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姫野桂 × メンタルドクターSidow「精神科医と発達ハックについて考える」 『「発達障害かも?」という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』(ディスカヴァー21)刊行記念(全6記事)

「苦手なこと」を認めるほうが生きやすくなる 発達障害ライターが語る、気づきの大切さ

日々なんとなく「生きづらさ」を抱えていたり、発達障害傾向のある人が増えていると言われています。つらさを解消するためにどんな方法があるのか、『発達障害かも? という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』の著者で発達障害の当事者でもある姫野桂氏と、登録者数3万人超えの医師YouTuberであるメンタルドクターSidow氏による対談でお届けします。本パートでは、自分の苦手なことを自覚する大切さや、精神科と心療内科の違いについて語りました。(本イベントは本屋B&Bにてオンライン配信で開催されました)。

『発達障害かも? という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』

メンタルドクターSidow氏(以下、Sidow):逆にちょっと聞きたいのが、今このオンラインイベントを見てくれている方のうち、どれぐらいの方が本を読んだのかなということです。

発達障害かも? という人のための「生きづらさ」解消ライフハック

姫野桂氏(以下、姫野):そうですね。どれくらい読んだんだろう?

Sidow:今、参加している方で、読みましたという方は、どれぐらいいますかね? 

姫野:いるのかな? なんかコロナの影響で物流が滞っていて、なかなか届かなかったという方とか、ようやく最近届いたという方が多いみたいなんですよね。今、書店も閉まっているところがあるので、なかなか手に入りづらい感じではあるようです。

Sidow:でも、Kindle版も売れていますよね?

姫野:そうです。Kindle版はすごく売れています。

Sidow:Kindle版で読んだという人もすごくいそうですけれどね。

姫野:なんだかKindle版のほうが持ち歩けて、すぐにハックを調べられるからいいという意見もありました。

Sidow:確かに。

姫野:(チャットに)「読みました」って書いてある。ありがとうございます。へー。「手元に今あります。読み途中です」。ありがとうございます。

書き手にとっては、読んでいただけることが本当にめちゃくちゃうれしいです。そうかそうか。どうしようかな。

Sidow:むしろ読んだ人で、「これがよかったな」とか、「参考になったな」みたいなものはありますか? 

姫野:あったら。「読みました」。みんな、読んでくださっている。

Sidow:けっこう読んでくださっている方がいますね。

姫野:いいですね。ありがとうございます。

Sidow:本の中でも印象のあるところとか、あとは「これが使えそうだな」とか。

自己肯定感が低い人はパワハラ・セクハラに遭いやすい

姫野:個人的にTwitterで感想をいただいたんですけれども、途中途中にコラムも入っているんですよね。それで、発達障害と女性の性の問題を扱いました。

Sidow:ありましたね。「セクハラ・パワハラを受けやすいよ」みたいなのですね。

姫野:あそこがよかったと言ってくれた方がいましたね。自閉傾向がある女性ってけっこう流されやすかったり、あとは言われたことをそのまま受け取ってしまうので、ナンパについていっちゃうとかで、性被害に遭いやすい。

あとは自己肯定感がすごく低くて、パワハラ・セクハラにすごく遭うというのは聞いたことがあります。

前著の『発達障害グレーゾーン』で取材した女性も、今まで勤めてきた会社・職場で全部パワハラされたという人がいましたね。「こいつなら断らないだろう」とか思われるんでしょうね。

Sidow:それでなんですね。弱みにつけ込まれているみたいな感じでしょうか。

姫野:そうですね。ありましたね。

マルチタスクが必要な「料理」は発達障害の人が苦手な分野

Sidow:確かにその女性のコラムは印象的です。あとは読んで思ったのが、やっぱりいまだに、「女性は家事をやる」みたいな印象があることが多いと思うんです。

そういう風潮のせいで、例えば「片付けできないのは女性らしくない」とか、あとは「女子力が低い」とか、そういうので男性よりも周りからの目みたいなものを受けやすいというか、それで一層普通よりもちょっとつらい気持ちになりやすいんじゃないかなという印象があったんです。それは確かに思いましたね。

姫野:そうですね。私は最近ツイキャスをよくやっているんですけど、「発達障害の女性でも簡単にできる料理の本を出してください」って、こないだリクエストが来ました。やはり料理ってマルチタスクじゃないですか。だから、困っている方はいるみたいですね。

Sidow:確かに。料理もお掃除もそうですけど、まだ「女性の仕事」と思われる部分があったりとか、「女性はちゃんとできなきゃいけない」みたいな考えを持っている人もいると思うんです。

姫野:ありますね。

Sidow:だからそういうのにもうちょっと理解が深まって、「女性だから」「男性だから」ではなくて、もうちょっと「個人個人に得意・不得意がある」というのを、よりみなさんに理解してもらえるといいなと思いましたね。

恋愛や婚活での悩み

姫野:(チャットに)何か来ています。

「恋愛です。相手のことをよく知り……。耳が痛いなと思いました」。

「ツイキャスでの姫野さんの『女子カースト下位』というコメントは、めちゃくちゃわかるなと思いました。『女性らしさ、男性らしさというくくりは、もうやめないかい?』と思います」。

そうですね。女性と発達障害の章でも書いているんですけど、一方で男性の発達障害の人も、恋愛市場でけっこう悩んでいる人がすごく多いですね。やっぱり恋愛ってコミュニケーションなので、そのコミュニケーションが取りづらいとモテないというのとかですね。

あとは、障害者手帳を持っている方とかだと、障害者雇用だったり精神(障害者)だと給料が低かったりするので、婚活市場であまり有利にならなくて、不利になってしまうということがありますね。男性は男性で、苦しんでいる種類が違うのかなと思います。

自分が苦手なことに気づけないと、生きづらくなる

Sidow:確かにそうかもしれないですね。発達(障害)の特徴を持っている患者さんもふだん診ることがありますけれども、なんて言うんですかね……。

難しいのが、自分である程度特性に気づいているけれど、なんか、そこにギリギリ気づけないというか、やっぱり「その場面にいくとうまくできない」みたいなところがあるという印象です。だからライフハックも、取り入れるかどうかは自分の向き・不向きと合わせて考えたほうがいいなって思います。

姫野:そうですね。まずは苦手なことを見つけることから始めないといけないですね。ここの「はじめに」でも書いたんですけど、まずは自分が苦手なことを見つけて、それを受け入れてから、そこからハックを試そうということを書いています。

たぶん、「何が苦手か気づいていなくて生きづらい人」って、いると思うんですよ。私は新卒で働いた会社では総務と経理担当だったんですけれども……。

Sidow:経理って一番、なんか……。

姫野:一番だめなやつですよ。

Sidow:一番相性が合わなそうなやつですよね。

姫野:本当に、3回電卓をたたいても計算が合わないとか、しょっちゅうでしたよ。しかもADHDの不注意もあるので、書類の漏れも多いというのがありましたね。

当時は「自分は数学が苦手だけど、がんばれば大丈夫だろう」って思っていたんですよ。でも、苦手を受け容れていなかったんですね。なんとか3年間続けて辞めましたけど、すごく根性論でがんばっていましたね。

生きづらさを感じたら精神科や心療内科へ

Sidow:それって発達障害の特徴があるけれども、そこまで気づいてない段階の人によくありがちという印象がありますね。

姫野:気づいてなかったですね。それと、自分自身も偏見があったんですかね。精神科とかに行かなかったんですよね。確実に体調が、同じだけ働いているのに、他の人との疲れ具合がぜんぜん違うんです。家に帰ったら本当にばったり倒れていたので、自分でも体力がないなと思っていました。今は「私はそこで病院に行けばよかったのにな」と思いますね。行かなかったんですね。

その前に、就活のときに1回うつっぽくなって精神科にかかったことはあるんですけれども、たぶんあまりよくないお医者さんで、合わなかったんですよね。それでもう勝手に行かなくなっちゃったんです。

けれども、そうやって自分が生きづらいと思ったときに、もうちょっと気軽に精神科とか心療内科に行けるようになればいいなと思っています。

Sidow:そうですね。でも、たぶんここ数年で発達障害の認知度がかなり上がっているので、逆に「自分はそうかもしれない」ということで精神科にかかる人は増えている印象がありますね。

精神科と心療内科のどちらに行くか迷ったら?

姫野:前に先生がYouTubeの動画で精神科と心療内科の違いという動画を上げていたと思うんですけれども、あれをもう1回ご説明いただきたいです。

Sidow:簡単に言うと、精神科というのは精神を診る科です。精神的な不調、うつもそうです。発達障害しかり。例えば摂食障害、あとは認知症だったりとか、統合失調症だったりとか、何か精神的な原因というか、精神的な問題が中心となるのが精神科というイメージです。

心療内科というのはあくまで内科なので、体のことを診ますよということなんですが、ただ体の症状の根本に精神的な問題がある場合が心療内科になるのかなと思います。

姫野:じゃあ、ストレスで、うつで胃が痛いとか……。

Sidow:そういうのがよくありますね。今のうつ病もそうですし、例えば摂食障害とかも精神的な病の一種ではありますけれど、食事がぜんぜん取れなかったりすると体重が落ちてきてしまって、体にも影響が出てしまうじゃないですか。

そうすると、心療内科で点滴とか栄養を投与する治療を行なったりということはあります。なので、ざっと言えばそういう違いはあるんです。ただ、世の中で開業している精神科もしくは心療内科のクリニックって、だいたいが精神科出身の先生が多いですね。

姫野:そうなんですね。

Sidow:基本的には病院を開業したときって何科を名乗ってもいいということになっているので、精神科の先生は基本的には精神科・心療内科と標榜して、どっちも診ることが多いです。

だから迷ったときは、どっちでもいいんですよ。その先生が診て、「これは自分じゃきついな」となったら心療内科の場合は精神科に送ったりとか、逆に精神科の先生が心療内科に送ったりということがあります。

「どちらに行ったらいいのかな?」と迷うよりは、とりあえず困った場合は相談してみるというほうがいいのかなと思います。

摂食障害の人に一番言ってはいけない言葉は「がんばって食べよう」

姫野:私は摂食障害も持っているんですね。2次障害があって、それで双極性障害と摂食障害があるんです。たぶん、摂食障害のためにビタミン剤を出されているんだと思います。ビタミン剤も出されているし……。あとは、コロナ太りしちゃったんですよ。

Sidow:コロナ太り(笑)。

姫野:本当びっくりしますよ。1ヶ月半で7キロ近くも増えたんですよ。

Sidow:そんなに?

姫野:これはいかんと思って……。今、走っている人がすごく多いじゃないですか。

Sidow:そうですね。けっこうランニングしている人もいますね。

姫野:私は外に出るのが怖いので、家の中で踏み台昇降(運動)をやっています。

Sidow:そういうのは大事ですね。

姫野:なんとか2キロぐらい戻したんですけど、それでも今の体重って、BMI的には標準体重ではあるんですよ。前が痩せすぎだったんですね。

でもその痩せすぎというのが、自分の中ではすごく「こうじゃなきゃ、この体重でないと私は許せない」というのがあったんですよ。

Sidow:なるほど。そこはたぶん、もともとの発達障害の特性から、そう考えていたということ?

姫野:そうですね。ゼロか100かという特性があるんですよね。それで今、ちょっと痩せようとがんばっています。

この間病院に行ったときも、自分では標準体重とわかっているけれども、その前が42キロだったので「42キロじゃないと許せない」と先生に言ったら、逆に代謝をよくする漢方を出してくれましたね。

Sidow:なるほど。

姫野:だから、(その先生は)「一緒に痩せよう」というか、……何だろう? 「そのままでいいよ」と言うんじゃなくて、「じゃあ、痩せるように仕向けましょう」というのをやってくれましたね。

摂食障害の人に一番言っちゃいけない言葉って、「がんばって食べよう」とかなんですよね。それが逆効果で、私も一番痩せていた頃に友達から無理やり食べさせられました。無理やり口に押し込んでくるんですよ(笑)。

Sidow:めちゃくちゃな友達ですね。優しいのか厳しいのか……。

高校時代に半年で古株になるブラックアルバイトを経験

姫野:それがまったく効かなかったですね。ちょっと会場のコメントを見てみましょう。

「恋愛。コミュニケーションがうまくいかない」。

「アルバイト先のレジで、できないことがありました。お話を聞いていて、自己分析の大切さに気づきました」。

「とくに精神的な問題は、医師との相性は本当に大切だと思います」。

そうですね。発達障害の人って基本、マルチタスクが難しいと言われているので、レジとかは私もできないと思います。

Sidow:意外とレジって大変ですよね。覚えることが多いし、お会計して、お弁当などを温めて、コーヒーを渡して、とか1回でやることが多いですもんね。

姫野:ちなみに先生は、精神科以外で何かアルバイトってしたことはあるんですか?

Sidow:それこそ高校生のときに、ファストフード店のキッチンをやっていました。

姫野:えー!? 意外。

Sidow:本当に高校に入ったばっかりで、お小遣い稼ぎに何かやりたいなと思ったんです。高校生でも大丈夫な職場で、家から近かったのがそのファストフード店だったので、とくに何も考えずに行ったんです。

ちょっと話がそれちゃうんですけど、本当にそこの職場が……。言っていいのかな。めちゃくちゃブラックな感じでした(笑)。

姫野:飲食店あるある(笑)。

Sidow:そうですね。キッチンなので基本的には素材を料理するんですけど、最初は冷凍庫にある素材を油に入れるといった作業をやるんです。冷凍庫に入るからめちゃくちゃ寒いんですけど、でも油はめちゃくちゃ熱い。しかも、なぜか制服が半袖なんです。

姫野:やけどしそうですね。

Sidow:油がめちゃくちゃ飛んでやけどするし、粉はつくしみたいな、すごく大変な職場だったんです。最初は「初めてやるバイトだから、とりあえず続けなきゃ」と思って、半年ぐらい続けたんですけど、一緒に入ったバイトとかはみんな辞めちゃいました。

姫野:みんなつらかったんですね。

Sidow:僕は半年ちょっとしか働いてなかったのに、バイトの中で2番目の古株になったんですよ。

姫野:えー(笑)。超ブラック!

Sidow:高校1年とか2年のときですね。

医学部での解剖実習と「慣れ」

姫野:でもそのあとは、もう医師になるためのお勉強をがんばっていたということですか? 

Sidow:そのあとは、そういうところでアルバイトをやるのはちょっと割に合わないなと思って、高校生のときはそんなにバイトをしなかったんです。大学生のときはそれこそ講師のバイトみたいなのをやっていましたね。

姫野:塾講師みたいな?

Sidow:塾講師というか……。正確に言うと、セラピストの学校で解剖学を教えるという講師をやっていたんです。医学部だと学生時代って、解剖学を学ぶんですね。

姫野:解剖は……あたりまえですけど、死んでいる人の解剖ですよね?

Sidow:そうですね。大学の実習で、いわゆるご献体の解剖をやりますね。けっこうみなさん「大丈夫でしたか?」と言うんですけど、ぜんぜん大丈夫ですね。

姫野:はー! ちょっとこれは言い方が悪いかもしれないですけど、命が宿っていないので「物」としてしか見えなくなるということですか?

Sidow:うーん。やっぱり実習なので、最初はみんな同級生とか……。

姫野:ご飯が食べられなくなりそうです。

Sidow:……とか言うんですけど、2回3回行くと、もうけっこう慣れちゃいます。

姫野:えー。

Sidow:けっこう淡々とやる人が多いですね。だから、解剖実習ができなかった子は1人もいないです。やっぱり慣れって大事なのかなって思います。

姫野:すごい。ふーん。慣れ。そうか。

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