談合が認められている日本の新聞業界

ひろゆき:もともと(河内さんは)新聞側だったんですよね?

河内:新聞社の中の人。

ひろゆき:それ(押し紙)は新聞社の中の人だったりすると、ちょっと微妙な気持ちしたりするんですか?

河内:結局、日本の新聞は特殊規制と再販制度。今、再販制度が認められている商品って化粧品もみんななくなっちゃって、出版物と、新聞発行物(だけ)が文化的なものとして認められているわけです。国の規制で、小売りが値段を決められないわけ。メーカー(新聞社)が値段を決めている。これは世界でも非常に珍しい制度です。

ひろゆき:へ? 珍しいのですか?

河内:普通だったら、イオンが、「このシャツは800円で作ってくれなきゃ売れないよ」ってメーカーが作らせちゃうわけだけど、メーカーが値段付けられるのは楽ですよね。

だけど、そういうことがいつまでも保つわけがないので、過剰な部数、衣は脱いで、しかも電子化というかインターネットのシステムと共存するって形で、どう生きていくかを考えなきゃいけないと思うんです。

ひろゆき:再販制度って、ホントに守る意味があるのかよくわからないですけどね。値下げした方がモノって売れるじゃないですか。

高いから新聞買わないっていう人、結構いると思うんです。月500円くらいなら取ってもいいかなって思うんですけど、さすがに数千円は払いたくないじゃないですか。あれって新聞社を守っていることにつながっているのかイマイチわからない。

河内:新聞社というより新聞業界を守っているわけね。考えてみればおかしいでしょ。広告多いけど日経新聞は40ページくらい、産経新聞とか毎日新聞だと32ページ。量的に違う。ウィスキーだったら分量違ったら値段が違いますよね。(なのに)みんな基本的には3925円。日経はちょっと高いけれども。朝・毎・読、産経は合わせているわけですよ。

どこかが安売り競争に走ると、強いとこは勝って小さいとこは潰れちゃうって問題があるけれども。逆にいうと大きいところも値引きすると、部数が多いだけに非常にダメージも大きいわけです。だから業界の談合で、一定の値段決めていた方が楽だから。そういう意味では再販制度は大変ありがたいし……。

ひろゆき:それじゃ、強い新聞社にとっては有利?

河内:業界にとっては有利。たとえば、地方紙は3925円に対して安いですよね。

ひろゆき:たとえば潰れそうな新聞社があって、「500円で5ページですっていうのをガンガンやるぜえ」ってやったら、それはそれで残る可能性もあるじゃないですか?

河内:うーん、500円だと4000円とすると……。4分の1? 8分の1? 理論的にいうと販売と広告の問題があるけど、10倍以上、途端に売り出さないと採算が合わない。

ひろゆき:でもネットでニュース見ている人ってYahooのトップページで、トピック2、3個見て今日のチェック終わり! ってなってるじゃないですか。新聞って30ページ。厚いんじゃないですか?

河内:厚いっていっても、広告が大体10ページくらいでしょ。広告も情報のうちともいえますけど、果たしてほとんどが……。

ぼくは慶応で教えていて履修生が大体700人くらいいますけど、新聞読んでないから世の中に遅れたとか誰もいないし。さっきの尖閣ビデオでもレポートを書かせたのですけど、53%くらいの生徒が、テレビがやる前にtwitterとか、Facebookで午前1時に見た、12時に見たということですよ。

彼らにとっては9.11のWTCビルに飛行機がぶつかったのを新聞のニュース見て知ったのは誰もいないわけでね。そういう意味で、新聞の立ち位置は難しくなってきているのは事実です。

職を追われた新聞記者たちがブロガーに

ひろゆき:そんな立ち位置が変わってきた新聞ですけれども、ニュージャーナリズムとは何か?

河内:こういう言い方は正しいのかどうかわかりません。ネットジャーナリズムとも言っていますし。これはアメリカでいろいろな形で起きているひとつの胎動だと思うんですけれど、アメリカの新聞記者、テレビのジャーナリストを含めて、すごいリストラが進んだわけですね。その人たちも生活しているわけですよ。

彼らが(その後)どういうところに行っているのかというと、地域の、あるいは昔の同僚とともにブロガーになっているんですよね。もともと新聞記者をやっていた、リストラされた2万人がブロガーになっている。さまざまな形で。

ひろゆき:ほーっ。

河内:もちろん一人で勝手に書いている人もいるけど。

例えばカリフォルニアのサンディエゴみたいな地域で、何人かのブロガーがネットワークを持って、サンディエゴ、カリフォルニア、南部地区の地域情報をかなりうまくカバーしているとか、あるいは昔新聞もよくやっていましたが、市民から通報で、「道路に穴が開いている、危なくてしょうがない」とか「水が漏れている」。

市の当局とか市議会を焚き付たりお手の物だから、大問題にして。そうすると何日か経つと埋まるわけですよ。その一部始終をニコ動と同じように流すわけ。そういうことで市民が「こういうのあっていいよね」とHIT数が上がりアクセス数が上がると広告も付く、という形がありますね。

ひろゆき:じゃ、広告で食べている感じなんですか?

河内:広告ですね、基本的には。

ひろゆき:地方限定だと、サンディエゴって200-300万人くらいですよね、人口としてみたら。

河内:アメリカの地方紙って平均でいえば、10万部か20万部でやってきたわけだから。それとアメリカのジャーナリストっていう場合、日本の新聞記者を思い浮かべるとダメで、アメリカの労働省の統計でいうと、彼らの平均年収は日本円でいうと300万から400万の間ですから。

ひろゆき:えっ! そうなんですか? 毎日新聞なんか平気で1,000万円を超えるじゃないですか?

河内:そういうのは、日経とか、朝日の人に言ってほしいんだけど(笑)。まあ、超える人もいますけど。なぜかは知らないけど、日本の新聞記者、テレビの報道記者の給料体系は、独占的構造なんかによって非常に恵まれているのは間違いないでしょう。

もちろんアメリカの場合は、基本はダブルインカムで女房も働いていますから、二人合わせると700万くらい。となると、地方で暮らせるんですよね。

ひろゆき:はいはい。安いっていえば安いですけど。

河内:そうやって考えると、彼らの採算分岐点は低いの。何人かでやっても、300万円くらい、ひとり3万ドルくらい稼げばいいわけですよ。

活路は"ハイパーローカル"にあり

河内:それからもうひとつ、ニュージャーナリズムという形でご紹介したいのは、このあいだハフィントン・ポストを買収した、AOL。昔はダイヤルアップの通信屋だったところ。

ひろゆき:タイム・ワーナーと合併しようとしたり、ハフィントン・ポストを買ってみたり……

河内:そう、そのAOLがやっている『Patch』というサイトなんですよ。『Patch』って、あのパッチをあてるのパッチで、州でもなく、市でもない、町でもない。御町内紙なんです。

(フリップを)ご覧になっておわかりになるように、ニュージャージー州のメイプルウッド・オレンジカウンティの中の町なんです。人口2-3万人の町で、簡単にいうと(東京でいえば)駒沢通り沿いの目黒区のごく一部、柿の木坂あたりが対象。ピンが立ってるところが関連ニュースですから、この住民にとっては必ず関心がある。

ひろゆき:ああ。

河内:例えば僕が行った日だと、大雪が降ったんですけど、単に杉並区ではなく、恵比寿駅の東口、なんとか通りのルノワールの前は積雪2mです、今作業しています、とか。ハイパーローカルと言っているんですけれど、本当に細かい。

ひろゆき:コレ、面白いですね。

河内:下にある写真は市民からの投稿です。もちろんビデオも来るから素材には困らない。地域に密着だから、警察も消防署も情報を提供してくれる。これくらいの町だと、記者クラブがないものですから、『Patch』が連絡すれば何でも教えてくれる。

AOLは今、これを全米に広げようとしている。だからハフィントン・ポストなんか、簡単にいうと、この小さなハイパーローカルを全米で横串にやって、全国版の広告を取ろうと思っているんじゃないかと思ってるんですけど。

ひろゆき:ほーっ。ハフィントン・ポストもそうだけど、そこに投稿してくるユーザーも含めて来てほしい……。

河内:こういうハイパーローカルがあるし、ハフィントン・ポストとか(もあるし)。ワシントンD.C.でワシントン・ポストをリストラされた人たちが始めたポリティコという電子新聞があって、これは議会のことだけ。今日の委員会は何とか、今日の委員会は誰がやったとか、上院、下院の情報が極めて詳しく載っている。

ひろゆき:ふーんっ。

河内:ワシントンって政治都市ですから、上下院議員とスタッフとホワイトハウスと各省庁で、3,000人くらい読者がいるわけです。

ひろゆき:逆にいうと3,000人しかいないわけですね。

河内:いや、3,000人はいるわけですよ。3,000人が1日十回見たら、3万アクセスになって広告が付くんです。面白いのは、これをやっているうちに紙で読みたいという読者が出てくるわけです。

ひろゆき:へーっ。

河内:ぼくが行った去年(2010年)3月ごろ、無料で紙版を出した。地下鉄とか日本にもあるみたいに積んであるんですよね。それに広告がうんと載って。聞いたら電子新聞のネット広告よりも紙の広告の売り上げの方が良くなって収支が良くなった。そんな話もある。

ハイパーローカルで地域を攻めるやつと、ネタというかコンテンツで攻めるやつ。ハフィントン・ポストは政治的に大変リベラルな政治論調、このポリティコみたいなのは政界業界紙みたいな感じ。そういう、ピンポイントで攻めていくさまざまな方法が、特にリストラされた新聞記者を中心にあって。

ハフィントン・ポストのアリアンナ・ハフィントンさんの偉いのは、こういうジャーナリズムを育てようと(資金を)集めて、ジャーナリズムファンドを作った。もう10億(円)くらい集まっているんです。ワシントン・ポストの優秀な記者が理事長をやっていますけども。

これはフリーランスの記者が応募するわけですよ。例えば、「私は原爆工場の跡地で、まだずいぶん被ばく被害が出ていることを1年かけて調査、報道したい」とする。「いいでしょう」と(判断)すると、取材にかかる経費と生活費と発表する場を提供してくれる。

ひろゆき:ほーっ。

河内:ニューオリンズでカトリーナという台風があって、相当の人が逃げ遅れてしまい、病院は電気も止まるという状況の中で、重度の人工透析患者や感染症患者がいて、運ぶ手段がないので、何人かを安楽死をさせたんです。

これは遺族を含めて問題にはなってないのだけれど、書かれていない事件で。その発掘報道をしたのがニューヨークをベースにするフリーランスのジャーナリストのブロガー集団です。

ブログでも発表したんですけれども、同時にニューヨークタイムズ・マガジンという週刊誌がページをどーんと提供して、活字でも一緒に出したんです。これが去年(2010年)のピューリッツアー賞を、ブロガーたちとニューヨークタイムズ・マガジン、両方が獲っている。

ひろゆき:へーっ。

河内:それに対しても、NPOのファンドが応援したんですね。既成の新聞、テレビがどんどん取材力が落ちている状態に取って代わってきている。苦し紛れだけれども、結果として新しいジャーナリズムの方向性が出てきているな、という印象ですね。

ひろゆき:ちなみに、そのファンドはどれくらいのお金を出してくれるんですかね?

河内:ハフィントン・ポストのアリアンナ・ハフィントンさんは、自分のお金、1億7,000万(円)くらい。かのオーレン・バフェットとか、ああいう人も出しているし、ビル・ゲイツの基金も入っている。

アメリカの場合、健全なジャーナリズムを育てるファンドがいくつかあるので、そういうところがお金を出していますね。ただ、全体としてはささやかなお金ですよ。

ひろゆき:1プロジェクトあたりどれくらいの金額が?

河内:ぼくが知っているのは、デンバー・ポストをリストラされた女性記者で、去年NHKがちょっと紹介してましたけれど、コロラド州は日本に最初に落とした原爆を作った原爆工場があって、その跡地に非常に高濃度の汚染があって、それに家族とか元工員が苦しんでいる。こういうのを調査報道したいというので、彼女が申請して、NPOからお金をもらった。

米メディアに「政治的中立性」は求められない

河内:これなんか本当に、ささやかなお金で、ギリギリの生活費、月20万とかいうお金。それを調査報道がまとまるまでは、ファンドがハフィントン・ポストのアリアンナ・ハフィントンさんが渡してくれる。ただ、ファンドのお金は救世主ではないという議論があって、非課税だから中立性が求められる。

アメリカのジャーナリズムは町に2つの新聞があって、民主党系の新聞と、共和党系の新聞とあり、支持者がそれぞれ取っていたわけですよ。

ひろゆき:新聞によっても民主党系か共和党系かというのが分かれているんですね。

河内:アメリカの新聞は伝統的に公職選挙、シェリフ(保安官)から検事まで選挙ですけど、ウチの新聞はオバマ大統領から町長に至るまで、彼らを支持すると論説で表明するわけですよ。逆にいうと、そういう新聞に公的資金を入れて救済すると政治的ポジションを鮮明に出すことが不可能になるわけです。

ひろゆき:中立ってのいうは重視されていないんですか?

河内:中立っていうのは偏った報道をしちゃいけないってことで、政治的に中立とは考えていないですね。

ひろゆき:ふーん。じゃあそれは、ウケていればいいよ、と?

河内:ウケていればとは?

ひろゆき:民主党を支持している新聞社です! と、読者が了解して買っているならOK?

河内:読者はニューヨーク・タイムズはどちらかといったらリベラルだ、とか知っていますから。自分の政治的立場に合う新聞を取っているということがいえると思います。まあ、ニューヨーク・タイムズといっても紙の新聞でいったら100万部以下だからね。要するに新聞を読んでいる人がオピニオンリーダーだ、ということなんです。

ひろゆき:朝日新聞とか1,000万部とかいいますからね。読売も1,000万部?

河内:大したものだ。