自分が価値があると思うなにかをリリースしただけで満足していませんか?

曽根原春樹氏:次が4点目の経営者感覚です。すみません、全部は聞けていないのですが、先ほど及川さん(及川卓也氏)と吉羽さん(吉羽龍太郎氏)の話の中で、途中お金の話が出てきていたみたいで、やはり、キレッキレなPMたちを見ていると経営者感覚がすごいんですよね。

そういう人たちがやがて、スタートアップのCEOになったり、VCになったり、今度は他の企業のファイナンスを助ける感じで育っていったりと、人材が巡るエコシステムができている感覚が、シリコンバレーだとあるんですね。

もう少し話をしていきます。1個目ですが、自分の会社が何で収益をあげているのか、なぜ収益をあげることができるのか、みなさんはきちんと説明できますか? 当たり前じゃんと思う人もいるかもしれません。いいんです。当たり前だったら、たぶんその方はきちんと理解されていると思うんです。

だけど、プロダクトマネージャーをやってまだ日が浅いとか、まだプロダクトマネージャーとして動きがわかっていないとか、先ほど言ったとおりOver-indexing状態でまだPMとしての動き方にエンジニアの動きを引きずっているとか、そういう状況の方たちにこういう質問を投げかけると、きちんと答えられなかったりするんですよ。これは非常に危険です。

よく、「プロダクトマネージャーなんだから、ユーザーに価値を届けてなんぼだ!」「それでユーザーに価値を届けるんだ!」と(言う方がいます)。そうなのですが、やはりここで大事なのは、その価値は本当に収益やインパクトとなって返ってきていますか? ということです。この質問に対して自信を持って「Yes」と言えるかどうかという話なんですね。

自分が価値があると思うなにかをリリースしただけで満足していませんか? という部分を、ぜひ自問自答していただきたいと思います。プロダクトマネージャーになって「よし! 自分もなにかおもしろいプロダクトを作るぞ! 新しい機能を作るぞ!」と意気込んで、いろいろやっていただくのはぜんぜんかまわないです。例えば、過去のバックログやユーザーの声のデータベースを見て、「じゃあ、こういうのを作ろうかな」というふうに決めていくと思うんです。

けれども、作るのはいいのですが、リリースしただけで満足していませんか? という部分をぜひ問いかけたいと思います。そこで満足してしまう人たちのマインドセットは、「やはり収益よりもユーザーへの価値が大事」とか、「自分はユーザーのために考え尽くしたんだから、使えないのはユーザーが悪い」とか、これらは極端かもしれないですが、実際にあった話です。実はそういうことを言っている方がいらっしゃったんですね。

ほかにも、顧客の真の課題を解決していれば、勝手に事業も伸びるし、お金もついてくると考えている人が、ちらほらいたりしますが、これは非常に危険です。やはりプロダクトマネージャーの働き方としては、そもそも収益性やインパクトなき価値にどれだけ時間をかけても、それははっきり言って意味がないんです。それはぜひやめてください。

当たり前品質は「最速・最短・最小限」でやろう

そういうことを話すと、「いや、そうは言っても、うちはまだ当たり前品質が競合と比べてまだ足りていなくて」などと言い出す人たちがいるわけなんですね。

(スライドを示して)当たり前品質というのは、確か『プロダクトマネジメントのすべて』にも書いたと思うのですが、狩野モデルのグラフがありますね。知っている方もたくさんいらっしゃると思います。

当たり前品質と、一元的品質と、魅力的品質があって、当たり前品質は、基本的にはユーザーから見て当たり前のものなので、一定のところまでがんばったら、それ以上がんばっても意味ないですよという話ですよね。しかし、「いや、うちはまだ当たり前品質が競合と比べて足りなくて……」ということで、当たり前品質ばかり考えるという話があったりするんです。

これは一歩引いて考えてほしいのですが、当たり前品質をいくら実装し続けたところで、一切プロダクトの魅力にはなりません。もう1度言います。当たり前品質をいくら実装し続けたところで、一切プロダクトの魅力にはなりません。いいですか? というのは、ユーザーはプロダクトの魅力、つまり、価値や差別化要因に対して反応するんですよ。

先ほど吉羽さんと及川さんの話の中の最後のほうで、プロダクトがなくても売れるという話がありましたね。これは、まさにこのプロダクトの魅力が圧倒的にすごいからなんですよ。その状態では、当たり前品質なんかは別に関係ないんですね。価値や差別化要因が明確で、「これがあったら本当に自分はハッピーになれる」という状況が実現できるのが目に見えてわかるからこそ、ユーザーが反応しているんですよ。

そこはわかった、魅力的品質をがんばれというのはわかったんだけど、じゃあ当たり前品質を無視していいんですか? という話がよく出てくるんですけど、いやいや、「無視していい」とは言っていません。あくまで考え方としては、ユーザーの手に価値が届く邪魔をしてしまうような当たり前品質は、最速・最短・最小限でやりましょうということです。

別に「やるな」と言っているんじゃないんです。やるんだったら最速・最短・最小限でやりましょうという考えです。それ以上がんばっても意味ないですよ。そして、どうせがんばるんだったら魅力的品質をがんばったほうがいいですよという話です。

当たり前品質を実装し続けて、もう仕事した気になっていませんか? と、あえて僕は投げかけたいわけです。そんなことをしていて、いつになったらプロダクトの魅力を高めるんですか? そこの魅力的品質を高めなかったら、その遅れがユーザー離れを引き起こし、競合にさらに差をつけられます。特に最近はグローバルを目指す日本のスタートアップもけっこう出てきていて、僕は非常に応援しているのですが、もしグローバルを目指すんだったら、なおさらこの考え方が必要です。

彼らはいかにして魅力を磨くかを重視して、当たり前品質なんかそっちのけという感覚で作っているところがあります。はっきり言って魅力がなかったらグローバルユーザーは目もくれません。というぐらい、このバランスには気をつけてほしいです。

「収益がついてきているか」をシビアに見ていくところに覚悟が問われる

では、このバランスはどこで見ているんですか? という話ですが、だからこそKPIを決めるんでしょという話につながるわけです。僕の『ラディカル・プロダクト・シンキング』を読んでいただいた方は、たぶんもうこの話は知っていると思いますが、プロダクトビジョンはちょっとやそっとで実現できるものではなくて、ある程度の期間、それこそ年単位で狙っていくわけです。

KPIはそのビジョンを実現した状態に対して、自分たちが今どこにいるかを知るためのものです。このKPIが正しく設定されているからこそ、自分たちが正しい方向に進んでいるかがわかるわけなんですよ。当たり前品質ばかりやっていたら、はっきり言ってKPIは伸びません。

そうすると、魅力的品質が伸びていかないので、KPIがネガティブに振れる可能性のほうが高いです。ということで、みなさんがやっていく施策は、きちんとプロダクトビジョンに近づいていますかと。言い方を変えると、Topline Metricsとか、North Star Metricをきちんと動かせたんですか? その結果として、収益がついてきていますか? と、やはりこの部分をシビアに見ていくのが、ある種PMの覚悟なわけなんです。

単に出して満足するのではなく、自分が出した施策がきちんとこうしたメトリクスを動かしていて、なおかつその結果として収益がついてきてプロダクトビジョンに近づいているかどうかという部分をシビアに見ていくところに、PMの覚悟が問われると思っています。

「売上はすべてを癒やす!」に疑問を呈したい

Xで、日本のVCの方やスタートアップの方が「売上はすべてを癒やす!」みたいなことを言っているのをよく見ます。これは、僕は非常に疑問なんです。本当か? と、僕は疑問を呈したいと思います。

確かに売上がすべてを癒やすフェーズはあります。特にアーリーステージですね。ここにおいては、売上がすべてを癒やすというフェーズが確かにあると思います。けれども、すべての企業ステージにおいて、売上がすべてを癒やすのかというと、そんなことはないです。むしろ、売上がすべてを癒やす状態は最初だけであって、それ以降は利益がすべてを癒やしていきます。ご承知のとおり、利益は売上-コストですね。

(スライドを示して)なぜ僕がこんなに利益を非常に推しているのかというと、特にグローバル市場で戦う場合、この利益率が非常にシビアに見られます。ROE(Return On Equity)という基本的な指標があって、つまり利益率の高いビジネスかどうかを示す指標ですね。当期純利益を自己資本で割った値です。

例えば世界時価総額ランキングの企業と日本企業を比べると、やはりアメリカの企業のROEがかなり高かったりするんですよ。もちろん「日本企業が全部ダメ」と言うつもりはありません。マネーフォワードさんとか、メルカリさんとか、サイバーエージェントなど、かなりがんばっている会社もあります。

けれども、もしグローバルに挑もうと考えているんだったら、利益率をきちんと抑えたビジネス、もしくはプロダクトの作り方をしていかないと、ましてや上場するなんて話になった時にVCもしくは銀行からまったく評価されなくなってしまいます。なので、売上がすべてを癒やすというのが当たり前ではなくて、ある程度スケールしてきたのなら、そこから先は利益にアクセルを踏み直さないと失敗してしまうんですね。

より会社のお金を正しく使えるようになるための大事な考え方

今日はPMの経営者感覚というトピックで話をしているので、ちょっと切り口を変えて話をしたいと思います。施策のROIを、たぶんみなさんも議論する時によく使っているかなと思いますが、実は施策のReturn On Investment、つまり投資対効果だけではなくて、機会コストという観点からも、ぜひ見ていただきたいんですね。

これがまさに先ほどの利益という考え方に直結していきます。(スライドを示して)ROIを、たぶんみなさん当たり前のように使っていると思うのですが、分母が創出にかかったコストで、分子に作り出した価値からコストを引いた値で、これを割り込んでいくとROIがわかります。

機会コストは何かというと、例えばオプションAとオプションBと複数のオプションがある中で、実際に選んだオプションの価値があって、この差が機会コストです。

ちょっとわかりにくいので具体例を使って説明していきたいと思います。例えばみなさんのチームに投資に使えるお金が100万円あったとしましょう。これを新機能開発に使うか、マーケティング活動に使うかを選んでいくという状況です。

(スライドを示して)投資対効果で考えるとどうなるかというと、例えば新機能開発がリターン予測をしたら200万円ぐらい。100万円投資したら200万円返ってきそうで、コストは80万円です。マーケティング活動に100万円投資するとリターンが150万円ぐらいで、コストは50万円ぐらいですという話になった時に、ROIを計算すると新機能開発が1.5で、マーケティング活動が2なんですね。

ROIだけで考えるとマーケティング活動をしたほうがいいじゃんという結論になるんですよ。だけど、先ほどの利益の話を思い出してほしいんですね。これで本当にいいのか。コストの観点からもぜひ見ていただきたいんです。

(スライドを示して)例えば、これを機会コストで考えるとどうなるか。新機能開発のリターンが200万円で、マーケティング活動のリターンが150万円ということは、差額の50万円分のコストが発生しています。つまり、新機能開発で200万円得られるのに、50万円損失しているんですよ。この機会コストは、プロダクトと会社にとって許容できますか? という判断になるんですね。言い方を変えると、新機能に100万円投資して200万円のリターンが得られるのに、50万円ミスしてしまいます。機会損失が出てしまいます。

じゃあ、この50万円を次のプロダクト開発で埋め合わせをしましょうとなった時に、プロダクトチームとしてどれだけ労力が必要ですか? という話なんですよ。そうするとレベル・オブ・エフォートの話なんですよね。何人のエンジニアでどれぐらいがんばれば、この50万円の埋め合わせができるかという話が出てくるわけです。

つまり、このROIと何か施策をすること、しかも利益率を考えてやるということがどういうことかというと、単にROIを見ているだけではダメで、機会コストとの両方面から見てほしいんですね。自社を取り巻くマーケット環境や収益状況、ロードマップのバランスからこの機会コストの視点で見ることによって、ここはROIが多少低くてもリスクを取ってやるべきだとかですね。

そうやってやることで、より会社のお金を正しく使えるようになる、利益を取りにいけるようになるんです。短期的ROIだけを見ていたら、リスクを正しく取りにいけない可能性があるんです。

時間をかけるべきカテゴリをLNOに分けて考える

次に5番目、時間の使い方の話になります。時間の使い方もPMは非常に覚悟がいるし、重要です。そもそも、みなさんプロダクトマネージャーとしてご活躍されている中で、やはり誰しも「PMとして良い仕事をしたい」と思っていると思うんですよ。僕だってそうです。良い仕事をしたいと思っています。だけれども、この意味を間違えないでほしいんですね。

やることすべてを丁寧にやると解釈すると、PMとして破綻します。PMとして良い仕事をするというのは、そうじゃないんです。(スライドを示して)これはどういうことかというと、シリコンバレーのPM界隈で、LNO Frameworkというタイムマネジメントの考え方がよく出てくるんです。LはLeverageですね。NはNeutral、OはOverheadの略です。

時間をかけるべきカテゴリをLNOに分けていきます。レバレッジは何かというと、PMとしてもっとも会社もしくはユーザーに対してインパクトのある仕事です。ニュートラルは、まぁがんばってもそのインパクトは限定的という仕事です。オーバーヘッドは、がんばったところで時間のムダで、ある意味時間をかけずにさっさと終わらせるもの。こういう考え方の仕事、タスクになります。

具体的にどんなものがこのLNOに当てはまるかというと、例えば、Lはプロダクトビジョンを考える、プロダクト戦略を作る、あるいはプロダクト戦略をアップデートする、ビジョンをアップデートする。こういう仕事ですよね。ほかには、新しいプロダクトや機能の構想を練っていく。先ほど冒頭に申し上げたようなStep Changeを考えるとかですね。視点よりも視野、視座を上げて物事を考えていく。これがレバレッジです。PMとしてもっとも価値のある時間の使い方です。

ニュートラルは何かというと、例えば、スライドをきれいに仕上げる、アジェンダのないミーティングに参加する、単なる情報共有だけのミーティングに参加する。これは全部ニュートラルです。

オーバーヘッドは何かというと、メールやチャットでの議論を「JIRA」のチケットに落とすなど、いわゆるプロジェクトマネジメント系のタスクですね。このあたりは全部オーバーヘッドになります。

みなさんに覚えておいてほしいのは、このレバレッジに当てはまる仕事が、みなさんが力を入れるべきところ、時間をかけて力を入れるべきところだということです。

それ以外の部分は、誰かに任せるか、省くか、最小化するか、そもそもやらない。ぜひこの選択をしてください。間違ってもNやOにあたる仕事の部分に対して力を入れたり、時間をかけるのはやめましょう。これは正しい時間の使い方ではありません。

そこにN(Neutral)やO(Overhead)の仕事があって、ここをきちんとやらないとみんなに迷惑がかかっちゃうなと、人だったら思っちゃうと思うんですよ。特に日本の環境の中で働いていると、そう思ってしまう方が多いのは僕も知っています。けれどもプロフェッショナルという視点で言うと、プロダクトマネージャーであればその思いをグッと堪えて、はっきりと覚悟を決めて、自分の時間をL(Leverage)に振り分けてください。それがプロダクトのためであり、会社のためであり、ひいてはお客さんのため、ユーザーのためになります。

(次回へつづく)