「正しい」シード投資家を選ぶことの重要性
パーカー・コンラッド氏(以下、パーカー):シードステージにおいて最も重要なことは、「正しい」シード投資家を選ぶことでしょう。彼らがその後のファンドレイジングの鍵を握ると言ってもよいでしょう。彼らを通じて様々な投資家に紹介してもらうことが出来るのですから。
しかも信用のおける投資家からの紹介であれば、紹介してもらった投資家も私達に対して良い印象を抱いてくれます。その結果、投資を受けることへの成功率は確実にアップします。シードステージでは良い投資家とめぐり合うことが最も大切です。
サム・アルトマン氏(以下、サム):創業者はどのようにして「正しい」投資家かどうか見極めるのでしょうか?
パーカー:簡単ではありません。YCに媚びを売るわけではありませんが、YCはすごいですね。YCが「この人達がベストだ」と言う時、大抵それは正しいですから。YCがあまりよい評価をしない人たちは大抵シードラウンドで脱落していきます。
サム:いつかその人達の名前を公開したいと……。
パーカー:そんなことをしたらたくさんの人が怒りますよ(笑)。
投資家がもつ投資の指標について
サム:交渉についてはどうでしょうか? どのようにバリュエーションが正当かどうか見極めますか? 条件についてはどうでしょうか?
パーカー:最初にシードラウンドをやった時は何もわかっていませんでした。少しバリュエーションを上げ過ぎたかもしれません。YCombinator がデモ・デイという取り組みを始めました。
たくさんの投資家がそこに一度に集まります。1200万から1500万を目指して始めました。皆にそんなのクレイジーだ、バカだと言われました。大きく狙いすぎだと。数日考えて、よし900万ドルを目指そうと、決めました。それが当たりました。
シリーズAで1000万ドル以下はとても需要がありました。1200万ドルを投資しようという人はいませんでしたが、900万ドルに下げたことでこんなに喜ばれるのであれば1000万ドルでもよかったんじゃないかと思ったくらいです。
時間と共にその数字は変わってくるでしょうが、どうやらシードステージにいる会社が提示する数字に投資家は指標を持っているようです、「この数字以上はクレイジーだ」という。
その数字を読めるようにしましょう。必要な金額だけを獲得出来るようにしましょう。それ以上を求める必要はありません。とにかく投資をどこかから受ける事が出来るようにしましょう。
その金額が1200万であろうが、900万ドルであろうが、600万ドルであろうが、その後の運営に与える影響は微々たるものです。
創業者の保有株式に対する考え方
サム:シードラウンド、またはシリーズAにおいて、創業者が投資家に対してシェアを売る最高値はあると思いますか?
パーカー:ルールがあるのかはわかりません。恐らく会社の20%から30%ではないでしょうか? それ以下であるとベンチャー投資家は価格にフォーカスするよりも所有権にフォーカスする傾向があると思います。
シリーズを重ねると、投資家は「20%以上の株の保有は譲れない条件だが、その代わり少し上乗せして支払うよ」と言ってくることでしょう。30%以上だと物事が少しおかしく、難しくなってくると思います。シードステージでは10%から15%が妥当だと聞きます。
ロン・コンウェイ氏(以下、ロン):今の話に賛成です。しかし、創業者が初期の段階で彼ら自身にこう問いかけてみる事も大事だと思います、「自分の所有分を考えた時に、どのポイントでモチベーションが下がるか?」と。
例えばエンジェルラウンドで40%のダイリュージョンがある時、私は創業者にこう言います、「自分で自分の首を絞めていることに気が付いているかい?」と。普通会社を立ち上げると、創業者は会社の5%以下を所有することになります。
ガイドラインを設定しておくことは大切です。10%から15%にしておきましょう。それ以下になると、皆さん、そして皆さんのチームに配分される分が無くなってしまいます。皆さんがいなければそのビジネスは成り立ちませんから。
マーク:私達はただ諦めますね。過去5年間で多くの興味深い投資先であるにも関わらず手を引いたことは多くあります。他の投資家達がその会社のほとんどを所有している場合です。本当に素晴らしく、とても投資したかった会社があったのですが、その会社の80%を他の投資家達が所有していたので手を引きました。
彼らはまだ若いビジネスでしたが、既にビジネスの大部分を他の投資家に売ってしまっていたのです。それは創業家にとってもチームにとってもモチベーションが下がる話ですよね。
ロン・コンウェイ氏のGoogle との出会い
サム:質疑応答に移る前に、皆さんの投資における最高の成功体験を教えてください。
ロン:私にとっては1999年にGoogleに投資したことですね。Googleとの出会いはスタンフォード大学コンピューターサイエンスの教授、デイビッド・シェリトンがきっかけでした。
彼もまたGoogleのエンジェル投資家であり、私達のファンドにも投資をしていました。面白い投資先を知っていたら教えてくれるように、と投資家達には話していました。ある時彼からスタンフォードにサーチをやっている人間がいて、それはページランクと関連性によるページサーチだと聞きました。
今日ではページランクも関連性も当たり前ですが、当時は違いました。エンジニア達がページランクと呼ばれるものをつかってプロダクトをつくっている。
そして、それはシンプルなアルゴリズムで、多くの人が訪れるサイトであればそこには何か面白いことがある、という考え方。これが元祖アルゴリズムです。私はデイビッドに言いました、彼らに会わせてくれと。
すると、彼らに会う準備が出来るまでは紹介することは出来ないと言われました。そこからは待ちました。5ヶ月間毎月彼らに会えるように電話をしました。そしてついにラリーとセルゲイに会うことができました。彼らはとても策士でした。
「セコイアが私達に投資してくれるように計らってくれたら、あなたも私達に投資していいですよ。私達はセコイアとは知り合いではありませんが、セコイアはヤフーの投資家です。マーケットに出るのが遅れたので、ヤフーと取引をしたいのです」と。このようにして、Googleの為になるように働いた結果、Googleに投資することが出来ました。
馬鹿げたアイディアほど成功の可能性を秘めている
マーク:私は今の話とは逆に初期段階で投資しなかった話をしましょう。Airbnbにグロースラウンドで投資しました。2011年で、10億ドルのバリュエーションになっていました。
Airbnbは今後も私達が投資した中で最も成長する起業になると思います。この話はかっこいい話ではありません。私達はこのチャンスを最初パスしたのです。Airbnbとは最初のラウンドで直接会うこともしなかったです。
最初にVCとはアウトライヤーのゲームだという話をしましたね。アウトライヤーの鍵とは彼らのアイディアが最初は物凄く馬鹿げたアイディアに思えることです。人に自分の家に泊まってもらう、だなんて最もバカげたアイディアのひとつです。
それがAirbnbのアイディアでした。でもこれが世界的に大成功するアイディアとなりました。馬鹿げたアイディアだと思いましたが、データの数字を見れば私達が間違っていた事は確実でした。そしてカスタマーの動きをみても、私達が間違っていたことは明確でした。
私達は複数のステージの会社に投資していますが、この理由は初期段階で投資先候補の会社の査定を見間違えてもあとでそのミスを取り返せるからです。
世界最有力の投資家がAirbnbに注目する理由
マーク:友人にこんなことを言っていた人がいます「キャリアで成功していくにつれて、その人の関わる仕事はどんどん大きくなる、ある時点でとても大きなプロジェクトを抱えることになる。ある人は仕事と共に成長するが、半分の人はパニックになる」。
ある時点で多くの人は正気を失います。物凄く成長し成功する若い経験不足の創業者の会社に湧き上がる疑問です、「一体どうやってグローバルに巨大企業を運営していけばいいのか?」。
Airbnbの3人はものすごくよくやっていてとても感心しています。彼らは若いですがとても成熟していて、成長を続けています。ビジネスが成長していくことだけに限らず、彼らの未来の可能性にとてもわくわくしています。
ロン:「なぜAirbnbは今後も素晴らしい発展を遂げると思うのですか?」とよく聞かれます。私達は皆Airbnbに夢中です。私はそう聞かれた時にこう答えています、「3人の創業者皆の能力がお互い同じ位に優れているからだ」と。これはとてもレアなケースです。Googleのケースでは、2人創業者がいましたが、一方が片方よりも優れていましたから。
(会場笑)
どんな会社にもCEOがいますよね。この話をするポイントは、会社を始める時には皆さんと同じくらいに優れている、または皆さんよりも優れている人を見つけて共同創業者になってもらうことが大切だからです。
これをすることで、成功の確率は非常に高くなります。この理由からAirbnbは急成長を遂げているのです。マーク・ザッカーバーグは稀な例です。もちろん彼のチームは素晴らしいですが、マークは一人で巨大ビジネスを率いています。これがアウトライヤーです。ビジネスを始める時には素晴らしい共同創業者を見つけることです。
投資家を決めるのは結婚相手を探すほど慎重に
生徒:資金を募るのは自分が必要だからと言います。しかし、創業者達が大きなエクイティを得る為だ、と話をしているのも耳にします。
ロン:良い投資家を選べば、長期的に皆さんのビジネスにお金以上の価値をもたらしてくれます。このような投資家と出会うことができると良いですね。
生徒:この投資家とは一緒にやってはいけない、というサインはありますか?
ロン:私が話した良い投資家の例の逆です。彼らがただ金儲けの為に投資をしたいと言っている場合は特にです。このような人はすぐに嗅ぎ分ける事が出来ますよ。
マーク:とても良い質問をありがとうございます。もし会社について私達が投資したいと思うほどに成功していれば、私達の付き合いは10年、20年と続きます。アメリカの平均的な結婚年数よりも長いんです。
(会場笑)
つまりこの決断は重要なのです。鍵となる投資家を決めるのは誰と結婚するかを決めるほどに重要な決断となります。状況が悪化した場合、大変な時、この人達が頼りです。パートナーとして信頼しあいながら頑張ってやっていくことになります。
もし全てが上手くいっているのであれば、極端な話、投資家は誰でもよいのです。でもすべてが上手くいくことなんてありません。Facebook等、大きく成功している会社であっても、そこに到達するまでにいくつもの困難を乗り越えてきています。
会社をよりよくする為のたくさんのボードミーティング、ディスカッション、夜遅くまで残ってする会議、これら全てチーム全員が参加し、皆が同じ目的で、同じ方向性を持ち、同じ価値観で仕事をし、大変な時が来ても一緒に頑張れることが理想です。
初めて起業する人と2回目以降の起業家が大きく違うのがこのポイントです。ビジネスの立ち上げが2回目以降となる起業家は今お話したポイントを理解し、誰を投資家に選ぶのかとても慎重です。
誰と一緒に仕事をするかはとてもとても重要です。結婚相手を決める為に費やす時間までは行かずとも、パートナーに選ぼうとする人物のことは時間をかけてよく知ることです。これは追加バリュエーションが500万増えるだとか、200万ドルの小切手を受け取ることよりもはるかに大切です。
初めてミーティングが投資すべきかの指標になる
ロン:SVAngelでは、起業家に投資したら彼らとは一生付き合っていく姿勢でやっています。その起業家に投資したことが正解だった場合、私達は彼らがその後新たに始める会社にも投資しますから。
一度起業家になれば、その人は生涯起業家です。私達も投資するパートナーを結婚相手のように捉えています。
パーカー:初めてのミーティングでは常に「この人を尊敬できるか?」「この人から学ぶべきことは多くあるだろうか?」と考えます。時々VCとミーティングをすると、理解が遅いな、理解されてないなと思うことがあります。
逆に、ミーティングを終えた後「例え彼らが投資をしてくれなくても、彼らとのミーティングに使った1時間でこれからすべきことがたくさんのことが見えてきた」ということもあります。初めてミーティングをした感触がその後どんな関係性になるかの指標になります。
例えその投資家が小切手を書く準備をしてミーティングに来ていなくても、この人と一緒にやりたいと思ったらそれはとても良いサインでしょう。そうでなければその人とは一緒にやらないほうがよいでしょう。
アイディアより先に人に投資する
生徒:一定期間にある一定の数の会社にしか投資をしないことについて、制約は時間、お金、または投資出来る会社が少ないことにあるのでしょうか?
ロン:SV Angelは大抵1週間にひとつの会社への投資を決めます。13人しかスタッフがいないので、それ以上は出来ません。私にとっては投資できる会社の数ですね。
マーク:メインの制約は機会費用です。つまり、何かをやろうと決めるとそこには必ず出来ないことが生まれるというコンセプトです。ある会社に投資したけれどその会社が上手くいかずにその金額を損したという考え方はあまりしません。
投資した会社の中で失敗する会社もあれば大きく成功する会社もあるからです。私達が気にかけているコストですが、どんな投資をする場合でもルールにしている2つのことがあります。まず第1ににコンフリクトです。投資した会社がお互いのライバルでコンフリクトが起きることがないように、そのフィールドの中ではひとつの会社にだけ投資します。
例えばMySpaceに投資していた、その後Facebookが誕生する。私達はMySpaceに投資しながらFacebookに投資することは出来ません。投資をすることに決める度に、そのカテゴリー内で他の会社に投資できなくなることになります。
難しいのは現在ある会社の中から決めるのであり、今後どんな会社が誕生するか誰にもわかりません。つまり、あまり上手く行っていない会社に投資してしまい、後に同じカテゴリーでもっと成功する会社が現れても私達はその新しい会社に投資することは出来ません。
生徒:まだプロダクトがない会社への投資をどのようにして決めるのでしょうか?
ロン:創業者の人柄とそのチームをみて決めます。私達はプロダクトのアイディアより先に人に投資します。アイディアは大抵の場合変化し続けます。なので、チームにまずは投資します。
マーク:計画以外の決め手は、過去に一緒に仕事をしたことがある創業者であるかどうかです。またはその創業者の知名度で決めます。