トイレの渋滞は灯台もと暗し

西脇資哲氏(以下、西脇):その他よろしいですか? はい、じゃあこちらの男性の方。

参加者4:イベントとかに行くと、女性トイレがものすごく行列になっていて、そこはジェンダーレストイレにつながってくると思いますが、その男女の混雑比の解消で、お考えのこと、こういう事例があるよみたいなことが、なにか知見があればと思います。

河野剛進氏(以下、河野):イベントに入れたときに、実は女性ではなくて男性が激混みしたという例もあって、男性女性比率のバランスに依存すると思っています。

今日だとけっこう男性が多い。こうしたイベントだと、明らかに男性トイレが、いかに回転が速くても混む。そのときに何が起こっていたのかを見ると、実は男性トイレって、激混みしてるときは、小で並んでいるんです。

けど、個室ってめちゃくちゃ空いているんです。それが奥の人は見えないので、これはいろんな意見があると思うのですが、使えばいいと思うんです(笑)。明らかに回転が速くなるので。

そういうのを見える化してあげて、実は空いてるので先いってくださいとか、それだけでも劇的に解消すると思っています。あとは男性女性比率のバランスの問題の話だとすると、データが集まってくれば、より最適なかたちにできるようになると思います。

先端的なトイレだと、そのイベントに応じてパーテーションを区切れるようになっていたりするところもあるので、そこはあらかじめデータをとっておいて、こういうイベントの場合はこれくらいの男性が来るとか、そこの知見を貯めていけば解消できると思います。

ジェンダーレストイレの必要性

西脇:私がいろんな人とイベントで話をする中で、いろんなお話を聞いていますが今おっしゃったのは男性女性用、それから共用です。

共用って、世界ではジェンダーレストイレと言って、男性でも女性でもない、多目的トイレが進んでいる。これが事実なんです。東京都もジェンダーレストイレがどんどん広がっています。

最たる例はニューヨークです。ニューヨークは新しいトイレは必ずジェンダーレスを設けなければいけないと、条例で入っているんです。ですから男性でも女性でもないトイレの存在が当たり前な世の中になってきているんです。

これは、実は非常に難しい。場所を選ぶんです。例えば男性でも女性でもない共用トイレしかない場所ってみなさん知っています? 飛行機なんですよ。飛行機ってすべてが男性と女性兼用のジェンダーレスなんです。

なぜ成立しているか? こう考えています。会社にもしジェンダーレストイレがあって、会社のトイレがもし男性も女性も一緒だったら、手を洗うところで部下の女性に会うわけです。

「おーお前もトイレに行ってたのかよ。」みたいな話です(笑)。要は、知り合いの人とトイレで会うって、めちゃくちゃ嫌なんです。でも、旅行先とか飛行機の中でぜんぜん知らない人と別にトイレしたっていいわけです。

別にあの人が座った便座、この便座に自分が座る話は、旅行中の飛行機だから成り立つんです。でも会社だったら嫌ですよね。私だったら嫌ですもん(笑)。

そういうことがあるので、近しい人がトイレを共用する空間はジェンダーレスでは成り立たない。でも、これを超えて家族だったらジェンダーレスなんです。

私たちはものすごくジェンダーレス空間を選ぶのが難しくなってきている。だから、ニューヨークの取り組みが上手くいくか、実は分からないんです。分からないですけど、トイレを供給する側だったら今パーティションを区切ったりサインを区切ったりして男性女性を分けられるので、めちゃくちゃ便利。

もしくはジェンダーレスで共通のやつを用意しておけばサインもいらないし、すごく便利なんですけど、実は私たちがあるしきい値で、例えば共用がいい、共用はだめだって勝手に思っちゃってるので、非常に難しい状況になりますね。

これが今、トイレのジェンダーレスで起きている問題だと言われています。だから東京都もこれから造る施設は、どれぐらいを多目的共用トイレにして、どれくらい男性にして女性にするか、ものすごく迷っていると聞いています。

回答になってますでしょうか? あとひとかた、お願いします。

トイレが潤えば、ビジネスも潤う

参加者5:ビジネスの観点で、トイレって究極の個室なので、社会性みたいな観点もあるかなと、お話をうかがいながら考えていました。うちの会社もドアにセンサーをつけて、空き状況をやっているんです。うちがやり始めたのは、もともとは「トイレの見守り」で始めたんですが、時間計測しています。ドアのセンサーが反応するので、まず15分たったら「15分たちました」と音声が流れるようにして、その後30分たったらアラームが鳴る。

西脇:トイレ長いですね。

参加者5:はい。30分たつと今度はパトライトが回る。本当にそうなんです。何に役立ったのかなと考えたときに、実はトイレの中で倒れられた方がいらっしゃいました。2人くらいいたんです。ボタンを押せばアラームが消えるようになっているんですけど、それも反応しないということで、行って上からのぞいたら倒れていた。

その状況では、空き状況もそうですけど、よく病院でも、トイレの中で倒れるケースはあると思うんです。だけど、その個人の尊厳で公表されないですよね。そういった社会貢献、ビジネスという観点だけではなくて、そういうところもあるかなと感じました。

あと、トイレの混雑状況でハードで解決する課題、マル1のところでは、私は広島東洋カープのファンなんですね。で、カープ女子ってあるじゃないですか。

カープ女子が増えた要因の一つに、マツダスタジアムのトイレの改善があったのは有名な話です。入口と出口が別れていて、個室もあるし、女性用のトイレがすごく充実している。野球は裏表の間にみなさんがトイレに行かれるので、短時間で多くの人をさばかないといけない問題を処理した。テレビでやっていたと思います。そういったことが改善できれば、プロ野球チームのどこかも、潤ってくるんじゃないかなと思いました。(笑)

西脇:ありがとうございます。今のお話に何かコメントはありますか?

河野:球場の話は、今後こういうサービスも当たり前になってくると思います。実際、いろんなお話を頂いています。楽しみにしておいてください。たぶんすぐ現実になると思います。

西脇:今はおっしゃっていただいた、球場のトイレの空間がきれいだからということで、集客要素になって集客力があるわけですよね。これはレストランなんかを見ていても明らかですし、他の社会設備やアミューズメントなんかを見てても明らかですよね。その傾向はどんどんどんどん良くなっていくと思うので、トイレが良いものになっていくのは当然になると思うんですね。

トイレを見れば、サービスがわかる

西脇:今、ご質問をいただく前に、トイレの利用時間が計測できると、私たちも実際やったんです。みなさんにおうかがいしたいのは、トイレの利用時間、自分が入った時間を集計されて、「いくらトイレが良くなるからって言っても、それがトイレのビジネスに役立ててもらうのはどうかなぁ?」「俺のトイレ時間をセンサーで計測するのは困る」という方はいらっしゃいますか?

参加者5:それは個人を特定してですか。

西脇:特定しません。困る方はいらっしゃらないわけですよね。ぜんぜんいらっしゃらない。であれば、トイレがどれくらい利用されているかを使って、環境改善することは賛成なわけですよね。

特定されなければ大丈夫なわけです。であれば、トイレの混雑状況把握とか、なるべくトイレが空くようなつくり方、予約ということもいけると思うんです。他にもいろんな課題が解決できると思いますが、基本的にはトイレの混雑がわかると、空いてるときにいけるということです。

河野:そうですね。ちょっとこれは詳細をお伝えできないですけど、単純にトイレの数自体を今後変えようという動きが起きやすくなるんです。商業施設で明らかに足りていないところが、もう明確にあるんです。例えば、稼働率が6割ぐらいを超えると不満が出てきます。そういう傾向があります。

商業施設の場合、7、8割、下手したら9割くらいずっと待っているところもあって、そういう場合、共有部を極力削りすぎちゃっている。それゆえ行きづらくなっていることもあると思っています。それもちゃんと説明できるようになると、今後施設自体が変わっていって、より集客力のある施設に変わっていくんじゃないかと。

自分たち自身でその状況を見てもらって、ちゃんとファクトが出てくる。利用者が混雑状況を見ることもそうですし、供給側もマインドがどんどん変わってくると思います。

逆に造りすぎているところもいっぱいある。怖いからたくさん造るんです。そこは逆に、無駄なスペースは削ってあげて、これくらいの規模、立地だったら、違うものを置いてあげて、よりリッチに空間を使ってあげる。そういう最適化の部分は今後、必ず出てくると思っています。

東京ドームと神宮球場の違い

西脇:施設によっては利用時間が集中するわけ。映画館だったら映画が終わった後に集中するわけです。でも映画館だったら、7スクリーンあったら7スクリーン、時間をほんの少しずらしていますから、一番大きいスクリーンの人が解放されたときに一番混む。

プロ野球だったら、7回終わったところ。あと、始まるときや、終わったときです。ライブ会場だったら、ライブ始まったときと終わったとき。そういうピークがすごくあります。ピークに合わせて造っていたら大変なことになります。

河野:そうですね(笑)。ピークに合わせ造るのは、さすがにマズいと思います。

西脇:ピーク時は混むに決まってるじゃないですか。

河野:ただ実は、場所によっては混んでいないケースがあったりする。どうやってやっているかというと、無線で通信しあって誘導する。それをもう少しだけ、ちゃんと数値で素早く連携できるように、無線もやらなくて数字で見られるように、案内の人たちのクオリティを上げることでも、これから使われるようになっていくと思います。具体的に、そういう使い方を今後、明確にしていくと思います。

西脇:如実にそれが現れているのが野球場。東京ドームとか神宮球場によく行きますけど、東京ドームのほうは、そんなに激混みしないんですけど、神宮球場はすごく混む。行かれたことある方いますか? めちゃ混みますよね。

男性も混みます。階段の入口のところまで待たなければいけない(笑)。しかも神宮球場って、トイレに並んでいる列が、ホットドック売り場とか焼きそば売り場まで来てるんです。すげえ球場です(笑)。

神宮球場は、内野側がすごく混む。外野側のトイレはそんなにでもない。僕は何回も行っているので、内野にいても外野側のトイレにバーっと行って戻ってくるんです。そのときに、誘導とかサイネージがないと。

河野:そうですね。そういう使い方を希望されている所はいっぱいあります。

西脇:そうすると、施設の中で、施設が持っているトイレの空き状況が全部、施設管理者だけでなく、利用者も見えるようになると、もっともっと有効になる。

河野:そうですね。あとは、ある程度混んでいても、混雑の種類が今後見えてくるようになると……。

西脇:混んでいる種類があるんですか?

河野:混んでる種類は、例えば個室だけではなく、行列はできているけど、比較的短い行列、そこが見えてくるようになると、ちょっとだけでも楽に入れるようになるかなと。

西脇:待ち行列のアレですよね。

河野:そうですね。それがまた回遊につながって、ドームの売り上げにつながるとか、そういう期待をされているところもある。

西脇:あと一時的なイベントの場合、仮設トイレは、あれこそ行列の賜物で、いわゆる弱者と言われる方にとって非常に過酷な設備。何か解決策はないですか?

河野:そうですね。やはり数を適切に配置することだと思います。そのために前年度の実績をちゃんと持つことは大事だと思っています。

イベントの場合、だいたい来る人数を予測できる。ただ、トイレはこれまでぜんぜん見えていなかったので、足りているかどうかがわからない。それが運営側の一番の課題でもある。あと混雑しているときは、清掃も入れないので、備品も切れたりするかもしれない。なので、ちょこちょこ見ないといけないけど、そこもセットで見えるようになる。数を適正化する。

そして、清掃も適正化して、きれいに使えるトイレを増やしていく。あと備品が切れたら入れないので、そういうトイレはなくしていく。そういう解決策はあると思います。