2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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松田雄馬氏(以下、松田):とうとう終わりに近づいてまいりましたよ。先ほど人工知能ブームを終わらせたがっている人がいる、ということを言いましたが、その人たちは人工知能ブームを今からどこに向かわせようとしているのか? それについて、残り10分弱ほどお話をしたいと思います。
人工知能ブームがこれから先どうなるのかということを考える上で、とても大事な視点は、僕自身はこれだと思っています。
(スライドを指して)この人はビスマルクさんといって、昔のプロイセンの首相ですね。彼はこんなことを言いました。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」ということです。歴史は繰り返すなんていうこともいいますが。過去の歴史に学ぶことで、これからなにが起こるかが予想できると。
そういうわけで、実は過去の歴史の中でも、これまでも何度か人工知能ブームというのがありました。とくに、1番最初のブームは1950年くらいであり、コンピュータが世界にでてきたときなんですね。
そのときにアメリカを中心として人工知能ブームが起こり、当時も世界が滅びるんじゃないか、というようなことが言われていました。では、そのときにどんなことが起こったのかということを、みなさんと一緒に見ていきたいと思います。
松田:過去の人工知能ブームのあとに起こったことはなんだったか。みなさんもご存じのとおり、1950年に初めてコンピュータができて、人工知能の原型のようなものができたとき、世界は滅びたのでしょうか。滅びませんでしたね。ではそのときに何が起こったか。なにかいいことがあったんですよ。
実は、こんなことを言い出した人がいました。(スライドを指して)このおじさんはMITの教授さんです。MITで音と耳の研究をしていました。人間の耳を機械に付けるというか、人間の耳を機械で実現するということで、音が聞けるロボットを作ろうとした、そんな研究者の方です。
この人が、こんなことを言い出したのです。「人間とコンピュータが共生すれば、人間はこれまで考えたことがなかった方法で考えられるようになる」と。機械も、これまでできなかった情報処理ができるようになると。人間と機械が一緒に共生することで、それぞれがそれぞれのパワーを引き出し合うことができると言い出しました。
先ほど、「人間と機械の違いはなんでしょう」とみなさんに問いかけました。(スライドを指して)このリックライダーさんという研究者の人は、このようにコンピュータと人間、それぞれにしかできないことを考えました。コンピュータは、例えば計算が得意です。データ処理が得意です。記憶が得意です。一方で、人間というのはそもそも何をやろうかというものを設定することが得意です。それから動機づけ、モチベーションですね。「がんばるぞ」というようなことが得意であったり。
あとは仮説を立てること。ひょっとしたら、この世界はこうなっているのではないかということを考えるのが得意です。こうしたことを人間がやって、それを検証するのがコンピュータである、というような感じでぐるぐると回していくと、それぞれに共生することができると言い出したんですね。
その結果なにが起こったかというと、すごいことが起こります。このリックライダーさん、「人間と機械は共生するべきだ」ということを言い出した後に、インターネットを作りました。インターネットの前身である、アーパネットというネットワークを作ったんですね。それが、今僕らが使ってるインターネットです。
それから、GUIという、今の僕らが使ってるコンピュータの仕組み。例えば、アイコンをクリックして操作するという、そうした目で見てわかる仕組みというものを作ったのは彼です。そうした仕組みを通して、今のインターネット社会が実現してきたということがあります。
(スライドを指して)ゴチャゴチャと説明しちゃったので、これをわかりやすく絵にしてみました。リックライダーという人のお弟子さんがパソコンを作って、そのGUIという画面で操作できる仕組みなどを作って、それのお弟子さんのアラン・ケイという人がパーソナルコンピュータ、つまり1人1台のコンピュータを使える時代にするというようなことを言い出しました。
そのパーソナルコンピュータの仕組みを知ったスティーブ・ジョブズというみなさんも知っている方が、Macintoshや今のiPhoneなどを作った結果、今私たちが使っているようなインターネット社会の仕組みができあがりました。こんなすごく大きな流れがあります。
松田:それで、実はちょっとここでお話したいことがあるのです。このリックライダーさんという人は「人間とコンピュータは共生するべきだ」なんてことを突然言い出したんですが、すごく偉い人のように思えるじゃないですか。
でも、実はあまり偉くないというか、逆にすごく人間的な人だったと彼の伝記を見ていると書かれているのです。僕が面白いなと思ったのが、このリックライダーさんという人は、1人の研究者だったんですね。なぜリックライダーさんがこんなことを思いついたかというと、実は研究中にすごく腹が立ったということがあるのだそうです。
具体的にいうと、彼はいろんな研究をしていく中で、本当であれば研究者というのは、いろんなことを考えたり実験して試したり、いろんな研究者とディスカッションをして、いろんなアイディアを実現していくというすごくおもしろい仕事だと思うわけですね。
でも、実はリックライダーさんのお仕事は、データを集めるための事務処理でした。大学の中で実験をするためにいろんな書類を書いたりするといった、すごく楽しくないお仕事もたくさんあったんですね。それである日、彼は「ひょっとしたら俺、楽しくない仕事ばかりしてるんじゃないの」と思いはじめて、自分の仕事を「楽しい仕事」と「楽しくない仕事」に分けてみたんですよ。
そうすると、楽しくない事務的な仕事が8割以上だった。これは嫌だと、もっと俺は楽しく生きたいと思い始めたわけなんですね。
松田:そこから、そうした楽しくない仕事はどんどん機械にやらせればいいじゃないかと思い立った。当然そうした楽しくない事務的な仕事って、機械はすごく得意ですから、それを機械がやることで機械の可能性ももっと引き出せるということにも気付き始めました。いろんな人に伝える中でこうしたいろんな天才たちが集まってきて、俺もそういうことがやりたいと言いだして、今の情報化社会があるのです。
きれいに言うと、1人の思いが作ったということではあるのですが、ただこの人、どうでしょう? 真面目な人だったのかワガママな人だったのかというと、すごくワガママな人でもあったんじゃないかと思うんですよね。ワガママだけれども、自分が楽しいと思ったことに対しては妥協しなかったのではないか。そういうところが、情報化社会をつくる基礎になったんじゃないかと僕自身は思っています。
そういうわけで、これが第1次人工知能ブームだったとすると、当然ながら第3次人工知能ブームのこのあとにも、同じことが起こるはずだろうと。
やっぱりこうした一人ひとりの思いというものから新しい時代が作られるんじゃないかというのが、僕の考える1つの結論だったりします。
(スライドを指して)長くなったので、めんどくさいことを書いているここは飛ばしますね。今日の結論的な話をバババッと言っちゃいます。
人工知能ブームの迷信と真実ということで、シンギュラリティについて。これはまあ、人間の能力を超えてしまうコンピュータができるのか、ということですが。シンギュラリティは起こるのかというと、起こりません。はい、安心してください(笑)。
カーツワイルさんという人がシンギュラリティについて言いだしたのですが、この人はコンピュータの性能がすごく上がると人類を超えてしまうんじゃないかと考えたんですね。彼は生物の研究者じゃないので、その生物の知能がどうなのかということはとくに言っていないんです。ここが注意するところです。カーツワイルが言っているからこうなるんだと思わなくて大丈夫だということです。
他にも、自動運転が人工知能と同じように語られたりしていますが、完全自動運転は実現するの? という話、これも同じです。実現しませんということです。自動運転の技術的課題って、ようするに先ほどのゴミ収集ロボットと一緒です。ああなっちゃうよという話です。
例えば実際に今、完全自動運転というとモノレールなんかはそうだといっていいと思いますが、ただ、どうでしょう? あれを1台自動運転させるために、後ろ側でどれだけの人が関わっているか。ちなみに東京モノレールは、社員さんだけで何百人もいて、それで関係会社がいっぱいあって……という感じなのですね。1台にそれだけかかってしまうということです。
松田:では、人工知能で社会は変わらないのかということですね。ここは1つ重要なところなので強調したいのですが、社会は変わらないのか変わるのかというと、変わります。
これは歴史が物語っているとおりに変わります。では、どのように変わるかというと、先ほどリックライダーさんの話をお伝えしたとおりなのですが、個人の思いが世界を変える。これがまさにこれから加速していくんじゃないかと思っています。
まさにリックライダーさんのやったことは常識をぶち破るということでもあると思いますが、今までのしきたりのようなところに対する、ある種の葛藤、怒り、不満というところから、世界が変えられていく。それぞれの人の思いというものが、これからますます重要になってくるんじゃないでしょうか。
一人ひとりの思いを、あるときは技術を使って実現できるかもしれない。またあるときは人の力を使って実現できるかもしれないということで、自分にはまずどんな思いがあるのかということが、リックライダーさんのように「俺はこうじゃねえんだ」みたいなことを考えることが大切だと思います。
松田:人工知能ブーム喧噪の中でいかに生きていくべきか、ということを今から言わなきゃいけないのですが、実はもう言いたいことはだいたい言っちゃったんで、どうしようかな。
ではまとめますよ。人工知能という新しい技術が海外から入ってきたり、日本で作られたりということがあると思いますが、大事なことは、こういうことだと思います。単純に技術を輸入するのではなく、人間の知。人間にできることはなんだろうということを理解したうえで、その機械と能動的にかかわっていくと。そうすることで、ブームの先にある豊かな未来を作ることができるんじゃないか。そういったことを書いたのが、この本でございます。
ということで、僕のプレゼンテーションの1番最後のスライドは、ちょっとおどろおどろしい文字です。日本を代表する大哲学者・西田幾多郎大先生の、僕が大好きな言葉があるので、お付き合いいただければ。こんな言葉があります。みなさんで読んでみたいと思います。
「しかし、我々はいつまでもただ、西洋文化を消化し、吸収していくのではなく、何千年来、我々をはぐぐみきたった、東洋文化を背景として新しい世界的文化を創造していかなければならない」。
ということで、まさにこの人工知能ブームのその先というのは、これが求められているんじゃないかという次第でございます。一旦前半はこれで締めさせていただこうと思います。ご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)
尾花佳代氏(以下、尾花):雄馬先生、ありがとうございます。難しい話もわかった! ような気になりませんでしたか? 私はなりました(笑)。ありがとうございます。
それでは大人気の森本先生にこっちに来ていただける余裕があれば、トークイベントのかたちにしていきたいのですが……。はい、「冒険型教室ファミラボ」講師の森本さんです。今日はよろしくお願いします。
森本佑紀氏(以下、森本):みなさん、よろしくお願いします。教室に通ってくださっている方々もいらしていただいていますね。少し自己紹介をさせていただきます。月に1回、土曜日にこちらで、親子で学ぶ冒険型教室ファミラボというものをやらせていただいております森本と申します。
ちょっとだけ自己紹介をします。僕ですね、大阪府の松原市というところの出身でして、今話題の脱走犯がいますね。
(会場笑)
脱走犯富田林刑務所から逃げ出したんですけど(注:大阪府警富田林署に勾留中だった樋田淳也容疑者が逃走し、後日加重逃走容疑で逮捕された事件)。実は僕の家から300メートルくらいのところの、地元の中学出身です。そうした街に育ちました。
僕、中学のときから大阪で1番のエリート校に行ったんですね。そこでものすごくギャップを受けました。というのは、地元の小学校では小学校5年生のときに何人かの友だちが掛け算をできなかったんですよ。そういうところから僕は自分が天才だ! と思って中学に入ったのですが、ずっと下から2番だったんです。
勉強はぜんぜん楽しくなかったのですが、大学に入ったら、たまたま経営戦略の授業なのに科学の話から始める先生がいて、その科学の話と経営の話があら不思議、全部つながって「無茶苦茶おもしろいじゃん!」と思いました。これってすごくおもしろい学び方ですよね。
雄馬先生がおっしゃっていたように、経営の世界に正解はないと。正解はないから学ぶんだと言ってくださり、「なるほどな」ということを理解しました。そうした学び方を実現させたいということで、今こうした教室や通信教育をさせていただいています。よろしくお願いいたします。
松田:これね、マジなんですよ(笑)。
(一同笑)
2時間プレゼンテーションしたんですよ。マジでお腹痛くって変なところに汗をかいていたんですが。
森本:ずっと目が、合っているようで合っていなかったんですよね。それで雄馬先生なんかいつもと違うなーという感じがして。そしたらお腹痛かったんですよね?
松田:マジでお腹痛くて。あの、なんですかね……。こんな言い方をして今日あれなんですが。ちょっと女性の気持ちに少しなれたかなというような。そういう、男ですみませんというような感じでした(笑)。
森本:それで、僕はそのプレゼンを聞かせていただいてすごく良いなと思ったのが、最後のところで、僕自身も教育というところで、家族が教育関係の人間がすごく多かったのですが。やっぱり正解がわからないということがあって。
どんな教育をしていいかわからないという中で、フィンランドの教育が良いとか、バカロレアが良いとか、そういうことばかり学んで、自分のやっていることがよくないことなんじゃないかと思っていた時期があったんですよね。
もっともっとよくできるんじゃないか、自分は足りないんじゃないのかと。そのときにすごく感じちゃったのが、自分はダメな存在なんじゃないかということでした。
まだ足りない、まだ足りない。もっと学ばなきゃ、もっと学ばなきゃというように思ってしまっていました。正解探しをしているのはすごくつらい。自分が自分じゃダメだというような感じで、つらいなと。
そんな時期を乗り越えられたのはやっぱり、周りの仲間たちのおかげで。僕は「モリさん」と呼ばれているんですが、「モリさんはモリさんらしくしていいよ」と言ってくれて。僕は自分の得意なことでがんばろう。得意なやり方でがんばろうとなれたら、気持ちも楽になったし、いろんな人たちに話が伝わりやすくなったんじゃないかと思っています。
森本:そういうわけで、雄馬さんに質問を。今のお話で、正解を追い求めるというのは、やっぱり人間としてはつらかったりするじゃないですか。
松田:正解を求めるとね。
森本:そうです、そうです。さっきのお話の中で、コンピュータに得意な部分と人間に得意な部分がある、コンピュータは人間の道具だ、といったお話がありましたが、雄馬先生は人間らしいと思うところはどこだと思われますか?
松田:例えば、さっきのゴミ収集ロボットの例でいうと、「うわ、やっちゃった」と思えること。これがめちゃくちゃ大事なんですよ。やっちゃったというと聞き流しちゃいがちですが、機械を見て「なぜあれがああなっちゃうか」というと、当然機械も人間も失敗はするんですよね。失敗はするんだけど、人間は失敗に気付ける。そうすると、次はこうしようというようにまた新たに考えられる。
だけど、機械は失敗もするし成功もするけど、とにかく正しいんですよ。めちゃくちゃ正しいんですよ。だから、それに対しての疑問は当然持つことができない。だから自分自身を振り返ることができないということなんですね。
森本:なるほど。ちなみにそれでいうと、僕、今日ですね、さっき気付いたんですけど、靴に穴が開いていたんですよね。
(会場笑)
昨日仙台に行ってまして、山登りをしたらいつの間にか穴が開いていたのですが(笑)。これ、やっちゃったなーと思っています。次からチェック項目として、やっぱり靴をちゃんと見て人前に立とうと思えることというのが、やっぱり人間らしさでいいんですよね!?
松田:はい(笑)。まあ、失敗しないようにしましょうね。
森本:はい。それでいうとやっぱり「ああ、やっちゃったな」って生活する場面で思うことがいろいろとあると思うんですけど。それ自体は人間らしくてOKですか?
松田:「やっちゃったな」と思っている時点で、すでに人間なんですよね。だから良いも悪いもなくて。人間である以上、そうであるしかないんだけれども、どうせそういった性質があるのなら、じゃあもう次に生かそうということだと思います。
森本:なるほど。僕、美空ひばりの「川の流れのように」がすごく好きなんですよ。すごく良い歌詞で。あれ、秋元康が歌詞を書いたんですね。すごく意外だったんですけど。
松田:へえ。
森本:すごく好きな歌詞に、葛藤をすごく抱えるよねという節があって。それで、解決するような方向に向かっていくかと思いきや、雪解けを待ちながら待つという。なにか葛藤があったときに解決しようと思っちゃうのですが、それを抱えているのも人間で、それをウーッと思いながら、ちょっとした気付きに感動できたり、次に生かしたりできるのがすごくいいところだと思うんですよね。
松田:わかります、わかります(笑)。踏み込んでいくと、すごく精神的なお話にはなってくるのですが。ただ、やっぱりそこは人間である以上、すごく大事な部分ですよね。
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