デザインの工程をどのくらい可視化しているか

西村和則氏(以下、西村):1つ質問です。デザインの工程はどれくらい言語化というか見えるようにしているのかが気になりました。デザインはすごく範囲が広いじゃないですか。解釈も人によって違うと思うんですが、何か取り組んでいることはありますか?

栄前田勝太郎氏(以下、栄前田):メチャクチャ考えていますね(笑)。

曽根誠氏(以下、曽根):クライアントワークの流れ、標準みたいなものは作ったことがありますが、工程や順番を細かく定義するのは本質的ではない気がしていて。各局面のアウトプットがあって、その前後のプロセスのつながりを可視化するもの、これをやることによって後のプロセスのこれができて、結果何が達成できるのかが可視化された図は作りました。各工程でいきなりワイヤーフレームがポンッと出てくるようなものじゃないという話はしました。

伊藤セルジオ大輔氏(以下、セルジオ):先ほど紹介した、User Focusスクラムで新規プロダクトを作っていく時に、このタイミングでリサーチやステークホルダーマップを作ることをまとめたガイドラインは一応社内にありますが、その通りにはいかない。

基本は柔軟にやっていくだと思いますが、イメージしやすいように一定のものは用意はしています。User Focusスクラムは社内のプロダクトを作るためのものですが、社外向けの共創事業に関してもマネーフォワードサービスデザインのフレームワークを作っているので、あるにはありますが、かなり柔軟で毎回違います。

西村:デザインを、全員で開いていく構造にする時に難しいのが、今話していたポイントだと思っています。プロセスをある程度フレーム化したり、デザイン思考もそうじゃないですか。拡散と収束という構造だけど、実際のプロジェクトでやっているとその通りにいかなかったり、今どの工程かがデザイナーではない人には判断できなかったりするケースが多いなと思います。

曽根:そうですね。

西村:プロジェクトをやっていると、そこをどう促していくのかが課題だと思うことが多い。これはデザイナーが、導く役割を担うべきなんですかね。

曽根:導くというよりは、いったん引いて眺める立場になって、これはつながっているけど(こちらは)つながっていないと気づく役割になるのかなと思います。

西村:客観的な視線も必要かもしれませんね。プロジェクトを進めている当事者は目の前をフォーカスしているので、引いて眺めた時に全体が今どういう状態なのかを捉えられるかもしれません。

セルジオ:デザイナーのプロセスはいろいろ学べばできると思うのですが、ある意味完成形が先に頭に浮かんでいるのが強みとしてあるのではないか。要は想像力を持って、このプロダクトはこういう理想形になるだろう、このペースでいくとこのくらいのかたちになるだろうとか。グラフィックもそうですが、僕らは作る前に描くので。

そこがある意味特殊な能力だと思っているんです。だから完成形が見えて、今このくらいの段階にいるとわかれば、デザイナーは比較的思い浮かべやすいんじゃないか。他の職種にはない特殊能力と言ってもいいかもしれません。

曽根:もう見えちゃっているというやつですね。

西村:確かに。逆に図式化して、チームが進む方向性や議論の的を揃えるのも、デザイナーの特徴だと思います。戦略的な話をしている時に議論になりやすいですが、そういう時にきちんと的になるものに落とす、つまり描くことができるだけでも議論がうまくいって前進した経験があります。

セルジオ:プロトタイプを作ったらそこから一気に開発が加速するみたいな。

西村:ありますよね。

セルジオ:みんなに見えるかたちになった時点で、そういう効果はあると思うんです。

曽根:「矢を射てから的を描きに行くのがデザイナーだ」という、ソシオメディアの上野さんの有名な話を思い出しました。当たるところがわかっているから、そこに描きにいくという話。アブダクションで逆推論をするのがデザイナーだと。「デザイナーはできあがったものにあとから理由付けをするけど、デザイナーじゃない人は反対で、積み上げて積み上げて最終形ができる」という話を聞いたことがあって、それにすごく近いと思いました。

セルジオ:その考え方は経営にも活かせると思っています。要は、数字を積み上げて考えていくのではなく、理想像を描くビジョンですよね。それを描いてバックキャストで考えるのはデザイナーならではの考え方だとは思うんです。会社の経営においても、どれだけ未来像を具体的に描けるかによって今何をすべきかを考えていくのは、ふだんの数字を積み上げていくアプローチとは違うやり方なので。「経営にデザインを取り入れるってどういうことですか?」と聞かれることもありますが、その感覚は持っていますね。

西村:確かにそうですね。

経営層にデザインを語るうえで気をつけていること

栄前田:2つのテーマについて話してきました。みなさん、質問の中で拾いたいものはありますか?

曽根:難しそう(笑)。

栄前田:なるほど。では答えてもらえるかはわかりませんが、スライドの右下の「文化を作るにあたって用意するべきもの、ことってどんなものでしょうか?」が気になります。また難題が(笑)。

平野友規氏(以下、平野):文化の話はもういいでしょ(笑)。

(一同笑)

栄前田:ダメ?

平野:文化好きだね(笑)。

(一同笑)

栄前田:ダメかなぁ? 好きなんだけどな。

平野:わからないよ、これは(笑)。会社のミッション・ビジョン・バリューしか言えないもん(笑)。

(一同笑)

栄前田:平野さんからその言葉を引き出せただけで、これを取り上げた甲斐がある。

平野:話題に挙げていないもののほうがおもしろいんじゃないですか。

栄前田:なるほど。これじゃないですか? 「CDOとして経営とデザインをどうつないでいるか」「経営メンバーはすでにデザインの価値を理解してくれている人が多いとは思うが、それでも経営メンバー向けにデザインについて語る時に気をつけていることは何か」。

平野:わかりやすいので僕からいきます。UB(ユーザベース)は世間一般で言うと、デザインに対する経営層の理解は高いと思うのですが、同じミドルベンチャーの方と比べるとそれほどではない。投資金額を含めて理解はまだ弱い。それは僕を含めたデザイナーの責任でもあるのですが、まだまだ証明できていない状況にあります。

これを語る時に気をつけているのは、僕がなんで今プロダクトに集中しているかです。プロダクトが良くなると、MRRみたいに数値が跳ねる。僕はデザイナーとしてプロダクトに貢献していく良さを担っていて、ブランドやコミュニケーションは別の方が担っていて、役割分担をしながら結果で示すフェーズなので、早く示していけたらいいと思っています。

先日デザインシステムでFigmaを公開したのですが、それを資産として残して有益なプロダクト開発だと示していくために、今はがんばって結果を残そうとしているフェーズです。僕の場合はそんな感じです。

セルジオ:僕は、経営を理解することだと思っています。デザインを理解してもらうには経営を理解する。「こちら」や「あちら」という言い方は良くないのですが、デザイナーは経営について理解すべきだと思っていて、今経営上にどんな課題があるのかをしっかりと理解しています。

要は、翻訳なんですよね。その内容を実際のデザイン組織に活かしていくにはどうしたらいいのかを僕がデザイナーの言語に翻訳して、逆にデザインの現場で起きている問題を、経営の言語に置き換えて翻訳するみたいな。ある意味、翻訳者的にしっかりと両方の言語がわかるように、どちらの視点も持つという感覚は持っていますね。

平野:セルジオさんに質問をしてもいいですか? フリーランスとして自分でスモールビジネスをやってきた中で、今マネーフォワードにいて、経営層の視座と自分が経営していたデザイン事務所で大きく違うのはどんなところですか?

セルジオ:自分のデザイン事務所は社員も少なかったし、正直に言うと、そんなに比較していないんです。僕はキャリアのスタートとして、スタートアップの社長室で3年半くらい働いたことがあって、それが経営に入った理由なんです。社長のカバン持ちを3年半くらいやっていた中で、社長がどうビジョンを考えて、それをどう実行して、これに対して何が足りないのかというのを日々学んでいたので、それが活きている感じです。

平野:ありがとうございます。

セルジオ:よく「CDOになりたい」という方がいますが、社長のカバン持ちはおすすめです。

(一同笑)

曽根:ナンバー2はいいですね。

栄前田:口を挟みます。あるミーティングでデザイナーの組織内におけるキャリアについて話していたんですが、その時に「CDOはどうやったらなれるのか」という話が出ました。

栄前田:そもそもキャリアパス上にCDOはあり得ない。突然現れた感じですが、今のセルジオさんの話を聞くと、CDOを目指す人にはまさにカバン持ちがおすすめだと思った。組織内にキャリアパスはないので、それ以外のところから知見を得る機会が必要なんじゃないかと、カバン持ちの話を聞いて思いました。

セルジオ:社長室はエクストリームなんですが、身近なところでいいと思うんですよね。ビジネスの領域を知る機会はあると思っています。POと一緒に事業計画を作ることから始めてもぜんぜん違うと思うんです。

栄前田:おもしろいと思ったのですが、私は入社以来ずっと営業のエースに「カバン持ちしますよ」と言っているんです。

(一同笑)

栄前田:組織の中でビジネスを理解しているのは、営業やセールスに近いメンバーだと思うので、デザイナーのメンバーがセールスやマーケットの人たちと接点を持つのはすごく大事だと思いました。

セルジオ:そうですね。うちのデザイナーのメンバーもセールスと同席していますね。

曽根:ビジネスを理解したかったら、うちみたいにクライアントとビジネスをしている場合は、提案書や資料を率先して作るとその重要性がわかってくると思う。デザイナーとしては、スコープが小さくなるのでやりたがらないのですが、マルチなスキルを手に入れるためには大事なのかもしれない。提案のプロセスをうまく描けるデザイナーはすごく重宝される気がします。

平野:僕もそれにはメチャクチャ共感します。今は自分のデザイン事務所を半分退いていますが、フロントでメチャクチャやっていた時で、一番プロジェクトに集中したのは見積もりの時だったんです。それですべてが決まるので、提案書を含めて見積もりをクリエイティブに書けるかが大事でした。

例えば500万円と書いた時に、なぜそれが500万円なのかを綺麗なストーリーで、見積書1枚で違和感なく通すとか。僕は金額だけでなくマーケットサイズも調べるので、稟議で承認されるのはいくらまで、この決裁者ならいくらとか、見積もり1つで考えられる。自分のデザインをいくらで売るのか、それがどうキャッシュフローとして乗っていくのかの見積もりを取ってもいい。曽根さんの話の提案や見積もりについては共感できました。

セルジオ:見積もりはメチャクチャクリエイティブですよね。

平野:僕は見積もりを書くのが一番楽しかった。

セルジオ:僕は楽しくはなかったな(笑)。

平野:見積もりを書いている瞬間と、通った瞬間に「この仕事終わったわー!」って。

(一同笑)

セルジオ:終わっていない(笑)。

平野:実際はぜんぜん終わっていないのですが、あとは自分が描けばいいので。見積もりが最高に楽しいので、請求書を書く時はガッツポーズで「あぁー、終わったー!」みたいな。

セルジオ:見積もりはある意味、仕事というかアウトプットの最初の設計図ですからね。

平野:予算からスケジュールまでトータルしたうえで金額を書く。わざと赤を掘るのか、投資として赤を掘るのか、しっかりと取りに行くのか、すべてがそこに出る。すみません、脱線しちゃいました。見積もりが大好きなので。

(一同笑)

栄前田:今、みんなが共感した瞬間でしたね。

平野:僕はデザインの学校で1日だけ授業を持つとしたら、自分のデザインに対して見積もりを書かせる授業をやりたいですね。

セルジオ:いいですね。

平野:メッチャやりたいです。自分のデザインの見積もりを取るって絶対におもしろいと思うんです。

西村:本当ですね。

栄前田:セルジオさんはどうですか?

セルジオ:僕はアシスタントをやりたいと思います。

(一同笑)

平野:今、デザイン組織の傍ら業務委託の方との契約書の見積もりも僕がやっているのですが、誰かに頼もうとしたら「どうやって書けばいいんですか?」と言われました。それが当たり前ではない人には難しいんだと思いました。

メンバーに当事者意識を持たせるためにはどうすればいいのか

栄前田:もう1つ、答えやすい質問を。「デザイナーが当事者意識を持って組織をデザインするために、意識を持たせることは必要でしょうか」

セルジオ:チームリーダーがメンバーに対してどう意識を持たせるかという質問ですかね。

西村:そう見えますね。

栄前田:メンバーに対して、というのが読み取れますね。もう少し噛み砕くと、「組織に所属しているという当事者意識をデザイナーにも持ってもらいたい」と読み取れます。

曽根:もっと関与してくれということなのかな。

栄前田:本筋とは違うかもしれませんが、今回のイベントのテーマに近いのでは。

西村:確かに。

セルジオ:最初のテーマにつながるのですが、風土が変わればデザインはしやすくなるはず。本来、自分の仕事は組織が良いと進みやすくなるはずですよね。アウトプットが良いものになるはずなので、意識を持たせることが必要かというより、その関係性がわかっていると、チーム状況が良くないから良くしたいというアクションにつながるんじゃないかという気がしました。無理矢理に意識付けるものではないと思います。

曽根:縦割りの組織の中でプロセスの1つを担うデザイナー組織なら、当事者意識で組織をデザインすることはできない。もっと違う組織構造にすることも必要なのかと思いました。

セルジオ:組織構造そのものを変えていくということですね。

曽根:それが必要になるフェーズもある気がしました。

西村:もっと身近なら当事者意識を持てると思うので、会社がやろうとしていることと、個人がやろうとしていることの重なりのようなものを実感してもらうという話でもあるのかと思います。組織をデザインすることは自分が所属している環境そのものを変えるということなので、それをすることがどう良いのか、このケースだと、周りの人たちのためになるという実感が持てていないのかもしれませんね。

セルジオ:マネーフォワードは評価でグレード線を引いていますが、そのラダーの1つにプロダクトデザインと並んで組織デザインを入れています。意識的にそれがデザイナーの活動範囲のような構造になっています。

西村:いいですね。

平野:僕も、あるタイトルを超えたら当然グレードの話が出てくると思っていたので、それは持ったほうがいいと思う。ただ、この方はチームリーダーなので、深読みかもしれませんが、当事者意識をどう持たせるかに課題を感じていると思いました。だとしたらいろいろなやり方があると思いますが、僕の場合は「責任を取らせる」です。

責任を取らせる仕事、究極「謝ってください」という状況に置くのが一番当事者意識を持ちそうですよね。僕は前々職の時にメチャクチャケアレスミスが多くて、本当にヤバイことを起こしちゃったくらいなんです。

でも、独立して自分ですべての責任を持つとなったら、ビックリするくらいケアレスミスが消えたんです。仕事の責任を取る状況になるとそうなる。責任を取ってもらうくらいの仕事を作ってあげると当事者意識が働くんだなと。やる気の問題ではなく責任の問題だと思います。

曽根:そうですね。ヒエラルキーの中で与えられた仕事をこなして、「これをやったらOKです」と言われて、それが違ったら仕事を与えた人の責任。それが当事者意識の欠如の一番の問題だと思います。なので、その人に責任を取ってもらうというよりは、その人に完成まで持っていく意識を持ってもらうことが非常に大事な気がします。

西村:今、ルートでもマネージャーを育成しているところです。プレイヤーとマネージャーでは優秀の定義が変わると思うんです。プレイヤーは自分でやれる人だと思うのですが、マネジメントとなると自分でやったらダメという状況になるので、その意識をどれだけ転換できるかが大事だと思います。チャンスというか、現場をどれだけカバーできるかだと思います。

栄前田:後半の2つの質問だけで1つのイベントが終わるんじゃないかくらいの熱量になりました。

平野:先日、元スタディサプリのデザイナーさんと話したんです。「平野さんはマネージャーとして何をしているんですか?」と聞かれたので、「人が足りなくてメチャクチャ手を動かしている。プレイングマネージャーをメチャクチャがんばっています。スタディサプリでは、どうしてたんですか?」と聞いたら、「手を動かすのをやめました」と。「手を動かすのは副業でやって、本業ではマネジメントに専念しました」と言うので、「なんでそんなことをしたんですか?」と聞いたら、「僕がこの仕事をしなかったら、成長できるメンバーがいたかもしれない」と。

僕はショックで、考えたこともなかったと思った。マネージャーがその目線にならないとダメなんだとすごく反省しました。うちの会社ではプレイングしないと評価されないので、プレイングはしますが、さらに仕事をプロデュースする側の視点に回らなければダメだと思いました。

曽根:すごく共感します。できる人がやっちゃうと、できることがわかっているから組織の相対としては成長しません。仕事を教えて、できなかった人ができるようになるほうが組織として大きくなる気がする。

セルジオ:アウトプットは、実は最大化するんですよね。

曽根:自分が動かさないことによって。

セルジオ:どうレバレッジを効かせるかなんですよね。

平野:そのレバーが難しいんですよね(笑)。

西村:これはデザイナーのジレンマですよね。マネジメントだけをやっていると手を動かさなくなるので、現場がわからなくなる。昔はそれに対する抵抗がすごくあったし、今でも手を動かしている部分はあるんですよ。作りたいという欲求もあるし、すごく葛藤する。これだけでイベントができますね。

(一同笑)

平野:これだけでもう2時間(笑)。

西村:いけるいける(笑)。

栄前田:完全に2つのテーマは助走でしたね。ここから本番みたいな。

平野:どこで手を動かすかはマジでリアル(笑)。

西村:本当に。

平野:そこは悩ましいんです。今はもう割り切っていますけど。

西村:CDOクラスの人たちがどこで手を動かすのか、話す会をやりたいですね。

栄前田:メチャクチャ気になります。

平野:マネーフォワードとはフェーズが違いますが、うちはプレイングマネージャーが頂点にいる組織なので、プレイングすることが求められている。ただ、マネジメントも当然求められます。どの仕事をやるべきなのか、どの仕事を誰に渡すのかの判断を間違えると3ヶ月間のパフォーマンスがガンッと下がるし、すべてがハマると確かに最大化するんです。そこの線引きが難しいです。

セルジオ:やばい。話が止まりませんね。

平野:ビール飲みながら話したい。

西村:ビール飲みながら話したいですね。

栄前田:なので画面共有を切りました。

(一同笑)

セルジオ:よかった。終わりましょう(笑)。