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ノーベル平和賞受賞者 ムハマド・ユヌス博士のスピーチ(全1記事)

ノーベル平和賞・ユヌス博士が語る、今世界が抱える問題 迫る火の手に気づかず、“家の中でパーティー”状態

一般社団法人Creative Responseが運営する学校CR-SIS(クリエイティブ・レスポンス-ソーシャル・イノベーション・スクール)。同校が、ソーシャルビジネスの日本での認知と活動普及を目指す団体JATと合同で開催した特別セミナーに、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士が登壇。ユヌス博士が尽力するソーシャルビジネスや、新しい世界を創るために若者に託したいことなどを語っています。

今の銀行は貧しい人を助けるかたちになっていない

ムハマド・ユヌス氏:先ほど出雲さんから素晴らしいご紹介をいただきましたが、そこに私の経験を少し加えさせていただこうと思います。

私が経験したことは、1つのドアを開けたことです。それがいろんなドアにつながり可能性が広がりました。私はもともと大学で経済学を教えていましたが、ファイナンス、特にお金を貸すことには無縁に過ごしてまいりました。それが変わったのは、大学の周りにあった貧しい村々で、高利貸しに苦しむ人々を多く見たことによります。

彼女たちは少ないお金を貸し付けられ、その見返りとして所有するほとんどの物を奪われ、非常に圧迫されていました。私はその人たちの状況を変えたいと思い、ある時思い立って10ドル程度の小さなお金を与えて、言いました。「このお金はいつでもあなたの都合で返してくれればいい」と。そうすることで、彼女たちが高利貸しのところに行ってさらに苦しむことを防げると思ったのです。

そうした(無担保少額融資)活動を続けるうちに輪が広がりまして、最終的に私の活動は銀行というかたちになりました。それが1983年に作られたグラミン銀行、もしくは「村の銀行」と呼ばれるもので、それから国中に広がっていきました。

債務者の多くは女性でしたが、私は10ドル、20ドルといった小さなお金が彼女たちの人生を変えていくことにとても喜びを覚えるようになりました。同時に、1つの疑問が浮かびました。「今ある金融の仕組みとは何だろう」と。

今の銀行は、基本的に貧しい人を助けるかたちになっていません。貧しい人たちはなぜ貧しいのか。彼女たちは自分のせいで貧しいのではなく、我々が作った金融の仕組みがおかしいのです。これが彼女たちを貧しくする要因です。彼女たちにただお金を渡すというのは何の解決にもならず、この仕組みを変えない限り貧困は解決されません。

日本のソーラーパネルが農村部のエネルギー問題を解決

一方で、グラミン銀行の活動で貧しい人たちと向き合ってわかったことは、貧困は単純な問題ではなく、いろんな問題が積み重なっているということです。

貧しい人たちは、子どもが栄養失調に苦しむなど健康面にも問題を抱えていますが、医療を受けることはできません。この問題に気づいた私たちは、貧しい人たちへの健康保険の提供を始めました。年間3〜4ドルの少ない保険料で、家族みんなが医療を受けられるという仕組みです。

そしてもう1つ。農村には電力不足の問題がありました。村人たちは(発電のために)ガソリンなどのクリーンではない燃料にお金を払っていましたが、私たちは日本からソーラーパネルを導入して彼女たちの家に設置することで、農村部の貧しいエネルギー問題を解決しました。

このようにして私はいくつものビジネスを立ち上げましたが、あくまでも社会問題の解決が目的であり、そこで生まれた利益を私や私たちのメンバーが享受することが目的ではないというのが、私たちのビジネスの特徴です。株主への利益還元ではなく、社会問題の解決を目指すこうしたビジネスを、私たちは「ソーシャルビジネス」と呼んでいます。

パリ五輪で目指すのは、スポーツによるソーシャルビジネス

次に、スポーツについて少しお話します。スポーツは性別、年齢・年代に関係なく、すべての人々の心に触れ、その力を引き出すことができる特別なものです。私はこのスポーツの力を社会問題の解決に使うことを思い立ち、今スポーツによるソーシャルビジネスを進めています。これに強い関心を持ち、私にコンタクトをしてくれたのがフランス政府です。昨年の東京に続き、2024年にはパリでオリンピックが開催されます。

フランス政府はオリンピックをデザインするにあたり、「ソーシャルビジネスのやり方を採り入れる」と宣言しました。そこで私はパリで彼らと会って意見交換をし、ソーシャルビジネスを目的の1つとしたオリンピックを開催することになりました。70億ユーロ以上のお金がすべてソーシャルビジネスのために使われることになります。これは非常にエキサイティングな話です。

私はスポーツやオリンピックというイベントの力をもって、人々の目を今世界が抱える問題に向けたいと思っています。その問題とは、今私たちが生きる社会の仕組みが地球環境の破壊につながり、自分たちを破滅に追いやっていることです。これを変えるためには、現代の仕組みを変えなければいけません。そのためにスポーツやオリンピックというイベントを通じて、世界の人の目をそこに向けたいと思っています。

今は例えるなら、私たちの家の周りが燃えている状態です。ところが私たちは家の中でパーティーをしたり、自分たちの楽しみの追求をしています。その外では刻一刻と家自体が燃えようとしていることに目を向けないといけません。

ユヌス氏が考える、新しい世界を創るための「3つのゼロ」

環境に加えて、もう1つ大きな問題があります。私たちの富が一部の人に集中する一方で、貧しい人はどんどん貧しくなっているということです。これが私たちを破滅の危機に追いやっています。時間は限られています。いわば時限爆弾が仕掛けられているようなもので、私たちはこれをどこかで止めなければいけません。そのための仕組みが必要です。

さらにもう1つ。AIが登場し、まるで津波のような勢いで世界を圧倒しています。勢いがこのまま続くと、人々は仕事を失い、AIの支配するロボットが人間の仕事を行うようになります。人間はいったいどうなるのでしょうか。1つ言いたいことがあります。すべての人間は起業家、アントレプレナーとして生まれたということです。

今までの教育システムでは、人間は「仕事を得なさい」「仕事をやりなさい」と教わってきました。しかし私は、仕事をすることが人間のあるべき姿ではないと考えます。私たちはアントレプレナー・起業家として自分のやりたいことをやれるはずです。

ここで私は、若い人たちに私の考える3つのゼロについてお話したいと思います。1つ目は失業者ゼロ。2つ目は二酸化炭素排出ゼロ。そして3つ目のゼロは富の集中のゼロ。失業がなく、二酸化炭素排出もなく、そして貧困がなくなる。こういう世界を創るために「スリー・ゼロ・クラブ」というものを作ってはいかがでしょうか。

新しいことをやり遂げるためには自分たちの手で新しい道を作らなければいけません。若者が5人集まれば1つのクラブが作れます。日本のスリー・ゼロ・クラブもあれば、アメリカや他の国のスリー・ゼロ・クラブもあります。人類の将来を担う若いみなさんには、今まで学んだこと、学校で学んだことに加えて、新しい道を探して欲しいのです。そして、スリー・ゼロ・クラブを通じて、それを世界中に広めて欲しいと思います。

ありがとうございました。

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