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爆速成長スタートアップのグロースの軌跡 -UPSIDER編-(全4記事)

「市場がない」と言われた領域で、6年で3.5万社導入を実現 先行した他社が失敗する中、勝ち抜くことができた要因

とてつもないスピードで成長を遂げたスタートアップの裏側を見る、株式会社 リブ・コンサルティングのセミナー新シリーズ。第2回目は約600億円の資金を調達し、法人カードで急成長を見せる株式会社UPSIDERの代表・宮城徹氏が登壇。今回は、狭いところから始めるマーケティング的な発想や、競合の出現に気づいて取った行動について語りました。

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狭いところから始めるマーケティング的な発想

大島周氏(以下、大島)最初にターゲットをミドルからレイターステージのスタートアップに絞られましたが、その先の部分も最初から見えていて、「まずはここからいこう」だったんでしょうか。それとも、「一番ペインが深いから、ここからいこう」だったのでしょうか。

宮城徹氏(以下、宮城):その間くらいで、見えているところと見えていないところがありました。見えていたのは、ステージにかかわらず、あらゆるスタートアップが対象になりうることと、与信枠だけではなく、会計処理やガバナンスにも業務的な課題がたくさんあったことです。

見えていなかったのは、それ以外のセグメントにいつどのように展開するかということ。そこはまったく見えずに始めていました。

大島:絞り込むことの大切さはよく言われますが、最初から絞り込んだのか、それとも最初はふわっと広げて、そこから狭めて一気に伸びたのでしょうか?

宮城:そこは最初から判断できていました。共同代表の水野がやっていたNewsPicksも、「丸の内のエリートビジネスマン」みたいに、すごく狭いセグメントから始めたんですよね。

権田和士氏(以下、権田):そうですよね。

宮城:コメントを出す人たちも狭めていて、狭いところからやるマーケティング的な発想はもともとありました。実はサービスの運営は2020年の夏からやっていたんですけど、その時はコーポレートページもサービスページもなくて、かなりステルスでやっていて。10月にオープンにしたんですね。その時にはもう狭めたコピーになっていました。

先行した他社が失敗する中、勝ち抜くことができた要因

権田:宮城さんが、この時に何を考えたかを、背景も含めて模擬体験をしたいんです。海外では同じような業態のBRICSとかをたぶん横目に見ながらやっていたと思うんですけど、国内ではファーストムーバー(先行者)としてやられたと思うんです。

そんな時に、どういうことを考えてらっしゃったのかをおうかがいしたいです。どれぐらい確信を持ちながら進めていったのかや、セカンドムーバーの存在をどれぐらい意識していたかとか。どういう心境で、ローンチしてからの初期の1年間を過ごしていたんですか?

宮城:実は、僕らはファーストムーバーではないんです。これはあまり知られていない話ですけど、僕らの前に2、3社いたんですよ。でも、そこがうまくいっていなかったので、「そこには市場がない」と言われていたんですよ。

権田:へぇ、そうなんですね。知らなかった。

宮城:法人カードというカテゴリーではスタートアップが2、3社立ち上がっていて、全部四苦八苦というか、あまりうまくいっていなかった。

権田:同じようなコンセプトで、ソフトウェアという概念も含めてですか?

宮城:そうです。業務課題の解決から入って、導入してくれそうな、もう少しアーリーステージのスタートアップから営業していたんです。エンジニアさえ採用すればソフトウェアは作れるから、与信枠の価値ではなく、プリペイド型で業務課題の解決をするスタンスのサービスを提供していた。

権田:なるほど。

宮城:それを僕らは両方とも真逆にいきました。スタートアップをメインにするけど、導入しづらいところ、上場を控えていて、断られそうなところから最初にいくスタンスです。

あと、ソフトウェアの力ではなく、与信に振り切って課題解決をすることで、単価を大きくできるし、他のプレイヤーが入りづらい。そっちに一気に振ってやりました。

権田:リスクの取り方がすごいですよね。ここはリスクを取らないといけないと覚悟して踏んだんですね。

宮城:はい。合理性ではないんですよね。確かに、「覚悟」ですね。

権田:覚悟ですよね。2023年のリリースも、ベンチャーデット(資本と負債の両方の性質を持つ金融商品)も含めて、覚悟がないとこの流れは作れないですもんね。それが今始まった話ではなく、法人化の初期のタイミングからそう決めてやった感じですね。

宮城:そうですね。

権田:その観点でいったら周りはついてこれなかったという。

競合の出現に気づいて取った行動

権田:逆に今度は追いかけられる側になることも、たぶん意識していたと思うんです。今のうちにかなり踏んでおこうとか、セカンドムーバーが追いつくまでにある程度時間がかかるなとか、どういう時間軸で見ていたんですか?

宮城:リリースから半年目には追いかけてくるなと気づきました。当時いろんな会社の経営陣に呼ばれて、買収したいという話をされました。要は真似したいし、欲しいんですよね。

断ると競争になることがわかりつつも断っていました。それが半年目です。それを株主とかに共有しつつ、このままだとすぐにコピーが出て、しかも僕らより大きいところが入ってくるから絶対に負けてしまうと考えて、1年ぐらい経った2021年9月に、一気に資金調達して面を取ろうと判断したんです。

最初の1年はマーケティングに1円もお金を使っていなかったし、ポイント還元も0パーセントだったんですね。要は純粋にプロダクトの価値で、お客さんの紹介とかでしか営業していなかったんですけど、ノコノコやっていたら死ぬのではないかと(笑)。

権田:ほう、なるほど。

宮城:だから半年目に議論を始めて、1年目に「もうベタ踏みでやらないと駄目だ」と結論を出しました。

権田:ベタ踏みでブリッツスケーリング(成長に集中する戦略)に持っていったんですね。

宮城:そうですね。その時はもう、月次で30〜50パーセント成長していました。とはいえ、大手資本が入ってきたらやばいという状態でした。

広告費を使わずに月次30〜50パーセント成長

権田:今の内容を踏まえると、大島さんが聞きたいのはたぶん3番、4番あたりですね。

大島:まさにそのあたりをうかがえたらと思います。基本は紹介で顧客を取っていかれたと話がありましたが、本当に広告費は使わずにやられていたんでしょうか?

宮城:そうですね。お客さんからの紹介、経理コミュニティ紹介、VCの紹介、あとは大手監査法人のパートナーのOBとかの紹介とか。要はそのセグメントを知っている人たちの紹介です。

権田:そりゃそうですよね。与信枠がそれだけもらえるならやらない理由がないので。提供価値で覚悟をしてリスクを取った分、一気に広まったんですね。

宮城:そうですね。あとは怖いビジネスなので、知らないお客さんには提供したくなかった。知り合いの知り合いは大丈夫みたいな、そういう世界です(笑)。

権田:月次ベースで30〜50パーセント成長する中で、何をKPIとして追いかけるんですか?

宮城:当時はSaaSプロダクトではなく、完全にトランザクションビジネスなので、ピュアに決済額……僕らはGMVと呼んでいましたけど、GMVだけを追っていました。

恥ずかしいことに組織化もぜんぜんされていなかったので、個人の目標とか、結果指標の前の先行指標もまったくなくて。もうGMVというチーム全体の結果指標しか見ていませんでした。

権田:まぁ、めちゃくちゃわかりやすいですけどね。

宮城:本当にそれしか追っていない感じでしたね。マーケティングをしていないのでマーケティング効率も追わないし、チャーンも追っていないし。

権田:デフォルトリスクとか、リスクサイドの動きも追わず、とにかくGMVを追いかけていたんですか?

宮城:それが正しいかどうかは置いておいて、そうですね。

資金調達を機に始めた、思いつく限りのグロース施策

権田:この後、GTMの中期に移ります。どれぐらいまできた時に「もうちょっとマーケットを広げないといけないな」と思いましたか? レイターとかミドルのステージはそんなに社数が多くないと思うんです。例えば「シェア何パーセントぐらいいった」とか、「そろそろ成長が鈍化してきた」とか。広げていくきっかけになったのは何でしょうか?

宮城:ポジティブな理由というよりは、さっき言った「競争環境が変わるのではないか」という危機意識が1年目からありました。明確にターゲティングがあったわけではなく、一気に資金調達シリーズBをしたタイミングがきっかけで、あらゆるマーケ施策を始めたんですよね。例えばポイント還元を1.5パーセント出してみるとか、タクシー広告を始めてみるとか。

権田:やっていましたね。

宮城:あといろんなところのスポンサーをやってみるとか。思いつく限りのグロース施策を、手当たり次第始めたのが2022年の頭からですかね。

権田:そうですよね。若干スタートアップのマーケット全体が冷え込んで、みんなそういうことを控えている状況だったから、なおさらUPSIDERがガンガン踏んでいるのがあの時期は目立ちましたよね。

宮城:そうだと思います。

権田:まだ仮説はそこまで立っていなかったけど、施策をいっぱいやって、検証スピードを上げる流れに切り替えたんですね。

宮城:おっしゃるとおりです。それまで何の施策もやっていなかったので、検証結果がない状態だったんですよ。1個1個検証していくのが普通の会社だと思うんですけど、資金を一気に調達したことで、多少の無駄があってもいいから、一気に試すのが当時のスタンスでしたね。

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