日本政府から外国メディアに対する圧力はあったのか
記者1:シンフリードニーデルと申します。オーストリアの新聞記者です。今回の訪日の中で、外国メディアに対する圧力についてお話はありましたでしょうか? 中でも、外務省からの圧力ですね。外務省からの歴史問題についての外国メディアに対する圧力についてのお話はありましたでしょうか?
昨年なんですけれども、ドイツの記者が外務省から非常に強い圧力がかけられたという例がありましたので、それについてお話はありましたでしょうか?
デビット・ケイ氏(以下、デビット):正直に言いますと、今回の訪日においては、そういった話について聞くことは、ほとんどありませんでした。
1つあったとすると、政府から外国メディアが、記者クラブの制度から排除されているというようなことについての話はありました。そのような排除が理由で、外国メディアとしての役割を果たすことが難しくなってきているというような話はありました。
経済界においてもオープンになってきている傾向があるというような話も聞きました。しかし、具体的に外国メディアに関する圧力などの話はありました。私たちの包括としては、日本のメディア、そして日本のメディアについての独立の話が主なテーマでした。
今回のドイツの例については、以前、聞くことはありまして、それについて外国メディアがどういう報道をしているかについても、来日する前からいろいろと調査させていただいているんですけども、今回の訪日の間では、そのような具体的な話はほとんどありませんでした。
憲法21条は日本国民が誇りを持つべき条文
記者2:神保と申します。1つ質問がございます。自民党の会見提案書についてなんですけれども、このようなことを検討する時間はあったでしょうか? これについてのご意見を伺いたいと思います。
自民党の、会見のための提案書がありますね。その中で、やはり憲法21条(注:集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密)の改正についても触れられています。表現の自由について、これが今後も担保されるのであれば、むしろ1つ条文を21条に足したいと、「公益を害するものでなければ」という但し書きを最後に追加したいわけですよね。それが会見の提案書の内容となっています。
日本のメディアと政府の関係やその仕組みをご覧になったわけですけれども、どういう影響があると思いますか? これから選挙があります。このような会見がなされ、実際に施行されるということが、本当に現実的な可能性としてあるわけです。もし、憲法改正が21条におよんだ場合には、どのようにお考えでしょうか?
デビッド:これについては時間を割きました。まずは我々が、自民党からの憲法改正提案書を読んで、勉強させていただきました。私の理解では、たしかに21条の改正は入っていました。
その改正は、「公益、あるいは公共の秩序を害するようなことであれば、それは上記の限りではない」と書いてあります。これが3つ目のポイントとして追加されるわけですけれども、これが採択される可能性は非常に低いと思っております。
なぜかと言うと、憲法を改正するためのプロセスが非常に複雑であろうと思うからです。ですから、憲法改正がなされる可能性は低いと思います。
憲法21条は日本の国民のみなさまが誇りを持つべき条文だと思っています。とくに法律として、それだけでなく、この憲法21条があることによって、表現の自由という今の環境を作り上げることができたというこの事実をまず誇りに思うべきだと思うんです。
ですから、このような素晴らしい憲法21条を改正しようというのは、非常に大きな問題になると思います。また、一貫性がなくなるということがあります。
多様な意見を許容する社会を作るべき
デビッド:つまり、市民的及び政治的権利に関する国際規約19条(注:意見を持つ権利・表現の自由)で日本が批准したことに反対してしまうということになります。矛盾が起きるわけです。すべてのものはあらゆる種類の情報、考えをまとめ受け、伝える権利を有すると書いてあるわけですから、そこに、「ただし、公益の害にならないのであれば」なんて書いてしまうと、矛盾が起きるわけです。
ですから、これは理論的にも脅威がありますし、理論的だけではなく、たとえば発言の自由といったことを弱体化させる懸念があると思っております。公共の場におけるデモ活動とか、とくに公益の秩序という、こういった言葉が条文に入ってしまうと非常に私は強い懸念を感じます。このようなことが含まれるのであれば、政治的キャンペーンにおいても大問題です。
つまり、ICCPR、市民的及び政治的権利における国際規約の19条によって、政府が、政治的キャンペーンに対する制約をかけるということにおいては、非常に厳しい条文を書いているわけです。なので、日本国憲法第21条が改正されてしまうと、政治的キャンペーンに対して政府が制約をかけるということがより強力になってしまうのではないかと懸念します。
実際にあるべき姿は、その逆です。政治的キャンペーンにおける政治の圧力は、緩和するべきであって、多様な意見を許容する社会を作るべきです。政治的にもいろんな意見があるわけですけど、特に選挙のときにおいても、政治的キャンペーン、発言の自由というというのは、むしろこのときに奨励されるべきものであります。
政治的な議論を行い、政治的な方針が変わることによって、日本社会がどうなるのかということをしっかり議論するべきときであるからです。
経営者や編集者から受けた意見
記者3:ドイツのDPA(ドイツ通信社)の記者です。本日はありがとうございます。1つ短い質問をさせていただきたいと思います。本日、多くのジャーナリストの間に懸念があったという報告があったんですけれども、編集者ですとか、経営者と話をする機会はありましたでしょうか? 現場からの懸念について話す機会はありましたでしょうか?
デビッド:そうですね。私たちの対談者としては、現場のジャーナリストのみではありませんでした。それ以外にも、編集者、出版社、経営者、そしてNHKの理事会ではないのですが、高官の方とお話する機会がありました。
現場からの意見とは異なるものがほとんどで、普遍的なものではなく、多様な意見があったんですけれども、そういった懸念があったのは、主に現場のジャーナリストからの懸念でした。経営者、または編集者からは少し異なった視点もありました。
しかし、経営者の中でも、ある意味、違和感というようなことがあったんですね。例えば、高市大臣の発言に関して、もうひとつ例を申し上げますと、数年前、NHKの会長の籾井(勝人)さんがある発言をされたんですけど、たとえば国際的な放送の中では、メディアやNHKは、たとえば「政府が右をいうなら、NHKは左というのはあってはならないこと」だという発言があったと聞いております。
そのようなことを現場のジャーナリストからだけではなくて、経営者または編集者からも、違和感のようなものを感じることがあると聞きました。ですので、こういったことからも、意見の多様性というのがあると思います。
司会:私たちもいつも聞こうとしていながら、なかなか答えを得ることができないんですけれども、経営者などが記者クラブを、なぜオープンにしないのかについて、お話はありましたでしょうか?
デビッド:いえ、オープンにしないについての理由などの説明はありませんでした。
記者クラブ制度は廃止すべき
記者4:マーティン・フリッツと申します。関連の質問です。すみません、またドイツからの質問なんですけど。記者クラブについての質問を、私もちょうどしようとしておりました。
放送法のこと、そして、ジャーナリストの組織を作ることを提言されていますが、記者クラブそのものが政府との密着、ある意味自粛などの原因のひとつになると思うのですが、記者クラブそのものの廃止は提言されないのでしょうか? それについてぜひ教えてください。
デビッド:記者クラブ制度ですが、それは廃止すべきだと思います。本日配布させていただいている長い文書の中には、それについて言及しています。記者クラブの制度というのは、アクセスを制限するツールになってしまっていると思います。
記者クラブに参加されている人たち、そしてその外にいる人たちと話をしてきたわけですが、私の理解ですと、ある意味、アクセスジャーナリズム(注:権力から情報をリークしてもらう見返りに、権力に都合の悪いことは書けなくなること)を促進しているような構造になってしまっていると思います。調査ジャーナリズムを制限されてしまっていると思います。
ですので、メディアの独立を、ある意味、妨害していることになっていると思います。神保さんの質問に対して、記者クラブについてお話しようと思っていたことなんですけれども、記者クラブ制度そのものが、大手のメディア、そして政府がその制度を都合がいいと思っているんですね。
記者クラブに入っている人たちは、いつでも記者会見に行ったときに、すぐに質問に答えてもらうこともできますし、そういったような関係があります。また、ある意味ではオフレコの制度があるというふうにも聞いております。
大臣などとの話が定期的にオフレコで行われていると聞いています。もう少しオープンなかたちでディスカッションになっていると思うんですけれども、それへのアクセスがほとんど限られてしまっているということがあると思います。
オフレコからのメモですとか、議事録などがメディアのある部分の人たちには回されているんですけれども、それはオープンにはされていないということがあると聞いています。
ですので、メディアがその記者クラブの中で、どういうふうに動くのかというのが、残念ながら情報へのアクセスを弱体化していると思います。そして、日本の市民の情報へのアクセスですね。政府が何をしているのか、どういうふうに情報を入手できるのかということについても、市民の知る権利を制限されていると思います。
日本はインターネットにおける表現の自由のリーダー
記者5:松島佳子と申します。神奈川新聞です。すみません、質問は日本語で失礼します。2つ質問がございます。1つ目は、あらためて、なぜ日本を調査されたのかということをお伺いしたいと思います。表現の自由に関する特別報告者が日本を調査するのは、初めてとお伺いしました。
日本の政府の招待があったということですが、調査すべきことがないと判断した場合には、来日は実現しなかったと思います。そういう意味で、なぜ、日本を調査する必要があると思ったかということをお伺いできればと思います。
もう1点は、先週、日本に来日した直後に、報道の自由については、「まだオープンマインドだ」ということをおっしゃっていました。「いろいろな情報は聞いているけれども、これから調査をする段階なので、まだ何も答えられない」とおっしゃっていましたが、調査をしたあとと調査をする前とでは、報道の自由に関する印象というか、考えというのは何か変わりましたでしょうか?
以上2点、よろしくお願いします。
デビッド:ご質問ありがとうございます。最初のご質問は、基本的に、なぜ日本がターゲットになったのかということですね。日本が調査の対象になったというのは、狙ったということではないのですが、過去数年において、日本における表現の自由に関するトピックがいくつか出てきたからです。
報道の自由、そして私が出しましたこの予備レポートに書いてあるいくつかのトピックが、1つのホットトピックとして、日本で浮上していた。とくに、オンラインの自由について、インターネットにおいて検閲がほとんどないということ、インターネットの浸透率ということを考えますと、日本が表現の自由に関して問題のある国だということを一般的に言うつもりはなく、インターネットにおける自由度を考えると、1つのモデル国であるということも言えるわけです。
ですから、こういった良いところ、それから議論になっているところを含め、日本を調査したいと考えました。
今、世界を見ていきますと、オンラインにおける制約や検閲がますます強化されている時代なんです。そのような時代の中で、日本は、インターネットの自由がかなり確保されています。
これは、とてもいいところであり、日本政府に対しては、リーダーになっていただきたいと、私は奨励したいと考えています。インターネットにおける表現の自由のリーダーであると考えていただきたいと思います。
もちろん、なんらかの制約がインターネットにはあるわけですが、国別の比較をすると、日本は、自由度という意味で、非常に優位に立っています。
特定秘密保護法もふくめて多くの改善の余地がある
2つ目のポイントですが、「今はまだオープンマインドで結論は結ばないということを言った、でも印象はどうなのか」ということについてなんですけれども、1つポジティブな面として申し上げますと、インターネットの自由度、アクセスの度合いについては、ポジティブな話です。いい事実を確認することができました。
日本インターネットプロバイダー協会のみなさんにもお会いしたんですけれども、やはり検閲とか制約といったことは懸念ではありませんと、むしろ技術的なことが心配事でありますと。ブロードバンドのアクセスをみなさんに届けるにはどうしたらいいとか、そういったことが懸念であると。
あるいは、盗聴に関する法律が変わってしまったら、インターネットの自由度、オンラインセキュリティが担保されるのかといった議論は上がっていました。
政府のサイバーセキュリティ担当者にもお会いする機会がありましたが、彼らもやはりサイバーセキュリティはインフラのセキュリティであると言っていました。また、個人のオンラインにおけるセキュリティでもあると、我々のコミュニケーションのセキュリティでもあると考えていらっしゃったわけです。
これはポジティブな面でありまして、オンラインにおいては、本当に日本は、かなり重要な施作を実行している、現実にはそういったものがあるということを確認することができました。あとは、法律面でしっかりとインフラを設けて、この自由度が今後も持続されることを確認していただきたいと考えております。
メディアの独立性については、たしかにオープンマインドで来日しました。もちろん事前に宿題はやっていました。事前調査を行っていたので、白紙の頭の状態で来日したわけではありません。しかし、考え方としてはオープンなマインドでみなさんに話を聞いたわけです。聞いた結果、私の懸念は、より強くなりました。
ジャーナリストのみなさまとお話をし、日に日に、圧力を感じていますというような意見を聞きましたので。コントロール・圧力・制約・検閲といったこと、こういったことは、法律で明確に明文化されているものは何一つないのですけれども、実際に変えていただかなければならないことはたくさんあると考えています。
具体的な事例を取ってしても、日本の法律、日本の政府は、いろんなことを変えていくことができると思います。たとえば、放送法を変えるとか、こういったことをやるために、もちろん票を取らなければいけないので、プロセスが簡単とは言いません。
しかし、特定秘密保護法もそうです。かなり多くの改善の余地があると考えています。「公益、あるいは、公共の秩序を害する情報はこの限りではないです」とか、そう言った条文については、かなり改善の余地があると考えています。
このような考えは、この1週間日本で過ごしたことによって建設された考えであります。こういった分野においては、日本は具体的な確固たるステップをとって、メディアの独立性をより強化する必要があると考えました。