DXもアジャイルも、変化に対応できる人材であり続けなければいけない

小林:高速で開発していくもの(を)自動で(テストを)やらなくちゃいけない。さらに、データをとにかく取っていって、データドリブンでジャッジしなくちゃいけないというところが感じられました。

そういった品質管理を実現する人材を、我々が育てていく。「育てていく」という言い方がちょっと上から目線かもわかりませんが、輩出していくとか、作っていくとかをしなくちゃいけないと思っています。

個人的には、1世代前のウォーターフォールで決まったことに対して、決まった型で対応する人材とはちょっと違うんじゃないかと思っています。後藤さん、このあたりはどうですか? なにかいい例はありますか?

後藤:けっこう思っているのが、DXもアジャイルもどちらも同じですが、変化に対応できる人材であり続けなければならないということです。それを考えると、教育としてイチからHow toを教えていくと、かえって本来思っていた方向に進まない。失敗経験も積み重ねる中で、座学で「これとこれとこれを作ってね」ということは、基本的にはあまり言わないほうがいいと思っているんです。

あとは、キャリアチェンジで今まで重たい業界にいたけれど、急にスピードの速いところに来て、思考が止まっちゃう人がいるんです。

今日のお話の中で何度かお話ししましたが、そうなった時には、基本的なベースの考え方、抽象度を上げていけば、それほど変わらないと思っています。「ぶっちゃけ変わらないんですよ」と最初に伝える。

その上で、今まで製造業で重ための品質をしっかりやってきた人であれば、その考えの延長の中で、「いろいろなスピードやパラメーターが変わるだけ」という考え方でやっていくことになります。

最初にやるのが「あなたはこういうドメインだった。(だとしたら)どういうふうに品質保証をしていましたか?」と質問すること。「なんで? なんで? なんで?」とやっていくと、「今度(は)ここが変わったから、(そうなると)何を変えればいいだろうね?」となります。

質問を質問で育てていくというとおこがましいですが、「そんなに変わらないんだ」「今の考え方の中で、自分の頭で考えられる世界なんだ」ということを認識してもらうことがけっこう大事だと、個人的には思っています。

小林:ちなみに、後藤さん自身はどんなバージョンアップを自分に促しましたか?

後藤:私自身ですか? DXとかそういった(ことでですか)? そうですね。私のプロフィールにも書いたんですが、今までで一番稲妻が走ったような大きなキャリアチェンジだったのが、スマホのゲームの会社にずっと常駐というかたちでいたその次の瞬間に、航空宇宙を半年ぐらい……。

小林:随分真逆ですね、それ。

後藤:そうなのですよ。ただ、結局は変わらなかったと言ったら言い過ぎですが、考え方はあまり変わりませんでした。スマホのゲームだと、何か不具合が出たら石を配って早く直す。それが正論です。

航空宇宙は、ロケットを飛ばそうとしても飛ばせないから、理論上正しいということを説明する。そういったところに時間を割くわけです。そういった業界であっても、資源やリソース、お金は有限である中で、何が求められていて、どこまでやるかを判断しなきゃいけない。

そうすると、あまり変わらなかったというのがあります。私自身はそういった中で、1つの重なり合う本質が明確に見えたんです。両極端をやったので。事業会社だと難しいと思いますが、いろいろなお客さまを支援する立場の方なら、思い切っていろいろなドメインを渡り歩いて、品質保証の本質を垣間見ていくのも1つです。飛び道具的なことですけれど、個人的にはおすすめしたいと思っています。

小林:とてもいいお話をありがとうございます。ぜんぜん分野が違っても、プロダクトが違っても、軸は一緒だということを身をもって経験したと。

後藤:そうですね。たぶん経験しないとわからないこともあると思うんですけれど、これは非常に良い体験でした。

株式会社ProVisionでは社内で研修を実施している

小林:福原さんはどうですか? 人材育成のお話。なにかいいものがあったら欲しいです。

福原:アジャイル型に特化した人材育成といった面では、弊社としてはまだまだ各現場に委ねてしまっているというのが正直な実情としてあります。これからの弊社としての課題になってくると思います。

ただDXの意味では、先ほどお話ししたテストの自動化を主体で行えるようなエンジニアの育成のための研修、社内研修はあります。

最近ようやく始まったばかりの取り組みではありますが、遂に全社的に動き出した感があります。私としてもぜひその波に乗って学習していきたいと思っています。

他に、先ほどお話しした部分にはなりますが、性能評価の部分であったりリスク分析であったり、こうしたJSTQBの学習によって得られる知識が非常に重要であることが再認識され始めています。

弊社としては、以前よりJSTQBの資格取得率向上に対しては非常に力を入れています。そのための社内研修や勉強会の運営を、一般職のメンバーも率先して行ってくれる環境・風土があるので、こちらは引き続き推進していきたいと考えています。

小林:何回も何回もJSTQBは大事だね、勉強だねと(言っていただいて)。福原さん、本当に今日はありがとうございます。

福原:もう本当にJSTQBさまさまだと日々感じてるので。

小林:あまり言うと身内っぽくなっていくのでここで止めておきます。すみません。

テストこそがDX人材の土台を支えるベースになる

小林:五味さんはどうですか。見ていて「やはり人材はちょっと前と違うな」みたいなものはありますか?

五味:いやぁ、これね、本当に難しい問題です。先ほども言いましたが、中小製造業に行くとだいたい人材問題に悩んでいる、もう100パーセント言われる問題です。後藤さんも言ったように、座学では難しい。もっと言えば育成そのものが難しい。そう思っています。

DX人材、DXに対応する人材はなかなか難しくて、IPAというか、経産省(経済産業省)が6種類(※)に分けています。ビジネスデザイナー、アーキテクト、UXデザイナー、データサイエンティスト、エンジニア。あと1個(プロデューサー)は忘れました。そのように分けていますが、それぞれ1人で全部できるスーパーマンはいませんから。

※「DX推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」ではプロデューサー、ビジネスデザイナー、アーキテクト、データサイエンティスト/AIエンジニア、UXデザイナー、エンジニア/プログラマーの6種類(なお2022/12の「デジタルスキル標準」では5種類)。

小林:ですよねー。

五味:個別にやらなくちゃいけないと思います。その6個の中にテストエンジニアがいないなとちょっと思ってはいたんです。それじゃあ(DX人材じゃ)ないんだよね、と思っています。

DX人材というと、どうしても今はビジネス系が重要視されるので、エンジニア(の需要)がちょっと落ちてきていると思います。そこが残念だけれど「いやそんなことはない」と。

先ほど(のお話に)あったように、ソフトウェアファースト。(ソフトウェアは)大事だということで、その土台をやるのは設計者、プログラマー、(それと)実はテスターだと思っています。テストこそが土台を支えるベースになるんじゃないかと。だからDX人材(には)、テスターも重要だと思っています。

小林:後藤さん、マイク握りましたけど、何かコメントがあればお願いできますか?

後藤:すみません。あまり深い意味はなかった(笑)。

小林:なにか言いたいのかなと思ったんで。

後藤:いやでも本当にそうですね。DXの潮流の中で、テスターというよりもQA、ちょっと文言は何が適切かわかりませんけれど、そこに求められる役割だったり重みだったりがちょっと変わってきているような感覚はあります。

キーワードとなっているのは、次の判断をしていくことを事業活動の中でずっとし続けていく中で、データの価値が非常に相対的に上がっていると思うんです。QAだったりテストだったりは、そういった1つの経営判断をするための情報の一部を提供する活動をしているので、それが質のいいものであればあるほど事業活動の中心に入っていけるような、そういった感覚があります。

小林:五味さん、マイクに手を伸ばしてますけど(笑)。

五味:いや、ほんとにね。それは大事だと思います。逆にエンジニア側からすれば、ビジネス価値を意識して、ビジネスマンにちょっと対抗しなくちゃいけないと思っています。ビジネスの価値。

先ほど、数値化するのは難しい、定量化するのは難しいと(いうお話が)ありました。我々は自分もエンジニアだと思っていますが、エンジニアはなるべく定量化、とにかく価値を自然に(定量的な値に)直してビジネス屋さんに対抗する。そういうのがいいです。あんまり大きな声では言えませんが。

小林:いえいえ、ありがとうございます。

質疑応答 DX時代に必要な素質とは?

小林:まだまだお話を聞きたいのですが、時間が少しずつ少なくなってきています。まだ質問専用の時間を設けていなかったので、質問を受け付ける時間に変えたいと思います。

ネットの方、(質問を)どんどん送ってもらえればと思っています。会場の方、挙手いただければこちらからマイクを持って行きますけど、いかがでしょうか。来ていますね。ちょっと待ってください。

じゃあちょっと新しめの(質問)からいきますね。「DX時代に必要な素質って何?」という、すごくズバッと突っ込む質問が来ているんですけれど、五味さん、お願いできますか?

五味:素質、非常に難しいです。自分のことをデータ人材、DX人材と思っているかどうかと直結すると思います。先ほど言ったキーワードが、やはりそれに合うと思っています。

後藤さんが何回も言ったように変化に対応すること、なおかつ変化に対応し続けると言っていたので、それが一番いいと思っています。たぶん(変化に対応し続ければ)俊敏さやアジリティに(自然と)対応しますし、対応し続ける(という)ことは、ずっとずっと新しいことを取り入れる、変化を遊んでしまえるぐらい楽しめる(ということです)。そういうのが素質だと思っています。

質疑応答 アジャイルのテスターをやる時に心がけるべきことは?

小林:また1つ質問が来ました。これもなかなかです。「いわゆるウォーターフォールの第三者検証テスターを長年やっていましたが、今後アジャイルのテスターをやるに当たり、心がけるべきことは何かありますか?」福原さん、どうですか?

福原:これは正直、福原が教えてほしいところなのですよ。まさに福原自身がウォーターフォール型の人間からなかなか抜け出せなくて困っているところが実情としてあるので。なので、どなたか私にアドバイスしてくれる方がいたら、ぜひお願いしたいと思っています。

小林:後藤さん、どうですか?

後藤:いや、私も教わりたいですけど。1つあるのは、アジャイルとなった時に、『スクラムガイド』を見るなど教科書から入る。それは1つ必要な知識なので、まったく問題ないと思います。

一つひとつのセレモニーがいっぱいあるので、「なんで? なんで? なんで?」と言って、「なんで」まで理解してから入っていくことが非常に大事。やはり教科書がすべてではないというところを念頭に置きながら入っていくといいんじゃないかと、個人的には思います。

小林:五味さま、お願いできますか?

五味:非常に難しく、また、おもしろい問題だと思います。今、私たちIPAはアジャイルメトリクスというものをやっています。アジャイル開発がどういうメトリクス、品質指標を集めるかということをやっています。

「そんなことをやっているよりモノを作れ」というアジャイル原理主義者。大きな声では言えませんが、そういう人もいます。大手企業からアジャイルになった人は、(やはりなんらかのメトリクスが必要と思うので)”アジャイルメトリクス”というキーワードで探してもらえれば見つかります。

本も出ています。“アジャイル”や“品質”(というワード)で検索してもらうと、私とは無関係ですが元NECの誉田さんという方の……。

小林:誉田さんは有名ですよね。

五味:そうですか。あの本を見てもらえれば、どこをテスト対象にして、どこをテスト対象にしなくてもいいとかが、細かくNEC流で書いてあります。あれはいいと思っています。

小林:いい本の紹介をありがとうございました。

小林:まだまだ質問は受け付けていますが、ちょっと時間が過ぎてしまったので、このあたりでクロージングにしたいと思います。じゃあ福原さまから。今日このパネルディスカッションに参加してみてどうでしたか? 感想を1つお願いできますか。

福原:まず、非常に勉強になりました。多くの方に見てもらえているところが個人的に非常にテンションの上がるポイントだったので、心から楽しむことができたと思います。あと、アジャイル的な思考などの、まだまだ自分に足りない部分を見つけることができたので、これからの勉強につなげられる、非常に有意義な会になったと思っています。

小林:後藤さんはどうでしょうか?

後藤:それぞれドメインが違う中で、意外と共通するところが多かったという新しい学びを得ました。あと会場が本当に立派で、すごく良い経験をさせてもらいました。控室も楽屋みたいな感じで。芸能人が座ってお化粧するような感じの(笑)。

小林:ああ、ありましたね。

後藤:はい。良い経験をさせてもらい、ありがとうございました。

小林:あらためて五味さま、どうでしたか。

五味:非常におもしろかったですね。このパネルディスカッションがアジャイルだったような、仮説検証をいっぱいしていたような。そういう感じがしました。

解決できないものが本当にいっぱいあります。ウォーターフォール的には難しいと思うので、アジャイル的に解決していきたいです。1つやって失敗したら別のアイデアを出してまたやる。「1つのメトリクスがだめになったら、こういうメトリクスをやる」というように、どんどん仮説検証を含めてやっていく。このパネルディスカッションも打ち合わせなしでやったぐらいですから。

小林:はい。ぶっつけで。私は非常に緊張していました。

五味:あはははは(笑)。非常に良かったと思います。どうもありがとうございました。

小林:ありがとうございました。以上でパネルディスカッションを終わりにしたいと思います。あらためて、パネラーのみなさんに大きな拍手をお願いいたします。ありがとうございました。