一歩外に出て初めて当たり前に気づく

角田陽一郎氏(以下、角田):他に質問はございますか。

質問者:先ほどのセッションで、官僚とか大企業が前例主義だからだめだという話があったんですけど、はあちゅうさんはフリーになって前例にないことをやってかなくちゃいけないじゃないですか。

で、サラリーマンで電通にいたっていうんですけど、電通にいたときの前例主義で困ったことがあるようなエピソードがあれば教えていただきたいんですけども。

角田:大企業にいると、結局前例がないことって全部断られちゃうからそれじゃだめだっていう話をしてたんですよ。

はあちゅう氏(以下、はあちゅう):大企業にいたからこそ、前例のないものは通しづらいなっていうそっちの気持ちももちろんわかるんですけど、わりと電通は前例のないものに挑戦していこうっていうフレキシブルな会社だったと思います。

ただ私は大企業にいる間は、あんまり自分の環境に疑問を持たなくて、次の会社に転職して、あーなんか私に染みついていた当たり前って、ほかの会社では全然常識じゃないんだなって初めて気づいたんです。

例えば予定をひとつ作るにしても、電通って誰がどの作業をやってるかっていうことは秘密なんですよ。一業種一社制って言って、海外での広告会社っていうのはトヨタやったら日産やっちゃいけないみたいな感じなんですけど。

電通の場合っていうのは飲料メーカーだけでもいくつも扱っていたりするので、どの人がどのクライアントを担当しているかっていうこともあんまり、隣の席でもわからなかったりするんですよ。で、予定を調整するときはメールでやるんですよ。全員関係者CC.にして、いつが空いてますかって。

でもトレンダーズに居るときっていうのは誰がどのクライアントをやってて、どの空き時間なのかっていうことが、サイボウズっていうシステムでネット上でわかったりとかして、こういうふうに人に自分の時間の使い方をわかられてしまうんだっていうことがわかったんですけど、そういうのも、そのまま電通にいたら一生知らなかったことなんですよね。だからこう一歩出てから初めて気づいたことで。

SNS黎明期は、手探り状態だった

はあちゅう:でも前例主義というか、会議でなかなか発言できないとか、そういう大企業的なことのほうが困っていたかもしれないですね。

角田:その仕事がどうこうというより、その会社の中での自分のポジションみたいな感じですか。

はあちゅう:いえ、結構師弟関係がコピーライターはあって、強い部署だったので、なんかこう先輩の顔色を伺ってたみたいなところはあるかもしれないです。あとは前例主義でいうと、ここまで普及する前から、ブログをやっていてTwitterもやってる新入社員だったんですよね。

そういうのが、「なんだあいつ」みたいになるじゃないですか。周りに居ないから、私はどこまで発信をして良いんだろうっていうのは探るしかなくて、もちろん守秘義務にあたることって間違いなくつぶやかないし、むしろみんなより慣れている分、そういう危ないことはやらないよって思うんですけど、周りからはすごい心配されるんですよ。

炎上とかするんじゃないかとか。あとはそのコピーライターってどれだけ多くのコピーをクライアントさんに関して考えられるかっていう職業だと思うんで、なんかこうブログとか書いてたら遊んでると思われるんじゃないかな。多分会社員の方ってFacebookで遊んでるところをアップして良いかって絶対悩むと思うんですよ。

角田:上司を友達に入れるかって死活問題ですよね。

はあちゅう:そうです。今はみんなFacebookとかやってるから、そういう感覚も多分共通のものになってきたと思うんですけど、私が新入社員だったのが2009年で、Twitterとは何か、みたいなセミナーとかやってたんですよ。

で、その時代にTwitterとかをやりまくってて、どんなことつぶやいて良いんだろうなとかは本当に探りながら、怒られたらどうしようってどきどきしながらやってましたね。でも、それらって大体大企業ってルールがなかった時代でしたので。

企画を提案する際にありがちな「大企業病」

角田:これ電通とは言わないです。言わないんですけど、博報堂さんとかADKとかいろんな広告会社さんの方々とよくお仕事するんですけど、例えばクライアントさんに話を持って行くときって3案作ってくれとか言うんですよ。

はあちゅう:はい。

角田:なんかお得意先の顔を伺ってA案、B案、C案みたいな。これA案くじけたらB案出そうって事前に用意するんですよ。でも本当はプレゼンって、クライアントと面と向かって議論して、結果的に出てきた魂がこもった1案で真っ向勝負する方が成就率が高かったりするんですよ。

はあちゅう:もうそれは、そこまでの思考がそうなってるから、1案でいいじゃんみたいなことを提案する人はいないですね。それはもしかしたら、大企業病かもしれないですね。

角田:はい。だから逆にぼくは1案しか持って行かないって言うと結構仕事が来るっていうか。ただ要は、その代わり、その1案が大変なわけですよ。クライアントさんの目の前に行って、必ず1案出さなきゃ取れないわけで(笑)。

必ずその1案で引き込まなきゃいけないんで、だから逆にクライアントさんと対峙している瞬間って巌流島の戦いじゃないんですけど、本当に結構本気でプレゼンするから、結果相手と真摯に戦えるというか。なんかその感じが、企画が形になることの本質なんじゃないかなって思うわけです。

組織が硬直化する原因

角田:テレビで言うと、テレビって番組の右上とかに番組のサイドスーパーってわかります? 例えば『さんまのからくりTV』だったら、さんまのからくりTVって左上とかに書いてるじゃないですか。どの番組にもありますよね。

あれサイドスーパーって言うんですけど、お若い方は知らないでしょうが、20年前とかってサイドスーパーが画面になかったって知ってます? 

だから20年前に僕がテレビ局入った当時は編集をやってて、じゃあサイドスーパー入れようか? やめようか? みたいな議論がされてから、じゃあこの番組はサイドスーパーを入れる番組ねって決まったんですよ。

ところが今って、全ての番組にサイドスーパーが入ってるから、もうADさんがサイドスーパー入れますって自動的に決めてるんですよ(笑)。でも本当はテレビなんてサイドスーパーなんか入ってなくたっていいのに、入れるかどうかっていう議論自体がなくなっちゃってるというか。

初めからあるものって、疑いもなく存在しちゃうみたいなのが、もしかしたらそういう組織の硬直化の原因なのかもしれない。

はあちゅう:ルールじゃないものをルールだと思い込んでしまってて。

角田:はい、勝手にルールになっちゃってるっていう。

はあちゅう:自分が真ん中にいるとわかんないってことですよね。

角田:そう。だから、真ん中にいないほうが、むしろそういうイノベーションが出せるっていう状況に追い込まないと、本当におもしろいことはできないのかなって僕は思いますけど。

はあちゅう:外に出てみないとわからないことも多いですよね。

「伊藤春香」と「はあちゅう」がひとつになった

角田:他にありますか? じゃあ、お願いします。

質問者:はあちゅうさんに質問なんですけど、ブロガーとしてやっていて、大企業、電通さんとかトレンダーズで活きたことと、逆に大企業で働いていてブロガーにとって活かせたことって何ですか?

はあちゅう:大企業で働いていて、まずブロガーで良かったことは、それをきっかけに社内でおもしろいって私のことを知ってくれる人が多かったことですかね。なんかブログで有名なやついるらしいよとか。

もちろんそれで調子に乗ってんじゃねえのって思う先輩もいたと思うんですけど、なんかデジタルに詳しいんじゃないって思われていろんなプロジェクトに入れてもらったりとか。

トレンダーズに関しては、もうブログの会社なので、入社するときにブロガーのはあちゅうさん入りますよって前提だったので。

電通のときはコピーライターとしての伊藤春香と、はあちゅうとしての社外活動している私とが全く折り合いがつかなくて、すごくバランスが取れなくて悩んでたんですけど、トレンダーズに入って一致したんですね。

自分がブログとかで発信をして影響力が高まると、それがちゃんと会社に還元できるっていうことができたので、それがまずもう一歩踏み出せたってところで、今ははあちゅうっていう一本になったので、なんかこう段階を踏んでブロガーのほうに戻ったって感じですかね。

伊藤春香では言えないことでも「はあちゅう」なら言える

角田:ちょっとそれに質問を足すと、はあちゅうと伊藤春香は違うものなんですか?

はあちゅう:やっぱりちょっと違うんじゃないですかね。

角田:どの辺が違うんですか(笑)?

はあちゅう:別に演じているわけじゃないんですけど、はあちゅうっていうのはキャラクターだと思っていて、だから結構本人とギャップありますね、みたいなことはリアルによく言われるんですけど。

角田:どうんなふうに言われるんですか?

はあちゅう:良く言われるのが、思ったより喋らない。

角田:(笑)。

はあちゅう:まくしたてるようなキャラだと思われてるんですけど、本人はわりとそうでもないし、めっちゃ人見知りするし。あとはちょっと失礼なやつだと思われてるみたいなんですけど。

角田:(笑)。

はあちゅう:私はわりと部活でも、電通とかでも体育会系で仕込まれてるので、リアルでは、そんな失礼はしてないと思うんですけど。私の中ではあちゅうがいて、はあちゅうだったらこれ言うだろうな、とかこうするだろうな、っていう。

角田:使い分けてる感じですね? キャラクターのはあちゅうと。

はあちゅう:私の中で一番強い部分なんだと思います。これとか言ったら誰かに反感買うかもしれないなってことは、リアルな伊藤春香だと言わないでとどめておくんですよ、波風立たないように。なんですけど、ネット上のはあちゅうっていうキャラクターだと、思ったことを言ってみて反応を見るみたいなところがあるかもしれないですね。

キャラ付けの重要性

角田:それって結局、キャラクターがあるからやりやすいみたいなのもあるってことですか?

はあちゅう:そうです。芸人さんとかと同じだと思います。芸人さんってやっぱりスイッチオンになるとすごいおもしろいしドカンと笑わせるんですけど、終わった瞬間は静かになってて。同じ人間だし多分両方を持ってるんですけど、そのどの部分がいつ出てるかっていうことの違いだと思うんですよね。

角田:キャラ付けって、それこそ良いですよね。うちのテレビ業界でいうとADっていう新人が入ってきて、なんか仕事できないっていうキャラでも良いから、キャラが付いたほうが結構仕事が上手くいくというか。

はあちゅう:覚えてもらえます。

角田:覚えてもらえますもんね。キャラ付けっていうのはすごく意味があるんじゃないかなって。

はあちゅう:キャラに引っ張られるんですよ。こういうこと言えないとか、イベントで喋るの恥ずかしいとか怖いとか思っても、はあちゅうならできるだろうなって思うことによって、はあちゅう役の人ですみたいに思ってるんですけど。

はあちゅうの新刊『半径5メートルの野望』

角田:はい、ということでそろそろお時間ですが。なんか告知がありましたら?

はあちゅう:はい、そう、宣伝をしに来たの、私は(笑)。

角田:(笑)。

はあちゅう:1月9日に久しぶりに新刊を出すんですが、講談社さんから『半径5メートルの野望』という本です。

角田『半径5メートルの野望』ということは、今日お話ししたことと被っているし。

それこそ、半径5メートルの野望をどう形にするかみたいなことなんですか?

はあちゅう:そうですね。本当に上空何メートルの目標みたいなものはなかなか持てない時代だと思うんですよ。自分よりもすごい人の情報がどんどん休みの日とかに入ってきて、しょぼんとなっちゃいがちなんですけれども。

自分の中に小さく湧いた欲望、誰に会いたいとか、こういうものを食べたいとか、こういう家具が欲しいとか。本当に何でもいいんですけど。それを実現させるためにどうするかというのを考えて、それを1個1個叶えていくこと。ということが結果的に夢に導いてくれるよみたいなことですね。

角田:まず半径5メートルの中の野望を叶えちゃおうぜみたいな。

はあちゅう:そうですね。かつ、いきなり上空何千メートルに行かないで、半径5メートルを大事にして。

ブログを書いたものを続けた結果本が出たりだとか、イベントに出させていただいたりとか、メディアに出させていただけるようになって。その半径5メートルもやらないでテレビとかにいきなり出るというのは無理だと思うんです。という半径5メートルの充実の先に、叶えたい夢が叶いますよということをいろんなエピソード付きで書きました。

角田:それを読むとちょっと自分の野望が叶いそうになりますよね。

はあちゅう:なんか私、すべてをこの本に書きつくしました。今、燃え尽きてます。

角田:どうぞ皆さん、是非お買い上げください。

はあちゅう:お願いします。

角田:本日はありがとうございました。

制作協力:VoXT