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人工知能は人間を超えるか(全3記事)

人工知能で“ものづくり”大国ニッポン復権へ「課題はない。いち早く始めることが競争力になる」

人工知能は人間を超えるか? 7月21日開催「Softbank World 2016」にて行われたセッションに、東京大学で人工知能を研究する松尾豊氏が登壇。「認識」「運動の習熟」「言語の意味理解」、ディープラーニングが可能にした3つのポイントを軸に、これから活用が期待される分野や取り組みを始めるための方法について話しました。

農業や建設現場への応用に期待

松尾豊氏:今、「認識」「運動の習熟」「言語の意味理解」の3つをお話しましたけれど、そう考えるとなにが起こるかというと、世の中に画像認識ができないから人間がやっている仕事がたくさんあって、それがどんどん自動化されていきます。そうすると、例えば監視、防犯もできるようになりますから、もしかしたら非常に治安がよくなるかもしれない。犯罪が減るかもしれない。

それから、運動の習熟ができるようになると機械も習熟するし、ロボットも上達する。そうすると、要するに機械が上手になるわけですから、なにができるか。自然物を相手にしているようなものが、どんどん自動化されていきます。例えば、農業、建設、食品加工というものを3つ、僕はいつも挙げているんですけど。

農業はなにかというと、例えばいまだにトマトを収穫するロボットがないですね。なぜトマトを収穫するロボット、機械がないのかというと、「トマトがどこになっているのか」というのを見るのは認識の問題なので、できなかった。それから、トマトの枝ぶりを考えて上手にもぎ取るというのは運動の習熟が必要なので、できなかった。つまり、認識とか運動の習熟ができない限り、農作業というのは基本的にはできなかったんです。

今でも機械化されてるように見えます。コンバインとかトラクターとか、機械化されてるように見えますけれど、あれは人間の認識能力を使って機械が作業してるだけなんですね。ですから今後、農作業全体が自動化される可能性があります。今、すごく人手が関わっていますから、そこの変化を考えると相当大きなマーケットが生まれるんじゃないかと思います。

建設も同じです。建設現場に行くと、すごくたくさん人がいます。なぜかというと、人間の認識能力を使えないと建設という仕事はできないからですね。それが自動化できるとすると、建設がやっていることは全部自動化、機械化できる。相当大きな産業が生まれるということです。

食品加工。例えば、我々レストラン行きます。裏で調理師さんが食事を作っているのが当たり前だと思っていますけれど、なぜかというと、別に調理師さんの人件費が安いからじゃなくて、技術的に不可能なんですよね。調理というのは認識とか運動の習熟ができない限り技術的には不可能だったので、自動化はできなかった。そうすると外食産業は全部変わりますよね。基本的に全部自動でできますから、物流も含めて全部変わると思います。

例えば掃除、片付けですね。掃除はホコリを取るのはルンバでできるんですけれど、片付けはできない。ルンバを動かす前に片付けをしないといけないという、大変なことがあるわけです。それから、この会場も終わった後に、だれかが片付けると思うんですけれど、これはコストが安いから人間が片付けているのかというと、そんなことはなくて人間しかできないからですね。

片付けというのは散らかり方が1回1回違いますから、「認識」できない限り自動化できないわけです。今後、片付けができるマシーン、ロボット、機械ができるわけです。そうするとなにが動くかというと、それが家の中に入ってくると、朝、会社に行きます。夜、家に戻ってくると、すべてのものが元の場所に戻っているということが起こるわけですね。僕はこれを「自宅のホテル化」と言っていますけれど、そうすると相当、生活感が向上する。

日本は「運動路線」で戦うべき

3つ目に「言語の意味理解」で、日本語の障壁がなくなる。そうすると初めて日本人は「日本文化」と「日本語」というのをわけて考えないといけなくなるということです。

僕が前々から言っているのが、情報路線、運動路線というのを分けて考えた時に、日本は運動路線のほうが戦いやすいんじゃないかと。メールの管理をしたり、スケジュール管理をしたり、そういうプラットフォームを作る系、情報で助ける系はどうやっても英語圏のほうが強いですから、日本企業が勝つのは非常に難しい。

一方でものを動かすとか、加工する、調理をする。こういったものは日本企業はもともと強いですから、こういった企業がちゃんとディープラーニングの技術、認識、運動の習熟を使って製品を開発していけば、十分戦えるんじゃないかと思っています。そのうえで「決勝リーグ」と呼んでますけれど、日常生活、生産のなかで高度なロボット、機械というのがどんどん使われる。そういう社会において、日本企業が活躍するということができるんじゃないかと思っています。

最後、いくつか(企業が)さっさとやればいいものがたくさんありまして、いつも「なにが課題ですか?」とか言われるんですけど、「課題ありません」「やってください」ということです。みんながなかなかやらないので、けっこうイライラしてるんですけれど(笑)。

(会場笑)

(ディープラーニングには)少なくとも「認識」「運動」「言語」がありますけれど、「認識」は非常にやりやすいです。警護、防犯、介護施設の見守りとか、社会インフラ、顔認証、ログイン、広告、わいせつ画像とか意匠の類似判定、表情読み取り。これ、どれ1つとっても相当大きな話だと思います。こういうことがもう技術的にできるわけですから、やればいいですね。

運動系も重機とか建設現場、農業、自動操縦、自動運転等々、やればいいことたくさんあります。こういうのもどんどんやればいい。

「言語」は翻訳なので、これはもう翻訳ですということですね。

ディープラーニングの始め方

やればいいと言っても、どこからやったらいいのかわからないということもよく言われるんで、いろいろ書いてみました。まず、ディープラーニングを始めること自体はそんなに難しくないです。ライブラリがけっこう今そろっていまして、Googleの出しているTensorFlowとか、日本のプリファード・ネットワークスが出しているChainerとか、そのあたりは非常に使いやすくなっていますから、こういうのを使ってみる。

あとは教科書として、いくつか深層学習、ディープラーニングの教科書がありますので、こういうのを読む。だいたい理系の人が3ヶ月から半年もやれば、そこそこできるようになります。数学の知識が必要なので、高校か大学で真面目に数学を勉強した人が向いていると思います。

ディープラーニングと言ってもだいたい3系統くらいありまして、CNN(Convolutional Neural Networks)、これは画像認識用ですね。画像認識でコンボリューショナルニューラルネットワークというのがいつも使われますが、それからRNN(Recurrent neural network)。時系列を扱うようなものと、オートエンコーダ。生成ができる生成モデル。変分オートエンコーダとかいくつかありますけども、この3系統があります。用途によって違うということを押さえておけばいいと思います。

どうやって人材を獲得するか。国内で技術力のあるベンチャーはもう限られています。ここにいろんな依頼が殺到しているので、もう無理ということで。グローバルにも人材不足しているんですね。社内で育ててくださいということです。真面目な技術なので、理系のエンジニアがちゃんと取り組めば、けっこうすぐできるようになりますから、社内で育てたほうがいいと思います。

僕は大学のなかに新しいディープラーニングの講義を作っていますけれど、それ以外にもCoursera等々で、英語ですけれど学べる場もありますので、若い人をどんどんエンカレッジしてあげて、社内で育てるということだと思います。結局、学習させた結果を最終製品に乗せて売るというかたちになるはずなので、学習工場のようなものができるということです。

この学習工場が、今まででいう生産工場みたいなものにあたると。そこでちゃんと学習させる。いろんな環境でテストし、ちゃんと学習させる。僕はそういうふうになると思います。今までの、設計して動かすということとは考え方がだいぶ違うので、ここらへんは戸惑うところなんですけれど、乗り越えていかないといけない。

勝つためには早く始めること

「学習のさせかた、どうやればいいんですか?」とか聞かれるんですけれど、「わかりません」(笑)。技術的にやればできるはずなんですけれど、じゃあ、どういうふうにデータを取っていけばいいかとか……。

例えば「運動の習熟」でも、どういうふうにシミュレーターとか練習機を作ればいいか、ここらへんはやってみないとわかりません。ドメインごとにぜんぜん違いますし、やってみてください、と。結局、ここが競争力になるわけなので、早く始めてここの知識を蓄積するしかないわけですね。

あと、経営的な観点から見ると、この話は売上が5パーセントとか10パーセントとか上がるような話じゃなくて、5倍、10倍になるかもという話なんですね。だから、コスト削減とかあまり小さいこと考えてもしょうがなくて、本当に大きく「製品、ビジネスモデルが変わるかも」と考えないといけない。

もちろん「認識」「運動の習熟」「言語」、いろいろありますけれど、現時点でやりやすいことと、もっと長期にならないとやりにくいこと、いろいろあります。こういうのをちゃんと考えながら、自分たちの事業ドメインでどういうところからやっていくと、最終的に1番大きいマーケットを取れるのかということを、ちゃんと計画してやっていくということだと思います。

最終的には今、僕がお話したディープラーニングは、アルゴリズムとかは別に大した話じゃなくて、やってしまえばできる。最終的な競争力は、ぜったいにデータとハードウェアにいくはずなんですね。アルゴリズム自体がオープンソースで出ていますし、論文もどんどん出ていますから、そこ自体が競争力になるわけじゃない。

インターネットの世界で起こったことも同じで、そこをいかに取るかということだと思います。もっともインセンティブの強い企業が勝つはずなので、利益を上げてそれを再投資するというループを作らないといけないということですね。その意味でも5パーセント、10パーセントの話じゃなくて、5倍10倍という話をちゃんと考えてくださいということです。

日本にとって大チャンスになる

あと、最後に1番重要なメッセージなんですけれど、これはある意味で社内文化との戦いで、だいたい技術系、製造業系だと伝統的に強い部署とかいるわけですね。それは学習とかいう話じゃないわけです。情報系というのはそもそも弱い場合が多いですし、とくに機械学習というのは設計と違いますから、なぜこうなるのかというのが説明しにくいんですね。

そう考えるとやはり本流の人が変わらないと、これは抵抗勢力になっちゃうということがあります。実はディープラーニングの話というのは、裏から見ると社内文化との戦いでもあるということです。これをいかにトップダウンで意思決定できるかということが1番大事だと思います。

僕は日本にとって、こういうディープラーニングとものづくりを掛け合わせることは、非常に大きなチャンスだと思っています。いろんな社会課題ありますが、全部、今の技術で解決できる可能性があるんですね。農業の人手不足とか、介護の人手不足、廃炉作業、それから防災。こういったものも全部、今の技術で解決できる可能性がある。こういう技術を高めていくと、新たな輸出産業になるはずだと思います。

最後になりますが、日本は今、こういうすごく大きなチャンスを迎えていると思いますが、勝負ごとですから、チャンス、チャンスと言っても放っておくと負けちゃうので、正しく早く動いていくことが必要だと思っています。以上です。ありがとうございました。

(会場拍手)

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