2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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各業界のトップランナーたちが、困難や壁を「どう乗り越えてきたか?」を語るイベント「Climbers 2021 」 。Climber(= 挑戦者)は、何を目指し、何を糧にいくつもの壁に挑戦し続けることができたのか。単なるビジネスの成功事例やTipsではなく、彼らを突き動かすマインドや感情を探り、進み続ける力を本質から思考します。本記事では、世界最高齢プログラマーの若宮正子氏によるセッションをお届けします。激動の時代を生き抜いてきた若宮氏が、58歳で初めてパソコンに触れ、なぜゲーム開発に至ったのか。その背景が語られました。
司会者:続いてのセッションは、Appleが認めた最高齢プログラマー、ブロードバンドスクール協会理事の若宮正子さんです。“お荷物社員”だった銀行員が、還暦を迎えた後に、世界を代表するITエバンジェリストになるまでのストーリー。目の前に転がる好機をつかみ続けた結果、たどり着いた世界とは。
福田典子氏(以下、福田):このセッションでは、若宮正子さんのお話を伺っていきます。本日の司会を務めます、テレビ東京アナウンサーの福田典子です。よろしくお願いいたします。
世界中で知られている方で、みなさんご存じの方も多いと思いますが、改めてご紹介させていただきます。失礼ながら年齢をご紹介させていただきますと、1935年生まれの現在86歳でいらっしゃいます。
58歳から独学でパソコンを習得されて、ゲームアプリ『hinadan』を独自開発されたのが82歳。私も実際にやってみたんですが、シニアの方にとても優しいゲームアプリだなと思いました。いきなりですが、ゲームアプリの『hinadan』は、どういったところにこだわって作られましたか?
若宮正子氏(以下、若宮):近頃になり、4~5年前から高齢の方もどんどんスマートフォンをお使いになるようになったんですよね。そうなってくると、いろいろご意見がありまして。「(スマホが)使いにくい」「若い人向けのアプリはあんなにいっぱいあるのに、年寄りが楽しめるようなものがなにもない」と言われまして。
「じゃあ、ないんだったら作ればいいんじゃないの?」ということで、いろんな方に「年寄りが楽しめるようなアプリを誰か作ってよ」と言ったら、「どんなものがおもしろいかなんて、僕らは年寄りの好みなんてわかりませんよ。若宮さん、自分が年寄りなんだから自分が作ったらいいじゃないですか」と言われまして。
福田:(笑)。それで(ゲームアプリを)作って、世界中に名が知れ渡ることになるわけですよね。
若宮:そうなんです。
福田:その結果、アメリカのApple社のイベントに特別招待されるなど、若宮さんの活動は全世界に知られました。現在、NPOブロードバンドスクール協会の理事も務めていらっしゃいます。ちなみにこのClimbersのイベントで、最高齢のご登壇となります。
若宮:光栄です。
福田:人生の大先輩にお話を聞く機会ですので、私もすごく楽しみにしてまいりました。今日は「乗り越える」というテーマで、いろいろお話を伺っていければと思いますので、よろしくお願いいたします。
若宮:こちらこそ、よろしくお願いいたします。
福田:ゲームアプリの『hinadan』を作られたということなんですが、実は今日、お召しになっているお洋服もご自身で作られたんですよね。
若宮:はい。ビジネスソフトでExcelというものがあるんですが、セルというマスを塗りつぶしたり、枠線をいろいろ加工できるんですね。これは枠線だけを使って、くす玉のイメージの模様をデザインしました。
福田:若宮さんはそれを「Excelアート」と名付けていらっしゃいますよね。
若宮:そうです。自分で勝手に考えた名前です。
(若宮氏のApple Watchが鳴る)
福田:若宮さんのApple Watchが反応しましたね。スマートウォッチ、やはり使いやすいですか?
若宮:そうなんです、愛用しています。今、健康コンシャスの時代ですよね。だから我が家の健康管理も、もう体温計1本じゃ時代遅れだと思いまして。これ、例えば血中の酸素濃度や血糖値や心電図だとか、みんなわかるんですね。ちょっと我が家の救急箱をバージョンアップしました。
福田:「救急箱をバージョンアップ」という表現、いいですね。
若宮:(笑)。
福田:私はまだ使ったことがないので、若宮さんに習おうかなと思っちゃいますね。
若宮:いいですよ。
福田:ありがとうございます。若宮さんは、Excelアートでお洋服を作られる、スマートウォッチを付けられるなど、いろんなものにチャレンジされています。
福田:生まれたのは1935年ですからパソコンやネットがなく、しかも戦争中に生まれて敗戦を経験されていらっしゃいますよね。
若宮:そうなんです。生まれたのが1935年ですから、物心付いた頃から日本国は戦争ムードでした。戦前・戦中・戦後、そしてアメリカに占領された時代、独立して高度経済成長や社会主義とか、次から次へと歴史絵巻みたいに、いろんなものが自分の前を通り過ぎて行きました。
今はコロナの時代と言われていますが、自分の人生の中で激動の時代を全部見ちゃったような気がします。
福田:そうですよね。今、お写真も出ていますが、これは真ん中が若宮さんですか?
若宮:はい。私です。
福田:防空頭巾を被っている時代ですよね。
若宮:そうなんですよ。
福田:この激動の時代を生き抜いて、銀行員として働かれたんですよね。
若宮:そうなんです。
若宮:高校を卒業してから銀行に入ったんですが、例えば製造業だと、もうすでにその頃は機械化もされていたんですが、銀行の事務部門ではまだまだ江戸時代と変わらなくて。
お札は指で数えて、計算はそろばんでやって、お客さんの通帳の文字はインクでペン先で書くとか、そんな時代だったんですけど。私はどうも不器用で、手の動きが遅いもんですから、いつも先輩から「まだ終わらないの?」と叱られてばかりいたんです。
福田:それが冒頭の「お荷物社員だった」という表現につながるわけですか?
若宮:そうなんですよ!
福田:今とはまったく違う働き方のイメージがあると思うんですが。
若宮:おっしゃるとおりなんです。ですからその時は、自分が86歳になってこんなところにお邪魔させていただくなんて、想像もできなかったんですけれども。でも、時代が変わって機械化されてくると、手が素早く動くかとか、別にそういうのはあまり必要なくなっちゃったんですね。
福田:(機械に)任せるところは任せて、人間にできるところを私たちがやればいい、という。
若宮:おっしゃるとおりなんです。
福田:銀行員を定年まで勤め上げられて、まずいつパソコンに触れたんですか?
若宮:パソコンを買ったのは、だいたい58歳くらいの時だと思います。どんなに手の器用な人だって、機械よりも早くお札を数える人はいませんから。機械やコンピューターがいろいろ出てくると、手の器用さなんていうものは、そんなに必要ではなくなったんですね。
自分は不器用でいつも叱られていましたが、「素早く・正確に」というのは機械がやってくれるもんですから、「コンピューターさんは私の恩人」というような気持ちをずっと持ち続けていました。パソコンが売られて誰でも買える時代になったら、真っ先に飛びついて買いました。
福田:ちょうどパソコンが出てきた時に、使い始めたということですよね。
若宮:わりと早かったと思います。
福田:そのきっかけになったのが、お母さまの介護もされていて、「自分の世界を広げることにもなった」と伺ったんですが。
若宮:そうなんです。パソコンを買ってまず何をやったかといいますと、今でいうSNSの“走り”みたいなものがありまして。今もずっと「メロウ倶楽部」という名前で続いているんですが、メロウ倶楽部の前身であった当時のSNSで同年代の高齢の方と交流して、お友だちがたくさんできました。
そのうち母の介護をするようになって、いくら私がおしゃべりでお出かけ好きだと言ったって、“不良介護人”なりに母の介護もしなきゃいけないとなると、出かけられないでしょ。でも、パソコンを立ち上げればそこに仲間がたくさんいて、チャットもできるし新しい知識も仕入れられたので、すごくうれしかったです。
福田:そこ(オンライン上)でコミュニケーションを取ることで、パソコンの中にまたさらに世界が広がっている感覚になりそうですね。
若宮:そうなんです!
福田:今、実際にお写真も出ていますけれども、このTシャツはなにかの柄なんですか?
若宮:私、海外旅行がすごく好きで。海外旅行の体験談を『マーチャンがゆく』という本にしたんですけど、その出版記念に作ったTシャツです。
福田:そうなんですね。
福田:そうやってパソコンを通じて、SNSでみなさんとコミュニケーションを取る段階に行くまでに、パソコンの操作って難しくなかったですか?
若宮:私の場合は設定を勉強したり、パソコン操作を基礎から積み上げるように学ぶという発想はなくて。自分がやりたいことに必要な、最小限のところだけを教えてもらって始めたんです。周りの先輩たちからいろいろ教わったり、時々叱られたりなんかもしたんですけど(笑)。でも、そんなことでみなさんに追いついて、いろいろなものを一緒に楽しめるようになりました。
福田:パソコンを基礎から学ばれて、その後はプログラミングも独学で学ばれたんですよね?
若宮:ええ。ですが、自分はさっきお話ししたように「高齢者の方のために、なにかアプリを作りたい」と思って。でも、自分はパソコンの操作でさえやっと覚えたのに「プログラミングなんてそんなものを……」と思ったんですが、やるっきゃないと。
もう、そこら中の方にお願いして教えていただいたり。アプリ1つ作るのは、自分だけの力ではできない。いろんな方に手伝っていただかなきゃできないんですね。
もちろんコーディングだけできればいいというわけじゃなくて、アイコンの元絵を描いてくださる方とか、ナレーションをやってくださる方とか、いろんな方の善意のお手伝いをいただいたことでできたんです。
福田:冒頭にも少し伺いましたが、そのこだわりが詰まったゲームアプリの『hinadan』を実際にプレイしてみますと、「タップしてください」という言葉は出てこないんですよね。横文字が出てこないのは、とても心配りがあるなと思いました。
若宮:そうなんです。まず、できるだけ専門用語は使わないことと、それから年寄りはなかなか思うように指が反応しないもんですから。なぞったり、ヒュー(スワイプ)なんていうのは、できないんですよ。
ですが、叩くのはできるんですね。いわゆる「タップ」と言うんですか。トントンと叩けば進められるとか、それから時間に急かされるのは嫌いなので、時計を入れなかったとか。「途中でお茶でも飲んでもいいから、ゆっくりやってください」みたいなアプリを作りました。
福田:私もやってみましたが、ひな壇の並べ方って意外と知らないんですよね。
若宮:そうなんですよ。なぜひな壇を題材に選んだかというと、やはり我々年寄りにとっては馴染み深いんですが、若い人はあまりそうでもない。その次に作ったのは『nanakusa』というアプリだったんですけど、若い人って七草も知らないんですね。だけど年寄りは知っているから、年寄りに有利なわけです。
福田:(笑)。
若宮:「あら。おばあちゃん知っているわよ」とか言って、お孫さんの前で威張れる(笑)。
福田:(笑)。確かに。新しいコミュニケーションのかたちが見えますね。
若宮:そうなんです。
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