ウン億円の借金を背負って自社を買収

小林雅(以下、小林):では若手の平尾さん、お願いします。

平尾丈(以下、平尾):みなさんこんにちは。「愛情・友情・平尾丈」……ウケ悪いですね、ホームでは。これけっこう、他の起業家の方にはバカウケなんですけど。学生の方、まだ心開いてない感じなので、だんだん柔らかくしていきたいと思っております。

今回のお二方とちょっと違うのは、三人とも環境情報学部なんですが、私だけ本当は総合政策学部に転部しようかなと思ったんです。でもそこはSFCらしく、環境情報学部のクラスター科目を前半で終わらせて、それからフル単以上に授業を聞いて、総合政策寄りにチェンジしながら、起業活動をやっておりました。

なので実は、ITの事業で二回とも起業したんですが、アイスクリーム屋さんでちょっと修行したりとか、飲食をやったりとかですね、当時我々の間では人材派遣とかブームだったので、人材ビジネスもやってみたりとか、数多くのビジネスの経験があります。つまりそれだけ失敗しているという形でございまして。

その後、学生起業家のままリクルートという会社に入れていただいて、リクルートの競合事業をやったまま入れていただくという懐の深い会社だったんですが。私が23歳、1年目の時に、とある上場企業とジョイントベンチャーをやれとお達しがきまして。

23で取締役になって、25で社長をやらせて頂いて。やっぱり自分でやったほうがうまくいくんじゃないか、とかいろんなことを考えながら、27の時にウン億円の借金を背負ってこの会社をMBOしました。そして30の時に上場、とやらせていただいております。

平尾:今日はお二方からも素晴らしくクリエイティブなお話をいっぱいいただけると思うんですが、私のほうは立場が三つあるんです。

まず学生起業家、これ、アイス屋さんのときのでもいいんですが、できればITの話もちょっと欲しいですよね?(笑)。ITの話もある学生起業家、そしてリクルートに入ってから、これはアントレプレナーでもあるけどもどっちかというとイントレプレナー、企業内起業家って感じに。しかもジョイントベンチャー。けっこう難しいですよ、ジョイントベンチャー。

これをやらせていただいて、独立して、借金いつ返したのとか生々しい話もあるんですが、まあ上場まで持って行ったぞ、というお話をですね、今日はアシュラマンのようにですね……、アシュラマンってもう刺さらないですか? 『キン肉マン』世代いないんですからね。顔が三つある感じでやらせて頂ければと思います。みなさん学生が多いということなんですが、起業志望の方、お金ないですよね。優秀な方は優秀なベンチャーキャピタルの方に投資していただいて。

ただ、時間があるならバイトやったほうがいいですよ。いろんなアルバイトのサイト、フロムエーとかanさんとかいろんないいサービスいっぱいあります。使ってください。でも、一括で全部検索ができて一括で全部応募ができたらもっと便利じゃないですかね、そんなサービスないかな? あるんですね、「アルバイトEX」。ご存知の方、ご存じない方もさっそくアクセスして、興味のあるバイトに応募してみてください、という形です。

スキルは陳腐化しても、キャリアは陳腐化しない

平尾:SFCの時、研究会は、実は環境情報学部ではなく、どちらかというと総合政策寄りのほうにチェンジしていきました。当時自分も環境情報学部でプログラミングのコードとか書いていたんですけれど、高橋俊介さんの授業でキャリアとスキルについてのお話がありまして、「スキルは陳腐化するけれどもキャリアは陳腐化しない」ということに衝撃を受けたんですね。

なるほどな、特にテクニカルスキルだけでやっていくのもなかなかキツいんだな、と思いまして。そこから問題解決能力とか、飛び込んで営業する能力とかを身につけていきたいと思いまして、ゼミをトリプルブッキング体制にしました。

こんなこともあるんで結婚できないのかなと思っておりますが。そんな顔を持ちながら、一方でSFCのキャンパスまですごく遠いので、一限だけ学校行きながら昼はずーっと営業活動やって……。実は起業家になろうと思って入ったんですが、やっぱりこの遠さにもう一回参ってしまって。

遠すぎだなとか、東京者からすると、キャンパスなんか豚くさいなとか、いろんなことを考えて。男子校に六年通っていたので、周りの友だちはみんな予備校わっしょい、みたいな。女の子もいるし。こっちには鴨池(SFC内の緑地)もあるけど、周りみんな、ジャージの子しかいないですよ。

そんなふうにいろいろなことを感じながら、やっぱりロールモデルを探そうと思いまして、"一万人に会おう計画"というのをやりました。言える範囲でお答えします。

たとえば新橋の駅前とかで「社長ー!」って絶叫するわけですよ。この季節(4月)はもうだめです。2月3月あたりだと社長さんは切羽詰まってますから、だいたい五人くらい振り返ります。そこでフットインして、「どんな仕事しているんですか?」みたいなね。そんなことをやってました。

でもやっぱり、お金が足りないのですよね。お金集めは、賞金で稼いでください。学生時代、ビジネスコンテストで数百万円のお金をもらいました。

で、就活生のSNS作ったりとか結構起業の真似事している時と、今とで違って来ているのが、自分の中で情報に対してすごいセンシティブになりました。

今の興味テーマはですね、すごい情報社会じゃないですか。情報が溢れてきて、みなさんいろんな情報が聞けると思います。でも増えてきたときに、それがデフレしない。そんな時代になったらいいなというのが自分のテーマでして、そこが学生時代、リクルート時代、そして今と変わらずにいろいろやらせていただいております。

イントレプレナーのところは途中で話題を振っていただいても結構ですし、結構板挟みにあったり、「うわ、こんなに言ってること違うんですか」とか、両方二枚舌でやってたりとかの経験もあるので、いろんなことを聞いてください。

"カッコいい大人"とは、実行力を持って主体的にやる人

平尾:最初にここに登壇した時には、何かかっこいいこと言いたいな、と思っておったんですけれども、今のみなさんみたいに「社会を変えよう」とかいうのは、今でこそあるんですが、起業家になろうと思った当時はそんなのなくて、「かっこいい大人って誰か」っていうところからここへ絞っていきました。

やっぱり一万人くらいに会うと、カッコいい大人とカッコよくない大人がいまして、一番かっこいいのが、何か問題が起こった時に「火事だーっ」って言う方、ではなくて、何も言わずにして火を消している、そんな大人がかっこいいと思って。

そこからシフトしていきまして、名だたる方の、堀江さんがロン毛とか(上部画像参照)すごいタイミングだったんですけれども、今のIT第一世代・第二世代の方を拝見しながら進んでいきました。当時だとベンチャー三銃士のHISの澤田さんとか、ソフトバンクの孫さんとか、もしくはここへ載ってらっしゃるパソナの南部さんとか。

いろんなことを実行力を持って主体的にやってる大人かっけーな、と、そこから入って行きました。

三回目の、今の「じげん」の起業っていうのは全然違っていて、親父が死んだりとかいろいろあって、人って死んで行くんだな、とか、自らの力で変えていくことの価値っていうのを追求したいとか、人生の中での社会への還元とか、起業家が社会を変革していくんだ、ってところから今やらせていただいております。

千葉さんのところは東証一部なんで、マザーズは私にお任せくださいっていうところですが、「じげん」という会社はですね、"OVER the DIMENSION !"という経営理念を持っておりまして、次元を超える会社を目指しております。

さっきの生活プラットフォームはその一つでして、例えばエイプリルフールの日に証券会社の名前を「よじげん」にして、みなさんに「本当かよ」とタレこみいただいたんですが。

証券会社を買収しましたし、インターネットを使いながら、みなさんのいろんなチャンスを広げていきたいなと思っておりまして、そういった社会的な事業を複数やらせていただこうという会社でございます。

私自身が個人として貴重な経験をさせていただいたと思っておりまして、特にリクルートにも二年くらいしかいなかったんですが、最年少でやらせていただいた重責だとか、いろんなことを考えていて、私の同期にも優秀な子はもっともっといっぱいいるんですけど、濃密な体験ができたのは一握りだったと思っておりまして。そういった環境をもっとベンチャーでも用意していきたいなと。

この二つが私どもが事業を通じて社会に還元していることかなと思っております。最後真面目ですね。よろしくお願いいたします。

小林:どうもありがとうございました。

3人の個人的ミッションとは?

小林:では質問行きましょうか。誰かいらっしゃいます? あります? はい、では女性の方。

質問者:お話ありがとうございます。質問というか聞いてみたいことがあって、それぞれ今三人は、会社経営されているという中でミッションってありますか?

小林:会社としてのミッションってことですか?

質問者:個人としてのミッションが聞いてみたいです。自分としての人生的なミッションであったりとか、そういうものをもしお持ちでしたら聞いてみたいです。他には、経営していくうえでの一番困難だったこともお願いします。

小林:ミッションから行きましょうか。大先輩。

柳澤:だんだん芽生えて来ますよね。さっきも(平尾氏が)言ってたように、最初は何も考えてなかったけど、だんだん「あ、こういうことをするためにやってんだな」みたいな感じで出てきます。やっぱり経営者の場合って、会社そのものが見本になってくるんだけれど、もうちょっと言語化すると、僕は人を勇気づけたいですね。

面白法人って社名に付けてるのも、ものの見方を変えると全てが面白くなるってことを伝えたいので。ちょっと落ち込んでいる人が元気になるとか、会社って楽しくていいんだとか、働くって面白いな、と。あ、そんなのアリなんだ、とか。

鎌倉に会社があるわけですけど、最初、15年前はやっぱり、鎌倉本社って言った時点で「えーっ」って感じの反応でしたし、「旅するっしょ」って言って三ヶ月海外に行って、みんなでシンガポールで仕事しちゃおうとかも「そういうことよくできますね」って言われてましたけど、身近で実際にやっている人がいると「そういうことできるんだ」って勇気づけられますよね。

てな思いでやってるので、そういうのが自分のミッションかな。元気にさせるって言うか。だから僕は人を否定しないですね。基本全肯定主義。うちの子どもなんか、全部肯定するんでありがたみがないみたいですね、ほとんど肯定されちゃうから。最高しか言わない、って言われてますね。

(会場笑)

小林:千葉さんどうですか?

千葉:個人的ミッション。まあ、会社のミッションにも近かったりするんですけど、僕は日本で生まれて日本で育った人間でして、やっぱり日本を元気にしたいなって思いがあるんですね。出来る限り将来、はっきり言って絶望的なこの日本を――人口は減るし内需はほっそり――自分は子ども二人いるんですけど、子どもたちの50年後とかマジ不安だなと思ってて。このままだと子供たちは日本人でいられるんだろうか、日本に住んでもらえるんだろうか、って思うんですよ。

そうするとやっぱり、今のうちに打てる手を打たなくては。で、僕らベンチャーの人たちはたぶん、ITの力で世界中からお金を集めて日本に利益をもたらすみたいなことをやっていると思ってて、内需の活性化、そして外からお金を持ってくること、あるいはお金を持っている人を日本に呼ぶこと、そういうことをやっていて、日本が元気になったらいいなっていうのが個人的なミッションで、それでなんとかゲームを武器にって言うのが会社とつながっていて、僕と会社とのつながり。

柳澤:一緒ですね。

千葉:大切。そういうのないとやってけない。

小林:平尾さんは?

平尾:会社自体は情報の非対称性というところをテーマに挑んでいるんですけれども、個人的にはストラクチャーとかパラダイムとかそういうのがすごい好きなんですね。

弱かった人たちが少年ジャンプ的にいきなり強くなって、悟空がベジータを倒すみたいな、なんかエリートを下級戦士が越えることがあるかもよ、てことをしていたりとか……世代違いますね。大丈夫ですかね。だんだん『ドラゴンボール』世代がいなくなってきたんですかね。『ワンピース』のほうがいいですかね。ルフィーがシャンクスに追いつくみたいな、そういったことがあるんですけど。

柳澤:いい例えだと思います。

平尾:ありがとうございます先輩方。こんな温度感でやらせていただければと思っておりますが。個人的には最近よく考えているのが、国であるとか国境であるとか、先ほどお二方がおっしゃっていたこともそうかもしれませんが、ちょっと疑ってかかってきてまして。国家主体として何をすればいいんだ、とか。

例えば最近通貨に関しても、ビットコインはだめになっちゃったと思うんですが、やっぱりドルが基軸通貨になってることって本当にいいんだっけとか、インターネットでお金ってバーチャルになってるんだけど、そこで流通って考えた時に、コンフリクト(衝突)がまだあるんじゃないかとか、国家が何をやるべきかとか。

典型的なSFC卒業生なんで、個人的には小さな政府論者なんですよね。やっぱ規制緩和してくださいと。で、競争原理の上でイノベーションが生まれて、いいものがでかくなっていくと。

最近、ミクロ経済がマクロ経済を凌駕するってことがあるんじゃないかとよく思っていて、アップルであったりグーグルであったりとか、そういった会社の時価総額って50兆くらいあるんですね。今ちょっとグーグルは希薄化しちゃって優先株で落ちてますけれども。

そのGDPと同じくらい、もしくはそれ以上の時価総額を持っている会社、しかもユーザー数が国の人口よりも多くなっている企業っていうのが存在した時に、要はなんか、内閣総理大臣VS起業家っていったときに、起業家のほうがいいマネジメントするんじゃないかなって最近思ったりするわけですよ。出馬の意思じゃないよ(笑)。上場したばっかりですからね。なのでパラダイムを超えていくという、パラダイムシフトが人生のテーマかなと思っています。

究極の困難を乗り越えるのに必要な「忘却力」

小林:困難も聞きたいですね。そもそもみなさん、困難を困難と認識してないような人種の気がするんですけれども。

千葉:いや、ひどいこと言いますね。悩んでますよ。

柳澤:忘れっぽいんでしょたぶん。忘れちゃうでしょ? 忘却力は経営者に必要な能力だと思います。

千葉:わかります。ないとストレスが強すぎて。

小林:困難だったら、三つくらい挙げるとしたら、順番的にどんなことが困難だったんですか?

柳澤:だから忘れちゃうので、忘れちゃってるの。

(会場笑)

柳澤:でもね、毎年、史上最大の困難が訪れますね。そういうもんだと思います。きっとパネラーの方もうんうんって言うと思いますけれども、常に去年を超えた困難がやって来る。そういう感じな気がします。

小林:(質問者は)具体的に聞きたいそうです。去年の困難はなんだったんですか?

柳澤:結局、会社が潰れそうになるとか、結構あるでしょ。まあまあ、15年もやってればありますよね。あと個人的に言えば病気とか結構あるし、常に困難はあるかなという感じですね。でもそれを忘れちゃえばいいんですね。喉元過ぎるとね、本当に人間は忘れちゃうんですよ。で、人間は、麻雀とかでもそうなんですけど、前の局の失敗を引きずってる人って弱いんです。

基本的に前にいくら失敗しても、次忘れてあっけらかんとやっている人が強いんですよ。たぶん経営者はそういうメカニズムになっているんだと思いますね。

小林:どうですか、千葉さん?

千葉:大変ですよ、毎日。ベンチャーなんてやるもんじゃないですよ。だって、昔から夢があって、ベンチャーだと小さいうちは大変だけど、大きくなって上場したら楽になるんじゃないかとか、一部上場になって何千人規模になったら楽になるんじゃないかとか、ウハウハ役員生活出来るんじゃないかとか、夢見てたわけで。

一ミリでも近づくどころかどんどん忙しくなって、課題がデカくなって、どんどん解決できない問題がぶつかってくるって連続で。そういうゲームです。永遠とボスキャラが強くなってくゲーム、終わりがない。でも楽しいからやってる。だからそもそも困難を困難と言っているようなら、この業界に来ないほうがいい。

小林:僕が以前言っていたことと同じじゃないですか(笑)。

千葉:同じ同じ(笑)。

小林:平尾さんどうですか?

平尾:ピンチみたいなやつはよくあるわけですよ。お二方のお話の通り、困難をどう設計するのか、みたいな問題があると思っていて、例えばいろんなことが起こるんですよ、ベンチャーって。いきなり社員に連絡付かなくなったとか、取引先だったところが夜逃げしたとか……夜逃げ系多いですね。

3月末に売り上げが足りなかったとか、信頼してた子がいなくなっちゃったとか、いろんなことがあるなかで、そこをどう、問題発見と問題解決でやって行くのかがひとつの腕の見せどころかなとは思います。

逆に、問題がない会社っていうのは不健全だと思っていて、「うちの会社はいい会社ですよ」とか言っていると大概ね、問題がないことが外から見て(問題に見える)。中から見ていては気付かないだけで。一番大切なのは、問題をどう解決していくか、このサイクルに持って行くことかな、と思います。

柳澤:本当にヤバい汗がだーーっと流れていきますよね。本当の困難の時は。ぶわーっと変な汗が流れて、ヤバーーって。だから困難は常にあるんですよ。そんな状況になるけど、それを全部忘れちゃうっていう。

小林:まるでサウナのようですね(笑)。

柳澤:サウナね(笑)。本当、青ざめる時ありますよ。

ありのままでいられること

千葉:昨日、うちの新卒の外部の社員研修で、メンタルヘルス研修をやったんですが、そこの教科書ざーっと見てる中で、メンタルヘルスに対する一番重要な力は「ま、いっか」と思うことだと書いてあって。ま、そうだなと。「ま、いっか」ですよ。全部忘れちゃだめですよ? でも、重要ですね。そこをコントロール出来なかったら絶対無理です。

柳澤:かつ、ちゃんと受け止めたほうがいいですね。怒りも喜びも抑えるんじゃなくて、怖いとか不安とかも全部感じて、通過させるって言うのかな。悟りを開いた状態って何も感じない状態じゃないんですよ。すごい感情の起伏が激しい状態で、一瞬で通り過ぎていくことだから。

小林:深入りしていくてこと。

千葉:これ伝わってない気がするんですが。会場の空気的に(笑)。ほんと、なんだおまえみたいな(笑)。

柳澤:強くあろうとしなくていいんですわ。今のままでいいんですけど、忘れていく。

小林:いいですね、弱くてもいい。

平尾:あと、忘れる以外にも打ち手ってあるんだろうと思っていて、忘れていくってことにすごく共感したんですが、楽観的であることとか、諦めが悪いこととか、負けず嫌いであることとかって、スタートアップも含めた必要な起業家の要諦だなと思います。

この辺りを持っている人はやっぱりずーっとシリアルで、びくともしないですよね。「いろんな借金持ってて大丈夫ですか!?」「大丈夫なんですよね~」みたいになって行くんで、このあたりは血としていただいて、これを出来ない方はこっち(ベンチャー業界に)来ないってのもひとつの手ですし、こういう話もあったな、と片隅に記憶しておいていただければなと思います。