2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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質問者2:ありがとうございました。普段なかなか聞けないような話なので、頭の修行にとってすごくよかったです。
石戸さんがおっしゃっている「考えさせる文章」について、お二人にお聞きしたいんですけれども。もちろん世界全員が同じように考えるようになれば一番理想だと思うんですけれども。現時点で、とくに考える訓練をしていなかったり、考えることを放棄してしまっている人もいます。
例えば、私は教育支援団体にいるのですが、教育支援団体で支援している若者は、イエスかノーか、はっきりした記事しか読まない。こういうことを考えたいとすら思わない、というレイヤーも確実に存在をしています。むしろ、増えてきてるんじゃないかと思います。そのレイヤーに対してなにか考えをお持ちでしょうか。
古田さんがおっしゃったように、会社としてはいくつものレイヤーに読まれたい、と。その全体の数としての結果で、ビジネスが成り立っているというのは、もちろんそのとおりだと思うんですけれども。
ターゲットにしていないレイヤーの方に対してどうお考えなのか、そこにまで伸ばそうとするのか。もしそうであれば、どのような施策をこれから考えていくのかに興味を持ちました。
古田大輔氏(以下、古田):じゃあ、まず先に僕から答えさせていただきます。僕は、石戸が書くようなコンテンツも尊いと思いますし、単純明快にただ笑えるとか、めっちゃほのぼのするとか、そういうコンテンツも大好きなんです。しかも、そういうコンテンツはめちゃくちゃ読まれて、シェアされたりするんですけど。そういう単純明快なものも、僕は大好きなんですよ。
僕らBuzzfeedは「人々の生活にポジティブな影響を与えよう」ということをミッションステートメントとしています。その「ポジティブな影響」には、いろんなものが含まれてると思うんですよね。
「真実を暴く!」みたいなスクープもそうだろうし、世の中の事象をわかりやすく伝えることもそうだろうし。「わかりやすく」という言い方だと、先ほどの話と混乱するところがあるんですけど、わからないことについて「少なくともこういうことだよ」と、読者の疑問に答えるとか。そういうものもいいだろうし。
それで、単純に笑えるものもいい。笑うってすごくポジティブなことだと思うから。
あとは、いい話、泣ける話も僕は好きなんですけど、そういうものもすごくいいと思うんですよね。それは相対としてすべてポジティブに働いてるんじゃないのかなって思います。
古田:僕、6月にウィーンで、Global Editors Networkという世界的なメディア団体のサミットに出てきたんです。世界中のメディア関係者が来てて、3日間いろいろ話し合うんですけれども。
その一番最後のほうのパネルディスカッションで、テーマが「ミレニアル世代にどうニュースを届けるか」というセッションだったんですよ。で、壇上に18歳の高校生の男女1人ずつ出てきて、会場にいる世界中のジャーナリストが彼らにどんどん質問していくというセッションがありました。
そのなかで、ベテランのジャーナリストから、「うちの娘はずっとスマホを見てる。彼女にスマホを通してニュースを読ませるにはどうしたらいいんだ?」という質問が出たんです。それに対して壇上にいたカリフォルニア出身の18歳の女性が「賭けてもいいけど、あなたの娘はニュースは読んでない」って断言したんですよね(笑)。
(会場笑)
「私たちの世代でスマホでニュース読んでる人なんて、そもそもほとんどいないんだよ」という話をして、会場大爆笑だったんですけど。でも、その後に彼女が続けて言ったのが、「でも私、Buzzfeedを見てます」と。
「Buzzfeedは朝、友達との話題についていくために、『今日はなんかおもしろいものあったのかな?』って見てる。そのなかにニュースも紛れ込んで流れてくる。そのニュースのなかでも、ビジュアルをいっぱい使っていたりすると、見やすいから入ってくる」ということを言ってくれて、それはすごくうれしかったんですよね。
石戸みたいな記事を書く人はアメリカにももちろんいるわけです。もしかしたらその子が、ある日そういうものを見て、興味を持って読んでくれるかもしれない。それはそれで、彼女が新しい思考の旅に入っていけるということじゃないですか。そういうことができたらいいなと思っています。
古田:あともう1つあるのが、「じゃあ、絶対みんなその思考の旅に出ないといけないのか?」というと、僕、別にそんなことないって思うんですよ。僕は、『男はつらいよ』が大好きなんですけど。おそらく寅さんは難しいコンテンツとか読んでないんですよね。でも、寅さんいいじゃないですか(笑)。寅さんいたら、周りはめっちゃ平和だと思うんですよね。戦争とか起きないと思うんですけど。
それで、僕、ユネスコ憲章が大好きで、時々引用する言葉があるんですけど。ユネスコ憲章の冒頭は、「戦争は人の心の中で生まれるものだから、人々の心の中に平和のとりでをつくろう」という言葉から始まるんですよね。人の心の中に平和のとりでをつくるものって、別に難しいコンテンツじゃなくてもいいと思うんですよ。『男はつらいよ』が好きな人同士だったら、けっこう仲良くなれると思うんですよね(笑)。
だから僕は、Buzzfeedで、ニュース&エンターテインメント、なんでもやっています。ニュースと同じぐらいエンターテインメントが尊いものであり、そういったものがなんとなく、よりよい世の中をつくっていくためにプラスに働いていくんじゃないのかな、と思っています。
石戸諭氏(以下、石戸):『男はつらいよ』ね、すごくいいと思うんですけど。
古田:(笑)。
石戸:寅さん、けっこう「とらや」で騒動を巻き起こしてる気がするんですけど。
(会場笑)
石戸:まあ、それはさて置くとして。僕は、一緒くたになることが、すごく嫌だなと思ってる人間で。「必ず人間は考えなければいけない」「こうしなければならない」という思考そのものが僕はすごく危ういと思っています。
考えてほしいとは思ってるけど、全員が考えなければいけなくなった瞬間に、それは僕が1つ新しい線引きをしているということであり、新しく一緒くたに塗りつぶそうとしてるということですよね。
それは僕は絶対やりたくないです。
もう1つだけ言っておくと、さっき僕が言った言葉なんですけど、「偶然に開かれている」ということがすごく大事である、と。うっかり読んじゃうとか、そういう瞬間ってやっぱりあるはずで。
原稿をバーッとインターネット空間に放流してるわけです。そしたら、どこかでうっかり偶然に読んでしまうことがあるかもしれないわけですよね。その瞬間になにかがあれば、別に僕はそれでいいのかなと思ってるんですよ。
別に、「何歳までにこういうことを考えなければならない」と言う気もないし、そういう説教くさいことをやりたいとも思わないんですよね。
ただし、常にこの空間は開かれている、ということは言いたいです。なんかこれも(ハンナ・)アーレント(女性の哲学者)っぽい言い方になっていますが、この空間は偶然に開かれてるんだという、この開かれてるというところそのものを肯定することが大事だと思うんです。
いつ、どこで、とかじゃなくて。やっぱりいつの時代にも人はなにかを考えたくなる瞬間、なにかを読みたくなる瞬間というのは、あっただろうと思うんですよ。
それは、もしかしたら17歳とか、教育の支援が必要な子じゃないかもしれないし。でも、わかんないですよ。彼らだって結婚を機に、たまたま開いたその本のなかで、普段は気にならないようなものが気になるかもしれない。
僕がここで書いてるような話だって、地続きだと思ってるから、どこかでそういう瞬間が来るかもしれない、と思っています。なにがしか起きるかもしれないということは、常に想定してるわけです。
だから、いつ、どんな瞬間に、どういうふうに読まれても大丈夫だよ、という書き方にはなっています。それは僕が今言ったみたいに、偶然に開かれているという状態を、常に維持しておきたいからです。
「ここの場所、この席には、こういう人しか座っちゃいけません」「この本を読んでない人はダメなんです」ということは言いたくないし、そういうようなものをやっているつもりはないですね。
質問者2:でも、わかります、わかります。
石戸:はい。
古田:ありがとうございます。
質問者3:お話ありがとうございます。お話のなかに「共感」というキーワードがあったと思います。「共感というのは尊いけれども、排他的にもなりうる」と。
FacebookであったりGoogleであったり、そもそも今のインターネットの構造のなかで、自分と違った意見や、本当に違った思想の持ち主が書いた記事であるとか、ブログであるとか、そういった情報に触れることが、すごく難しくなってきてると思うんです。これは日本だけの話ではないと思うんですが。
そういった構造のなかで、スラッシュを取り除くところにどうやってリーチするか。また、読者、利用者はどういうふうに関わっていけばいいと思われているのか、ご意見をうかがえればと思います。
古田:すごくいい質問だと思います。僕も日々それについて考えています。インターネットって、10年前は「世界を1つにする」と言われてたんですよね。「人と人をつなげて、世界を1つにするのがインターネット」と言われてたんですけれども。でも、「それがどうも違うな」ということが5年ぐらい前から言われていて。
どういうことかというと、インターネットは人と人をつなげるけれども、近い人と近い人をつなげる力が強すぎて、遠い人とは反発する力になるんですよね。思考的に近い人同士がつながって、そうではない人との間にものすごく大きなスラッシュ、断絶を生んでしまうのがインターネットの姿だとわかってきた、と。
こちら側の人はこちら側の人だけで情報を共有して、あちら側の人はあちら側の情報を共有して、お互いのグループを攻撃し合う。「あいつらは間違ってる」と言い合ってしまう。
これがフィルターバブルって呼ばれたり、ポリティカル・ポラライゼーション(Political Polarization)という言葉で呼ばれたりしています。それでどんどん両サイドの人が極性化、反対の方向に向かってしまう。むしろ離れてしまう、というようなことが言われています。
しかも、そこに乗っかるメディアがどんどん生まれてきた。それぞれに極性化しているところで「俺はこっちの仲間だぞ」と言えば、ある程度のマーケット取れちゃうんですよね。そうするとビジネスが成り立っちゃうから、そこを狙いにいく人たちが出てきてしまった。それでさらにお互いのグループは離れていく。
古田:ビジネスのやり方としては、それ、非常にクレバーなんですよ。でも、僕は絶対にそんなことをしたくない。僕がもともとこの職業に就いて、この業界に入ったのは、「みんなで一緒に考えたいな」というのが素朴な欲求なんですよね。みんなで一緒になにかを楽しみたいし、考えたい。だから、「つなげたいな」と思うわけです。
じゃあ、どうやったらつなげられるかというのは、まだ世界的に誰も答えを出せていないですね。いろんな取り組みはしています。
例えば、Buzzfeedのなかでも、あるニュースを読んだら、そのニュースを読む人が普段読まないような意見をリンクで付けてみるとか。そういう機能をつけてみたり、いろんな試みがなされているけれども、まだ最終的な解答というのは見つかっていません。僕も探しています。
そういう状況に、個人としてどう向き合うべきかということに関して、僕自身が心がけていることがあります。もう亡くなりました政治学者の丸山眞男さんが言っていた言葉で、「自己内対話」という言葉が好きなんです。自分のなかで対話をしましょう、と。国際交流よりも国内交流を、国内交流よりも人格内交流を。自分のなかで対話を続けていきましょう、と。
もう1つ彼が言っている言葉で、コーヒーが好きな人と紅茶が好きな人が、「俺、コーヒーが好きだ」「俺、紅茶が好きだ」と議論しても、議論として成り立たない。「俺、コーヒー好きだもん」「俺、紅茶好きだもん」になっちゃうから。
だから、必ずそういう時には、「俺はコーヒーが好きだけど、もしかしたら紅茶が好きかもしれない」という思いで相手と議論をしたり、自分のなかで議論をしてみる。ということを、常に自分のなかで思考訓練としてやるようにしています。
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