2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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栄前田勝太郎氏(以下、栄前田):確かマネーフォワードは田町のオフィスでオフィスデザインをやったじゃないですか。あれは、そういう組織作りやデザインに大きな影響があったんじゃないかと思うのですが。
伊藤セルジオ大輔氏(以下、セルジオ):そうですね。オフィスデザインをしたデザイナーは今VPoCという役割についていますが、カルチャーの責任者です。そのオフィスもカルチャーをすごく意識していて、「Let's make it!」、つまり「ともに作ろう」というコンセプトを体現するために、オフィスができあがる前の何もない空間にみんなを招待して、柱を一本一本自分たちで塗ったんです。その塗りムラのある柱が今も残っています。
そういった体験をともにしながら作っていくことで、まさに文化ができていく。要するに、オフィスという風土の中で「Let's make it!」の文化が実際にできあがっていった。それは確かにすごく良い仕掛けだったんじゃないかと思っています。
栄前田:ありがとうございます。平野さんがしゃべりたがっている気がする(笑)。
平野友規氏(以下、平野):それメチャクチャいいなと思って。
(一同笑)
UB(ユーザーベース)も2022年に丸の内に移るんですが、そこで僕も壁を塗りたいと思った。
(一同笑)
セルジオ:みんなで塗ることで、その体験の共有が文化を作り上げるんじゃないかと思うんです。
平野:なるほど。
セルジオ:(柱を塗っている写真を指して)これですね!実際に壁を塗っているところですよね。引っ張り出してくれてありがとうございます。
栄前田:そうですね。物理的な空間から文化ができあがりそうですね。みなさん、場の力をメチャクチャ感じられていると思うんですが、コロナ禍でリモートワークが主体になっていると思うんです。だからこそ、オフィスデザインがすごく力強いと思ったりもしますね。
平野:勝太郎さんが今回用意してくれた「miro」も、ある意味この場での風土だと思うんです。そこにあるコンテンツが乗っかってくるので、風土設計も大事だと思います。
西村和則氏(以下、西村):本当にそうですね。miroがなかったら一方通行で話すだけになっちゃいますもんね。
栄前田:もう1つみなさんにお聞きしたいのは、カルチャー作りです。先ほどのマネーフォワードの話もカルチャーでした。文化を作る話はよく聞くのですが、風土の話はあまり出てこない。
文化を意識すること以外に、風土を意識されたり感じたりすることはありますか? (スライドを指して)この「風土なき文化」。風土の話が頭にあったので、このあたりはどうなのかと思いました。
曽根誠氏(以下、曽根):気づく前からそこにあるんだろうと思うのですが、環境だからとあらためて見返すと気づくこともあるんでしょうか。
西村:多くの人は「そこにあるんだろうね」という感覚だと思います。でも、最初の人はそうではないんじゃないかと思っていて、これには明確な意思があると思うんです。それをやるのにも「やりたい」という思いがある。組織はそういう構造になっていて、必ず立ち上がる最初の人はそれを持っていると思うんです。これが何らかの引力を持っていて、その方向に進む力みたいなものが必ずある。それが作用することは必ずあるんじゃないかと思いました。
セルジオ:だから、初めて「北欧に住もう!」と言った人がいるわけですよね。
西村:そうそう(笑)。だと思うんですよね。
セルジオ:それはもう、意識ですよね。風土を用意するというか、この場所に決めるという意思です。
栄前田:今の質問の意図ですが、文化を変えたり文化を作ったりすることはわりとありますが、先ほど「風土も変わるかも」という話が出たじゃないですか。風土は気づいたらあって、根強かったり根底にあったりするものだと思うのですが、それが変わる時ってどういう時なんだろうと、先ほど聞きながら思いました。
曽根:ジワジワと変わっていくんじゃないですか?地球のCO2が増えているように。組織だと人の新陳代謝もあるわけで。
西村:なるほど。
曽根:それによって変わっていったりもするだろうと思うんです。
西村:コロナも1つの変化ですね。
曽根:1人目が風土を作るというのはまさにそうだなと思ったのですが、1人目が思い描いていた風土のままかどうかはまた別の話かと思いました。それはコントロールできないものかもしれない。
西村:組織を作る時に、スライドの三角形の上からやろうとするパターンが多い気がするんです。うまくできていない組織だと、上から順にかたちにする取り組みがけっこうあるんじゃないかと思う。
曽根:やることを決めちゃっているという。
西村:そうですね。そういう構造になっている会社もけっこうあるんじゃないかな。デザインと相反するのですが、壁を塗るのもみんなが参加してやる体験が大事なわけじゃないですか。それが文化になるという話なんだけど、逆にそれを体験からではなく、例えば言語化する。指示的ではあるのですが、明示するところから入るというのもあるかなと。でも本当のアプローチは逆なのかもしれないと、今お話を聞いていてすごく思いました。
栄前田:大丈夫ですか? このテーマは話し尽くしましたか?
平野:次に行っていいよ(笑)。
(一同笑)
セルジオ:いきなり重いテーマからで難しかったですかね。
平野:こんな重いテーマから始まるのかとビックリしました。
(一同笑)
栄前田:待ってください(笑)。一応、合意しましたよね!?
平野:もう少しライトなテーマからスタートしてほしかった(笑)。
セルジオ:確かに。
栄前田:では2つ目のテーマ「UserFocusという言葉でエンジニアやビジネスとつながっている話」にいきましょう。これはセルジオさんが出したものだった気がします。
セルジオ:そうですね。よくデザインとビジネスの間には壁があると言いますよね。ビジネスがデザインを理解してくれないとか、エンジニアがデザインを理解してくれないという話を聞きます。
逆に、デザイナーはビジネスを理解しているんだろうかという話も聞くし、あまりデザインがすごいと言いすぎないほうがいいと思っているんです。この「UserFocus」は、僕らの会社のバリューに入っている言葉なんですが、例えば開発アプローチの中にデザイン思考を入れていきたい、デザインアプローチを入れていきたいとなった時に、私たちはスクラム開発を使っているので、「スクラム開発でより良くしませんか? スクラム開発をよりUser Focusなものにしましょう。User Focusでスクラムをやってみたいと思うんです」というアプローチをしています。
そこではあまりデザインという言葉を使っていないのですが、実はデザインアプローチをメチャクチャ使っているんです。
やはりデザインは手段だと思う。共通の目的としてUser Focusがあると、デザイナーとエンジニアの壁や、デザイナーとビジネスの壁を乗り越えるきっかけになるんじゃないかと思っているので、デザインとビジネス、デザインとエンジニアの壁をどう乗り越えていくのかについて話題を提供させてもらいました。シーンとなっちゃいました。
(一同笑)
曽根:いや、大事だなと思います。
平野:少なくとも僕らの組織規模は、デザインという言葉を使ってつなげていくのは難しい段階なので、僕は、「デザイナーと一緒に仕事をすると良いことが起きる。もしくは、良いことが起きやすい」。そういう言葉で週次ミーティングなどを行っています。なので、「デザイナーと一緒にやると良いことが起きる」ということを知る人を何人増やしていけるかを心のKPIとしながら仕事をしています。そういう人は増えてはいるのですが、卒業すると本当にショックなんですよね。
(一同笑)
平野:ウワーとなる。でも業界全体で見ればそういう人が増えるからいい。
曽根:それは共感しますね。
セルジオ:小さなことからでもいいと思うんですよね。資料がすごくかっこよくなるみたいな(笑)。
平野:本当にそうだと思います。
セルジオ:そういう話だと思うんです。きちんと真剣に向き合えるかどうかが大事な気がしています。
平野:UBに入った当初、真っ先にやったのがSPEEDAの営業資料のリメイクでした。見やすく書き直すことで、クライアントさんの手ごたえがわかるんです。今までのセールストークを崩すとマズイので、その流れは絶対に変えないように制約しながら、セールスの方と一緒に資料のリメイクをやりました。
セールスの方が資料を持ってクライアントもしくは商談相手のところに行くと、明らかに反応が違うのがわかる。そこには良い力が働いていると知ってもらうところから、僕はちょっとずつやっています(笑)。マーケ系を最初にやると数字がすごく跳ねるので、それもすごくよかったです。
曽根:一緒にやるのは大事な気がします。デザインはプロセスの一部で、デザイナー以外は侵せない領域だという考え方や、それこそ風土があると難しいのですが、デザイナーと一緒にやると良いことがあって、「デザインはみんながやっているんだよね?」ということに気づいてもらうと壁はなくなっていく。
そういうことを社内やクライアントに対してもやっていきたいなと思います。『デザイン組織のつくりかた』という本にも書かれていましたが、デザインはプロセスの一部ではなく、みんながデザインできている状態が望ましい。本当にそう思います。
西村:そうですね。
セルジオ:その話でいうと、弊社ではノンデザイナー向けのデザインスクールをやっているんです。
曽根:いいですね。
セルジオ:デザイナーが講師となって、ビジネスやエンジニアのメンバーにデザインの考え方を伝えるというスクールなのですが、そこもデザインスクールではなく「User Focusスクール」と呼んでいます。会社のUser Focusの体現を学ぶ機会として、デザイナーがデザインの考え方を説明しますが、それはあくまでUser Focusのためにやっている。スライドに「デザインは魔法じゃない」と書いてありますが、誰しも使えるものだという認識を広げていく活動をしています。
曽根:デザイナーがあたかも魔法使いのように、違うものだと扱われるより、魔法はどんな職種でも使えるもので、魔法のうまさや使いどころを知っているのがデザイナーで、ロールプレイングゲームで一緒にパーティを組んで、魔法使いを入れてもらうみたいに進めていくといいなと思います。
西村:そうですね。お客さんを支援するケースでデザインというと、解釈の違いやギャップがすごく出ちゃいます。以前あったことなのですが、その時はチームにデザイナーが1人いて、関わっている範囲がすごく広かったんです。企画の工程からフロントエンド実装、その後の運用まで幅広い範囲を担当していました。
僕たちは外から入っていったので、最初はチームの状態を観察していたのですが、要件から具体化して、設計して実装に持っていくという過程を見ていると、コミュニケーションの時間がメチャクチャ長いんです。
デザイナーがすごく苦しそうなんです。ものすごく長い会議でやり取りをしていて、なぜそんなことが起こるのか、デザイナー自身が解消できない課題を抱えていた。なので、その時に僕たちが最初にやったのは、デザイン制作という範囲のプロセスだけを整理していくのではなく、チーム全体の中の流れを体系化して可視化することでした。
企画の段階から、ステップの中でどういうコミュニケーションが行われているのか、どういう情報がやり取りされているのかを全部視覚的に整理して、それぞれのステップでどういう情報のやり取りがあり、何が課題なのか、どういうコミュニケーションを取るべきなのかを定義していきました。
これをやると、デザイナー自身がその都度やるべきことや、それに対するフィードバックや批評がどう入っていくのかを整理できるという事例があります。これによって、手前にいるビジネスや、後ろにいるエンジニアリングとツールを通してコミュニケーションしながら、一緒にデザインを作ることができるようになったんです。
こういう機会を作ることがとても重要なんじゃないかと思っています。ただこれが、デザイナー頼りになっているチームや組織が多い。すべてのデザイナーが1人で突破できるものではないと思っていて、どう変えていくのかがUser Focusという言葉につながると感じました。デザインという言葉を使わないことがすごく大事です。共通言語をきちんと作っていく。
セルジオ:スライドの右上に、いっぱいポストイットを貼ってあるものを載せたのですが、これは先ほどのノンデザイナーズ向けのデザインスクールで最初にやった、みんなのワークです。「あなたがデザイナーと聞いてどんな人を思い浮かべましたか?」というワークをビジネスやエンジニアのメンバーとやったら、「天才」とか出てくるんです(笑)。
このあと、デザインは色・形だけでなくプロセスであるという話をしたら、概念が変わったという反応がありました。いわゆるデザイナーの固定概念は世の中にけっこうあるので、これをやって距離があると思っている方は多いと感じました。
西村:確かに。
曽根:全職種というか、いろいろな人が入っている感じですね。
セルジオ:そうですね。「センスが良い」や「自宅のテーブルにこだわる」もありますけど(笑)。
西村:見えるようにするだけでも認識の違いがわかるので大事ですよね。
セルジオ:そうですね。
西村:可視化されないまま一緒に仕事をしていると、前提のギャップが大きいですからね。
平野:1人目のデザイナーががんばりすぎていることが基準値になることは、組織を拡大しようとした時に良さになるのですが、同時に弊害にもなると、最近僕は感じています。通常はこんなに早く(アウトプットは)上がらない。もっと丁寧に考えてからアウトプットする。
なので、1→10というレベルで今後組織を広げるうえでも、1人目のデザイナーの印象をいかに変えていくかが今すごくチャレンジしているところです。だから、これはすごくいいなぁ、印象がすごく変わりそうだと思っています。
セルジオ:おもしろかったですけどね。
曽根:デザイナーのグループがあるのですが、そのグループの中でも再編しようとしています。「デザインって何ですか?」と質問したら、いろいろな考え方が出てきました。デザイナーと呼ばれていてもこんなに違うんだと如実に感じたので、これを全職種でやるとすごくおもしろそうだと思いました。
(次回へつづく)
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