょう。昇進についての正解は、形式的であることです。自分の会社の文化を守るためには、形式的でなくてはなりません。
ほとんどのスタートアップは、ここにぶつかります。あまり形式的にはしたくないし、プロセスはシンプルにしておきたいし、物事を有機的にしておきたいし、ヨガやりたいし、有機栽培の大麻だけやりたいし……。ごめん、今のはピーター・ティールみたいだった(笑)。
(会場笑)
公正な評価プロセスは従業員を安心させる
ピーターはちょっと前、麻薬をやっていることで有名になったのですが(笑)。プロセスをきちんと整備しておくことは、企業内の文化を守ることに役立ちます。全てのインプットを把握しているから昇進したい人は来ればいい、昇進はさせないが話は聞くよ、と言えるからです。
一緒に働いている全ての人と話して状況を把握することもできます。全ての仕事を客観的に評価することができるし、それに則って働きぶりについての自分の意見を述べられます。もちろん毎期ごとに行い、毎日はやりません。半年に1回とか、四半期に1回くらいはやってもいいかもしれません。
そのプロセスの最後に、昇進の如何について伝えることができるわけです。昇進するにしても、昇進しないにしても、このサイクルを離れてはやらない、ということを事前に決めておくのです。言われたときにその都度やるわけではない。プロセスはひとつしかない。
かつて私がCEOだったとき、役員が何人かいましたが、会社が大きくなればなるほどこうしたことは困難になります。なぜなら一緒に働いている人がどんどん攻撃的になっていくからです。この世界では、役員にまで登りつめるためには攻撃的でなくてはならないからです。
私はこう言います。圧力をかけたいなら自由にすればいい。でも全てのプロセスは終了しているし、必要な昇進はもう与えている。だからもう言うことは聞かない。仕事の成果は見ているし、他の人の成果も見ているし、たくさんの人がいるし、お金もたくさんあって、必要だと思うものは全て与えていると。
そうしたプロセスは、基本的には人を安心させます。なぜなら、いつも自分は正しく評価されているのだろうか、自分になにかいけないところがあるのだろうか、顔がダメなのだろうか、仲良くしていないからだろうか、一緒にゴルフに行っていないからだろうか、気に入られるようなことを何かしなくてはならないのだろうか……。
そうした疑問を抱えながら仕事をしなくて済むのです。評価プロセスはひとつしかないし、それに基づいて公平に評価を与えているということが、みんなにわかるのです。それがこの問題を扱う最もよい方法だと思います。目の前の人だけではなく、会社の全ての人がどう考えているかわかるからです。
※続きは近日公開!