クリミア半島訪問の理由

高野孟氏(以下、高野):こんばんは、友愛チャンネルの時間です。今回は、鳩山由紀夫さん、そして私が先週クリミア半島に行ってまいりました。すでにご存知かもしれませんがそれを巡って今大騒動が起きているわけですが。その目的は何だったのか、行ったらどうだったのかをお伝えしたいと思います。そしてその背景にある国際情勢の複雑怪奇な構造を孫崎先生を交えて分析をしてまいりたいと思います。

まずは、鳩山さん。今回のクリミア訪問はある意味で外務省の制止を押し切っていってしまったわけなんですが、その目的は何だったのか、その辺りからお聞かせください。

鳩山由紀夫氏(以下、鳩山):これだけ問題になっているところに今の、日本の問題の本質があるような気がしています。ただ、外務大臣が鳩山さんには行ってほしくないんで必死に止めてるんです、みたいな話があったんですが、私には誰からも電話の1本もありませんでした。

秘書官のほうには「できれば慎重にお願いしたい」というような話があったそうですが、私のほうに直接に何か連絡があったというわけではありません。

私がなぜクリミアを見たかったのかというのは、正直に言えば昨年の段階から行きませんかという声があって、本当のクリミアの状態を知りたかった。どうしてかというと、私は日ロ関係を非常に心配しているんです。

ロシアにクリミアが編入されたということによって、欧米が経済制裁をした。それに対して、日本がアメリカから言われたからでしょう、本当は安倍さんとすればプーチン大統領との間で北方領土問題を何とかしたいと思っていたのに、アメリカからポンと言われたらアメリカの言う通り、緩やかとはいえ経済政策に応じざるを得なかった。

孫崎享氏(以下、孫崎):そのこと自体が、一番軽率でしてよね。

鳩山:そうだと思うんですよね。その経済制裁が本当に必要なのかどうか、それが正しかったのかどうかということを一番見たかったということですね。

経済制裁は戦争の前段階

鳩山:経済制裁って簡単に言いますけど、これはかつて日本が戦争に突入したのも制裁やいろんな封鎖が原因にあったわけです。戦争の前段階が経済封鎖なんですよね。そういう制裁が正しかったのか……。

確かに日本の制裁は形だけで、非常に緩やかではあるんですが、相手からしたら「制裁に加わった」という見方をされますから。日ロ関係がせっかく順調にいっていたのが今はおかしくなって、プーチン大統領も本当は昨年来日するはずが、今まったくいつ来られるか目途が立たっていない。

これは、本来岸田外務大臣が、ロシアの外務大臣とモスクワで会談し、いつ来日するかを話し合うべきなんですがそれができない段階が続いている。

私は領土問題を解決する最後のチャンスが、プーチン大統領の在任中だと思っているので。その目途が全く立たないという……。

そもそも、今クリミアではどんな状況なのか、確かに外務省とすれば行ってほしくなかったと思いますよ。でも、実体を見るというのは政治家をやった人間として、世界平和をつくっていかなければならないと思うなかで、どうしても行ってみたいという気持ちになって、高見さんを誘って行かしていただきました。行って良かったと思っています。

ジャーナリストの使命に従っただけ

高野:私はジャーナリストですから、少々危ないところでも行って自分で見てやろうということで今回行ってきました。それが、記者の基本ですから。日本政府の立場というのは、要するにロシアが事実上の軍事侵攻をして、クリミア半島を武力で制圧したと。その制圧したもとで住民投票をやらせて、90何パーセントの投票でロシアへの編入を決めたと。そのことすべてが不当であるという立場なんですね。

だから依然として、クリミアはウクライナの一部であるという主張。だから、我々が「ロシア側から入って、クリミアに入る」というのが制裁の前提となっている基本認識を傷つけると。ロシアのクリミアに対する実効支配を認めることになるじゃないか、こういう話なんですね。

それは一種の法形式論みたいな話であって、―例えば北方領土へ行くのが制限されているみたいな―我々が北方領土へ行ったこと自体がロシアの領土であることを認めることになるのかというのはそんなわけではなくてですね。それは行くなと言われても、実際に見てみないと分からないじゃないかということがあるわけですよ。

外交政策はあらゆる可能性を模索すべき

孫崎:ウクライナ問題へ行く前に、ひとつ重要なことを話したいんですが、それは外交政策は常にひとつの流れだけではなく、いろんな可能性があるわけですよね。そのなかで、どのような対応をとるべきかということを考えてみたいと思うんです。

今日本にとって重要なのは領土問題をどう解決するか。そのなかでプーチンは指導者として領土問題にもっとも前向きな指導者であると思っています。

鳩山:私もそう思います。

孫崎:それはなぜかとプーチンは右から出てきているにもかかわらず、―右というのは本来国粋主義者になって、領土問題に厳しくなるんですが―プーチンは異例で領土問題に非常に前向きであると。

もしも右の人ではない、例えばメドベージェフであったりとか、そういう人たちが出てくると右に対する配慮がありますからすごい弱腰なんですよね。領土問題が解決する可能性を大きく持っているのは、私はプーチンの時代だと思っているわけです。

そうだとすると、プーチン大統領との関係を良好にしておかなくてはいけない。ところが、ウクライナ問題が出てきたから、日本政府はアメリカの手前なかなかプーチンと仲良くできないということが現実として出てきている。

しかしながら、日本の国全体としては、アメリカから言われようがプーチンとのパイプを持っておくべきなんです。こういうときにアメリカがよく使う手は、表立ってはこういうけれど、別のチェネルで自分たちと違うラインを形成しているわけです。有名なところでいうとカーター元大統領だとか。

カーター元大統領は、現職を終えた後の活動ではもっとも優れていると言われている。なぜ、優れているかというと、アメリカ外交に幅を持たせたわけです。一番いい例は北朝鮮ですよね。北朝鮮との関係が緊張した場合に人を派遣するという仕事をカーターがやっているわけです。

今、西側とロシアの間で大変な緊張がでてきている。そういう時に、政府側の指導者が表立って話せないときに相手側が話してもよいというステータスのある人のパイプをもつということが非常に重要になってくる。

だから今、日本で起こっているバッシングのように「政府の言われた通りにやらなければおかしい」というこの視点は実は違っていて、アメリカだったら「外交うまくやっているな」という評価になるわけです。ここをちょっと申し上げておきたいと思いました。