毎日新聞の元常務、河内氏が登場
西村博之氏(以下、ひろゆき):壁紙が新聞紙ってはじめてみましたけど、コレ貼るっての結構時間かかったんですか? あ、そうなんですか。わざわざこのために新聞持ってきたんですか、誰かが。
というわけで、今日はニコ生トークセッション「新聞がなくなる日」と題して、河内さんに来てもらいました。よろしくお願いします。
河内孝氏(以下、河内):よろしくお願いします。
ひろゆき:こんな感じでコメントが流れるようになってるんです。自己紹介とかしてくれるとありがたいんですけれども。
河内:私は、2006年まで毎日新聞というところに勤めてまして、70年に新聞社に入って、最初に行ったのは千葉支局で4年間、ほとんど成田空港闘争……。
ひろゆき:あー、そういう時代ですか。
河内:(成田空港闘争担当)やって、警視庁担当、社会部戻って爆弾事件、それから……。
ひろゆき:爆弾事件?
河内:三菱重工爆破の。
ひろゆき:ほーっ。
河内:その後、政治部行ってずっと派閥記者やってまして。88年に竹下内閣ができたときに、あんまりこうドメスティックになっちゃたんで、上司の計らいで、ワシントン支局に行き……。
ひろゆき:80年代にワシントン? プラザ合意とか終わった後ですね。
河内:そうです。お父さんのブッシュが(大統領に)なって、イラク・イラン戦争があって、それでクリントンが大統領になって日本に戻ってきた。それから管理職になっていった。
ひろゆき:ほーっ。ちなみに(毎日新聞社を)辞められたときって常務まで。常務って、会社の中の偉いレベルでいうと何番目くらいなんですか? 一番偉いのは社長さんですよね?
河内:No.3のランクでしょうね。常務って複数いますから。
ひろゆき:社長、副社長、常務……みたいな。
河内:ええ。
新聞記者が約1/3にまで減少したアメリカ
ひろゆき:なんでそんな上まで行ったのに辞めちゃったんですか?
河内:僕はやっぱりね、今日も話すと思うんだけど、日本の新聞のビジネスモデルっていうのは根本的に変えないと、生き残れないと。
ひろゆき:うん。
河内:ニューヨーク市立大の先生が「Don't Save The Paper,Save The NEWS」と言っているんですけれども、「新聞紙を救おうなんてことを思ってはダメだ。でも、ニュースを生み出す、送り出すジャーナリズムは守らなきゃならない」という考え方なんです。
日本もそういう時代が来たから、怖いお兄さんが拡張(販売)に来るとかね、そういう一番旧態依然としている体質、販売システムを根本的に変えなきゃいけないという考えです。
ひろゆき:それは、アメリカの中で「新聞紙自体は、もうダメだよ」っていうのは、結構常識になっているんですか?
河内:アメリカの場合は広告収入が8割近いですから、広告が取れなくなれば、アッという間に潰れちゃう。それでバタバタ潰れたというわけですね。
ひろゆき:どれくらい潰れたんですか? アメリカの新聞って。
河内:アメリカにはシンジケートというのがあって、例えばハースト(※ハースト・コーポレーション:アメリカのメディア企業としては世界最大級の企業グループの一つ)とかが、全米に何十と新聞社を持っているわけですよ。だから、ひとつ、コロラドタイムズっていうのが潰れても資本は潰れていないから。
ひろゆき:ふーん。
河内:いろんな数え方があるのだけど、朝日新聞社とか毎日新聞社とか、社っていうタイトルでいうと、アメリカでは1400あったものが、大体この数年で、150紙くらい潰れ、廃刊しました。まあ平均して……。
ひろゆき:10%くらい廃刊になった。
河内:実際、新聞記者でいったら、94年に5万6千人いたのが、リーマンショックを挟んでこの3年で、2万数千人レイオフされましたから。
ひろゆき:半分くらい?
河内:新聞記者でいうと3分の1強になっちゃった。クビになっちゃった。
ひろゆき:アメリカで記者って職業の人は3万人くらいしかいないってことですか、新聞に関しては。
河内:そうですね。
ネット時代におけるビジネスモデルを見つけられない日本の新聞
ひろゆき:へーっ。日本って新聞記者の数って何人くらいですか?
河内:日本は、ちょうどアメリカの半分くらいですから、2万強かな?
ひろゆき:結構いるんですね。
河内:結構いますよ。アメリカは新聞紙が1400あって。日本は112くらいだから、新聞協会加盟は。新聞社の数が少なくて発行部数が多いから、各社は結構余裕があって、人件費にかけられた。 ひろゆき:じゃあ、アメリカよりも日本の新聞社の方がゆとりがあるというか……。
河内:まだね。なぜかというと広告収入3割で、販売収入というのが7割ですから。
ひろゆき:アメリカは違うんですか? 広告収入と直販比率の。
河内:アメリカは広告収入が8割、販売収入2割ですから。
ひろゆき:日本とほぼ逆の感じなんですね。
河内:だから広告がリーマンショックのようにドーンと下がると、途端に経営が左前になっちゃうということですね。
ひろゆき:へーっ。では日本とアメリカは結構違う状況なんですけど、日本の新聞も結構アブナイということですか。
河内:危ないというか……。ぼくに言わせると、今、既成メディアというのがどういう客観条件に置かれているかというと、基本的な認識が薄いか、無いか。どう危機に対応するかという状況認識がない、というのが一番ピンチかもしれない。
ひろゆき:ふーん。
河内:発行部数も減っているし、広告収入もどんどん下がっています。それ以上に大事なのは自分たちがどうやって、このインターネットの時代を生き残る、というビジネスモデルが見つからない。あるいは見つけようとしていない。そこが問題。
日本の既成メディアが敗北した日
ひろゆき:最初のテーマ。「日本の既成メディアが敗北した日」とありますけれど。
河内:今度、角川書店から『報道再生』という本を、TBSの金平(茂紀:TBS報道局記者・同局キャスター・同局執行役員)さんと、出版させてもらって、その出だしでも言っているんですけれど。簡単にいうと、みなさんご記憶の通り、尖閣ビデオが出るという事件がありました。
ひろゆき:sengoku38さんですね。
河内:それ(このビデオ)はCNN(日本支社)へ送ったと言うんですが、一色さん(正春:元海上保安官。尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件において、「sengoku38」名で映像をYouTubeへ投稿した人物)は、日本の既成のメディアにはまったく出す気にならなかった。
それから、皆さん知っているように、ニコニコ動画に小沢一郎さんは何回か出たけれども、実際、彼は既成テレビのインタビューは受けない。それから河村たかしさんは、いわば直接民主主義的なやり方を選挙に取り込んでいた。
河内:こういうのは、どういったことなのか。アラブではご存じの通り、いま大変な革命が。
ひろゆき:エジプトをはじめ、リビアもそろそろといった感じですよね。(※この動画は2011年に公開されたものです)
河内:これはいったい何なのかというと、共通した現象があるわけです。
ひろゆき:去年から今年にかけていろいろと……。
河内:はい。それは、去年『Foreign Affairs』っていうアメリカの外交雑誌の12月号に、Googleの当時CEOだったエリック・シュミットさんが、こういうことを書いているんですよね。相互接続権力の時代がはじまった、と。
ひろゆき:相互接続権力?
河内:「CONNECTIVITY AND THE DIFFUSION OF POWER」と書いてあるんだけれど……。
ひろゆき:といわれても、全然説明になっていなんですけれど(笑)。
河内:インターネットでみんながつながっちゃう時代になった。そういう時代は、昔からの上からの情報が流れてくる、メディアが第四権力といって威張ってタカビーに消費者に情報を流すという時代は終わっちゃっている。
ひろゆき:(フリップを見て)左側に昔の王様や聖職者がいて……。
河内:インターネットで(つながりが)丸く。携帯が世界で52億人、パソコン使っている人は20億人。この人たちがみんな新聞記者であり、読者である。こっちの方に情報の流通が移っちゃたから、このままいくと、とんでもなく既存マスコミは中抜きされるよ、という時代が来るという予言をしたんですけど。それを彼が書いて、わずか1カ月後に、チェニジアのジャスミン革命。
ひろゆき:ジャスミン革命!
河内:ということが今、進行しているわけです。
尖閣中国漁船衝突ビデオを、メディアはなぜ黙殺したのか
河内:テレビもそうだし、新聞もそうだけど、結局、なぜ自分のところに、尖閣ビデオが来なかったんだろうか、あるいは来たらどうしたんだろうか……。
ひろゆき:CNN(ビデオが送られてきた日本支社)は、来たのに捨てちゃったらしいですね。
河内:匿名で来たものは受け付けちゃいけない、っていうマニュアル通りにやったというのだけれど、ぼくがCNNの社長だったら日本社長はクビだよね。
ひろゆき:ま、そうですね。なにやってんだ! って。
河内:現実には、一色さんが、いろいろインタビューに答えているところによると、関西の某テレビも(送付事実が)あるようなことをにおわせたわけだし。
ひろゆき:よみうりテレビでしたっけ?
河内:民法の報道関係の人が集まったところで「(今後)ビデオが来たらどうする?」って話が出て、そんなのやったら総務省に睨まれて免許取り消しだからできないとか、系列の新聞社に持ち込んで真実かどうか確かめてもらってから放送するとか、非常に"カワイイ"話があったんだけど。
結局そんなことを言っているところに、そもそも、一色さんはビデオを持ってこなくて良かった、と思っているんじゃないのかな。
ひろゆき:まあ「正解だったかな」とか。
河内:それに対して、いかに深刻なことなのかは、相互接続権力というか、インターネットでみんながつながっているピープルズ・パワーだよね。これに対して日本の、世界の既成メディア、マスメディアはどうやって生きていこうかという議論が、始まってないですよ。深刻な反省がないから。
僕はやっぱりsengoku38が(YouTubeへ)載った日は、日本の既成メディアにとっては、惨敗の日、8月15日(終戦の日)ではないかなと。
ひろゆき:マスコミの人たちが集まってsengoku38さんが「なぜ出さなかったのか」「じゃあどうしようか」までいかなかったんですか?
河内:いや、質問した人に聞いたところによると、ところで地上波のみなさん、立派な報道局の偉い人ですけど、万が一あなたのところへ一色ビデオが来たらどうしましたか? という質問に対して、みなさんがお答になったと聞いています。その返事が、今ぼくが言ったような内容だったというわけで……。
ひろゆき:ほう、そうすると、もう一回似たようなことがあると……。
河内:一人だけ「捕まってもなんでも絶対放送する」と言った局の人がいて。その人の名誉のためにいっておくと……。
ひろゆき:どこの局の人ですか?
河内:TBSの人だったと思いますよ。
ひろゆき:ほおっ、TBS。報道のTBS!
河内:まあ、(ビデオは)来なかったわけだけどね(笑)。
ひろゆき:来なかった(笑)。ってことは、次回あってもTBS以外は流さないよ、ってことですよね。
ウィキリークスと既存メディアの違い
河内:ご存じだと思うけど、ウィキリークスというようなものが出てきて、暴露なのかジャーナリズムなのかと議論はあると思うんだけど、コレが今までの特ダネとかスッパ抜きと違うのは、特ダネとかスッパ抜きはネタ元からもらって、書かされることもあるんだけど、それは情報提供する人への利益になるように流すわけじゃないですか。政治とかもそう。
ひろゆき:企業とかもそうですよね。
河内:ところが、ウィキリークスは、秘密を暴くということだけが目的なんだよね。
ひろゆき:あー確かに。暴くこと自体が目的ですね。結構珍しいですね。
河内:そういう意味で、古いジャーナリストが、「アレはアナキズムだ」と言うのはある意味正しいのだけれど。利害や損得とか目的がなくて、世の中のカバーしてるものを引っぺがして、楽屋裏を全て見せちゃおう、というのが目的。こういう媒体、マシーンが動き出した時代に、既存のテレビだとか、新聞だとかというものが一体どうするのか。
すぐ広告主が広告辞めるといったら気にしなきゃならない。某宗教団体がどうかっていうと記事は差し止める、というようなことは、もう国民ずーっと見てますから。今あるマスコミ批判とか、新聞批判とか、テレビ批判とかいうのは、さっき言ったようにね。
河村市長が「直接市民に聞いてみようじゃないか」「メディアを通じての議論はちょっとわからない」(と発言したり)、広島の前の市長さんが辞めるときに、辞めるときぐらい自分の言うことを直に市民に聞いてもらいたいからYouTubeにアップしたとか、それがいいか悪いかは知らないけれど。
そういうことが起きていることに対して既成のメディアは、なんでそうなっているのだろう? ということを、まず自分に聞いてみないとダメですよね。
ひろゆき:新聞側は、YouTubeに載せるのはけしからんという話になってましたよね?
河内:YouTubeに(情報が)行って、自分に来ないことをけしからんというのは……。記者クラブに座っていても、もう誰も持って来てくれないときが来るんです。
ひろゆき:わりと日本のメディアも変わってきたという話で……。
河内:変わってきたことがわからなくて、対応がわからない。
日本経済新聞すら「押し紙」をやっている?
ひろゆき:で、「崩壊するアメリカの新聞、テレビ報道」。なんかアメリカの話と日本の話が行き来する感じですね。
河内:後で日本の新聞も扱うので、このフリップを。
日本の新聞社の数と発行部数、アメリカの新聞社の数と発行部数。これは2年前で、(今は)もっと減っています。5千万部切っちゃったんじゃないかな。
アメリカは、1400の新聞紙があって今は減ったんだけど、5千万部なんです。それに対して日本は、日本新聞協会に入ってる会社の数なんですけど120で、これも5千万部ギリギリあったのですが、なにがわかるかというと、新聞社が少なくて発行部数が多いんです。
ひろゆき:かなり特殊ですね。
河内:はい。逆にアメリカは1社あたりの発行部数が少ないってことですよね。逆にいうと日本は異常なまでも多いと。アメリカは日本の人口の3倍ですから、日本はアメリカより3倍近い人が読んでいることになる。で、これはホント?という話になって、実際は売れてないんじゃないか……という議論につながっている。
ひろゆき:押し紙とか。
河内:アメリカの新聞って新聞社の数が多くて部数が少ないから。しかも収入の8割が広告収入ですから、これがインターネットのCraigslistなどの電子チラシみたいなもの、コレに圧倒的に取られちゃって、バタバタと潰れはじめたと。
ひろゆき:ふーんっ。
河内:ただ、アメリカの新聞は歴史的にみると、50年代からテレビの影響もあって、発行部数は減っていまして、リーマンショックによって死刑宣告を受けたみたいな感じでしょう。ニューヨーク・タイムズも今、ちょっと頑張っているけど、大変苦しい。
ひろゆき:日本の新聞発行部数っていうのはどんな感じなんですか?
河内:日本の新聞の発行部数はいろんな考え方があって、今年の1月に日経新聞の発行部数は、「どうも公表数字よりも少ないんじゃないのか」って、怪文章が関係者の間に出回ったんですが。
真偽はともかく、面白かったのは、怪文章に対する反応が、業界の人と、世間と全然違う。日経新聞は300万部と言っているけれど、実際は17%ほど少なくて、250-260万部じゃないかというのが怪文章の趣旨なんですね。
ひろゆき:はいはい!
河内:企業広報の人なんかは「いや、日経は違うと思ったのに」と落胆の声が上がったのだけど、業界は「え? 日経って2割以下か、押し紙は」と。
ひろゆき:ほーっ! 他はもっとやってるぞ、と。
河内:発行部数は、読者がどんどん減っていることは間違いない。例えば09年日本は1世帯あたり(新聞)1部という数字があったのですけど、1世帯あたり1部を割ったんですね。
この数字で気を付けないといけないのは、この5千万部の中には、会社だとか、法人だとか、図書館だとかが取っているのが何百万もあるわけですから。実際の家庭でお取りになっているのは、ニコ生のアンケートでもわかるように、新聞を読んでいない、見たことがない人が半数近くいるわけです。
ひろゆき:見たことないは珍しいと思いますけどね。
河内:まあ、読む習慣がないというのかな。そういう実態からいうと、日本の5千万部という発行部数も、多分この数年間で急速に減っていくでしょう。
ひろゆき:出版社も水増しというか、「3倍くらいで言う」というのは結構、業界的には当たり前だったりするわけじゃないですか。
河内:出版関係は、取次ぎというのがありますから。百万部出荷しても、大体3割から4割は返品ですよね。
ひろゆき:はいはい。
河内:自分と違う資本で本は印刷していますから、印刷部数が出ちゃうわけ。売っているのは書店さんで、これも関係ないですから、正確に返品の率が出るわけで。それを合わせれば刷ったものと、実際に売れたものの差が出るわけですよね。
ひろゆき:じゃあ、大体いくら(売れていると)と言っても、こんなものだろう、とバレちゃう。
河内:そうですね。ただ、新聞社の場合は自分の印刷工場で刷っていますし、販売店は生殺与奪の権を持っている専売店がやっていますから。
ひろゆき:新聞販売の。
河内:そこは黒藪さん(哲哉氏:フリーランス・ライター)とかがいろいろ書いていますけど、やや闇の世界です。
ひろゆき:隠そうと思ったら隠せちゃう?
河内:「販売店が『300部いるから送ってくれ』と言うので送っているにすぎない。渡した先は販売店の問題で、われわれ(新聞社)は製造業であって、卸しただけだ」。こういうのが新聞社の主張でしょう。