“いいエンジニア”とはどういう人か?
菅澤英司氏(以下、菅澤):つよつよエンジニア社長の菅澤です。今日は引き続き、株式会社LayerXのCTO松本勇気さんに、話をお聞きしたいと思います。
いろいろエンジニアも見てきて、ご自身もエンジニアとして、CTOとしても活躍されてきたというところで、最後にエンジニアトークというか、どうやったらいいエンジニアになれるか、“いいエンジニア”とはどういうエンジニアなのかみたいなところを、ちょっと聞きたいと思います。ぶっちゃけ、どうやったら“いいエンジニア”になれるでしょうか?
松本勇気氏(以下、松本):学ぶ方法って、今はたくさん転がってるじゃないですか。だから、技術力を上げられないことはないと思ってるんですよ。一番大事なのは、僕は軸を持つことだと思っていて。軸、意志。「君は何をしたいの?」と言われた時に、やはり(何かが)出てこなきゃいけなくて。
世の中にはいろいろな軸の技術が転がっているわけですよ。また、会社もいろいろなことを言うわけです。僕らみたいに「デジタル化したい」という会社もいれば、「エンターテインメントを最高にしたい」とか。いろいろな会社があって。
ゴールがあって、今ここにいて、探索して一定の方向があるろ、それに向かって試行錯誤していけるわけですよ。目的地がない状態で探索すると、あっちこっちいっちゃって、ぜんぜん進まないんですよ。
軸がないと、迷った瞬間に何を選ぶべきかもぶれてしまうので、何か1個を伸ばすことができなくなったり、伸ばしたことが目的に合致してなかったりとかする。
菅澤:「つよつよエンジニアになりたい」という軸ではちょっと弱いですか。
松本:つよつよエンジニアの先に何をしたいのか(があること)も、けっこう大事なことじゃないですか。つよつよエンジニアが、開発力が高い人だったとしても、これもけっこういろいろ軸があるわけです。「なんでそれがしたいのか」みたいな。
内から湧き上がる意志がなく、つよつよエンジニア”というラベルを目指してしまうと、ふわっとしちゃうんですよね。「Vue.jsのスペシャリストになるんだ」でもぜんぜんいい。自分の意志で、ちゃんとしっくりきて言ってるんだったらいいんですよ。そしたら、それに向かっていけばいい。
意志を持つということは、「トレードオフを取ってるんやで」ということもちゃんと意識してもらうと。「今はVue.jsをやりたいんだ」となった時に「(でも)自分の会社はReact使ってるんだよね」(だとおかしい)。
菅澤:(笑)。こっちをやりたいけど、こっちを使っている。
松本:どうしても両方を合わせることはできないわけですよ。
菅澤:どっちかですよね。
松本:人生の意思決定しなきゃいけない。だから、「社内で活躍する可能性が減ってでも、それやるんだっけ? やるんだとしたら、それはあなたが選んだことなんだから、会社に文句を言ってもしょうがないでしょ」みたいな。
だから、会社がVue.jsを使うようにするにはどうしたらいいか、みたいな話をそこでするしかない。そういうトレードオフを意識しながら、自分のやりたいことの筋をきちんと通していく。
できるエンジニアが持っていた軸
菅澤:今まで見てきた“いいエンジニア”とか、できるエンジニアが持っていた軸って、どういう方向の軸が多かったですか。
松本:一番いいのは、事業成功を作れるエンジニアになりたい。最終的には、たぶん経営者になりたいっていう人が強い。一番強い気がします。
菅澤:経営者になりたいエンジニアが一番強い。
松本:商いをしてるので。商いの先にいる人に、ちゃんとものが届かないといけないので。商いの先にいる人に継続的にいいものを届ける。それはすなわち経営者じゃないかと。
経営的なところを目指したい人は、手元の技術でどれ使うかよりも、どうやったら達成できるかのほうにすごく目が向いていて。結果的にそれが、すごいスピードで何かを深める1つのきっかけにもなるので、実は開発力も高いエンジニアになりやすかったりする。よい場を得るためには、やはり事業的な思考を持たないといけないんじゃないかなとすごく思います。
菅澤:誰かが用意してくれた箱の中でそれだけをやるというよりは、事業を当てるという果てしない課題に向かっていくという。
松本:果てしない課題のほうがいい。そのほうが成長しやすいと思います。新卒採用をしてると、プログラミングも好きなんだけれど、事業をやりますという優秀な子がどんどん増えているので。事業目線を持っていないと、その子たちにどんどん追い抜かれちゃうなということがあって。
菅澤:なるほど。
松本:DMMの新卒研修で、その集大成みたいなものを作りました。3ヶ月半の研修でたたき込んで。事業に向き合うからこそ、目の前に課題が降ってくるからこそ、すごい速度で吸収していくんですよ。
目の前の課題をちゃんと見つけていって、それによってより得難い経験をしていく。それが学習量として積み上がっていって、他の人よりもどんどん早く成長していくサイクルにつながっている。
菅澤:最初の軸というか、目標が「年収を上げたい」(だったとしたら)どうですか。
松本:いいと思います。年収を上げたいとか、お金稼ぎたいとか、モテたいとか。自分の本当にやりたいことに素直になったほうがいいんですよ。ふわっときれいなこと言っても、けっこう空回りしたりする。あとエネルギーが足りなかったりするので。本当に稼ぎたいんだったら稼ぎたいで考えればいい。目的に対して合理的なことを考えてるかを考えないといけないと思います。
みんな選んだ意思決定に対して、つらいことを無視したがるんですよ。エネルギーがかかることなので、自分にとって嫌なこともしなきゃいけない。風邪引いたら苦い薬を飲まなきゃいけないじゃないですか。「苦い薬が嫌だ」って言ったら、風邪が長引くじゃないですか。それと同じで、事実としてどちらが正しいのか(ということ)に、ちゃんと向き合うことが大事だと思います。
菅澤:年収が上がっていくとか、事業が伸びていくことがうまく可視化されてるとがんばれるかもしれないけれど、「わからないからがんばれないわ」みたいな感じで、なかなかエンジンがかからないことがあるんだろうなという。
松本:(それは)本当にありますね。
いい先輩の下につく重要性
菅澤:「飛び込め!」という感じですかね。
松本:いいヒントとしては「上司の上司の目線を持とう」みたいな(こと)。上司の目線と、その上司を見ているさらに上の上司。自分がどうやったら評価されるのかのいいバロメーターになるので、この目線をどうにか吸収してごらんよと。上司が困ってること。もしくは、その上司はどう評価されてるのか、みたいな部分。これを理解していると、自分も貢献できるじゃないですか。
たどっていけば、会社全体の意思なんですよ。会社の戦略があって、だから今はこの事業部はこういうことをやっている、とか。数字を追っていて、その中で自分の持っているチームはこういうところを担当していると。
こういうところを担当してるんだとしたら、自分はこうアクションすればより評価されるよね。やったのにズレてたら、転職すればいいですし。自分の中でちゃんと事実を収集して、どうやればいいのかに向き合って、自分から自発的にこう改善していくみたいなことが大事かなと。
菅澤:新卒の子たちは変わっていったりしますか。最初はできていなかったけれど、そういう考え方ができるようになっていった、みたいな。
松本:いいマネージャーの下についてると、そういう考え方ができる子は増えてくる気がします。僕はマネジメント上ですごく1on1を大事にしているんです。1on1をちゃんとやれと。最低月1、本当はもっと細かい頻度でやってほしい。DMMでも最初に制度化したんですよ。丁寧に1on1で指導していくと、考え方の型がだんだんとできあがってくるというか。
菅澤:駆け出しエンジニアの方も見てるんですけど、言えることは「いい先輩についていけ」みたいな。
松本:大事ですね。マネージャー次第で自分の評価も変わっちゃいますし。人が退職する時は、会社が嫌になって辞めるんじゃなくて、マネージャーが嫌になって辞めてるとよく言われるんですよ。
菅澤:ああ、多いですよね。
松本:いいマネージャーの下は成長できるから、みんな残ってくれる。
菅澤:マネージャーが選べなかったとしても、「あの先輩けっこういいかも」みたいな。
松本:吸収できる人がいれば、横の人でもいいんですよ。最近読んだ本で『Atomic Habits』という本があって、コミュニティによる習慣づけみたいな話が出てくるんですよ。コミュニティに一定属すと、周りの平均に合わせて勝手に自分のハードルが上がるんですよ。周りが高いと自分の平均も上がるので。そういう場にできる限り身を置くことは、すごく大切です。
「自分の力で食べていける」安心感で挑戦しやすくなる
菅澤:フリーランスで生きていけるという話もありましたが、ある程度力をつけて、(自分だけでも)食べていける安心感は半端ないですよね。
松本:1回それを身につけてしまえば、もう生き方はいかようにでもなるので。どうやったら評価されるかとか、会社のWANTを汲み取るとか、お客さまのWANTを汲み取る能力は、やはり身につけていく必要があると思います。
菅澤:年収600〜700万ぐらいだったら、いつでも食べていけるなと思えることが、人生において非常に大きな後ろ盾になってくれる。
松本:なりますね。そうやって稼げれば、多少リスクを取れるじゃないですか。「起業してみよう」って考えることもできるし。多少給料が低くても、「将来求められることをやれるようになっていこう」みたいな意思決定もできるかもしれないですし。スタートアップに転職して、給料を下げてストックオプションや株をもらって、その会社が大きくなったらそこでメリットを得るようなこともできるし。
菅澤:レバレッジをかけられるってことですね。より挑戦しやすくなる。腕をつけることが大事。
松本:腕をつけるのは大事ですね。腕をつけるというのは、結局、求められるものを作れるようになることです。お金じゃなければ、アートの世界なので、別に相手が求めるものは作らなくてもいいんですよ。
菅澤:趣味でやるんだったらね。
松本:趣味でやるんだったらいい。それがお金にならないことを嘆いてもしょうがない、それはあなたが選んだ道だから、みたいな。
エンジニアがやってない仕事を、エンジニアがやってく時代がきている
菅澤:最後に、エンジニアの職業自体はどう変化してるのか(を聞きたいです)。
松本:今、ノーコードみたいなのも出ていますが、ノーコードって、完全にすべてのプロダクトが作れるわけじゃないんですが、ものを作ろうとした時に、「組み合わせればいいよね」というものがどんどん出てくるわけです。
エンジニアのモチベーションって、自動化することじゃないですか。(だから)結局自分をクビにしてるんですよね。
菅澤:(笑)。そうですね。
松本:世界中の誰かが、自分のやってる仕事を自動化するかもしれない。ボタンポチで、クラウドでデータベースまでできあがるとか。なんならソースコードを置いたらいきなり動き出すような世界になっている。
使う道具がどんどん進化していくので、それについていけないと、コモディティになっちゃうというか、自分のアウトプットがどんどん陳腐化しちゃう。「あなたを雇うのか、100万円でこのSaaSを使うのか」を比べられる時代になってしまう。課題に対して、必要な技術を取捨選択できるようになっていくことが必要だと思います。
菅澤:またそこも、事業理解みたいなところにもけっこうつながっていくという。
松本:そうですね。事業とか、お客さんの欲しいもの。課題を理解することだと思ってます。
菅澤:社会そのものをシステムと捉えて、その中のコンピューターの部分も使うし、いろいろなものを使っていくということですね。
松本:そうです。仕事が無くなるみたいな話を今してしまいましたが、むしろこれから広がるんですよ。
菅澤:ちょっとみんなビビってますよ(笑)。
松本:でも逆なんです。エンジニアがやってない仕事を、エンジニアがやってく時代がきているんですよ。
菅澤:みんながやってないことをエンジニアがする?
松本:例えば経理の仕事とかも、「こういうSaaSを組み合わせて、このSaaSとこのSaaSの隙間はコードを書こうか」みたいな。こういう行動を取るだけで、1人で普通の経理チーム5人分の仕事ができるような世界になってきていて。
どんな仕事をやるにも、プログラミング的思考が必要になってきているんですよ。それができるだけで、圧倒的に仕事が効率化する。「私はエンジニアです」という時も、エンジニア以外の軸を1つ身につけてみることで、世界が広がると思っています。
菅澤:なるほど。
松本:アセットマネジメントみたいな仕事をやっていて、不動産ファンドがぜんぜんわからないところから身につけていくと「あ、すごいブルーオーシャンが広がってる」みたいな。
「ここにはソフトウェアエンジニアの影がないぞ」みたいな。そんなところ、活躍し放題じゃないですか。例えばエンジニアのみなさんが簿記を取るだけでも、活躍する場がすごく見えてくるかもしれないですし。
菅澤:なるほど。今までのエンジニアというと、Webで何か動かせる人みたいなイメージがあるけれど、エンジニアという仕事は、全産業に必要とされる、手に職をつけたということでもある。
松本:そうなんです。
菅澤:もっともっと広げていくということですね。
松本:お役所は今みんな(エンジニアを)探してるので。
菅澤:ハンコをなくして、紙をなくして。
松本:ハンコレスと言っても、やり方がわからないので。どこの行政の方と話しをしても、答えを持った人がやはり中にいないんですよ。でもみんな、中に欲しいんですよ。
今までは外の会社にお願いするだけだったのが、これからどんどん中に欲しい(という流れ)になっていて。いろいろな行政の方々が、「自分たちも自分たちの力でやらなきゃ」となっている。ここに入っていけば、いくらでも活躍できます。中を見れば、自動化の余地しかないので。
菅澤:なるほど。まとめに入ると、まずは年収でもいいから、何か軸を持って、腕をつけましょうと。腕がついたら、エンジニアだけにとどまらず、いろいろなところ、産業を攻めていきましょうという感じですかね。
松本:そうですね。
名前のとおりに生きて、世の中を変えていく
菅澤:最後に僕の感想というか。bravesoftと勇気さんということで。
松本:勇気つながりで(笑)。
菅澤:勇気が1つのテーマかなと思います。エンジニアだけど経営を見てみるというのも1つの勇気だし、その時にCTOやって、いろいろ大変だけどなんかそれを乗り越えた。逃げないことがやはり一番の勇気だろうなと思うし。
そこから大手のCTO(になる)というのも、どちらかというと心配になるけれど、いろいろ調査した上で受けてみてしまう。無謀というよりは、地に足をつけながら、それでも1歩行くということですよね。
松本:そうですね。
菅澤:そういう勇気を身につけた。まさに名前の名前のとおりに生きて、これからの世の中を変えていくと。bravesoftも変えていくので。ぜひいろいろ戦っていければと思います。
松本:がんばりましょう。
菅澤:どうもありがとうございました。
松本:ありがとうございました。