ログミーをつくったのは「メディアに疲れた」から

司会:まず自己紹介をお願いします。

川原崎晋裕(以下、川原崎):ログミー代表のかわぱらです、よろしくお願いします。

米村智水(以下、米村)KAI-YOU代表の米村智水と申します。「わいがちゃんよねや」っていう名前でTwitterしてます。よろしくお願いします。

司会:タイトルは「メディア立ち上げのきっかけ」というところでお聞きしていきたいと思います。まず最初のテーマは「なんでメディアをつくったんですか?」

川原崎:メディア疲れ……メディアをやりたくなかったからですね。僕はサイゾーというところにいて、6年くらいで15個くらいメディアとかサービスとかつくったんですよ。芸能系、女性向け、ビジネス系とかいろいろやったんですけど、PV追うのに疲れたっていうのと。

あとは、こっちはまじめに取材とかしてるのに、テレビ見て書き起こしただけみたいな記事がバズってたりとか、同じネタでこっちが先に記事出してるのに、Yah●●さんが出資している某社さんのネタのほうがヤフトピに取り上げられたりとか。

ほんとメディアの世界ってクソだな、もう絶対に嫌だなって。起業はしたいけど、メディアだけは絶対やるもんかって思ってたんですけど、ふと、"編集しないメディア"をつくってみたらおもしろいんじゃないかと思いついて。

全文書き起こしってまあ・・・書き起こしなんですよね。読みやすいように加工はしてるんですけど、基本的に編集はしないっていうのが書き起こしであって、編集しなくても、編集してあるレベルの低い記事には勝てるんじゃないかと思ってつくったのが、ログミーです。

それで、ただの書き起こしなのに思ったより読まれちゃってですね。それがおもしろいなーと思いました。

司会:ログミーさんって立ち上がってどれくらい立つんですかね?

川原崎:正式にやり始めてからは、もうすぐ2年くらいですね。

司会:あ、でもまだ2年なんですね。もっと長いと思ってた。じゃあ次、KAI-YOUさんのほう。

メディアは新規参入がラク

米村:もともとKAI-YOUっていう会社を2011年につくったんですが、その前に、学生のころから『界遊』という雑誌を有志でつくっていて、そのチームが母体になっています。創業して2年位経ってからメディアをリリースしたんですけど、それまでは自社サービスをつくりながら、デザインや開発とかの受託制作をしていました。

もともとやりたかったのが雑誌とかWebとかメディアだったのでつくった、というのと、これは至極個人的な感情ですが、その受託の制作案件が僕の能力の低さや性格も相まってあまりにもつらすぎてもう絶対にやりたくなかったから、という部分も大きいです。ほかの社員はそんなこと考えてないと思いますが。

メディアって一言で言ってもSNSやアプリなどいろいろ考えられますが、どうしていわゆる「Webメディア」にしたのかは、新規参入が圧倒的にラクそうだなと思ったこともあります。SNSとかゲームとか検索エンジンとか、そういうのをつくるのは技術的に凄まじいエンジニアやめちゃくちゃ頭のよい人たちがやることであって、文系出身の僕らにはさすがに厳しいっていうところを理解していました。

最近みんな、ビジネスやIT界隈の人もWebメディア、Webメディアって囃し立てるんですけど、言ってしまえば、システムだけ取ってみればただのブログじゃないですか、Webメディアなんて。だから楽勝だなーと思っていました(笑)。

司会:実際作ってみて、本当に楽勝でした?

米村:実際に作るのは、それまでこっそり作っていたいくつかのサービスに比べれば圧倒的に簡単でしたね。ただ、続けていくっていうのが難しいビジネスだなと思います。最近も新しいのがポコポコとリリースされていいますが、だいたいなくなっていっちゃう。僕らもまだ2年とかですが、続いてるほうに入ってきているのがびっくりだなーという感じですね。

司会:ローテーション速いですよね。あっというまに。

米村:そうそう、名前とか覚えられない間になくなっていったり……。なくなってもまったく話題にならなかったりとか普通ですよね。そういう世界なんだとと思います。参入は楽ですが、継続と成功は難しい。川原崎さんの言うように、尋常ではなく疲れますし。

司会:ちなみに、次にメディアを作るってことは考えてないですか?

川原崎:絶対にないですね。

司会:それくらいメディアに疲れたと(笑)。

川原崎:ああでも、最近良くなってきたなと思って。本当にPVの価値が限りなく減ってきているので、ちゃんとやってるところが生き残るようになってきてるし、バイラルメディアみたいなお互いにコンテンツをコピペしまくって、アドネットワーク貼って儲けてるようなメディアが、アドブロックとかの技術で儲けられなくなってくると思うので。

純広告とるとか課金するしかなくなってくるんですよね、そうなると。ブランドつくって。そうするとだいぶ淘汰されていくと思うので、またちょっとおもしろくなってくるんじゃないかと思っています。

司会:なるほど。僕らも淘汰されないようにがんばりましょう(笑)。これメディアの会なんで、次来てなかったらなくなってるってことですからね。僕らも人ごとじゃないですね。

書き起こしを"コンテンツ"にするための試行錯誤

司会:では次、「立ち上げの際に苦労したこと」。

司会:5万字?

川原崎:これはマジでつらいんですよ。2時間のイベントやると、だいたい5万字とかになるんですね。

これ立ち上げた時、もともとクラウドソーシングが流行り始めた時代で、そこに全部投げて書き起こせば簡単なんじゃないかと思って始めたんですよ。

で、文字起こし自体は、日本語わかる人なら誰でもできるので、それなりにできるんですけど、文字起こししただけのテキストって、めちゃくちゃ読みづらくてですね。

人って、文法通りにしゃべれないんですよ。何言ってるのかマジでわからない。それが5万字あるわけですね。これ直してるだけで1日終わっちゃうんですよ。

これどうしたものかと思って。しかも5万字の原稿なんて誰も読まないし。それで、書き起こしというものが、どうやったら読まれるのか。どうやったらコスト低く、速くつくれるのか、というのをこの2年くらいずーっと研究していて。

今だんだん最適なカタチに近づいてきているんですけれど、まだまだ改良の余地はあるなと思っています。

最初のころは、勤めながらやってたんで、週に1本つくるのが限界でしたね。でもいまは仲間も増えて、1日20本くらいつくれるようになりました。

司会:イベントには全部行ってるんですか?

川原崎:そのへんも工夫のしどころで、YouTubeの動画チャンネルやってるところとかと契約して、撮影にいかなくてもすむようにしたり、イベントであれば、動画だけ先方で撮ってもらって送ってもらったり。

司会:なるほど、いろいろと工夫がみられますね。次は米村さん。

編集者のITリテラシー問題

米村:はい、立ち上げの際に苦労したことは、今もそうなんですけど、どういう記事をつくっていくのか、どういう方針でやっていくのかを決めるのが……。外側をつくるのは、ブログなんで、さっきも言ったように今流行ってるような多くのWebサービスに比べて簡単なんですけど。こだわらなければTumblrでもよいと思いますし。

あとログミーさんみたいに、コンセプトが誰に話してもわかりやすければいいんですけど、うちはノンジャンルのメディアなんで。アニメも音楽も、芸能とか、情報化社会のうんたらみたいなことも扱いますし、テーマに掲げている「ポップ」の分かりづらさとか……。そういういろんな題材を扱うなかで記事のトンマナとか揃えていくのが大変でした。なにが正解か最初のうちはまったくわからなくて、試行錯誤していきましたね。1年くらいずっと収益化しませんでしたし。

司会:「ITリテラシーの共有と向上」って、これみんな気になってると思うんですが。

米村:そもそも編集やりたいとか文章書きたいとかいう人って、別にインターネットが好きじゃなかったりする……。本とか雑誌がすごい好きだったり。うちにもよく来るんですけど、出版社に入りたい、みたいな。でもうち出版社じゃないし、みたいな(笑)。

そこですごい乖離してるんですよね。編集志望の人のWebメディアへのイメージというか。これまでの出版業とは全然違った能力や知識が必要になるので。

HTMLやSEOの能力とか知識とか身につけていないとまず、文章が書けませんし。KAI-YOUはちゃんと社内にもデザイナーやエンジニアもいますし、社内で勉強会を開いたりとかもします。あとは「この記事読んどけよ」みたいなことだったりとか、そういうコミュニケーションは時間をかけてやっています。

当たり前なんですが、IT企業なんです。メディアを事業にしている会社って。元々ITの会社がWebメディア始めるっていうのはすごいやりやすいと思うし、伸びると思うんですけど、元々ITをやっていないところがWebメディア立ち上げますってなっても、どうしても伸びてない印象が強いですね。多くのオウンドメディアもその点で苦労していると思います。

「1日1000ログつくりたい」

司会:では3つ目。今後やりたいことを教えてください。

司会:1日1000ログ(笑)。

川原崎:1000ログくらいはつくりたいんですよね……。記事じゃなくてログなので。企画モノもちょいちょいやってるんですけど、基本的に企画部分がないので、それなら1000ログくらいつくりたいなという気持ちはあったりしますね。

司会:企画モノってどういうイメージですか?

川原崎:普通にインタビューもやりますし。企画書書いて。あとは、ログミーティングっていうヘンなのも昔やってことがあって。

ログミーティングのログ一覧

たとえばpixivの片桐くんのとことかに僕が遊びに行って、20分くらい雑談して、それ書き起こすだけで5000字くらいの原稿になったりするんですよ。

書き起こしだから、構成とか入れ替えられないんですよね。これはポリシーにしていて。だから、言った順番で書き起こされちゃうので、すごい考えながらしゃべらなきゃいけないから結構難しいんですけど。

20分しゃべるだけでコンテンツになるんですよね。これ(このイベント)もコンテンツになるし、みんなが会議している様子を書き起こすだけでもコンテンツになるし。

僕がいちばんやりたいのはですね、スタバと契約して、スタバのテーブルの裏にテレコ(テープレコーダー)を仕込んで、ガールズトークとか不倫話を全部書き起こすっていう(笑)。これが僕が最終的に目指していることです。

米村:飲み会の話とかもいいですよね。

川原崎:いいですよねー。だれか書き起こして投稿してくれないかな。

司会:いまのはみんなから共感が……。読みたいですよねすごく。

川原崎:そうなんですよ。ヘタな企画考えるくらいだったら、そのへんの人がしゃべってる内容のほうがずっとおもしろいんで。

カルチャー業界はとにかくお金がない

司会:KAI-YOUさんは、「カルチャー系アドネットワーク」?

米村:はい、KAI-YOU.netっていうのは、カルチャー系のメディアなんですよ。アニメとか音楽とか、そういう業界でいろいろやってるんですけど。とにかくエンタメ、カルチャー業界って異様に金がないんですよね。

コンテンツ産業って全然儲かってなくて。だから媒体の規模のわりに、広告の値段もすごい安いんですよ。うちの媒体資料、あとで名刺いただいた人に送らせていただくので、ぜひ出稿していただきたいです、安いんで(笑)。

司会:あと、「ユーザー系機能」?

米村:カルチャー系のWebメディアっていうのが実は少なくて。あとはだいたい2ちゃんまとめとかになっちゃうんですけど。しかもいくつかあるカルチャー系のメディアってPVやUUもだいたい横ばいなんですよ。もちろんナタリーさんは飛び抜けていたりするんですけど。

業界が近しいから純広告もクライアントの取り合いとかがあったり。あと記事広告ばかりで、バナーが全然出なかったりするんですよね。そこで、安価なカルチャー系特化のアドネットワークつくって、レコード会社の人とかに営業して。カルチャー系のメディアで連携して、バナーが簡単に出せるよー、みたいなことをやろうと思ったりしています。

ユーザー系機能の拡充っていうのは、人力で記事を書いて編集する以上、Webメディアというサービスで今よりスケールしていくのが結構難しいなと考えていまして。情報発信に前のめりなユーザーや意識の高いユーザーを巻き込んで、その人たちもある程度コンテンツだったり編集の方向性に関与できるようなものを、もっとやっていきたいなと思っています。

司会:はい、というところでお時間になりました。おふたりありがとうございました。