最新の顔認識技術
林信行氏:iPhoneのintelligenceは、写真にも入ってきます。「Photos」(写真)という、カメラで写真を撮った時に写真が入ってくるアプリがありますよね。
あれが非常にインテリジェントになって、iOS 10からは、いろんな写真を撮ったときに、顔がどこにあるのかということをまず認識してくれて。
そのあとユーザーの人ががんばって、「これはMegだ」「これはJimmyだ」ということを登録すると、「Jimmyが写っている写真を見せて」ってSiriに聞くと、Jimmyが写っている写真だけの一覧を作ってくれたり、そういった機能もできるようになってきます。
実はもうすでにかなり前から、みなさんがお持ちのスマートフォンは、人間の顔を認識できるぐらいの能力はもっています。
メイクアプリ「ModiFace」
これはAppleが作ったものではなくて、他社が作った、よく最近海外で使われているメイクのアプリなんですけれど、「ModiFace」ってご存知ですか?
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動画をお見せしますと、目がどこにある、唇がどこにあるということを認識して、ちゃんとメーキャップ。例えばLANCOMEの何番を使うと……とかってシミュレーションすると、そのとおりの色が自分のリアルに生で動いている顔の上に再現される。
こんなアプリも出てくるぐらいに、眼の位置とか唇の位置とか、そういったものを認識できるものが、もうすでにみなさんのポケットに入っています。
モノや情景も認識
この認識エンジンは、iOS 10では、例えば、この右側「beach」で検索しているのが見えますか? 今、写真に写っているのは山なのか、それとも湖なのか、ビーチなのか、そういったことも認識してくれるぐらいに、Siri intelligence、進化しています。
なので、文字で検索してもいいんですけども、Siriで「ビーチで撮った、Jimmyの写っている写真を見せて」と言うと、そうやって絞り込み検索をして表示してくれる。これが、この秋以降のiPhoneです。
こういったintelligenceが加わってくると、例えば、自分の家族がみんなで一緒に写っていて、いつもいる自宅とはちょっと離れた、長野県あたりに1週間ぐらいいたとすると、「たぶん、これは夏の避暑のバケーションにいるときの写真だな」といって、勝手に「家族旅行」ってアルバムを作ってくれる。こういったintelligenceも入ってきます。
「Google Photos」も進化中
もちろん、これをやっているのはAppleだけではなくて、GoogleもAppleがやるはるか前から「Google Photos」というクラウドの写真サービスを使って、もう今すでに場所とかは認識してくれます。
例えば、自由の女神とかはもちろんですけれど、そういったモニュメントとかが写っていると「これはどこそこの写真だ」ということを、GPS位置情報じゃなく写真の画像を認識して記録してくれる。そういった機能もGoogle Photoにはもうすでについています。
Appleよりさらに進んでいるような、それが機能として使えるかは別として、Googleの内部では、犬の種類とか猫の種類とかもすでに認識しているそうです。
さらには、車が写っている場合は車の車種もわかっていれば。
例えば、ケーキが置いてあって、そこにろうそくが置いてあって、子供が写っていると「それは誕生日のパーティの写真だろう」ということもすでに認識できるようになっていて、Google Photosで検索できるってことを言っていたりします
オープンソース化で開発が加速
こういった具合に、今、AIがどんどん進化しています。それがネットを通して、みなさんのポケットの中にあるスマートフォンに、これからどんどんつながってきます。
今日はソフトバンクさんとの提携の関係で、Watsonの話が多かったんですけれど、この前のセッションではTensorFlowとか、そういった話も出てきましたね。あるいはGoogleのDeepMind。
こういったオープンソースというか、開放された、誰でもこういった人工知能を使って自由にプログラミングできる環境が整ってきたことで、インターネットをいろいろ検索してみると、例えばアイドルの顔を認識してくれるような人工知能を作っている方もいらっしゃったり。
あるいは、「こんなものを使うのか?」って方もいらっしゃるかもしれないですけれど、実は農家の方に非常に役立つ「これはきゅうりか、それともネギか?」といったことを画像認識して教えてくれるような、仕分けマシーンを作ってくれるような人工知能、こういったものも出始めてきています。
あと、これはちょっとアーティスティックなプロジェクトなんですけれど、大量の手書きの漢字を認識した上で、「いかにもこういう漢字ありそうだ」という偽の漢字を作ってくれる、こんなアーティスティックな人工知能も出始めてきたりしています。
人間よりはるかに正確な人工知能
このあたりはGoogleとかが用意しているような人工知能を使って、エンジニアの方が作った、商品にはなってないようなかたちの人工知能の事例なんですけれど、商品になっているものは本当すごくて。
例えば、「Music Xray」ってご存じですか? アメリカのサービスなんですけれど、ミュージシャンが新しい曲を作曲しますよね。そうすると、人工知能がその曲を聴いて、この曲がヒットするか・ヒットしないかということを予想してくれる。しかも、かなりの精度です。
こんな人工知能も出てきていれば、「Lit I View」というのは、実は日本のUBICって会社の製品なんですけれど、弁護士の助手もこれからだんだんいらなくなってくる、なんていう人工知能があったりします。
どういったことかというと、例えば浮気の調査とか、あるいは「贈賄があったのか」といった調査をする場合に、これまでは弁護士の助手の方が、何千通、何万通という電子メールを検索していた。そのメールから「文意的に贈賄の意図があったのか」などを読み取ることは非常に大変だったりします。エキスパーティズムが必要とされるんですけれど。
実は人工知能は、人間よりもはるかに正確に、贈賄の意図とかそういったものを読み取ってくれます。何千通のメールもあっという間に瞬時に読み取ってくれる。そんな人工知能も製品として出始めてきています。
あるいは「PRED POL」という、ちょっとSF的なんですけれど、実際にアメリカの警察で導入されているものです。「今日の夕方4時頃、ここらへんで犯罪が起きそうだ」といって、警察がそこに行くと、実際犯罪が起きて捕まえられるなんていう、そんなちょっとSFチックなものもあったりします。
実際に、導入地域で15〜30パーセント重犯罪が減っている、こんな実績を上げているものも出てきています。
人工知能は知性の増幅装置
こういう話を聞くと、人工知能はすごいけれど、将来職業を奪われそうで怖いという方もいらっしゃるかもしれません。「AIって、人類にとって敵なのか味方なのか?」、今日何回か出てきている話題ではあるんですけれど。
AI、「Artificial Intelligence」、人工知能ですよね。
これをArtificial Intelligenceと言うと怖いので、最近一部の人たちはAとIの順番を逆にして、「Intelligence Amplifier」、人間の知性を増幅する装置だと呼ぶ人たちも出始めてきています。
実際、スティーブ・ジョブズも1984年にMacを発表した直後に、「コンピューターは自転車だ」ってことを言っています。
どういう意味かというと、コンピューターは人間の能力を増幅してくれる装置だ。そういう意味でいうと、人工知能も、増幅装置ということで、同じ延長線上にあるんじゃないかと思います。
この「IA」という言葉、けっこう最近熱心に言われている方の1人に、東京大学の研究者で、SONY Computer Science Lab.というところの副所長もしている、暦本純一さんという方がいらっしゃいます。
みなさん、並んでいた方は、この前のセッションを見てないかもしれませんけれど、前のセッションでも、実はもう人間のチェスのチャンピオンは、人工知能のチャンピオンに10年近く前に負けてしまってはいるんですけれど、人間のチェスのチャンピオンが人工知能と手を組むと、一番強い人工知能に勝ててしまう。
こういったこともあって、人工知能を人間の手の延長としてうまく使えば、人工知能単体よりもはるかにすごいことができるという考え方があって、それこそがまさにIA、Intelligence Amplifierの考えだったりします。
ポケットの中に収まるスマートフォンを通して、こういった人工知能を使うと、まさにそういったIA、手の延長のような感覚が出てくるんじゃないでしょうか。
進化するIoT
ということで、ここまで人工知能の話だったんですけれど、ここからギアを切り替えて、IoTの話をしようと思います。IoTも、実は過去にいくつかヒントが出てきています。ちょっとここでまた古い、1980年代のビデオをお見せしようと思います。
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相手がなにを話しているかというのを、Google Glassのような眼鏡が認識してくれて、文字として表示してくれる。
さっきのウェイターの人は、実はフランス語で話していたんですけれど、フランス語で話していた内容を英語に翻訳して表示してくれる。こんな眼鏡も、実は30年前に提案されていました。もう1個、動画をお見せします。
(動画が流れる)
これまでのスマートフォンって、「アプリを実行する機械」というイメージがあったんですけれど、これからのスマートフォンは、外部の機器、IoTとどんどん連携を始めていきます。
実はさっきの眼鏡のようなものが、なんと今年すでに、日本でなんですけれども、EPSONの「MOVERIO」というスマートグラス。春に製品化といってまだ発表されてないので、もしかしたら少し遅れているのかもしれませんが、翻訳をするような眼鏡はもうすでに作られてきています。
あるいは、右側は「smoon」といって、計量カップなんですけれど、下の白い部分が動いてちょうどいい分量を測ってくれる、こういったものも出てきています。実は、先ほどやっていたようなことも、だんだん現実になりつつあります。
デバイス間でのデータの引き継ぎが可能に
よくIoTというと、いわゆるガジェットと言われるようなものだけじゃなく、インフラの部分に入ってきたり、エネルギープラントとか、製造工場で部品がちゃんと製品に使われているか、そういったことを管理するのに使ったり。あるいは、今朝、ホンダの発表もありましたけれど、車のなかでも使えるとか。
いろんな場面で使われるのがIoTなんですけれど、やはり一番IoTのなかで目立つ存在なのが、こういったウェアラブル。しかもヘルスケア系のウェアラブルですよね。
これまでヘルス系のウェアラブルで問題があったのが、例えばFitbitを買ってしまうと、Fitbitのアプリを使わなければいけない。あるいはNikeのFuelBandを買うと、Nikeのアプリを使わなければいけない。各ウェアラブルのメーカーによって、アプリが分断していたんですね。それによって、例えば、Nikeからadidasに乗り換えた場合は、それまで取った歩数のデータは一気に消えてしまうという問題がありました。
それに対して、Appleが2年ほど前に出してきたのが、「HealthKit」というものです。これからは心拍数のデータも歩数のデータも全部この「HeathKit」のなかにしまいましょう。そうすると、Nikeからadidasに乗り換えてもちゃんとデータが引き継がれますよ、というものを出してきました。
それに呼応するように、Googleも「Google Fit」という名前の似たような規格を出しています。
これからこういった健康系のウェアラブルは、AppleのHealthKitとGoogleのGoogle Fitにさえ対応すれば、すべてのスマートフォンユーザーに対して、永続的な価値をもたらすことができる。こういった環境が整いました。
ファッションとウェアラブルの融合が熱い
ちなみにウェアラブルでいうと、最近、非常に熱いのが「ファッション」と「ウェアラブル」の融合です。
私、最近ここは専門分野になっていて、ファッションのテクノロジーに関して、三越伊勢丹さんなどといくつかプロジェクトをやっています。
本当にいろんなつながりがあって、例えば、有機ELを使ったドレスとか。自分にぴったりサイズの服を多品種少量生産したり。あるいはショッピング体験を変えるとか。いろんなことがあって、これだけで1時間話せるんですけど、今日は時間がオーバーしちゃいそうなので、ここは外します。
ただ、このファッション業界とテクノロジーの結びつきで、2つだけ事例を紹介すると、今年のGoogle I/Oで発表されたのが、去年から発表されてはいたんですけれど、GoogleとLevi’sとの連携ですね。
デニムのジャケットのなかにセンサーが入っていて、自転車を漕ぎながらスマホを簡単に操作できる。こういったものが発表されました。実はこれ、ほとんど日本で作られていたりします。
あるいは、先ほど有機ELとか電子ペーパーという話をしましたけれど、こういった技術を使ってカスタマイズできるような衣服も、今年から来年にかけてたくさん出てきそうです。
こちらは、まだまだクラウドファンディング中なんですけれど「ShiftWear」というスニーカーです。ちょっと動画をお見せしますね。
その日の気分とか、今現在の気分に合わせてスニーカーの柄を変えることができる、こんなものも出始めてきています。