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元マッキンゼー赤羽雄二氏と学ぶ10年後の未来と働き方(全8記事)

当時の日本はたまたま追い風だっただけ––元マッキンゼー赤羽雄二氏が説く「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という幻想

2017年9月14日、ニッポンイノベーター塾が主催のイベント、Premium Innovators Collegeが開催されました。登壇したのは、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて14年間活躍し、現在はブレークスルーパートナーズ株式会社にてマネージングディレクターとして企業の経営を支援している赤羽雄二氏。「10年後の未来と働き方」と題して、AIなどの発展によって急速に変化するビジネス環境や、これからのビジネスパーソンの在り方について、参加者と意見を交えながら語りました。「将来、AIに仕事を奪われる」というのは本当なのか? 技術の進歩によって私たちの生活はどう変わるのか? すべてのビジネスパーソンに贈る、10年後も生き残り続けるために必要なマインドセットを解説します。

コマツに入った後、留学制度を活かしてスタンフォード大学へ

赤羽雄二氏(以下、赤羽):ブレークスルーパートナーズの赤羽です。これから2時間半ほど、よろしくお願いします。

私は、年間60回ほど講演しています。毎回の講演で、20~30回は質疑応答をさせていただいています。

「本当にそうか?」と思われたり、「じゃあこういうのはどうだ」と思われたら、どんどん途中で手を上げて、発言したり質問したりしていただけると大変ありがたいです。

日本人はこういう場ではほとんど質問せず、最後に事務局の方が「あと数分ありますから、一人ふたりご質問を受けたいと思います」と言い、誰もいないので、「じゃあ事務局から質問させていただきます」という感じになりがちですが、ここでは途中でもどんどん質問してください。

私は高校、大学とアメリカンフットボール部で、コマツに入り、8年間エンジニアでした。入社数年後、留学制度ができたので、スタンフォード大学に留学しました。

留学から戻って1年ほどしたところで、マッキンゼーのヘッドハンターから電話があり、それがまたまた私の上司の席でした。上司がランチに行っていなかったので、私が電話を取り、面接を受けることになり、今ここにいるということです。もしあの場に上司がいたら、そのままコマツのままだったかも知れません。

ベンチャーキャピタルではなく共同創業者

マッキンゼーでは14年、うち日本で4年、韓国で10年、経営改革に取り組んできました。ソウルでは「月曜日の朝に行って金曜日の夜に帰る」生活を10年続けました。「水曜日にソウルから香港に飛んで土曜日に帰ってくる」ことや、「木曜日にニューヨークに向かって日曜日に日本に戻り、月曜朝にはまたソウルに行く」ことも時々ありました。

マッキンゼー卒業後、シリコンバレーのベンチャーキャピタルのアジアでの活動に参加し「日本と韓国でのベンチャー育成・投資」に取り組みましたが、すぐスピンアウトし、2002年にブレークスルーパートナーズ株式会社を共同創業しました。

ブレークスルーパートナーズでは起業したい方にお会いし、数週間かけて事業構想を議論します。「これならいける」という事業構想を一緒に作ることができ、意気投合した場合は、共同創業します。通常、10パーセント出資させていただいて共同創業者となり、会社の急成長を支えます。

一方で、大企業の経営改革も支援してきました。大手のアパレル企業を4年、家電メーカーを4年、精密機器メーカーを2年、小売チェーンを2年などです。

今の日本と日本企業の危機について

本日は「日本と日本企業の危機」について、お話しいたします。10年後の未来にどうなるのかというお話も後ほどしたいと思います。

まずは日米企業の時価総額の比較です。この図は若干古いので傾向として見てください。説明は最新の数字でさせていただきます。

Alphabet(注:Googleの持株会社)や、Microsoft、Amazon等の米企業は時価総額が50~80兆ほど、100兆に手が届く可能性もあります。

一方、日本企業はトヨタが25兆と突出していますが、日立、東芝、NEC、ソニー、パナソニックなどの企業は10社以上まとめても20兆円には届きません。

これが日本と米国の決定的なギャップです。Microsoftはビル・ゲイツがインターネットに気づくのが遅れ、出遅れましたがとっくに挽回し急成長しています。次はハードウェアを手に入れたいと考えるかも知れません。そうすると「Microsoftがハードウェアを手に入れるためにグラフ下位の日本企業を買収してしまう」ということが起こりえます。明日の朝刊に「Microsoftが日本企業を一挙買収」と載ってしまうかも知れないわけです。

日本の大手電機メーカーなど企業は数十の事業を保有していますが、その内訳は好調なものが2割、赤字が2割、そのほかはトントンなのではないでしょうか。それも状況が悪化すれば赤字ですから、結果として低い時価総額になります。本来、足を引っ張っている事業を大胆に整理すれば、時価総額がかなり上がります。

例えばMicrosoftなどが数社を買収し、大胆にメスをいれることでハードウェア事業の入手と増収を実現できると考えられます。つまり、時価総額だけで考えれば、「Microsoftソニー」や「Microsoft東芝」が生まれる可能性も十分あるわけで、これは明らかな危機だと認識しています。規制や組織体質、日本人気質があるため日本企業には大胆な経営改革はできないとよく聞きますが、それは本当にそうなのか、というのが私の長年の疑問です。

次に、「日米製造、あるいはIT関連大企業の競争力変化」ですが、横軸は1945年以降の流れです。縦軸は「相対的産業競争力」をとっています。

「敗戦の壊滅的な状況から驚異的な成長を遂げた」ことから大変に尊敬されていた日本は、高度経済成長を経て80年代にピークを迎え、その後は地位が低下したと思います。1人当たりのGDPも、先進国では最下位が続いています。

過去数十年、欧米諸国や中国、インド、アフリカ、インドネシアなど、先進国・発展途上国にかかわらず各国が大きく成長しているなかで、日本は低成長です。

アメリカ経済は1980年代にやや不調な時期がありましたが、その後挽回し、圧倒的な存在感を示しています。トランプ大統領が云々されていますが、産業競争力は非常に強いです。ヨーロッパの一流企業も日本企業より遥かにグローバル競争力があります。

日本企業でITが強いところはほとんどない

AppStoreやFacebook、韓国資本のLINEは、1つのアプリではなく、プラットフォームです。

日本企業はハードウェアに強みがあり、例えばiPhoneなどにも相当部品が使われていますが、実際はiPhoneの付加価値の一部でしかありません。Appleに対して大きな利益貢献をしているわけです。みなさんの感じているなんとなく鬱々した生活や日本経済の息苦しさは、日本企業のITの弱さが背景にあるのです。

私は、日本及び日本企業の競争力は、ITやインターネットの時代になって危機的状況に陥っていると思います。週刊誌的ネタに時間を使っている場合ではありません。

企業は根本的な経営改革に取り組みつつ、新事業を成功させなければなりません。みなさん個人は問題を的確に把握し、解決する能力を高めて生産率を上げ、身を守るしかありません。もう「頑張れば誰もが救われる明るい時代」ではないのです。

それをよく認識していただいた上で、今後の展開と一人ひとりがどう生き延びていくかということをお話いたします。

日本の経営力が優れていたわけではなく、追い風だっただけ

赤羽:ここまでで、ご質問はありますか。

(会場挙手)

赤羽:はい、どうぞ。

質問者1:当時は1980年ぐらいで「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われていた時代だと思います。アメリカも「日本はいいね、真似しようぜ」という雰囲気で、いつからかダメになりました。その背景をどう捉えていますか?

赤羽:私は、日本企業が弱くなったのではなく、「実はもとから大して強くはなかった」と考えています。戦後から高度成長期にはアメリカがなんでも大量に買ってくれました。しかも、台湾、韓国、中国、インドなどの競合はまだ力をつけていませんでした。日本の経営力が特別によかったということではなく、「強い追い風」の環境だったと考えるほうが説明がつきます。

「高度成長期の驚異的な発展との違いはなにか、どこにあるのか」と私自身、ずっと考えていました。「最近の社長はダメになったのだろうか」「日本人がみんなダメになったのだろうか」と問われれば、どうもそういうことではありません。

いろいろ考えた結果、私は10年ほど前に「日本人は経営力が低い」と考えるほうが説明がつくと理解しました。高度成長期以降、IT・インターネット導入以降の日本企業の状況を見ると、例外的な方はもちろんいらっしゃいますが、多くの社長は経営力が低いと思わざるを得ません。

経営改革の遅さ、グローバリゼーションへのコミットメントの低さ、IT・インターネット活用の絶望的弱さなどです。急にそうなったわけではなく、その前の社長も同様ですし、前の前の社長も大きく違う理由がありません。急に人の質が下がる理由もありません。そうではなく、ずっと経営力が低かったと考えたほうが説明がつきます。

もちろん、素晴らしい開発部長や工場長がいましたし、素晴らしい営業マンもいました。強い追い風が吹いていた高度成長期にはそれで通用したのではないでしょうか。もちろん旗振りをする、リーダーシップの強い社長はいました。しかし、グローバルでのIT・インターネット活用競争の中では、ほとんど通用していません。あえて言えば、箱庭の中だけでは素晴らしいと思います。

問題を自分事と捉えるには、外部ともっと接した方がいい

(会場挙手)

赤羽:どうぞ。

質問者2:はい。「日本および日本企業の競争力が危機的状況」とありますが、これを自分事としてどう捉えたらいいのかということをいつも悩みます。

赤羽:今はどういう会社でどういうお仕事をされていますか?

質問者2:半導体のメーカーで、自動車用の半導体の量産工場を立ち上げたところです。

赤羽:なるほど。おそらく少し恵まれたほうかもしれませんね。

「自分事に置き換えられない」と言われると、「そうなんですか」「本当ですか?」と思います。周りでひどい目にあった人はいないのでしょうか。身につまされている人はいるはずです。ご自身はたぶん恵まれているけれど、周りの女性の中では貧困層が増えてるとか、リストラにあってる人もいっぱいいるとか。

NTTや東京電力、一部の半導体などの著名な会社の中では風が吹いていないかもしれませんが、その外側では吹いているんですよね。なので、ぜひ外部の人間と接触してみてください。そうすれば、疑問点は消えるかと思います。

東芝はもとより、NEC、富士通、日立製作所なども微妙なところです。時価総額が世界的企業と決定的に差がついてしまいました。たまたま良い場所にいらして、たまたまその中で優秀だと、外の寒い風を感じないのではという気がします。

質問者2:ありがとうございます。

日本の経営者の弱点

(会場挙手)

赤羽:はい。

質問者3:日本の経営者の弱いところはどういうところなんでしょうか。

赤羽:「物事を徹底的に考えて、行動に移して、実行する」ところです。事業構造改革を大胆果敢に進め、同時に次々に新事業を立ち上げるにはモノマネではいけません。優秀な人を採用して、その人に高い給料を払って仕事してもらわなければなりません。そのためには、資料作成や会議の時間を長くしないようにする、という簡単な話です。

社員の仕事のしかたにいろいろ問題があっても、ほとんどの経営者は変えようとしないですよね。やるべきことがわかっているのにやらない、あるいはそもそもわかってない、と思います。グローバルカンパニーから見たら、この状況はあり得ません。その意味で、ほとんどの日本企業の社長は、サムスンやグーグルなどの世界的企業では役員にさえなれないのではないでしょうか。世界的企業で社長や役員になっている日本人はほぼ聞かないですよね。

このような感じで、質問をどんどんしてください。「なんか赤羽が過激なこと言ってるな」と思うんだったら、手を上げて止める責任がみなさんにもあると思います。

(会場笑)

私としては過剰なことを言ってるつもりはないので、質問してもらえたら答えていきます。みなさんにきちんと理解していただきたいし、実際に日本は危機だと思うんですね。

本日のトピック「10年後の未来」は、7月に上梓した『3年後に結果を出すための 最速成長』という本で取り上げた内容です。

3年後に結果を出すための最速成長 (ベスト新書)

みなさんが質問して、私が刺激的なことを答えて、「今日は充実したセミナーだった」というだけの話ではありません。

日本全体の問題に加えて、最新の技術動向を考えると、AI、ロボット、IoT(注:Internet of Things =モノのインターネット化)、あるいはブロックチェーンによって、10年後にはかなり多くの仕事がなくなる、仕事が劇的に変わる、と考えています。それにどう備えるかが大命題です。ここにいる全員に関わることです。

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