「抑止力」を成り立たせるために必要な3つの原則

司会:麻生副総理兼財務大臣に、さっそくではございますが一言賜りたいと思います。よろしくお願いします。

(会場拍手)

麻生太郎氏(以下、麻生):今日は(安倍)総理もお見えになるということで「じゃあ(私は)いいんじゃないですか」と言ったら、「まあまあ」と言われて、困ったなあと思いながら「顔だけ出せば……」というつもりでいたら、顔だけじゃなくて喋らないかん、という事になって(笑)。総理がどんな話をされたのか想像が出来ないんで、話が被ると具合悪いなと思ったんですけれども、多分、「国を守る」とかそんなことをお話されたんだと思いますが、今日は若い人が多いんで、その人達に。

よく、「抑止力」っていう言葉があります。英語で「deterrent」っていうんですけれども。抑止力ってのは簡単に言えば、皆さんがガールフレンドを連れて歩いている時に、街でコレ(頬に傷を入れるような仕草をして)っぽいのに絡まれたらどうするかって話。ヤバいなと思っても一応、(彼女を)後ろに置いてね、庇うくらいの格好をせんと、やっぱり具合悪いよ。「お金もあげます、彼女もあげます、私だけ助けて」なんて言ったらそれで終わり。そこで庇わないかん、というためにはね、力がいるんですよ。間違いなく力がいる。

抑止力の第一番は「力」、これも間違いないね。問題は、力があるだけじゃダメ。力があってもそれを使うという、みんなで合意をする、国民的なコンセンサスがいるんです。合意がないと、あいつは力を持っているだけで使わないやつだ、と知っていると、こうなります。

「プラハの春」と言われた1980年代後半、いわゆる社会主義国家のチェコスロバキアって国、今はなくなってチェコとスロバキアって国にわかれちゃいましたけれども、当時チェコスロバキアっていう国がありました。そこでプラハの春と呼ばれて、ものすごい民主化が進んだんだが、その時にソ連はどうしたかって。チェコには立派な軍隊があるんですよ。チェコ製の機関銃とかライフル銃ってのはすごく性能が良いですし、これはけっこう有名なもの。だからソ連は全く心配なく戦車をワッといれて、プラハの春は潰れた。

しかし、同じようなことが今度はポーランドで起きた。ポーランドは例の「連帯」ってのをやったんですけれども、このポーランドには最後までソ連は入んなかった。何故か。ポーランドというのは徹底した抵抗の歴史で、ポーランドを占領したら必ず抵抗にあって、占領・統治したほうはエライ目にあったという歴史があるから、ここにはなかなか入らない。「アイツのとこに行ったら俺も2,3発殴り返される」と思ったら、なかなか考えるんだね。これが大事なこと、2つ目。

「知らせる」事を怠った結果生じた、フォークランド紛争

麻生:それだけでいいかっていうと、ダメ。3つ目がいるんだ。力がある、且つそれを使うという意思もある、ということを相手に知らせておく、という義務があるんだな。それを怠ったらどうなるかというのは、多分、イギリスが一番いい例だと思います。

イギリスはマーガレット・サッチャーっていう人が総理大臣になった時に、一番最初に、経費削減のため航空母艦を廃艦にしました。で、南米・アルゼンチンの近くには、フォークランドってイギリス領の島があるんですが、当然のこととしてアルゼンチンは、「イギリスはフォークランドという島を守る気は無い」と判断した。だって航空母艦(を持つことを)やめたから。

それでアルゼンチンは一挙にぶわーんとフォークランドに兵隊さんをいれて、エラい騒ぎになって、イギリスは「お前にフォークランドをやる気はない」っていうんで、廃艦した航空母艦をもう1回たて直して、そこに兵隊さんを送って、夜中の2時に落下傘部隊を投入するってことをやって、血で血を洗う戦争をやって、結果としてフォークランドを取り返して、今もイギリス領になっているわけですけれども。これは、相手に「力を行使するという意思を持っている」ということを知らせておく、という義務を怠ったために起きた悲劇です。

従って、自衛隊っていう「力」はわかった。それを使うという国民的合意、そして相手に「お前、ほんとに乗り込んできたら、ちゃんと俺たちはやり返すよ」ということを知らせておく。この3つがないと、宝の持ち腐れ、税金の無駄遣い、単なるおもちゃの兵隊さんになっちゃうから。だからそこのところは頭によく入れておかないと。抑止力というけれども、その抑止力っていうのには3つある、ということを覚えておいてもらわないかんと。

勉強が出来ない、ケンカも弱い、だけど金持ちのせがれ、が一番イジメられる

麻生:なんとなく難しく聞こえるかもしれないけれども、簡単なことよ。子供の時を思い出してみて、一番わかり易いから。小学生くらいの時、学校で一番デカい面してたのはどんなヤツ? って。

ハッキリしてるだろ? 世界中同じ。ケンカの強いヤツよ。そうだったろうが。イジメたほうは忘れてるけれども、イジメられたほうは絶対覚えてるから。そういうもんですよ。デカい面してたケンカの強いヤツ。しかし教室の中ではね、やっぱりケンカが強いだけじゃダメ。教室の中では勉強の出来るヤツが先生からお気に召されてだな、学級委員だのクラス委員だのをやる。だから教室の中では、勉強の出来るヤツ。

じゃあ逆に、イジメられるのはどんなヤツかと言えばね、ケンカは弱い、勉強は出来ない、おまけに金が無いとなったら、これは無視だ。だけど勉強が出来ない、ケンカも弱い、だけど金持ちのせがれ、これが一番ヤラれる。わかる? 豪華な弁当持っていけば食われ、カッコいいシャープペンシル持っていけばカツアゲされ……。みんなやったかやられたか、あるだろ?

(会場笑)

イジメられる条件が揃っている国、日本

麻生:思い出してみなさい。世界中同じなんだって。これは世界中おんなじ。だから、ケンカが強いのは軍事力。勉強が出来る出来ないは、その国も文化水準と思えばいいよ。そして金がある無いは、その国の経済力。よーく考えてみて。……日本はどれに当たる?

(会場笑)

だからイジメられるのよ。おまけに顔の色も違うし。G8でもさ、日本は最初から、G7の頃からのチャーターメンバー(創設時からのメンバー)としているわけだろ? なんたってお金があるから、お金出してくれるから。こっちも「うーん、そんなにお困りなら」って言ってちゃんと金を、返ってくるアテもないのに出したりするじゃない。ダメなんだって。お金を貸すってのはね、皆さんも覚えておいたほうがいいけど、……これ以上言うと明日の新聞に載りそうで危ないんだけれども(笑)。

(会場笑)

お金を貸すっていう時はね、「取り返せる」っていうアテがある人じゃないとお金を貸しちゃダメなの。だからコレ(先ほどと同じ動作)が小口金融をやるってのは、正しいんだよあれは。無理にでも必ず取り返すから小口金融やってるんだから。だけど、ダンナが彼女に金を貸すなんてのは、無理。それは取り返せないから。ハナから「やる!」って思っておくほうが正しい。貸すと思っているからなんとなくいじましく思うんであって、発想を変えて最初から「やる!」と思ってれば気分も良いがな。向こうもね。

お金ってのはそういうもんだから、是非、こういったものを考えるときに……。「政治」とか「軍事力」とか「抑止力」とか、みんなエラくむずかーしく考えてこねくり回して、わかってない奴が新聞なんか書くもんだから、話がさらに難しくなって、わからない人がそれを読むもんだからもっとわからなくなって、話がいよいよ込み入っちゃうんだけど。

そんな難しい話でもなんでもない。簡単な話。さっきの学校の話が一番わかりやすい。あれを軍事力・経済力・文化水準と置き換えればいいだけの話なんであって、日本はそこそこ金はあるわけだから、残り2つをそこそこにしていかないと、世界の中で充分なものにならない。だけど日本には充分にその底力があるんだから。

(会場拍手)

マンガが日本の文化水準の高さを世界に知らしめている

麻生:だから今、我々はその方向で確実に進めています。そこそこケンカも弱いわけじゃないんだから、ちゃんと強くして。文化水準でいけば日本には立派な文化ってのがあるんだけど、その文化をお年寄りの方に聞くとすぐ「能だ、狂言だ」って言うけど、そんな自分でもわからないようなことを、外国人にわからせられるはずが無いだろうが(笑)。だったら分かりやすい話をしたほうがいいんで、そこで出てきたのがクールビズとかマンガとか、アニメーションとかJ-POPだコミックだなんてのが今いっぱい出てきたけど、これは世界中にウケたわけよ。

マンガってのをよーく見てみたらね、いくつかの(日本の)文化ってのは、マンガを通して伝わってるわけよ。例えば、世界で一番通用してる日本のマンガで、古いもんでいけば『ポケットモンスター』『ドラえもん』、最近でいけば『ワンピース』。洋服のワンピースじゃないよ?(笑) 少年ジャンプに連載してるやつ。あの話を見てご覧。ポケットモンスターってのは全然喋らないわけよね。分かる? 「ピカ」と「チュー」しか言わないんだから。

(会場笑)

「ピカ」と「チュー」しか言わないのにちゃんと通じる。言葉が通じなくてもちゃんと意思の疎通が出来る、という日本の「言わず語らず」とか「目は口ほどに物を言う」とか、英語に全然直らない(訳せない)あの単語が、マンガを読むと「はー、なるほど」とみんなに思わせる。それが文化ですよ。

『ドラえもん』、アストロボーイと称する『鉄腕アトム』。これも世界でエラいウケてるマンガですけれども、このマンガはハッキリしてて、ロボットは人間が困ったときに助けてくれる、っていうコンセプトを、手塚治虫と、それまた弟子の藤子・F・不二雄が、猫だか犬だかわからん「ドラえもん」なるものを作ってさ、タケコプターなんていい加減なものをいっぱい作ったわけですよ。これがやたらとウケるわけ。

とにかく子どもにしてみれば、「困ったときには助けてくれる」ってイメージを作ったわけ。だから世界の中で(日本は)ロボットが最も早く浸透したんだな。世界のロボットの75%は今、日本製だから。高専なんかがやってるロボット大会なんかでも、とてもじゃないけどついていけないスゴいのがいっぱい出てきましたよ。だからそういったもの。

もう1回、『ワンピース』。ワンピースはなんだって、キャラがいっぱいいてとてもわからないけど、あの麦わら帽のルフィが言ってるのはたったひとつでしょうが。「仲間はどんなことがあっても助ける」「困ったヤツは助ける」「弱い者いじめはしない」。もうまさに、日本人の「義理」と「人情」と「痩せ我慢」、これがそっくり『ワンピース』のなかに出てるんですよ。

(会場拍手)

だからそれが世界でウケてるんだから。ああいった日本の文化が薄く広く世界に浸透していって、やっぱり日本ってのはスゴい国だ、ってなってってるわけだから。だからそういったものに満々たる自信を持ってさ、大いに頑張ってもらわないかん。

国会答弁にタブレット端末を持ち込むと怒られる!?

麻生:最近の大人から見たら、せがれが何だかキーボードかちゃかちゃ叩いてワケのわからんことやってる、と思うかもしれないけれども、その機械が今はPCになってiPadになってiPad miniになって、そういうものがどんどん普及している。でも国会じゃ、ああいったもの(タブレット型端末)を持ち込むとガンガン言われるらしいけど……。

だってこの前、スマホ見ながら答弁に答えてたら「ふざけてる」って言われたけど、パソコン見て答えるのもスマホ見て答えるのも、みんな同じようなもんじゃないかと。こんな事言おうもんなら怒り出すおじさん達がいっぱいいるんだけど、俺はそのうちみんなアレになると思うよ。そういう時代に必ずなるって。お役人さんも厚い紙わざわざ持って行かなくてもいいんだもん。こうやって(スワイプする動作)捲ればどんどん出てくるんだから、質問がきたらパッとそれを調べて、読んでから喋ればそれで出来るんだもん。いいじゃないこれ、すごい便利なもんが出来たんだから。

だけどこれを扱えない人がほとんどだからね。扱えない人のほうが多い。そういった意味じゃ間違いなく時代は変わってきてるんで、是非そういったものが、皆さんの手を通じて……。このJ-NSC(自民党ネットサポーターズクラブ)っていうのは間違いなく、そういった事が分かる人たちが、インターネットっていうツールを使って、発信し、情報を交換し、コミュニケーションしてるわけだから。是非そういったものをもっと皆さんの手で広めてもらえることを心から期待をして、ご挨拶に代えたいと思います。宜しくお願いします。ありがとうございます。