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注目のSDGs企業 ~福祉とアートを融合した実験的な会社~(全3記事)

息子の「らくがき」が「アート作品」に変わった 障害のある子の親が、隠れた才能に気づかされた理由

ビジネスの各分野で豊富な実績を持つ経営者をゲストに迎え、「先人が下した経営の決断」を共有するオンライン経営者会「蛍茶屋」。10月11日に開催されたイベントでは、2019年に日本を変える30歳未満の30人として「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」にも選出された株式会社ヘラルボニーの副社長、松田文登氏が登壇。最終回となる本記事では、障害のあるアーティストならではの才能やヘラルボニーの存在意義について語っています。

「この人がいたら本当に突き抜けるかも」と思える人と働く

笹川祐子氏(以下、笹川):御社はミッション、バリュー、カルチャーコードなどをすべて明文化されていますよね。それが隅々まで社内に浸透されているとお見受けするんです。

私も経営者として、企業理念を末端まで浸透させる努力を25年間してきたんですけど難しかったですね。御社でミッションやバリューの落とし込みで努力されている点や、逆にそんなに努力せずにうまくいってる点を教えいただけますか。

松田文登氏(以下、松田):そうですね。何がいいのかはわからないですが、確かに会社のメンバーにミッション、ビジョン、バリューが非常に浸透していると感じるんですけれども。双子で会社をやっている今もですけれども、最初(に採用した)社員はほぼリファラルなんですね。私たち双子が本当に信頼できる人や友人、一緒に仕事をしたいという人を誘っているので。

なので、インターン以外は実は今まで一度も募集をかけたことがないんです。インターンから新卒採用したのは今まで3人いるんですが、他の社員は私たちが「本当にこの人と仕事をしたい」と(思えるかどうかと)いうところですね。

心と心が通っているところもあり、ミッション、ビジョン、バリューの浸透率が高いのかなとか。あと同じ方向を目指していけるのかを非常に大事にしています。この人がいたら本当に突き抜けるかもと思える人を誘っています。

笹川:そうなんだ、だから社員の口コミとリファラル採用ね。それは一番理想的なかたちですよね。インターンしか募集しないから、わーっと応募が殺到するわけですね。

松田:もしかしたら、それもあると思います。

障害のある人が社会に出るきっかけを作る

笹川:楽しみですね。御社とライセンス契約を結んでいるアーティストの方々からは、どのような反応や声がありますか。それを聞いて御社のみなさんのやりがいにつながったり、経営陣としての社会への挑戦などいろいろあると思うんですけど、どんな反応がありますか。

松田:自分の息子さんの作品をアートではなくらくがきのように思っていた方が、全国でアート作品として使われるということがあった時に、初めて息子が誇らしく思えましたとか。今まで一切接点のなかった社会から、「すごく素敵」という言葉をもらえることで励みになるとか。あとは、近所の人や親戚に(作品として評判になっていることを)言ったりとか。

障害のある子どもを隠すものだと思っている人たちって、まだまだたくさんいます。障害のある子を社会に出すきっかけ、装置的なところになっているのかなと思ったりします。なので、やりがいはすごく大きいです。例えば、この前も障害のあるアーティストさんにファンレターが届いたんですよ。今まで障害のある方にファンレターを書くってあったのかと思うと、もしかしたらなかったかもしれないですし。

その作品に、すごく救われていますと書いてくださる方がいらっしゃったり。あとは、「自分の息子の作品で(賞金をいただいて)……。この前焼き肉を食べたんだけれども、その焼き肉が人生で一番おいしい焼き肉でした」とか。それはたぶん焼き肉(自体)の味じゃなくて、いろんな意味が伴った焼き肉なんだろうなと思うと、やりがいをすごく感じますね。

笹川:三方よしという感じですよね。障害のある方もそうだけど、その方たちのご家族の概念も変えているわけですよね。今まで、うつだったら隠そうとしたり家に閉じ込めてきたところから、社会へ(出すようになった)。

アート作品として認められることで、家族の自己肯定感にも影響

松田:そうですね。(世界が)開けるきっかけを作っていけるところがあります。障害のある方の親御さんは自己肯定感が低くなっちゃうところがけっこうあるみたいなんですが、私たちは肯定感を高めて、どんどん社会に出るきっかけを作っていける存在でありたいと思います。

笹川:なんだか親御さんの気持ちを思うと……。

松田:本当にそうですね。私もすごくうれしくて。どこぞの高級焼き肉よりもおいしいと思える瞬間があるんだろうなと思います。そこに対して自分たちや社員のみんながやりがいを感じている瞬間が多くあるので。

私がゼネコンにいた時は、何百億円何千億円という仕事が多いんですが、本当の意味で感謝されたと思う瞬間って……。アーティストさんや親御さんと話すとそういうやりがいはめちゃくちゃ大きいので、収入が低くてもやっていけるなという実感はあります。

笹川:松浦さん、まだまだ質問がありますけど、そろそろお時間じゃないかなと。

松浦道生氏(以下、松浦):おもしろいという言葉は適切ではないんですけれども、すごくすばらしい話でした。私から2つほどご質問させていただいてもよろしいですか。

松田:もちろんです。

笹川:文登さんのお話を聞いて、すごくやりがいを感じ、楽しく経営されていることが伝わってきたんですけれども。その中で、上場が今後の1つの経営判断として視野に入っているという話について、もうちょっと教えてもらってもいいですか。

松田:会社を創業した頃は上場なんて考えることもなかったんですが、だんだんと自分たちが存在する意義って何だろうと考えるようになりました。もっと実験を繰り返していくことで障害のある方や親御さんの幸せをどうやって作っていけるだろうと思った時に、上場を目指すことで自分たちみたいな企業にもちゃんとお金が集まってくるとか。

自分たちみたいな企業がちゃんと上場企業として成功できるというのを見せることがすごく可能性のあることじゃないかと思ってきて。株式会社ヘラルボニーとして上場することで後(に他の企業が)が続くことがあるんじゃないかと思っています。まず自分たちが(上場という1つの点を)作っていくリーディングカンパニーになりたいと思ったというのがあります。

障害のある人のアートが広まることで、「障害=欠落」と連想する人をなくす

松浦:なるほど。ありがとうございます。まさに「異彩を、放て。」ではないですが、先ほど笹川社長から三方よしという言葉もありましたように、みんなから共感されるモデルを作りながら伸びていくのは、本当にすばらしいなと思います。

ヘラルボニーさんはホームページや作品、文字といったところも含めてかっこよさがあると思うんですけれども。ホテルや洋服、美術、街と、今後もいろいろ広がっていくと思うんですが、ご自身の強みや競争力の源泉は何だと思いますか? 

それによって今後の広がりも、ある程度予測できるかなと思うんです。僕はかっこよさやブランドかなと思ったりしたんですけど。

松田:確かに自分たちがメディアに出る時は、ソーシャルビジネスやSDGsといった枠組みで出ることが多いんですが、会社のメンバーは、誰一人としてソーシャルビジネスをやっているという概念がなかったりします。

本当の意味で、アウトプットを本気で出していこうと思っています。かっこよさをどこまで追究できるかというところは、一般企業に勤めているのと変わらなくて、ただ障害のある方のアートの分野になっただけの話だったりするので。そこに妥協なく挑戦できるのが弊社の強みだと思っています。あとは社員の3分の1ぐらいが障害のある方が兄弟にいます。

松浦:そうなんですね。

松田:背骨がしっかりしているじゃないですけど、障害のある方に対する(社会から受ける)違和感を原体験としてしゃべれるメンバーが非常に多くいると思っていて。そこも会社の強みかなと思います。

松浦:どんどん末広がりしていると思いますが、文登さんはヘラルボニーの5年後10年後を想像できますか?

松田:例えばみんながディズニーランドを知っているように、ヘラルボニーをみんなが知っているような世界になっていけばいいなと思っています。例えば一家に1つ、ヘラルボニーの作品があることで、「障害=欠落」と連想する人がたぶんいなくなる気がするんですよね。素敵な作品が1つあることで捉え方が大幅に変わっていくと思っているので。まずはヘラルボニーの認知度をちゃんと社会に浸透させていきたいなと思っています。

「飽きずに続けられる」は才能

松浦:なるほど。先ほど笹川社長から絵筆という話がありましたが、創業した時って、こういうふうに注目してもらおうとか風穴を開けようというのがあったと思うんです。ある程度大きくなって、見本がない未知の中の絵筆じゃないんですけど、ヘラルボニー自体が絵を描いていくことがすごく楽しみなのと同時に、難易度が高いだろうなとも感じましたね。

松田:そうですね。障害のあるアーティストのアートのおもしろさって、点を打ち続けちゃうとか円を描き続けちゃうとか、自分たちだったら30秒とかで飽きちゃうことを続けられるところなので、とんでもない作品があったりします。

なので、それが絵筆に変わり、才能であると私は思っています。そこにフォーカスを当てたいです。

松浦:文登さんのプラスのメッセージにみなさんも共感されていると思うんですけど、逆に文登さんが悩むことってあるんですか?

松田:かなり難しいところだと、例えば障害のある方のアートとなると、アール・ブリュット(既存の美術や文化潮流とは無縁の文脈によって制作された芸術作品。英語ではアウトサイダー・アート)といったアートの分野にカテゴライズされがちなんです。でも、アール・ブリュットとかアウトサイダー・アートという文脈になると原画としてなかなか収益が上がりづらかったりするので。

そこをどう逸脱していくのかが、ハードルが高いところですね。アール・ブリュットはフランスのジャン・デュビュッフェという画家が提唱していて、彼はもともと芸術的教育を一切受けていない人たちのアート作品を収集するコレクターでした。その作品のことを、彼がアール・ブリュットだと言っていたんですけれども。

なので、死刑囚のアートや、障害のある方のアートとか関係なく、芸術的教育を受けていないすべての人たちのアートを総称してアール・ブリュットと呼ばれています。日本には、それがねじ曲がって入ってきちゃって、障害者アート=アール・ブリュットになっちゃっているところがあります。それで法案も可決されていたりと、政治絡みのこともけっこうあります。

思いっきりブレイクスルーしていくという瞬間だけ捉えるのであれば、意外と越えなきゃいけない壁は多いと思っています。

<h2>東京で、ヘラルボニーを体感できるギャラリー

松浦:なるほど。まだそういう世界があるんですね。ありがとうございます。最後に、よろしければ文登さんから、京橋のギャラリーの告知をいただけたらと思います。

松田:ありがとうございます。10月15日に東京の京橋でギャラリーをオープンさせます。「ヘラルボニー/ゼロからはじまる」という展覧会(2022/1/23まで)で、ヘラルボニーがどうやってスタートをしたのか、どういった企業とコラボをしているか。あとは原画も展示していますし、ヘラルボニーの店舗もそこに構えています。

もともとLIXILギャラリーというものがあったんですが、今そこが東京建物さんのBrillia(ブリリア)というマンションブランドのギャラリーになっており、ヘラルボニーのギャラリーとして半年間オープンしますので、東京の方々に来ていただけたら非常にうれしいです。それ以外にもいろいろとお知らせがあるので、ぜひネットで見てください。ありがとうございます。

松浦:笹川社長、一緒に行きましょうか。

笹川:一緒に行こう! そして麻布十番のレストランで何かおいしいものを食べましょう。

松田:ぜひとも、いらしてください。

松浦:ありがとうございます。笹川社長は何か告知とかありませんか? 

笹川:私はシングルマザーの支援をしていて、毎月お米を200キロ送っているという話をすると、けっこういろんな社長が「笹川さん、僕もそういうのをやりたい」「私もやりたい」と言って、3人ぐらいそういうところに紹介しているんですよね。

だからシングルマザーの支援をやりたいという方がいらっしゃったら、お声がけください。首都圏の2,300世帯に毎月お米を送ったりとかね。そういう支援。支援という言葉は、私も最近御社を知ったから、簡単に使っちゃいけないなぁと思いながら。

松田:いやいやそんなことはないです。私たちのほうではちょっと必要なだけで。

松浦:ありがとうございます。笹川社長すみません。そこにご興味がある方は、例えばネットだったら何と検索したら出てくるんですかね。

笹川:「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」。

松浦:ご興味のある方は「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」で。

笹川:そこに連絡をすれば、玩具やお米が直接シングルマザーの家に届きます。夏休み・冬休みは給食がないから、2倍送るんですよ。まさに今、コロナ禍ですごく困っているので日用品化粧品とか、そんなものもご自宅に送ってあげられる。

「うちの商品、この在庫が余ってるからどうかな」というような方も使っていただけるんじゃないかなと思います。よろしくお願いします。

松田:よろしくお願いします。

松浦:よろしくお願いします。ではみなさま、お忙しい中ご参加いただきましてありがとうございました。あらためて、ヘラルボニーの松田文登さん、イマジンネクストの笹川祐子さん、貴重なお時間をありがとうございました。

松田・笹川:ありがとうございました。

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