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脳神経科学でグローバル人材開発を考える(全5記事)

考えるな、感じろ––脳神経科学者が説く、ポジティブな人になるためのコツ

2017年7月18日、一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会が主催するイベント「地球人財創出会議」が開催されました。第27回となる今回のテーマは「脳神経科学でグローバル人材開発を考える 」。異なる民族、異なる文化と接した時、私たちの脳はどのような働きを見せるのか? DAncing Einstein Co., Ltd. FOUNDER CEOの青砥瑞人氏をゲストに招き、脳神経科学の知見からリーダーに求められる能力を紐解きます。

学習する上で大事なものとは

青砥瑞人氏:僕ではまったく説得力がないので、偉人の言葉をたくさん借りてきました(笑)。ビル・ゲイツも言っています。「成功を祝うのは良いが、もっと大切なのは、失敗から学ぶこと」。そうなのです。成功は、自分ができたことに対するチェックになるわけですが、差分を産まないことが多い。「到達していないところの差分」が、学習上ではとても重要です。

最後。ネガティブな行動を何回も何回も行い、失敗から学習を回していくという文脈においては、単に「行動だけやり続けよう」というやり方は、継続確率がだいぶ低くなると思います。もちろん周りに良いメンターや指導者がいると、状況は変わるとは思いますが、他者に任せるのではなく、いかに自分の感情をコントロールできるようになるか、自分の感情や自分の思考とどううまく付き合っていくのか、ということがやはり重要になってきます。

そう考えると、留学など「外に出る」ということも、異文化に飛び込むわけですから新しい要素がたくさん出てくる。ずっと同じところにいるより、意識しなくても圧倒的に、失敗というものの表面積が増えていくと思うのです。そんな時に、なんとかもがいて、無意識的にネガティブな感情をポジティブに持っていかなければならないし、あるいはネガティブな思考をポジティブに持っていかなければならない。そのような脳の働きが、無意識的に起こる。そうすると、進歩と失敗が連続的に現れてくるので、いろんな学習が脳内で機能し得るだろうと想定できます。

「過保護」がダメな理由

「葛藤」というものは、人間にとってとても重要です。よく「過保護はダメですよ」と言います。なんでもかんでも与えたり、やってあげたり、というようなこと。子どもが困っている時に、過保護な親は、ディレクションを引いて「答え」を出してしまう。脳内はそのとき、「どうしよう、ああしよう」と、いろいろな処理機能を働かせている状態なのです。そうやって学習していくのに、そこに答えを出してしまうと、「なんとかしよう、解決しよう」という脳の機能をストップさせてしまいます。

ですから、誰の干渉も受けないような海外に出てしまうと、失敗と新しいものに触れまくり、かつ誰もディレクションを引いてくれないので、「なんとか処理しよう」という力が培われていく。だからこそ海外に出て行くと、いわゆる「地球人財」というものが育ちやすい環境になる。

必ずしも「外に出ればいい」「異文化に行けばいい」というわけではないと思いますし、そうでなくても培える能力であるとは思います。ですが、「地球人財」というのはこういった、自分の頭で考え解決するような能力がきっと必要になってくる。

では、「どのようにこの感情や思考とうまく付き合っていくのか」という問いに対して、いろいろな提案があるのですが、いくつかその中でもヒントとなるようなことをお話できたらと思っています。僕は「解」をお話しするわけではなく、「こういう観点で考えるとよさそうですよね」ということを紹介したいと思います。まず……。

「ネガティブなおしゃべりに気づく」ということはとても重要です。先ほど、「ネガティブな感情に気づき、言語としてタグ付けをするだけでストレスが低減することが分かっている」、という話をしましたが、これも理由の1つです。ネガティブなおしゃべりをするとは、例えば、上司に怒られました。その瞬間ネガティブな情動があったとしてもそれはしょうがないですし、それが学習につながる。

ただですね、よくあるケースとして。帰りの電車の中でそのことを思い出して、ネガティブな情動、ストレスホルモンを出す人がいるのです。「誰のせい?」と聞くと、「いや、あの上司が理不尽に……」と言います。上司のせいにしているのです。ですが「それは違いますよ」という話です。

どういうことかと言いますと、上司に怒られたことを思い出してストレスホルモンを作っているのは、まさに「あなた自身」です。目の前に上司はいないですからね。もちろん上司が影響していることではありますが、「ネガティブな情動を引き起こしているのは、実は自分自身なのだ」ということに、まず気づくことが必要です。

記憶を具体的にイメージする

そして、そのストレスに対して考え続けている場合、多くは単にストレスホルモンを出し続け、体になんとなく不安を及ぼしているような状態が多い。だとしたら気づけて、それをなくす、あるいは他のことを考える。そういうことをしていくほうが、体にとっては健全です。

ひどい人は、帰ってベッドに入って、そこでも同じことを思い出して眠れないというケースがある(笑)。

(会場笑)

もちろん上司の影響もゼロではないのでしょうが、本人がつくりだしている感情、それとどうやってうまく付き合っていくのかが重要になってくるわけです。

もう1つ。「意識的にポジティブなおしゃべりをする」。よく「ポジティブ思考が大事」と、どこかで聞いたことがあると思うのですが、そう簡単にはできないですよね(笑)。

(会場笑)

簡単にはできないということが、科学的にも分かっています。なんとなく頭の中で、自分の中で妄想して、「ポジティブに考えよう」とポジティブな「思考」はしているのです。ただ、ポジティブな「情動反応」は引き起こせていないという状態なのです。

これは脳内の「エピソード記憶」というものと、もう1つは感情記憶が関連しています。ポジティブなエピソード記憶、「自分の中でポジティブなイメージを作り上げる」ことは、みなさんできる。

エピソード記憶を保存する海馬という場所から扁桃体というところに回路がつながっています。「扁桃体で情動反応を引き起こせる」という人は……こういう実験がないのでなんとも言えませんが、おそらくこの扁桃体の活性まで引き出せている人は非常に少ないと思われます。

ですから、頭の中で何回もポジティブなことを考えているが、ポジティブな「情動」が出てない状況。稲盛さんの本などを読んでいても、「自分のイメージを、カラーで見えるまでイメージしなさい」と言っていたりする。それは、エピソード記憶を、かなり具体的に細かくイメージすることによって、自分が本当にワクワクするような感情記憶を引き起こせるような状態に持っていくということなのだろうな、と思います。

「ポジティブな情動」を味わう

そこまでイメージできてエピソード記憶を引き出せない限り、ポジティブな情動を引き起こす、いわゆる「ポジティブ思考」の本来の目的は達成できないだろうと考えられるわけです。

これは、先ほどの「use it or lose it」なんです。その回路をしっかり形成することに意識的に取り組むことで、「海馬から扁桃体に結びつく回路の形成が起こり得る」ということが分かってきている。ここは訓練です。最初からポジティブに考えてポジティブになれる人となれない人がいるのは、当然なのです。

ですから、ポジティブなことがあった時に、「ポジティブな情動を味わう」ということがとても重要だと言えます。マインドフルネスでもありますよね。例えばレーズンを食べるときに、味わう。その中で「すごくおいしいな!」と、その瞬間本当に感じることができていると、そのような脳内ホルモンが出ているのです。

そういう瞬間を人生の中でたくさん増やせたら、その人はハッピーになれますよね。僕も朝日を見たら「うわー、今日は天気がいい! 気持ちいいなー!」とやっています。馬鹿みたいですが、そうした一瞬一瞬が、自分のポジティブな情動を引き起こし、体内におけるポジティブな状態を作っていると思っています。

もう1つは、本当は深い話なのですが、簡単に言うと、「ネガティブな感情からポジティブな感情に書き換える」ということ。これは「感情の書き換えの原理」と言いますが、科学されているのです。

トラウマの治療法

日本の理研さんが発見した、「細胞・分子レベルで、どういった原理で感情が書き換わるのか」という話に詳しく書かれています。「理研 感情書き換え」と検索すると、マウスレベルですが細かい説明が見られるので、興味ある方はご覧になってください(笑)。

(会場笑)

本当は話をしたいのですが、ちょっと時間が無いので割愛させていただきます。ただ1つ、キーポイントがあります。「同時性」です。そのエピソードが浮かんでネガティブな情動が出ている時に、「いかにポジティブな情動を挟み込むのか」というのがキーになってくる。

これはけっこう、トラウマ治療でも使われているのです。クモが苦手という患者さんがいたとします。そこに「クモがいる」と思っただけでビクビクしてしまう。このとき、ただ単にカウンセラーを部屋に呼んで、「もう大丈夫だよ、ぜんぜん怖いことはないよ」と言っても聞かないのです。ところが、ここからあの距離にいるっていう、そこを再現することが1つのキーになります。

再現をし、ネガティブな情動を実際に引き出す。その上で、クモに関するポジティブな要素を埋めていくというわけです。それを次の日にまたやる。これも簡単には書き換わらないです。何回も何回も同じことをやって行く。すると、クモとの距離が3mぐらいに近づくと「もう無理」という状態になります。そんなときに例えば、自分がよく知っている子どもがクモと遊んでいたりすると、ネガティブな情動がいっぱい出ているのに、「あのかわいい子がクモと遊んでいる」と感じる。そんなことを繰り返していくと、感情がポジティブな方に書き換わっていって、トラウマとしてもなくなっていく、根治していく。

『宇宙兄弟』で描かれている米国とロシアの違い

漫画の『宇宙兄弟』の中でも、実は同じようなことをやっているのです。漫画のなかで、日々人という宇宙飛行士が宇宙に行ったときに、穴に落ちてしまうという経験をした。トラウマです。帰ってきてから、ネガティブな情動がいっぱい出てしまって、これはもう宇宙飛行士としてダメだ、と。

おもしろいのは、アメリカは事故が起こった後に、(日々人を)宇宙船に戻したのです。そして外に出さなかった。外に出さないことで、ネガティブな情動を引き起こさせないという手段を取ったのです。

ところが、ロシアでは違うらしいのです。「ロシアだったら、船外に出して『宇宙って楽しいなー』という感情を味わわせ、しっかり感情を書き換えさせる」と言っていて、「おおすげえ、科学的な点で物事を言っているなぁ。でも誰がこれ理解するのだろう」と思いながら読んでいました(笑)。

「学習」はそもそもが失敗

こういうメカニズムがあるので、ネガティブな情動を引き起こして、「同時に」ポジティブな情動をいかにはさみこむかというのが重要になります。

(スライドを指して)また僕だけでは説得力がないので、松下幸之助さんの名言を引用しました(笑)。

「失敗したところでやめるから失敗になる」。学習はそもそもが失敗です。「成功するまで続けたら、それは成功になる」。学習とは、差分をどんどん埋めていくことなので、成功するまで続けたらそれは成功になる。分かってはいますができない人が多いです。

そして「失敗の原因」。差分を埋めるため、失敗の原因もしっかり直視し、「認識する」。「これは非常にいい体験だった」と思う。これはまさに書き換えですよね。ネガティブな情動は出ているのです。ただそれをいかにポジティブに解釈し直すか。ここももちろん、ポジティブな情動が引き起こされるところまで強く思い込むことができないといけない。「こういうところまで心をひらく人は、後日進歩し成長する人だ」とおっしゃっています。

今日僕のお話した内容をすべてまとめていただいた、素晴らしい言葉だと思うので(笑)。

(会場笑)

これで締めくくりたいと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

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