何キロも先の仲間とコミュニケーションをとるゾウ
マイケル・アランダ氏:幼稚園の絵本で読みましたよね。猫はニャー、犬はワン、アヒルはガーと鳴く。でもすべての動物がそういうわかりやすいコミュニケーションをするわけではないのです。変なのものもありますし、超音波やヘッドバンギングなどくだらないものもあります。これらの動物には、お互いに話すための珍しい方法があるのです。
まずはアフリカゾウです。低音を使うとても大きな動物です。あまりの低さに、人間には唸っているようにしか聞こえません。
彼らは20ヘルツ以下の超低周波音を使います。これは人間が聞き取れる低音の限界でもあります。これにより、空気と地面の振動を通し、ゾウは非常に遠い距離でもコミュニケーションができるのです。その範囲は285平方キロメートルという説もあります。
状況によって、伝わる低周波音が伝わる距離は変わります。風や熱が音波を妨害すれば、伝わる距離が縮まります。
研究者の観察によると、ゾウは主に日の出と日の入りにコミュニケーションをとるとされています。涼しく、空気が穏やかな時間帯です。これらの長距離振動は他の種類のゾウも聞き取ることができるため、近くのゾウの状況を把握して草を食べるルートを調節できるのです。
ゾウは性別によって分かれたグループで生活します。メスは子供の近くに集まり、メスのボスが先導します。オスは単独行動をするか、ほかのオスと小さなグループを作ります。メスがオスを迎える準備ができた時、サバンナの中で何マイルも先にいるオスを探す必要があります。つまり超低周波音の呼びかけは、セックスを求める声であることがわかります。
対極にあるのが、小さくてかわいいメガネザルです。この小さな霊長類は東南アジアに生息し、手のひらほどのサイズにまん丸と大きな目を持っています。
人間には聞き取れない周波数でコミュニケーションします。2万ヘルツをも超える超音波を使うのです。エコロケーションのために使うコウモリなどを除き、動物界では超音波は極めて珍しいものです。研究者はメガネザルが常に超音波を使っていることに驚きました。
小さなメガネザルが口を開けて叫んでいるように見えますが無音です。コウモリに使うための装置を使ってある研究者が声を聞こうと試みるまでは、そう考えられていました。メガネザルは約7万ヘルツで発声し、9万ヘルツまで聞き取れるのです。
この声がジャングルの騒音の中でのコミュニケーションを可能にし、捕食者から身を守れていると研究者は考えています。ほとんどの動物はこれほどの周波数は聞き取れません。さらに、特定の昆虫の高い音にも集中できるので、エサの捕獲もしやすくなるのです。
プレーリードッグは人間とワシとコヨーテを呼び分ける/h2>
プレーリードッグは社交的な動物で、地下都市で仲間と一緒に暮らします。周囲の情報の共有のための非常に複雑なシステムを発達させています。言語は人間のものと考えがちですが、プレーリードッグは科学会で注目を集めています。
科学者はプレーリードッグが生むさまざまな音を録音して解析した結果、捕食者の種類別の呼びかけがあることがわかりました。コヨーテ、飼い犬、人間とは違う呼びかけでワシを分別しているのです。この研究の過程で研究者は、例として、人間を指す呼びかけにわずかな変化があることに気づきました。近くの捕食者を認識する以外に、それぞれを分別する呼びかけが可能なのかということについて考えました。
まったく同じ服でシャツの色だけ変えたボランティアにプレーリードッグの村の前を歩いてもらいました。プレーリードッグの呼びかけを解析した結果、人間が着たシャツの色でグループ分けをしていることがわかりました。プレーリードッグは黄色いシャツを着た人間と青いシャツを着た人間の違いがわかるということになります。それらを近くの仲間とコミュニケーションしているのです。
それだけではありません。背が高い、低いというほかの特徴に関しても呼びかけがあります。プレーリードッグがどう解釈して理解しているかははっきりしていません。残念ながら、まだ、人間についてどういう呼び方をしているかはほとんどわかりません。
アフリカンデビルモールラット、ハードコアな名前の出歯鼠です。見た目が怖いというわけではないですが。
毛羽立った彼らは、どちらかというとメタルです。コミュニケーションにヘッドバンギングを使うのです。地下では、視覚や聴覚はあまり役に立ちません。光も十分になく、振動も土の中ではあまり伝わりません。
多くの出歯鼠は仲間と暮らしますが、アフリカンデビルモールラットは単独派です。近くの仲間と話したり縄張りを守ったりする際、振動コミュニケーションを使います。
頭をトンネルの上部に打ち付けて、地中遠くに伝わる振動を送るのです。科学者は異なる振動には異なる意味があると考えています。ゆっくりした振動パターンは警告、妨害、危険の可能性で、早いパターンは動物の識別を仲間に知らせるという内容です。「ここにいるからちょっとさがって」というような感じですね。モッシュピットのパターンがあるかはまだ不明ですけどね(笑)。
マッコウクジラのような海洋生物が複雑なコミュニケーションシステムを使えることはよく知られています。
これは社会的複雑性の仮説の一種であり、種の社会構造がより複雑になるにつれ、コミュニケーションも同じく複雑になるというものです。異なる社会には異なる音があり、地域ごとの特殊なアクセントのようなものがあるのです。
例えばマッコウクジラは会話にコーダと呼ばれるクリックの連続音を使います。異なる地域の海のクジラはアクセントのような独特なパターンやクリックを使います。別の地域のマッコウクジラに異なるアレンジのクリックがあるのに対し、カリブ海のマッコウクジラはワンパターンのコーダしかありません。
同じ地域内でも複雑になりえます。クジラの中には家族を特定する音を持つ者もいるということを研究者は発見しています。私たちが下の名前、上の名前を使い分けるようにです。
こういったコミュニケーションは社会的な絆を強める上ではおそらく重要です。研究者はこういったことが動物が文化を持っているかもしれない証拠であると考えています。クジラに話せるようになるまでそう長くないかもしれませんね。ドリーみたいに。
うんちやおしっこをシグナルに
動物の世界では、うんちやおしっこをシグナルとしてよく使います。「これは自分のもの」「さがれ」などです。ただし、シロサイのような動物にとっては、グループのコミュニケーションにとって極めて重要なものなのです。
シロサイは視力が悪いので、匂いが極めて重要なものであるという考えに研究者は至りました。縄張りをマークするためだけではないのです。シロサイのグループは「midden」と呼ばれる共同の糞の塊を使います。大きくて匂うメッセージボードみたいなものですね。
サイの糞は、個別の動物の健康状態を描けるのです。3メートルほどの糞の塊を匂いで、地域でなにが起こっているかを察するのです。病気のサイがいるか、オスを迎える準備ができたか、新しい子供が生まれたか、強いオスのサイがやってきたかなどです。
サイは、家族や友達より、親しみのない糞の匂いをよく嗅ぐということを科学者は発見しました。匂いのマーキングにより個体を識別しているというということが示唆されています。近所のゴシップはサイにとって、文字通りしょうもない(pile of poop)ことなのでしょう。
カリブのアオリイカには特別な細胞があります。色素と光を反射できる分子です。色素胞と呼ばれ、皮膚の色を変えてさまざまなメッセージを送るのです。普段タコやイカは、色を変える能力を危険が近づいた時のカモフラージュや別個体へのアピールに使います。しかしカリブのアオリイカには他のほとんどの頭足類より変わったライフスタイルがあるのです。
彼らはカリブ海で小さなグループで行動します。隠れる、警告する、求愛儀式などの異なるコミュニケーションのために色素胞を操る能力が発達しました。異なる色、パターン、フラッシュで異なるメッセージを送るのですが、左側でシグナルを送りつつ、右側でまったく違うシグナルを送ることができるのです。競争をかわしつつ、一方でメスに迫る。まさに「mixed message」ですね。
ユニークな関係というと、サンゴハタと海の捕食者のコラボレーションを研究者は観察しました。
サンゴハタは食べるために噛むのですが、時に獲物はサンゴの割れ目の届かないところに入っていきます。そこでメガネモチノウオやウツボといったほかの魚が来るまで待ち、彼らにハントを助けてもらうサインのようなものを使うのです。
サンゴハタが獲物の隠れ場所を鼻で示して体を横に揺らし、獲物の存在を示します。そしてメガネモチノウオが獲物めがけてサンゴに体当たり、もしくはウツボが割れ目に入って捕まえにいきます。メガネモチノウオかウツボが餌を捕まえて食べてしまうこともあります。魚が魚を食べる世界では、サンゴハタとはシェアしなかったり、運がなかったりということになります。
別のパターンでは、餌がサンゴから逃げた場合、サンゴハタはさらなることを試みます。彼らの異なるハントのスタイルを組み合わせることにより、有益な関係となるのです。ちょっとした余分のコミュニケーションとボディーランゲージで、この3匹は食べ物チャンスを得ます。
種を超えてコミュニケーションする動物は他にもいます。「Maculinea」という種の蝶です。
クシケアリに幼虫の面倒を見させます。仲よさそうにも見えますが、時に生死に関わります。アリはコミュニケーションに科学信号をよく使います。研究者は、幼虫がクシケアリの匂いを真似たものに包まれていると考えています。さらに、Maculineaの幼虫は女王蟻に似た雑音を発生させられるように進化しているのです。それだけでなく、巣に持っていくようにアリを騙すこともできます。
幼虫が巣にたどり着いいてからは、2種のMaculineaにそれぞれ生き残る方法があります。捕食性のタイプは巣に運ばれるまで歌い、巣に着くと、隔離された角で隠れます。この幼虫はアリの幼虫を食べます。隠れてお腹が減ったらアリの赤ちゃんだけを襲う暗殺者みたいな感じです。
もう一方のタイプは、もっとうるさく歌います。巣に着くと、まるで自分がアリの幼虫のように、アリに世話させてしまいます。ある実験では、巣にトラブルがあった時、アリはこの蝶の幼虫をアリの幼虫の前に助けたということが科学者によって発見されました。さぞ素晴らしい歌声なのでしょう。
人間のコミュニケーションは非常に複雑です。しかし動物にも多くの未知な話し方があるのです。