2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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曽根原春樹氏:みなさんお集まりいただきまして誠にありがとうございます。初めましての方も、またお会いできましたねの方も、ご無沙汰しています。曽根原です。今年も「PMカンファレンス」に戻ってきました。
今回はテーマが「覚悟」ということで、どんな話をしようかなと思っていたのですが、みなさんにとって刺激的な話になるといいなと思って、それでこのタイトルに決めたわけですね。「シリコンバレーのプロダクトマネージャー達に見る、覚悟を決めたPMは何が違うのか?」ですね。
本題に入る前に、僕のことをぜんぜん知らないという方もいらっしゃるかもしれないので、軽く自己紹介をさせてください。(スライドを示して)『プロダクトマネジメントのすべて』という本や、『ラディカル・プロダクト・シンキング』という本を、もしかしたら聞いたことがあるかもしれませんが、こちらの本を執筆したり、監訳したりしています。
よくあるのは「Udemy」ですね。プロダクトマネジメントに関して、今は10講座ぐらい出しています。もしかしたらそれらを受けたことがあるよという方もいるかもしれません。こうしたかたちで、ふだんはシリコンバレーでPMをやりながら、日本でのプロダクトマネジメントの啓蒙活動をずっとしています。
実際にPMとしてはどんなことをやっているかという話です。私は米国に移住してかれこれ17年、もうすぐ18年目になります。シリコンバレーのプロダクトマネジメントを、BigTech企業、スタートアップ、 BtoB、BtoCの双方で経験しています。
ここまでたどり着くのは当然平坦ではなかったのですが、現在はBtoCの大企業、Microsoft傘下のLinkdInでPMをしています。シリコンバレー企業のプロダクトマネジメントの悲喜こもごもや、酸いも甘いもかなりいろいろ見てきているので、みなさんの勉強になることや刺激になることを、「覚悟」というコンテクストの中でなにかお伝えできればいいかなと思っています。
今日は、覚悟あるPMに見る6つの違いということで、トピックを用意しました。先ほど自己紹介で話しましたが、もう12年ぐらいシリコンバレーでPMをやっています。やはり土地柄、キレッキレなPMがいるんですね。非常に優秀なPMや、「よくそれを思いつくね」とか、「よくこんなタフな状況をやりきるね」みたいなPMが普通にいるんですね。
一方で、ここ数年でプロダクトマネジメントというマーケットが、日本でも非常に伸びてきていて、さまざまなブログや「Twitter(現:X)」などを拝見しています。もちろん悩みながらかもしれませんが、非常にみなさん伸び盛りで、どんどん発展してほしいなと思っています。
しかし、僕が幸いにもシリコンバレーでPMの最前線で体を張っている状況で、現場でやっているPMから見ると、やはりいくつか差があるんですね。この部分は何だろうなというところから、今日は6つのテーマを用意しています。
(スライドを示して)先に頭出しだけすると、1つ目は視点→視野→視座という、物の見方の部分ですね。
2点目はコミュニケーションの話をします。3点目はOver-indexingです。あまり聞いたことない言葉かもしれませんが、けっこう重要な概念なのでこれをお話しします。4点目が経営者感覚です。先ほどの及川さん(及川卓也氏)の話でも、価格などお金の話が出てきましたが、まさにそこに関する部分ですね。5点目として時間の使い方。そして6点目で、ロジカルシンキングとクリティカルシンキングの使い分け。この6つについて順番に説明していこうと思います。
最初の、視点→視野→視座というところです。言葉自体はみなさんもどこかで聞いたことがあるでしょうが、「覚悟」という視点でこれを語るとどうなるかという話ですね。
視点という話をする時に、たぶん一番みなさんがわかりやすいのは、A/Bテストのパターンを何にするかという話だと思います。
「A/Bテストをします」と言った時に、「いや、自分はやはり怖いので、あれもこれもテストしたいです」みたいなことを言う人がいるんですね。よく考えてほしいのですが、当然バリエーションが増えれば増えるほど1テストあたりのサンプルサイズが減りますよね。これは、やっている方ならわかると思います。
当然サンプルサイズが減れば効果を知るまでに時間がかかる。なおかつ4つもバリエーションがあると、下手すると効果がわかりにくかったりするわけです。というところで、すごく狭い、短期的な視点かもしれませんが、まず「いったいどれに絞る?」という部分は、やはりある種覚悟がいる瞬間です。
(テストを)何個もできない中で、どれとどれをテストすることで、自分たちのプロダクトが正しい方向に進んでいることを知れるか、その学びを得られるパターンは何かと絞っていくという話です。
それは大事なのですが、そればかりやっていればいいかというとぜんぜんそんなことはなくて、実は視野という視点も当然必要になってきます。
(スライドを示して)これはどういうことかというと、時間的連なりの中でプロダクトを見るということです。例えば、みなさんは四半期ごとにプロダクトプランニングをして、ロードマップを作り、それに則っていろいろなプロダクトを作っていくと思います。それは、単にそのロードマップに書いてあるからそれをやっていこうという、ある種そのタスクをまるで消化するかのように、ただプロダクトを作っていけばいいというものではないんですね。
あくまで時間的連なりの中で、開発したこと、プロダクトリリースしたものを見ていく中で、「本当に右肩上がりに継続的に成長していますか?」という視点で、厳しく自分たちのやっていること、会社がやっていることを見れるかどうかという話なんですね。
さらに、特にシリコンバレーPMたちの動き方を見ていると、実はもう1個上の視点で物を見ていたりします。
これはどういうことかというと、先ほど、時間的連なりの中で右肩上がりという話をしたのですが、もっと引いて見ると、Step Changeという、グッと伸びる瞬間があります。単純に右肩上がりにグロースしていればいい、そこで満足していいかというと、そうではないんですね。「今のグロースってこういう伸び方をしているよね。だけどそれで本当にいいの?」というところで、自問自答を挟んでいくわけなんですよね。
シリコンバレーのPMと話していると、「それってStep Changeを起こせる?」とか、「それってStep Changeを起こすぐらいのインパクトを出せる?」とか、そういう言葉や話がよく出てきます。
このStep Changeが具体的にどういうことかというと、右肩上がりにゆっくり伸びていくというのではなくて、まさにグッと縦に伸びて跳ねるという感覚です。こういう瞬間を作り出せるかどうかが、ある種PMにとっては非常に重要です。
(スライドを示して)具体的にどんなものがStep Changeと言えるのかという話を、5個ぐらい持ってきました。
「Instagram」のストーリー、「Amazon」の1-clickオーダー、Appleの「touchID」、「Tinder」のスワイプ機能、「Slack」のスレッド機能など、このあたりは全部Step Changeです。全部を紹介していると時間がなくなるので、Amazonの1-clickオーダーについて話します。
1-clickオーダーがない世界では、ユーザーが商品をカートに入れて、チェックアウトに進んで、住所やクレジットカード、配送に関するポリシーをいろいろ決めるなど、何ステップも踏んで最後にオーダーをするわけです。それが、1-clickオーダーを入れたことによって、セールスが1年間で5パーセントぐらい、金額にすると3,000億円ぐらい増えたんですよ。それぐらい大きな変革を起こせる。
それだけの覚悟を持ったStep Changeに挑めるかどうかという話ですね。(スライドを示して)シリコンバレーのPMは、このStep Changeを常々頭の中に置いて動いていることが多いです。
今やっている議論、今やろうとしていることは視点で見ているのか、それともその時間軸の中の視野で見ているのか。それはStep Changeを起こせるかどうかという視座で物を捉えているかという、この軸を行ったり来たりしながら上手に議論しています。これができる人は、やはり非常に強いです。
もう1つは、自分たちがやっていることは本当に成長に向かっているか。さらに大きく成長できるのかどうか。成長するにはどうしたらいいかという部分です。もちろんこの視点、視野、視座という見方もそうなのですが、よくこちらのPMから出てくる言葉として「Looking forward」とか、「Looking backward」とか、「Looking outward」という3つがあるんですね。
Looking forwardというのは、前、前方を見るという意味合いになりますね。Looking backwardは過去を振り返るみたいな言い方ですよね。Looking outwardは自分を外側から見るみたいな言い方です。
つまり「自分たちがやっていることは、本当に成長に向かって進んでいますか?」ということと、「それは過去の自分たちがやってきたことと照らし合わせて、まったく同じことをやっていませんか?」と。同じことをやっていたら、同じ結果が出てしまう可能性が非常に高くなりますよね。
それが失敗だったら、なおさら悪いわけなんですよ。当然違うことをやらなきゃダメです。そのためにはLooking outwardということで、自分を外側から見て、自分はどこを変えていったらいいんだろうか、どこで違いを作ったらいいんだろうか、どうやったらインパクトを出せるだろうかというふうに、冷静に自分の行動や自分の考えを叩いていくわけです。
こうした見方を続けていくと何が起こるかというと、ロードマップの否定が起こります。これはぜんぜんいいんです。ロードマップの話をすると「いや、もううちはロードマップが決まっているので無理です」という話がよく出てきます。そういう話は当然出てきます。別にそういう話が出てくるのはかまわないのですが、決めたロードマップ以上に正しいことができるのであれば、それはやるべきなんですね。
それはもうロードマップをアップデートしてでもやるべきなんですよ。それができるのはプロダクトマネージャーの特権です。その特権は、はっきり言って使わない手はありません。
もちろんロードマップを決める時は、自分たちが持っている情報や、自分たちがこれまで学んできたことなど、その日その時点での情報で作っていきます。
けれどもプロダクト作りは継続的に行われていくもので、日々学びが生まれてくるんですね。ということは、視点、視野、視座、Looking forward、backward、outwardの見方を通す中で、「いや、このロードマップっておかしくない?」と思う瞬間が出てしかるべきなんです。それは健全です。だとしたら、積極的に見直しをしてください。ロードマップは出来レースじゃありません。思いっきり否定してかまいません。
気をつけてほしいのは、やるとなったら強く信じてほしいのですが、頑なになるな、頑固になるなということです。これはまさにロードマップの話にもつながるのですが、ロードマップを否定することを嫌う、頑固になるってそこですよね。ロードマップを否定されることを嫌うという話ですよね。
これは、やはり自分たちの将来のオポチュニティを失っている可能性が非常に高くなります。ですので、この視点の行き来と、その柔軟性がやはり非常に重要だなとよく思います。
このStep Changeは、ロードマップを変えるという話なのでけっこう大きなトピックになりやすいんですよね。プロダクトマネージャーの中で完結できる話もあれば、会社としてどれくらい投資するかを決めているケースもあるので、そうじゃない話も当然あると思います。
その場合、経営層・リーダー層の方たちは、ぜひこのStep Changeに挑むPMたちをサポートしてください。そこをサポートできないと、プロダクトが大きく跳ねる瞬間を作ることができないし、そのプロダクトが本当はキャプチャーできるオポチュニティをミスしてしまう可能性があります。
(次回へつづく)
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