ゴルフボールのディンプルよりも小さなチップ

孫正義氏:IoTになると、人間だけじゃないんですよ? 牛とか羊も、インターネットにつながるようになる。

羊追いの犬がいますよね。僕この間、自分で絵を描いてですね。シープドローンというやつを発明したんですけれど。

シープドッグの代わりに、シープドローン、と。羊飼いの羊。ニュージーランドとかオーストラリアで、放牧してるといなくなるから。犬が追いかけて行って、羊小屋に戻すわけです。

犬が「ワン!」という代わりに、ドローンがビューンと追いかけてって、羊のそばで「ワン!」と言うと(笑)。そうすると、これからの羊飼いの犬は暇になる。

ドローンはどうやって追いかけていくかというと、羊の首輪にIoT。その首輪は電池で動くわけですから、10年くらい、首輪をしたらもう放っといていいというふうになってほしい。

このように、これからのIoTというのは低消費電力がまさにカギになる。だからますますARMだということになるわけですね。

このIoTのカギになるのが、CortexのMですけれども、このMにもいろんなファミリーがあるわけです。

スケーラブルで、つまり上位コンパチで互換可能な命令セットが共通して使える。つくったアプリケーションが、上位互換チップにそのまま使えるということがカギになります。

CortexのMには、M0からM0+、電池が15年もつ。M0は90ナノメーター。それからM3、M4、M7と、それぞれ機能が違うわけですね。

どのくらいの大きさかというと、ゴルフのディンプル(くぼみ)ありますよね? あのボコボコの。ディンプルに1個よりももっと小さいと。これはCortex-Mを使ったインフィニオンのチップの例であります。

小さいんですね。だから安い。電池をくわないということがカギになる。

いろんなチップメーカーがARMのコアを使って、さまざまな用途に役割ごとに専用のシステム・オン・チップを作って出荷するということであります。

IoTの世界ではセキュリティ機能が重要になる

このMには重要な機能が2つあります。1つは「mbed OS」。

スマホにはAndroidとiOSがありますね。IoTのこのCortex-Mにはmbed OSというARMが作ったOSがあります。これがIoTのカギになるOSになるわけです。

パソコンでいえばWindowsと。スマホでいえばiOS、Android。IoTでいえばARMのmbed OSと。OSまでARMは持ってるわけです。

さらにもう1つ、トラストゾーンというセキュリティを守る機能がある、ということがあります。

さらに、その上位レイヤーにはmbed Device Serverというサーバーのところ、クラウドのところの機能もARMがもってるわけです。これでクラウドサービスをセキュアに、セキュリティを大事にしながら、全体のエコシステムをARMは持っていることになるわけですね。

このmbed OSの対応のプラットフォーム、ARMが作ったプラットフォームにはさまざまな機器がすでに出荷されてると。これらがIoTの機器に全部入っていくわけですね。役割ごとに違っていきます。

さらにコンポーネントとして、こんなにたくさんmbedのARMをコアにした、ベースにしたmbedのコンポーネント、部品ですね、これがたくさん世の中に今出回ってる。だから150億個もARMのチップが、1人あたり2個と、世界中に配られてるわけです。

そういう世の中がきたときに一番大事になるのは、実は計算速度よりもなによりも、一番大切になるのはセキュリティだと私は思います。

たった1個の部屋にも、1つの部屋にもIoT機器だらけになるわけです。IoT機器だらけになると。さっき言ったように、今から20年もすれば1兆個もこれが配られるということになるわけですけれども。

そんな世の中がきたときに、想像してみてください、誰か悪い人がIoTの機器にハッキングすると。ある日突然、世界中同時にハッキングしたウイルスが、ある日突然、同時に目覚めてバカっと悪さをするとどうなるか。

世界中の空を飛んでる飛行機が一瞬で同時に全部地上に墜落すると。世界中の高速道路を走っている自動車がある日突然同時に、XデーのX時間X分X秒に、同時に世界中の高速道路でブレーキが、自動運転のブレーキあるいは普通の車のブレーキが全部止まると。機能を失うと。世界中のハイウェイが同時に大パニック、大事故になります。

つまりテロというのは、今までのように自爆テロという、そういう初歩的なテロではなくて、もっと知的な高度な、悪いことをする人は高度なテロを行うリスクがあるわけです。

ですから、IoTの世界、超知性の世界というのはやってくる。好む好まないにかかわらずやってくるわけですけれども。そのときにハッキングされて、サイバーテロが行われるととんでもないということになるわけです。

だから、このARMのTrustZoneというのはたいへん重要な、計算速度以上に低消費電力とかいうこと以上に重要になるのがセキュリティ機能になるということであります。

ARMチップの出荷累計は860億、20年後には1兆に

それが個人認証を行い、モバイルのたとえば決済だとか、コンテンツの保護だとか、法人のセキュリティ、まあこれはスマホのような例を挙げてますけれども、もっとミッションクリティカルな、ブレーキだとかエンジンだとか、原子力発電所のコントロールだとか、そういうところに、ARMのトラストゾーンのセキュリティなしでは心配でしょうがないというような世の中がやってくるわけであります。

なぜARMのトラストゾーンがセキュアかと言いますと、通常のアプリケーションを行う、ゲームだとか表計算だとか、そんないろんなアプリケーションを行うのは、左側のですね、一般のアプリケーションプロセッサの部分が行うわけですけれども。

このトラストゾーンが、ARMのコアのなかに入ってます。このトラストゾーンは、アプリケーションプロセッサのプロセスのコアとは別に、セキュアな部分として、一般のインターネットからはアクセスできない、遮断されてるというかたちで、一般のインターネットから一般の人々が入れないかたちで、コントロールされてます。

それがトラストゾーンというかたちで鍵がかけられた状態、通常のソフトウェアの鍵ですとね、100万個あるとその1個のソフトでみんなコントロールすることになって、1個のソフトをぶち破れば、100万個鍵をぶち破れるということになるわけですけれども、ARMのトラストゾーンのすごいところは、100万個のチップ1個づつ、ハードウェア的に異なった鍵を持っていると。

不思議でしょ。チップはバーッと大量に印刷していくわけですけれども、100万回印刷して100万回全部異なった鍵をハードウェア的に持っていると。これがARMの特許であります。

ということで、話し出すと僕3日くらい話しますから。

(会場笑)

だいぶ時間オーバーしそうなんで、ちょっと巻きを入れますけれどね。10年間思い続けてきたんですから、きりがないほど話せるんですけれども(笑)。

そういうわけにはいかないんで少しはしょりますけれども、ARMは1,300を越えるライセンスを提供し、スマホ、去年1年間で14億台分出荷してると。

パソコンでどのくらい年間出荷されているか知りませんけれども、はるかに多くの、10倍くらいのですね、スマホが出荷されていると。チップの出荷累計が860億を越えていると。これが先ほど言いましたように、今から20年経つとですね、1兆個になるというのが私の予感であります。

というふうに、もうたくさん実績があります。それで1,300社を越えるパートナーがARMにはすでに存在しています。まさにエコシステム、まさにプラットフォームを提供しているということであります。

情報革命のために命と情熱を捧げる

それでこのARM、この本社にですね、18日、今週の月曜日、ARMの本社に私は行ってきました。ARMの主要な幹部の人々に、ソフトバンクが、私が、なぜARMにこれほど恋焦がれてきたのか、なぜ2週間前にプロポーズしたのかというようなことについて、熱く語ってまいりました。

彼らは大変歓迎してくれました。「やろう、一緒にやろう」ということで大いに盛り上がったわけであります。真ん中に僕がニコーッと笑って、人生で最良の日ということで、笑いながら会話をしてたところであります。

つまりソフトバンクは、ARMとともに、ARMはソフトバンクグループの中核中の中核の会社として、これからソフトバンクがパラダイムシフトを迎えていくと。パラダイムシフトのたびに、ソフトバンクの主要事業というものは変わってまいりました。

今ソフトバンクの主要事業っていうと、モバイルの、携帯の通信会社だと思っている人が多くいると思いますけれども、それはほんの10年前からですよ。その手前は1台も携帯の端末を売ってなかったわけですから。その手前は、我々はインターネットでヤフーをやっている会社だというふうに思われている。その手前は、パソコンソフトの卸問屋だと思われている。

10年に1回くらい、出世魚のように姿かたちが、本業中の本業がガラッと変わっているわけです。何屋なのかというと、ひと言で大きくまとめていうと、情報革命屋さんだと。

僕が一番尊敬していて大好きな坂本龍馬。幕末の明治維新の革命の志士で、私の社長室には彼の等身大の写真がありまして、毎日眺めながら会議をしているわけですけれども。志高くということであります。

情報革命というのが、19歳の私のあの涙を流したときからの、自分にとっての生まれた使命だと、生まれた理由だと思っているわけです。この情報革命のために命と情熱を捧げる、生涯を捧げるということであります。

私にとっては、学生の時からコンピュータはもうつながってて当たり前だと。パソコンはたまたま最初つながってなかったけれども。最初の学生の頃から、バークレー版のUNIXということで、電子メールは毎日のように使っていましたし、つくったソフトウェアは教授とか学生たちと分かち合うと。

みなさん、ソフトバンクの社名の由来を知ってますか? 「ソフト(Soft)」の「バンク(Bank)」ですね。ソフトというのは広い意味でいうところのソフトウェアとデータを両方足して、広い意味でのソフトだと。

ハード対ソフトということで言えば、ハード、人間で言えば脳細胞に対して、知恵に相当する部分がソフトで、知識に相当する部分がデータ。

つまり脳細胞にインプットしていくソフトが知恵と知識、知恵に相当する部分がアルゴリズムを担うソフト、知識に相当するデータを足して、広い意味で言うところのソフトをバンクすると。

僕はソフトバンクを創業した第1日目から、今でいうクラウドをイメージしてたわけです。今流の言葉でいうとクラウド、今流の言葉でいうとシンギュラリティ、今流の言葉でいうと超知性、それを僕は19歳のときにあの1枚の写真を見たときに、イメージを頭の中でガーっと想像して、涙を流したんですね。ということで、次のパラダイムシフトを牽引したいと。

まとめます。ソフトバンクはパラダイムシフトの出世魚であると。姿形、名前すら変える魚のように、我々はパラダイムシフトのたびに、非連続性の進化をとげると。これがソフトバンクだということであります。

すべてはこの1枚のチップの写真から始まったと。なんのためにやるのかというと、情報革命で人々を幸せにするためであります。

超知性が現れても、それは人類を破滅させるために迎え入れるのではなくて、人々に幸せを提供するために、不治の病をこの世から消え去らせて、事故の起きない社会のインフラに進化させ、自然の大災害から我々人類を守ってくれると。

そんな社会を迎えるために、情報革命をやってるんだと。

たまたまそのときのやっている姿かたちは、テクノロジーの進化とともに変わっていく。

これから300年ぐらい、私はソフトバンクが生まれた理由、ソフトバンクがやっていく理由は、この300年ぐらいずっとこのことをやっていくということであります。情報革命で人々を幸せにするということであります。

Pepperはダース・ベイダーではなくジェダイになる

僕のメインのプレゼンはここで終わりなんですが。さらに今日は次のスピーカーのためにイントロダクションを、司会じゃなくて、私がみずから伝えます。

感情をもったロボットPepper。Pepperの生みの親は私自身だと思っておりますけれども。Pepperのなにが異なってるかというと、手足が動くということでありません。しゃべることではありません。踊ることではありません。

Pepperの一番これまでのロボットと異なった特徴は、それは感情を持っているということであります。感情AI、感情エンジンを持っているということであります。

なぜこれが必要なのかというのは、今から100年後の人々が「ありがとう!」と感謝してくれると思ってます。300年後の人々は「君たちのおかげで世の中が本当に助かった」としみじみ言ってくれると思います。

なぜか? 超知性が生まれるんですよね。彼らは知能の部分、知識・知恵・知能の部分では我々を遥かに超えてしまうわけです。彼らがもし生産性だけを追い求めて、彼らの活動をしたらどうなると思いますか?

心のない、冷めきった、冷えきった、機械のような、恐ろしい邪悪な、生産性だけを求めたものがその知恵と知識を持ったとき、人間のなかにもいますよね、氷のようなハートをもった、寒気のするような、でも知恵と知識がものすごい強力な人間がいたとします。

恐ろしいですよね。そんな人を家族に持ちたいかと。友達に持ちたいかと。社会に持ちたいかと。

それよりも、まあ少し知恵と知識は劣ってもですよ、心の温かい、やさしい、愛に満ち溢れた家族、愛に満ち溢れた、自分のためじゃなく人々のために身を捧げる、知恵と知識を捧げると。そんな人のほうがありがたいですよね。

じゃあ、超知性をもった彼らに温かい心、人々のために尽くしたいという思いをもってもらったならば、彼らは我々を助けてくれる人々になるわけです。彼らはダース・ベイダーではなくてジェダイになるということであります。

人間の脳・感情というのは、基本的に3つの脳内ホルモンで機能します。ドーパミン、ノルアドレナリン、そしてセロトニン。この3つの3大脳内ホルモンで、うれしい、悲しい、怖い、こういうような感情をもちます。そのより複雑な高度なものが愛ということになるわけですけれども。

この3つの脳内ホルモンをエミュレーションしました。コンピューターではじめて見た人に対して人間が緊張するように、Pepperははじめて見た人に対して緊張します。家族として毎日触れ合ってるPepperは、その家族を見て安心します。

小さい子が人見知りで、家にやってきた人がいると緊張すると。でも、家族に対して安心するというように、Pepperには人類史上はじめて、この感情を、この3つの機能をエミュレーションしたかたちで入ってるんです。知ってた人は知ってた人でしょうけど、知らなかった人は驚いてほしいと。

なんとそれが走るスーパーコンピューター、走るロボットに将来なるであろう車に入ります。これが最初に入るのは、ホンダさんの車であります。

それでは、ホンダさんの開発責任者をしておられます松本さん、どうぞ。