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青山剛氏 インタビュー(全1記事)

働くランナーが挫折してしまうのはなぜか? ランニングコーチが伝授する“デキる人”の走り方

「ブーム」と呼ばれる時期も過ぎ、もはやライフスタイルとして定着した感のあるランニング。しかし一方で、ランニングを始めたもののすぐにモチベーションを失ってしまう「燃え尽きランナー」も増えているといいます。せっかく始めたランニングに挫折しないためにはどうすればいいのでしょうか。プロフェッショナル・ランニングコーチとして数多くの市民ランナーを指導し、新刊『仕事ができる人の「走り方」』(日本実業出版社)を上梓した青山剛氏が、ランニングのを楽しむコツについて語りました(この記事は日本実業出版社のサイトから転載しました)。

ランニングの「目的」を考えてみる

──青山さんがランニング指導されている市民ランナーにはどんな職業の方が多いのでしょうか。また、年齢層は?

青山剛氏(以下、青山):僕は2005年から一般の市民ランナーを指導していますが、職業は経営者や医師、OLさんや会社員、タレント、モデルさんと実に多種多様です。また、プロランナーとして活躍中の永尾薫選手もチームの仲間です。彼女は初マラソンで2時間26分という好記録を出したエリートランナーですよ。

年齢層は、40代半ばの方が一番多いですね。男性でいうと厄年を超えたあたりです。

──ということは、やはり健康のために走り始める?

青山:この年頃はいわゆる「若さ」の衰えを感じ始めるときです。仕事をしていてもお酒を飲んでいても疲れやすくなったり、子どもと遊ぶのがつらくなったりする時期。それに、おなかの出かたがそろそろ笑い事じゃなくなる年でもある(笑)。そういうことに危機感をおぼえて始める人が多いですね。

もっと単純に、ランニングでカラダを引き締めて、男性だったら女性にモテたいとか他人から一目置かれたいとか、女性なら「いつもきれいですね」といわれたいとか、そういう動機の人もいますよね。

でもそれでいいと思うんです。モチベーションがなんでも、そのあとに正しい方向に進むことができればいい。それをお助けするのが、コーチとしての僕の仕事だと思ってます。

──正しい方向とは?

青山:ランニングイベントやセミナー、企業での講演などで教えたりしながら、常時40人ほどの方にマンツーマン指導を行なっているんですが、まずは皆さんに、走る「目的」をはっきり考え直してもらいます。

誤解する人が多いのですが、「フルマラソンを完走したい」「トライアスロンに挑戦したい」というのは「目標」であって「目的」ではありません。ランニングを続けることよって自分がどうなりたいか、何を得たいのか、というのが「目的」です。そのうえで短期、長期の目標を書いてもらって、それに応じた指導をします。

そうした前提を考えないで、とにかくガンガン走ってランニングにのめり込んでしまう人は、ケガや忙しさを理由にすぐにやめてしまう確率が高いですね。

ランニングは「嗜むもの」

──多くのランナーが続かずに挫折するのは、準備不足とのめり込み過ぎが理由ですか。

青山:「ランニング命!」になってしまう人がもっとも危険ですね。何かを犠牲にしてしまうと、続けることが難しくなります。

長く続けられる人は、無理のないプランで「ランニングを嗜む人」です。そんな人は例外なく仕事もできますね。できる人は、仕事のスケジュールも、アクシデントが起こっても対処できるように余裕をもって組みますよね。トレーニングの計画にも同じことが言えます。

──なるほど。それでは「働くランナー」たちが「ランニング命!」に陥らないように、アドバイスをお願いします。

(1)仕事や家庭を犠牲にしない

青山:まず伝えたいのは、「仕事や家庭を犠牲にしない」ということです。

仕事ができるランナーは、たとえばレースの当日に、どうしても自分が行かなければならない急な出張が入ったとしたら、たとえどんなに準備が万全で「自己ベスト更新間違いなし」だとしても、きっぱりと出場をあきらめます。そして出場できなかったことで悶々としない。

当日に子どもの具合が悪くなったとしても同じです。ランニングよりも家庭や子どものほうが大事ですから。無理やり出場して「サブフォー(フルマラソンを4時間以内で完走すること)」を達成したからといって、奥さんは喜びませんよね。子どもが元気で、夫の稼ぎが上がるほうがいいに決まってます(笑)。

(2)タイムに固執しない

──たしかに……。でもレベルが上がってくるとどうしても記録が気になってくるのではないでしょうか。

青山:2つめのアドバイスはまさにそこで、「サブフォー」や「サブスリー」に固執しないことです。

プロのランナーじゃないので、速いことが素晴らしいことじゃないんです。大事なのは、速く走ろうと遅く走ろうと、ランニングで何かを得て、人生を豊かにすることです。記録を追うことを否定はしませんが、先ほども言った「走る目的」にリンクしていないと意味がありません。

僕はよく、記録達成に向けて殺気立っている人にこう話します。「あなたがサブスリーやったって世の中は良くなりません。それを肝に銘じてやってください」って。「むしろあなたがサブスリーやると、会社や家庭が壊れたりする可能性があるから」とも。

──サブスリーはそれほど特別だということですか?

青山:いえ、逆です。メディアが助長している部分もあって、一般のランナーの方はサブスリーにあこがれすぎています。でも、マラソンの世界では特別な記録じゃない。何かを犠牲にしてまで追い求めるものではありませんよ。

ただし、新刊の『仕事ができる人の「走り方」』で紹介した、「サブスリーを達成することで自分に自信が持てた」という方や、「ウルトラマラソン(100km)を走りきることによって、普段いかに自分にリミッターをかけていたがわかった」という方のように、記録に対する目標が、「気づき」や内面の変化にリンクしているならまったく問題ない。本物だと思います。

(3)好きなものを我慢しない

──お酒や美味しいものはセーブしたほうがいいのでしょうか?

青山:「我慢しているうちは二流です」とも僕はよく言うんです。走っていると、自然とお酒の量は減ってきますよ。「カラダを良くする」ということの優先順位が上がりますから。「走っているからビールを我慢しよう」と言っているうちはダメです。

食事について聞かれることもありますが、「やせたいのなら夕食時に糖質を抜いてはどうですか」とアドバイスするくらいです。たしかに食事も大事ですが、気にしすぎないことです。鈍感もいけませんが過敏もいけません。

それに、仕事でも運動でも、ストイックに好きなことを我慢して、「おれ、がんばってる!」と自分で思っているうちはダメですね。必ず息切れして、続きません。

──ビジネスパーソンは会食やお酒の席が仕事、ということもありますよね。

青山:そうです。そういう機会を犠牲するべきではないと思います。

(4)「やけランニング」をしない

青山:お酒ということでいうと、「やけ酒」ってありますよね。仕事がうまくいかないときなんかに、上司とか会社の悪口や、いっこうに前に進まない会話をしながら悪酔いするという。「お酒に逃げる」というやつですが、最近「ランニングに逃げてくる」人が多いんです。「やけランニング」ですね。

──とにかくストレスを発散するために。わかるような気がします。

青山:ストレスを解消して、前向きな精神状態になることができればいいんです。酒の席でも、前向きな、いいお酒を飲むことだってできる。同じようにランニングも、正しく前向きに取り組めば得ることが多いのに、ただやみくもに、苦痛を感じながら走ろうとする人がいます。

つらくて、いずれケガが待っているだけですから、「やけランニング」はやめましょう。

(5)やめそうになってもゼロにはしない

──ケガをしなくても、仕事や子育て、親の介護などで時間が取れなくなったり、モチベーションが低下したりして走ることをやめたくなる人も多いと思います。そんなときはどうすればいいでしょうか。

青山:忙しい市民ランナーの皆さんはいつそうなってもおかしくないですね。そういうときには、ぜひ「ゼロにしない」でほしいんです。

飛行機は、着陸してしまうと次に離陸するときに相当なエネルギーが必要です。ランニングも、いったん完全にやめてしまうとなかなか再開できません。着陸せずに低空飛行を続ければいいんですが、真面目な人ほど完全に降りちゃうんですよ。中途半端なことはしたくない、ということで。

──少しずつでいいから続けるということですか?

青山:走るのがキツイ、と感じたら、ウォーキングで十分です。時間がとれないのなら、今回の本で紹介しているようなストレッチや体幹スイッチエクササイズを、短い時間でストレスを感じない程度に続ける。それだけでも全然違いますよ。

僕が長く個人指導している方の中には、「44歳運動経験なし」のまったくのゼロから始めて4年でサブスリーを達成した人や、71歳でトライアスロンにデビューした人もいます。彼らは決して、ハードなメニューをこなしたわけではありません。仕事や家庭を優先したうえでプランを組んで、無理なく前向きに取り組んだ結果です。普通の市民ランナーに比べても、練習で実際に走っている距離は少ないでしょう。

──なるほど。市民ランナーにとって、「ランニング命!」は百害あって一利なし、ということがわかりました。

青山:「上手なランニングの嗜み方」を知っていれば長く続けることができるし、そういう人は例外なく、仕事も家庭も大切にしています。どうか夢中になり過ぎず、楽しくランニングしてほしいと思います。

──ありがとうございました!

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