近年求められているのはテストの効率化

小林依光氏(以下、小林):では、また少しテーマを進めてみたいと思っています。今までは、「世の中のDXにはどういうものがあるんだね?」「DX案件ってどんなものがあるんだろうね?」「その中における品質管理、ソフトウェアテストってどんな事例があるのかね?」というテーマでした。

少し視点を変えて、我々はテスティングや品質管理を専門にしているパネリストです。その中におけるDXの事例も聞きたいです。

先ほどどこかでも言っていましたが、人口が減ってきているわけなので、我々一人ひとりも生産性を上げていかなくちゃいけません。そんな中で、「我々のDXとはなにか」というディスカッションに変えたいと思っています。では急にとばしますが、福原さんはどうですか。このあたりの分野は。

福原和紀氏(以下、福原):やはり近年としては、弊社的にもクライアントさまからテストの効率化を非常に多く求められています。なので、テスト実行におけるテストの自動化に関しては、非常に力を入れ始めている部分です。

なので、実現したい内容や費用から、お客さまの要望にマッチする自動化ツールを選定するところから始まります。そうした導入支援を担当しています。すでに数社さまにおいては、Autifyなどの自動化ツールを導入してもらっています。

小林:E2Eテスト的なツールですか?

福原:そうですね。こういったツールを導入しています。テストの自動化ツールだけではなくて、弊社のRPA(Robotic Process Automation)ツールの導入支援も行っています。

例えばExcelの情報を転記する、具体的に言うと、紙の請求書をPDF化して、それを請求書の登録のシステムに登録する。こうしたルーティン化された業務を自動化するために、RPAツールの選定から導入・開発・テストまで、一括で支援することを弊社で行っています。

そうしたところから、作業工数の大幅な削減であったり、作業の属人化の防止であったり、ヒューマンエラーの検知などなど、多くの効果と実績が得られています。

小林:Excelについて、すごくコメントがしたくて。なかなかExcelから卒業できないんです。世の中が卒業できないというんですかね。それでうまく使えていないと、不器用なファイルができていく。実は毎日同じ作業をしているみたいなことがあって、そこは国としてもなんとかしたほうがいいぐらいなテーマとして考えているところでした。

AI分析ができるようになったことで「取れるデータは全部取っておこう」に

小林:じゃあ同じように後藤さん。いかがですか。DXを利用した品質管理についてお願いいたします。

後藤香織氏(以下、後藤):あまり品質管理におけるDXと考えたことがなくて。この題をもらって初めて考え直してみると、けっこうあると思っています。

先ほどから何度も出ているように、品質管理でやっていることは、意思決定するための品質にまつわるデータを集めて、(ただ)データだけだと使いものにならないので、判断するための情報としてまとめて、それを見て判断する。そんな活動になっていると思っています。

そのデータは多ければ多いほどいいという考え方もあるんですけれど、今まではそれを人が見て分析していたので、扱えるデータ量に限界があったと思うんです。そこが最近、弊社では例えば「HeadSpin」という、モバイル系のUX分析や品質のボトルネックをAIがお手伝いして示唆してくれるツールもあります。

それは一例になりますが、要は、ツールの思想としては「自動テストで取れるデータを全部持ってきちゃえ」という感じなのです。何を持ってきているかというと、パケットのデータキャプチャーとかログデータを一切合切とか、あとは(スマホの)電池の残量とかです。

そんなの、通常のテストで持ってきても持て余しちゃうじゃないですか。それをAIが分析することで、機械学習なので「ここでこういうリスク傾向がありますよ。こうやって直したほうがいいですよ。これによってこれだけのインパクトが出てました」まで出るんです。「そこまでやってくれるんだったら取っちゃえばいいじゃん」ということです。

あと、やはりコンピューティングのリソースが年々安くなっているので、大量のデータがためられるということもあります。今まで財産としても扱われていた品質情報を、取れるもの一切合切を取ってきて、AIが分析して、使えるものを使っていこうということが起き始めているし、もう実用レベルになっていると思うんです。

これが今後はどんどん広がっていって、私たちの業務が大きく変わるポテンシャルがあるんじゃないかと思っています。

小林:なかなか難しいなぁと話を聞いていて思いました。データはあればあるだけうれしいけれども、測る目的がないと「なんでそれを取るの?」と現場からは言われる。けれども、集めてみると実は(いろいろなものが)見える(ようになる)。そう聞こえたんですけれども、どうですか?

後藤:現場業務の思想と相反すると思っています。もしDXの現場において「なんかわかんないけど、データいっぱい取って並べました、Excelでグラフ出しました」と言われたら「いらない」と言います。

ただ、デジタルの力、テクノロジーで集めてきて、テクノロジーが勝手に分析して、人間が欲しいレポートを出してくれるとなったら、勝手にやっているんだから取れるものは取っておけばいい。何か気になることがあった時に、データがあればあるほど「何が悪かったんだろう」と分析しやすく調べやすいんです。

「じゃあ、全部取っておけば?」みたいなもの、DXを用いた品質に関するプラットフォームとかツールとかにも、お任せの仕方ができる(ようになる)と思っています。

小林:世の中トレンド的にあっちこっちやっていますが、BIツールを入れてAIで分析してなどというものがいろいろなWebサイトにあって、よく製品紹介をしてもらいます。そこと結びつくと思って今聞いていました。

品質管理におけるDXでは、ソフトウェアが幅を利かせてきた

小林:五味さんはどうですか。「こんな事例があるよ」みたいなものがあったらお願いします。

五味弘氏(以下、五味):「品質管理におけるDX事例」は非常におもしろい題だと思っています。ちょっと振り返って、今までにしたDXのインタビューを見たら、品質管理の元になるのは、後藤さんや福原さんが言っていたデータだと思うんです。

AIにしろBIツールにしろ、とにかくデータが大事で、とにかくデータをデジタルデータにする。それをやれば、例えば製造業なら工場設備の稼働率が測れる。社長の部屋からわかるようになる。そういうことが品質管理につながると思います。

もう1つヒアリングして大きかったのは、最近ソフトウェアがけっこう幅を利かせてきたことです。製造業だと、一番偉いのはメカなのです。

小林:あ、メカ屋さん。

五味:「次はエレキだ」なんてよく言われる身分制度がありますよね。製造業はまさしくそれ。(しかし最近は)ソフトウェアファースト。その考えが少しずつ出てきて、データを(デジタル)データにする時にどうしてもソフトウェアが必要になってきます。

ネットワークにつなげて通信する。クラウドにするかどうかは置いておく。ソフトウェアがだいぶ復権してきて、かつ、データがどんどん集まってきたので品質管理が大事ですね、ということです。そこに落ち着きます。

ソフトウェアはメカ出身の社長はあまり言いたがりませんが、けっこうどこにヒアリングしても、ソフトウェアが幅を利かせてきたことは常々感じていました。

小林:本当にそうですよね。通信が4G、5Gと速くなって、どこでもデータが取れるようになっているし、ハードウェア的なところもだんだん標準化されて安くなってきていることも否めないと思っています。そうすると、その上で動くソフトウェアで何をするかというところになるわけです。

五味:完全にソフトウェアは土台になっています。もう世界を牛耳ることができます。

小林:野望を感じましたね、今のコメントから。

(次回につづく)