女性はどうして来場したのか

ジェーン・スー氏(以下、スー):よろしくお願いします。

田中俊之氏(以下、田中):よろしくお願いします。

司会:今日はどうもありがとうございます。『<40男>はなぜ嫌われるか』という、中年の男性の生き方を見直した本の出版記念トークイベントなんですけども。先ほど打ち合わせをしまして、会場に女性ばかりじゃなんじゃないかと(笑)。なので、どうしていらっしゃったのか。

<40男>はなぜ嫌われるか (イースト新書)

スー:男性の方は「本を読んで、先生の話を聞きに」ということだと思うんですけれど。

田中:そう信じてるんですが(笑)。

スー:女性の方は「この本を読んで、何を知りたいのか?」というのは気になるところですよね。

司会:この本というか、イベントのテーマなんですけれど。

スー:皆さん読まれてきていると思うので、どなたか教えてくれませんか? なぜ来たのか。どうぞ。

男性は助け合うことが苦手?

質問者1:○○と申します。よろしくお願いします。スーさんと田中先生の講演は2回目なんですけど。

スー:ありがとうございます。

質問者1:私は心の病気を持っていて、男子っていうのは共助はできないですよね。病気を持っているから、共に助けないといけないのに比べ合うんです。女子のほうで共助できないっていうのはないので、「なんで男子のほうは」って。

スー:というと?

質問者1:男性は共助ができず、女子のほうができて、さらに女性はそれに対して何を気をつければ良いかということですよね。

スー:男の人と女の人、男の人同士、どちらのパターンのお話ですか?

質問者1:男の人同士は、同じ病気なのに「俺のほうが何ができる」とかってなるんですよ。女性のほうは病気を持っているから、情報を共有しあったりとか、あるいは他の居場所をいろいろつくったりするのに、男子はその中だけで比べあってて。

スー:個体差はあるけど、傾向としてよく見られる話ですね(笑)。

田中:そうなんですよね。それは聞いて良かったなと思う話題でして、たぶん病気とかに関係なく、何か困ったことがあった時に情報共有をして助け合うってことよりも、「俺が俺が」って言っちゃう傾向が見られるんじゃないかということですね。

スー:他の方はどんな感じですか? 何か知りたいことがある? この本を読んで、男性ってどうなんだと。もちろん男性の方でもいいですけど……。なかなか挙手はしづらいですね。当ててしまいましょうか。田中先生、こういう時は学校の先生としての本領を発揮して。

田中:そうですね。

スー:どういう人を当てるんですか?

田中:一番前の中央に座っている人は、やる気があると決まっているので。

スー:じゃあそちらのやる気のある方(笑)。どうぞ。

男性は働いていることを、強く求められている

質問者2:すいません、まだ読んでないんですけど(笑)、ただすごく気になっていて。なぜ嫌われるのかというのも、私は30代の女性なんですが、「嫌わないようにするためにはどうしたら良いか」ということで(笑)。

スー:男性を嫌いにならざるを得ないシーンがあるっていうことですね(笑)。

質問者2:わかんないですけど、「ん?」って違和感を感じた時に、「この違和感はこういう原因なんですよ」とか、「こういうメカニズムなんですよ」っていうことがわかっていれば、偏見を持たずに、もう少し寛容な心でいられるんじゃないかと。

「男と女って、あまり変わんなくなっていくんじゃないかな?」と個人的に思うので。自分自身にも嫌われる要素が出てくると思うので、セルフケアじゃないですけれど、そういう意味でもすごく興味があります。

スー:なるほど。田中先生、もしかすると今日までに読み終わらなかったっていう方もいらっしゃるかもしれないんで、ざっくりどんな本か教えていただいてもよろしいですか?

田中:そうですね、あらすじを説明します。僕は男性学をやってまして。男性学というのは、男性だからこそ抱えてしまう葛藤や問題を対象にした学問です。男性は女性をある程度無視して男性の中だけで上下関係を気にしてるところがあるというのが、問題だと思うんですね。

見栄っぱりの問題とか、そういうところも含めて、研究しているんですけれど。今回中年の男性をターゲットにしようと思ったのは、特に男性は働いていることを、社会において強く求められているだろうと。

フリーターとか、非正規で働いているとかは低く見られがちだったり、たぶん一番地位が低いのは無職だと思うんです。「働いてないことはおかしく、働いているのが普通」であると。そういう意味では働いている男性っていうのは、一番問題が無い存在として位置づけられているんですけど。

スー:そうですね。

田中:私の見解によれば、20年間「ただ働いてさえいれば良い」という意識の中で生活しているが故に、いろんなものが世間とずれてくるんじゃないかと考えています。ファッションセンス1つとってもそうでしょうし、会社でしか通用しないコミュニケーションを会社の外でもしようとしてしまうとか。

あるいはここに来ていらっしゃる人でも、パートナーがいらっしゃれば、ご主人のことを思い浮かべれば良いと思うんですけれど。友達がいないことを、なにも問題と思っていなかったりするわけです。

私がこの本を書いたのは、仕事中心の生活を送ってきたことのツケは自分に返ってくるということを伝えたかったからです。自分らしく、楽しい人生を生きていくことの足枷になっているんですよ。

だからいろんなファッションとか、「友達いますか?」とか、「仕事中心になりすぎていないですか?」って問いかけをすることによって、中年の男性に、「立ち止まって自己反省をしてもらう機会をつくろう」という本なんです。

「中年の危機」とは

スー:10年ほど前に、アメリカの友人から「ミッドライフ・クライシス」という言葉を聞いて、それはなんぞやと。「中年の危機」といわれるもので、「俺の人生、何だったんだ」みたいなことを40ぐらいで思って。「これでよかったんだろうか」と、いきなり脱サラして蕎麦屋を始めたりとか。そんな話なんですけど。

家庭を投げうって若い女性と逃げてみたりとか、そういう現象をアメリカでは「病気として扱われることもある」と知って。「アメリカは本当になんでも病気にするなぁ」と思って、そのときは聞いてたんですけど。

40ぐらいになってくると、「これは人ごとではなくなってきたな」というか。男性で、そういう人が日本でも……。もちろん昔からあったんでしょうけど。40ぐらいでそういうふうになっちゃうって何なんですかね?

田中:40ぐらいでなっちゃうというのは、この本にも書いたんですが、日本って出世競争の答えが出るのが遅いんですね。例えばアメリカやドイツだと、入社して10年経つと自分がどのコースにいけるのか、かなり明白なんですよ。だから「出世を諦めて自分なりの人生を歩む」とか、「バリバリ仕事で働く」とか、30ぐらいで決められる。

日本は遅い選抜なので、答えが出るのが40ぐらいなんですね。20年ほど「君は会社の一員だよ」ってやってきて一体感を高めて、そこで答えを出す。今まで自分が「会社で偉くなる」とか、「上に立つ」っていうことをモチベーションにしてきた人が、一気に脱落して、しかも後戻りができないです。40になると。

だから、1発逆転の蕎麦屋とか、若い女の子と恋愛をするとか、そういう短絡的な逆転を狙うようになっちゃうということなんじゃないかと思うんですね。

本を出版することで、気づいてほしいこと

スー:聞いてて切なくなります。『<40男>はなぜ嫌われるか』というタイトルは、どうしてこれにしたんですか?

田中:「嫌われる」っていうと言い過ぎかもしれないですけど、警告でもあるんです。「今気づいたら間に合うよ」っていうことでもあるんですよね。自分のリアリティーと、現実が、すごくズレちゃってると思うんです。

その空回り具合が、相手からすれば、「なんでこの人はこんなことにこだわっているんだろう」とか、「なんでこの人はこんなことをしているんだろう」という行動になっちゃってるということですね。

スー:男性と接していて難しいなと思うことが、「女性が女性であるために抱える問題」に興味がある男性は、女性に対して極端に萎縮していて、過剰に情報を我がこととして捉える。失礼のないように、と。一方で「お前読め!」っていう人には全然届かない、みたいな(笑)。

田中:そうなんですね。かれこれ男性学を15年やってるんですけど、完全にジレンマで。だから「一番届けたい人に届かない」っていう問題があるんです。

スー:男性学が、なぜ男性の中で広がらないかというと、「政治や経済」という大きい話じゃないから、と先生が以前おっしゃっていたのが印象的でした。

田中:そうなんですよ。「こんな細々としたことにこだわって、お前何なんだ」と。もっと政治とか経済とか、大事な問題があるだろうという。

本質的な問題から逃げている

田中:日常的な些末なこととして、さきほどのご質問とも比較されがちなんですよね。自分の人生ということを考えた時には、そっちが本質で。政治や経済とか大事なことなんですけれど、単に逃げている気がするんですよ。

スー:大きい話をしているから、自分が大きくなるわけじゃないですもんね。

田中政治や経済の問題を論じることで、自分の人生とは何なのかという問題から目を逸らしていると思うんです。その上、では政治について語ってくださいと言われれば、何か語れるのかというとそうでもない。

スー:それこそ委縮してることですもんね。

田中:はい。例えば先日、安保とかがトピックで立ち上がったと思うんですけど、自分と反対の意見が出た時に、感情的になっちゃうと思うんです。

スー:それは日本で生まれ育った人の傾向として、「反対意見が側にあることに対する不安」というか、落ち着かなさがすごくあるんじゃないかなと思ってます。私はラジオをやっているじゃないですか。

田中:はい。

スー:意見が一緒では無い人もいるんですけど、スタジオの中は比較的和気あいあいというか、普通にやってたりするんです。でも2人の意見が対立している状態というのは、聞いている人の中ではそれ自体が不安に感じる人もいるみたいで。

コンフロンテーション(対立)が、日本人は苦手と言い切ってしまっても良いと思うんですけど。安保のことで印象に残ったのは、意見が対立すると相手の人格を否定し始める傾向。、それがインターネット上でずっとやられていて。

田中:そうなんですよね。僕はある意味、「20歳ぐらいだったら仕方がないかなぁ」って気がするんですけど。

スー:でもおそらく、60歳以上と思しき方でもそんな感じの人いましたよね。

田中:そうですよね。まだ意見が成熟していない段階では、自分と反対意見があること自体カリカリしちゃうとか、大学生でもディベートをすると、カリカリしちゃうんですよ。訓練が成されてないので。

40くらいになったときに、反対意見を含めて構想することがないというのは、怖いことなんじゃないのかという気がしちゃうんですよ。

中年男性は弱音を吐けない

スー:田中先生とよく話をしているときにでてくる「自分の力で考える」という。自分の力で考えるっていうけど、考える訓練を受けてきていない。なぜならば、他者と違う意見を持つことはある種の危険であるというのが、小学校時代からなきにしもあらずだと思うので。そうしたら、自分で考える力を摘み取られていきますよね。

田中:そうなんです。今スーさんが振ってくれたお話を考えたいと思った理由がありまして。

僕は僕は男性学をやってるんで、自分自身が男性であることの意味を常に考えます。そして、学問を通して自分の生き方について考えたからこそ、気が楽になったということがあるんで。

だから、僕も言ってしまいがちなんですよ。悩んでいる方がいたときに、自分の頭で考えて解決することが大事なんだよと。ただこれはもう「解決した人の論理」というか。

男であることの問題性は、自分なりに考えてきて、すっきりした部分があって、距離が取れた。だからお前もやってみろというのは強者の論理というか、それができて幸せになれた人の論理であって……。

もう1つ言うと、中高年の男性の悩みって、「今まで耳を傾けてくれる人がいたのか?」という気がするんですよ。こういう話をしていると、一部の女性で「男性が生き辛いとかないでしょう」というリアクションもあるわけなんです。

だから自分の頭で考えるという以前に、弱音をどう吐くか。弱音を吐いた中年男性がいたとして、それだけで何か違和感があるじゃないですか。

弱音を吐く中年男性や、なよなよしている中年男性。それってそもそも良くないんじゃないのといういうイメージがあると思うんです。

でもそういうところを本来、性別に関わらず人は誰しも抱えているはずで、それを無いこととして処理してきたわけです。じゃあそれをどう開示してもらうか。今日のイベントに限らず、僕は市民講座を結構やってるんですけど、男の人で自主的に来る人がすごく少ないんですよ。

「今日なんで来たんですか?」って手を挙げてもらうと、9割方、奥様に勝手に申し込まれたっていう人で会場が埋めつくされてるんです。最近、保育付きの講座が多いので、「子供も夫もいないと、すごく妻が楽になる」みたいな理由で来さされているんですよ。

スー:アハハハ(笑)。

田中:こういう問題があるということを、男性にどう考えてもらったらいいかということ。いざこうなった時に、「自分の頭で考えなさい!」じゃなくて、突き放さないで。それこそスーさんは相談の番組をやってらっしゃるので、それ以外の解決策もあると思うので。今日はそこを考えていければ良いなと思います。

司会:よろしくお願いします。

自分の思考パターンから抜け出すために

田中:ラジオを聞いていると、あるパターンの思考にはまってしまっている人がいるとき、補助線となるようなことをスーさんはアドバイスされていたんですが。それは自分のご経験から?

スー:そうですね、私には頭の回転が速くて観察力に優れた女友達が多いんですが、彼女たちの前で延々管を巻いていると、「怒っているようだけど、話を聞いていると寂しがっているみたいに聞こえるよ」というようなことを言われるんですよ。

そういうふうに聞こえるときっていうのは、たいてい自分がそういうふうに見られたくない時のことが多くて。「別にこういうことを気にしているわけじゃない」という時に、それを一番気にしている。それがばれているのって、一番みっともないということがだんだんわかってきて。それを悟ったのが10年前ぐらいです。

そうなっていくうちに、みっともないんだったら、それを認めていかないと先には進まないという。「四方八方が全部壁」みたいなところにどんづまり感がありまして。そこを認めていくために書き出したりしてましたね。整理する。ロジカルシンキングにすごく興味がありました。

田中:多くの男性って、悩み相談を人にしない。しかも解決しないから、すごく無駄だって言うんですけど。今スーさんが仰ったように、こういう考え方のパターンをしているんじゃないかと、自分の頭だけで考えても、実は出てこない部分だと思うんです。

スー:そうですよね。自分の思考の癖って、1人で考えても絶対にわからない。周りの人でも思い浮かぶ人は、1人はいると思うんですけど。「またこの人こういう言い訳をしてるわ」みたいなのが、本人以外は全員気づいている。本人だけが気づいてないという。絶対自分はやっている可能性があると考えることが健全だと思うんですけど。

田中:その話で僕が思ったことは、「いろんなことを分析するな」って言われているようだと。それって分析じゃなくて「あなたってこういうパターンでものを考えちゃってるよ」って言うこと自体を拒絶する男の人がいることですよね。

スー:私は人によく「分析しないで」って言われますけど、相手は自分がおもちゃにされているような気分になるんだと思う(笑)。そこは私の悪いところでもあるんですけど。男性で「相談をしない」っていう人の話の多くはは、人に相談しても解決しないからっていうことみたいですね。

解決策をポンッともらうこと自体が相談の真髄だということを、私は全く思ってないというか。誰かに答えをポンッともらおうとしているわけではなくて、形のないものをぐにゃぐにゃしながら、テーブルの上に乗せてコネコネすることで、何かしらガスが抜けたり、膨らんできたり、形が見えてくるっていうことだと思うんですけど。

男性は弱みを見せることを、時間の無駄と思ってるんですね。

田中:そうですね。それはさっきの友達の話ともつながってくるんですけど、「なんでいらないのか」と言った時に「時間の無駄」とか、「そういう時間が無い」っていう発想の人が多かったりするんです。

<40男>はなぜ嫌われるか (イースト新書)