ビッグベンチャーには「理念」と「数字」の両輪が必要
小野裕史氏(以下、小野):せっかくですのでそろそろインタラクティブなモードに変えていきたいなと思います。
吉田浩一郎氏(以下、吉田):ごめんなさい。一応テーマが「ビックベンチャーをつくる」ということだったので、その答えとして1兆円として申し上げたんですけれども。私自身の仕事でいくと、ちょっとそこを補足しないと……。
木村新司氏(以下、木村):言い訳ですか?(笑)
小林雅氏(以下、小林):ちょっといいですか? 大前研一さんという有名な経営コンサルの方がいるじゃないですか。(吉田さんを指して)目標1兆円とか言ったらですね、数字を目標にしてるやつはダメだとか言われてですね。アタッカーズスクールで一緒に番組に……。
吉田:ありましたね(笑)。
小林:そもそも、数字を目標にしてはダメだと。顧客の価値を目標にしないといけない。池谷さん派だったんですよね?
吉田:どんどん逃げ道がなくなっている……(笑)。
小野:皆さん、言い訳タイムがはじまりますのでどうぞ。
吉田:まず、ひとつだけ事実として申し上げたいのは、うち創業から2年、数字の目標よりも「働くを通して人々に笑顔を」という理念を優先していました。そこにコミットメントをして、毎日の問い合わせに対して、その人にありがとうと言ってもらえるように、その人にほんと助かりましたと言ってもらえるように、死ぬ気でコミットしましょうと。
これインターネットでもなんでもない作業ですよね。ユーザーサポートだったり、あるいはUX、ユーザーエクスペリエンスの改善でやりたいことができるように、毎日毎日改善しましょうということだけを2年間やってきたんです。
でも理念と数字って両立しないといけないんですよ。ビッグベンチャーをつくるためには、両輪が必要なんです。どっちの優先順位が高いというと、理念なんですね。それはそうだと思います。理念で我々「働くを通して人々に笑顔を」というのをかかげています。
資本主義は2つに分類できる
吉田:もう21世紀で、正社員比率が50%を切ると。20世紀型のいわゆる正社員という働き方が、もうそのままデファクトスタンダードじゃありえないわけですね。その中で、オンラインで人が働けるような世の中をつくる。
企業がオンラインで人を調達できるようになる。我々の仕事っていうのは、そういった意味では日本のすべての会社の経営に関与ができるし、日本のすべての人に対して、収入をもたらすことができるっていう考え方なんです。
ちょっと真面目な話をすると、資本主義に対して、そういう理念を変換していかないとビッグベンチャーってつくれないわけですよ。この考え方について、最近、習志野市長と千葉市長と飲んで、すごくいい話を教えてもらったんです。
資本主義には公益資本主義と株式資本主義ってのがあるんです。公益資本主義の典型はカゴメですね。カゴメというのは、17万人の個人株主を抱えていて、機関投資家を一切相手にしてないんですよ。この人たちすごいのは、17万人に対して株式優待を年に1回やるんですけど、全員が同一の日に届くように徹底的に調整して、みんなが一斉に繋がる日をつくっているんです。
要は、みんなは一緒に集わないけど、このカゴメの商品が届いて封を開けるというのは、同じ日にやってくださいと。これに2億かけてるんですね。みんながカゴメのファンであって、みんながカゴメのことを楽しみにして。ホームページを見たらファン株主ってなってるんですね。
これは、公益資本主義なんですよ。社会に還元していくという考え方ですね。
今勉強しているのは、我々が得た利益、我々が得たお金というのは、日本の社会全体に還元していく、あるいは日本の1億2千万人の人々全てに対して利益をまず還元していく、というひとつの考え方ですね、と。
例えば派遣という働き方は38年かけて浸透してるんですよ、38年前に生まれて、正社員ではない新しい働き方としての派遣は38年かかってるんですよ。
同じように、オンラインで人が働くようになるというのは、そんな簡単に1年、2年で浸透するものではないと考えていて、私は「働くを通して人々に笑顔を」というのがあるんですけど、それをちゃんと資本主義に対して対話をしていかないといけない。
それがひとつの形として、1兆円コミットしたい、というのはビッグベンチャーをつくる道筋だと、そういうお話でございました。
小野:ありがとうございます。
完全栄養食「ソイレント」
小野:ということで早速、今の熱いお話を聞いてですね、ぜひ会場の皆さんから、こんなお話を聞いてみたいという質問を受け付けるタイムに入りたいと思います。
質問者:吉田さんと池谷さんに対して聞きたいんですけれども。吉田さんは働き方について色々研究されていると思うのですが、20年後に無くなってくる仕事や、こういった仕事が増えるのではないかというものがあればぜひお伺いしたいです。
池谷さんに対しては、教育をされているということなので、20年後に教育のあり方がこういうふうに変わってくるとか、またこういう教育が無くなっていくんじゃないかというものがあれば、ぜひ教えていただきたいです。お願いします。
小野:ありがとうございます。まず、吉田さん20年後無くなっているかもしれない仕事、こういう仕事は残っている。いかがですか?
吉田:今想像してることは、ほとんど現実になると思いますね。『アキラ』の世界とか、士郎正宗が描いている『アップルシード』の世界とか、ああいったものって20年、30年前に描かれてるわけですよ。その中のものが、どんどん今現実になっていってるんですよね。
じゃあ、どういうふうになるかというと、ひとつは生活することがさほど難しくないような世の中になると思いますね。
今アメリカでソイレントという食べ物が生まれて、ソイレントというのはソイレント・グリーンという、ちょっと昔のSF映画からインスパイアされているんですけど、粉なんです。
この粉で人間が生きる栄養素をすべて採れます、という粉が開発されたんです。ただ、やっぱりそれはそんな簡単なものじゃなくて。それだけじゃダメで、人間って視覚で見て、匂いを嗅いで、楽しんで、この食べ物おいしそうだなと思いながら食べた時に栄養に還元されるというのが科学的に証明されてるんです。
じゃあ、日本の科学者は今何やっているかというと、ヘッドセット着けて、パンとかピザとか映像出すんですよ。映像を出して、途中までバーチャル・リアリティでこうきて、ここからソイレントに、みたいな感じで視覚も満たそうとしているんです。
未来のコミュニケーションは1秒で充分
これはとんでもない話ですが、人間って将来、本当にSF映画に出てくるように、移動も面倒くさい、ナイアガラの滝でも今ここで見れるじゃん、みたいな感じの世の中になってくるんですよ。その時の人間の生きがいとか、働き方ってなんだろうってことを私はすごく考え続けています。
それで、ひとつの答えは「Yo」ってアプリですね。Yoというアプリは、ただYoするだけのアプリです。ダウンロードしていなかったら、ぜひダウンロードした方がいいと思うんですけど、あれってメッセージも送れないんです。
非言語をも飛び超えて、ほとんど猫みたいな感じですね。猫とかが遠くに行って、「ニャー」っていうと、向こうで「ニャー」って言うみたいな。それ以外なくて、なんとなく集ってるみたいな。
でも、コミュニケーションとは、もはやそんなことでいいんですよ。私、木村さんのことを朝思い出すじゃないですか。木村さんとチャットをしたら会話しないといけないんですよ。
でも、木村さんのこと覚えてるよ、思い出したよって「Yo」ってやるだけ。これで社会は成り立つみたいな形が結構あると思ってます。
そういう意味では、ああいった形でコミュニケーションのありかたも変わる。で、何かもっと人間本来の、楽しいとか、感動したとか、面白いとかという感情だけの世界になってくるがゆえに、今Snapchatとかどんどん短い6秒とか、Yoとか1秒ですよ、そういったものにお金がどんどん集まっていっているじゃないですか。あれは、意外に健全な流れで、10年後の答えがそこにあると私は思ってます。
わくわくすることに対して、異常にお金が集まって、お金が回っていくというか。わくわくすることを考えるということだけが、人間に唯一残された最後の道だというふうに思っています。
質問者:わかりました。ありがとうございます。
小学生の65%が今にはない職業に就く
小野:池谷さん、20年後教育はどうなっているか。
池谷大吾氏(以下、池谷):今、吉田さんにされた質問も含めて関連性があると思っていて、1番最初に、今の小学生の65%は大人になるときは、今無い職業に就くだろうっていわれているんです。自分もそうで30年前、僕が小学校の時、まさか起業家になるとは思ってなかったし。
例えば、ちっちゃい頃はコックさんって言ったわけですよ。今コックさんって言わないじゃないですか。パティシエとか中華の専門家とか多様化してますよね。昔はコックさんって言ったわけですよ。
で、僕今、幼稚園の教育とかで問題あるなと思ってるのは、大工さんになるとかってあるんですよ。プログラマーになる人のほうが多いんじゃないかと。プログラマーも色んな種類がいますよね。サーバーサイドとかアプリとか。細分化していってるのかなと思っていて、これは人類がどんどん成長してきて、多様化していくことだと思っています。
根っこはそこに起因していて、それを身に付けるための教育だと思っている。というのがひとつと、僕のなかでは、何かが消えるってことはないと思っていて、各個人が色んなものを学んでいく時代になるんじゃないかと。
例えば今、日本でも義務教育はいいと思うけど、それだけではみんなダメ。高度経済成長をさせるためにはそれで良かったんですよ、みんな同じことをやれば良かったんで。ただ、これからはそういった色んな多様化したものが出てくるので、プラスアルファで身に付けなければいけないものがある。それがたぶん21世紀型の教育に代表されてるものだと思います。
これからの教育で重要な2つのテーマ
池谷:僕らは未就学児向けなり、おおまかにいうと大きく2つだと思っていて、まずはインターネットだと思うんですよ。手段として道具としてこれだけ当たり前になってきて、なんで教育の現場に無いんだよと。
せいぜい皆さんぐらい大学生になればITはあると思うんですけど、別に幼稚園や小学校だってあっていいじゃないかと思うんです。道具だよと。ITというと教育現場では崇高なものに思われるのですけど、僕らからすると、道具。水道の水みたいなもんだと。
こういうのは徹底的にどんどん活用していったほうが良いというのがひとつと、もうひとつはグローバル。ボーダーレスなんだと。いわゆる日本国内だけで授業を受けることとか、そこで価値観を見出すことって、日本人としての意志とか誇りを思うことは重要だと思うんだけれども、それだけではダメで、「君たちが放たれるのはグローバルです。一切、国境のうんぬんとかは無いですよ」と。
農業とかも今そこで壁にぶち当たってるわけであって。みんなが共通して社会に出るとわかることって、すべてがグローバルな物差しで測られる。僕はネットとグローバルっていうのが、教育にももっと入ってくるんじゃないかなと思っています。以上です。
21世紀は「考える」時代
吉田:あと、もうひとつ重要なのは、考えるっていう行為の意味が20世紀と明確に変わるんですよ。今のグノシーみたいなものがどんどん流行っていくとどうなるかというと、ここにいるみんながほぼ同じ情報をずっとリアルタイムで見るようになるんです。
固有で考える時間って今減っていて、例えば、朝の連ドラを見てる時に、15分でさえもみんなスマホを持ちながら見ていたりとか、1時間の連ドラとかでも1時間ずっとテレビだけを見てる人っていないんですよね。
スマホでみんなの思考が、常にリアルタイムで流れてきて、つながるっていうことは、どんどん考えるという行為が薄くなっている。
今、インターネット使っていなければ別ですけど、インターネット使っている人は、インターネットを通して、日本人全体が、人類全体が共有の意識になっていっているんです。
実はここに埋没すると、ほとんど差別化は無くなると私は逆に思っているんですね。なので、固有の考え、固有の感情、固有のストーリー、そういったものを、すごく身に付けていかないといけないって思っています。
だから、共通の脳を得ること、グノシーを死ぬほど見るというのは、社会の中でルールになっていくというか、絶対必要なことなんですよ。でもプラスアルファ、そこにとらわれない、固有の考えをいかにして身に付けるか、ということがすごく難しい時代。
昔は自分1人の時間っていくらでもすぐに生み出せたんですけど、今はLINEとかああいうもので、常にリアルタイムでつながっているじゃないですか。そこから外れてオリジナルのストーリーを持たないと20年後生きていけないと思います。
小野:ありがとうございます。
ベンチャーは最初からグローバルを目指すべきか
小野:続きまして、次の質問の方。
質問者:先ほど、メガベンチャーというのが日本からもどんどん出てくる、というふうにおっしゃられていたと思うんですけど、その中でただ単にこれから出るようになるというよりかは、大きな流れとして、個人的には最初に日本でサービスをつくったものを海外に展開していってメガベンチャーになるというよりは、最初から海外向けのプロダクトというか世界をマーケットに考えたプロダクトをつくって、それを日本に逆輸入してくるというタイプじゃないと、メガベンチャーっていうのが生まれてこないのかなというふうに思っていて。
理由としては2つあって、日本という市場が大きかったものが小さくなっていくということと、あとはテレビなどでいえば、日本人は多機能性とか求めすぎて、海外ではあまりウケない、単に韓国製の安いテレビの方が受けるというのも聞いたりしたので、そういう意味でそういう流れになるのか、それとも別にそういうのが関係ないのかというのをお聞きしたいと思います。
小野:質問の意図が僕はちょっと拾いきれなかったのですけど……。
質問者:メガベンチャーというのが、これから当たり前になる、日本からどんどん出るっておっしゃっていたのですけど、その中でメガベンチャーが生まれるっていう経緯で……。
小野:日本から出てくるのか、最初からグローバルであるべきなのか?
質問者:そういうことですね。
小野:じゃあこれはグローバルをやっている池谷さん、何か。
サービスの特性から戦略を設計すべき
前田悠太氏(以下、前田):結論、サービスによるというふうに思いますね。例えば我々のやっているゲームなんかですと、ゲームは文化なので、地域にすごい根差すんですね。
おっしゃられたとおり、我々社内で言えば15%ぐらい外国籍なんですけれど、それでも日本人がマジョリティ。日本人がつくっている我々にとって、今108か国ぐらいアプリケーションを提供していますけれども……自分たちがどうやって出しているかというと、自分たちのつくったソースを各地域のスタジオ、パートナーに渡して、そこで全部カルチャライズしています。
カルチャライズというのは、その文化に合わせるということですね。UXだとかUIだとかもすべて。色んなパラメーターとかも全部変えてもらうんですよ。みたいなことをして出していたりします。というのがゲームですね。
それ以外にも色々あると思うんですけど、特徴的なので言えば「ハード」。最近すごく目立っているハード系のベンチャーだと、まだまだ日本製というブランドが利いたりするので、販路を海外で出す前提で、あえて海外で立ち上げる。
ただ、組み込みだとかは日本にしながらも、開発の拠点を東南アジアに持って、メイドインジャパンという印を持ち、海外の販路の拡大をベンチャーが「日本製」という御旗を持って出していくという戦略を取ってらっしゃるベンチャーとかもあったりします。
グローバルベンチャーになるために必要なことも、どういったサービスをやるかによって、全然その戦略は変わってくる。というのが、私からの答えですね。
日本は内需がある分、グローバルへの舵取りが遅くなる
池谷:僕たちの子ども向けの世界で、結構強いプレーヤーというのは北欧などにいるんです。さっき僕が言ったレゴも北欧なのですけど、ゲームの世界でもスーパーセルさん、スーパーセルはスウェーデン? Kingはイギリスかと思うんですけど、決してシリコンバレーとかじゃないんですよね。
1回僕スウェーデンのプレーヤーと話したことがあって、すごく衝撃を受けたことは、「日本はいいよな、内需があって」って言うんです。「スウェーデンって500万人しかいないんだよ」と。東京都以下だと。スウェーデン語しゃべっても500万人としかしゃべれない。小さいころから地球人として育っているし、親もグローバル、というよりグローバルって言葉が無いんだよね。
で、バカにされたんだけど、日本人って海外旅行行く時、バッグ持って結構気張るよねみたいな。「俺たちは無いんだ」と。僕も気張るんですよもちろん。日本って、ある程度内需があるので、スタートアップも1個の悩みとしては、内需で稼げちゃうというところがたぶんあると思っています。
そこでも上場ならいい感じになってきちゃったりするんで、そこそこ稼げちゃう分だけ、グローバルになりにくいなって心理は僕も感じてるんですよね。
ただ、それじゃいけないと思っていて、とはいえ日本のスタートアップってビッグベンチャーも含めて、どんどん海外に出始めて成功事例も出てきていると思っているので、やっぱりITとかそういう手段というのは、攻めやすい市場だと思ってます。
自動車でもトヨタは世界でも十分通用してると思ってるし。ちゃんとそういう視点を持っていけばという話と、さすがに日本も内需内需って言っていられなくなってきて、どんどん足元を撃ち込まれているような状況だと思っているので、日本人はやっていかざるを得ないという心理も働くかなと思っています。
僕もそういうのはビンビン感じるので、やらざるを得ない。僕らなんか子ども向けをやっているので、少子化で一発で終わりなんです。なので、やるっきゃないと思ってます。やるっきゃないという心理って、重要だと思っているし、そこでこそ日本人の英知はまさに花開く部分じゃないかなと思っています。
質問者:ありがとうございます。