人事領域の専門家の株式会社壺中天 代表取締役の坪谷邦生氏と採用市場研究所 所長の秋山紘樹氏が、毎回ゲストを迎えてトークセッションを行う「採用入門」シリーズ。今回は、株式会社リクルートマネジメントソリューションズ主任研究員の内藤淳氏に、適性検査の選び方を聞きました。後編は、適性検査を使う際の落とし穴や、結果を本人に共有すべきかといったリアルな疑問に答えます。
適性検査と面接をうまく併用するコツ
坪谷邦生氏(以下、坪谷):ここまでは、適性検査の選び方について教えていただきました。続いて、採用担当者が適性検査を使っていく時の注意点を教えていただけますか?
内藤淳氏(以下、内藤):どんな検査も信頼性が1になることはありませんし、受検者の能力や適性を100パーセント完璧に捉えることはできません。また、たまたま受検の際の体調が悪かったという可能性もあり、受けるたびに得点は多少なりとも変動します。確かに検査結果は、受検者の能力や適性を捉えるための重要な手がかりになりますが、その一方でそれが絶対的に正しいものではないことを理解しておく必要があります。
例えば、採用選考の中で適性検査と面接評価を併用する場合、適性検査の結果も完全に正しいわけではありませんし、面接評価もまたその場のやりとりでは見抜けないことも多く、100パーセントは信頼できません。
どちらも不確かなところがあるからこそ、両方を組み合わせて用いることに意味があり、両者を勘案することによってより精度の高い判断が可能になる。そういう使い方をしていただけるとよいと思います。
適性検査と面接、どちらを先に実施すべき?
坪谷:面接時には、質問の手がかりとして適性検査を参考にすることもあると思うのですが、初学者の方がどう使うと総合的に考えられるようになるでしょうか?
内藤:一般的には2つのやり方があると言われています。1つは、面接の前に適性検査の結果を見るという使い方です。検査結果から「こんな人なのかな」というイメージが湧きますよね。それを1つの材料として、面接の場で掘り下げる質問をしていく。
例えば「私はすごく論理的に物事を考える人間なんです」と本人は言っているけれども、検査結果を見るとあまりロジカルではなく、感性的にものを考えるタイプであることを示していたとします。
この場合、どちらが正しいかを確認するために、「先ほどご自身のことをロジカルだとおっしゃっていましたけど、こういう時あなたはどうされますか?」と質問してみる。適性検査の結果があるからこそ、このような掘り下げ質問を投げかけることができ、それによってより正確な情報が引き出せるというメリットがあります。
一方で、事前に検査結果を見るということは「この人はきっとこんな人なのだろう」という先入観を形作ることにもつながります。予断を挟まずにフラットに応募者のことを判断したいという考え方もありますので、適性検査のもう1つの使い方として、事前には検査結果を見ないで面接を行うというやり方があります。
この場合には、面接後に適性検査の結果を見て面接の際の印象と突き合わせることで、面接の場では気づかなかった受検者の一面も勘案しながら総合的に判断を行うことになります。
2つの方法にはそれぞれ一長一短があり、どちらが正しいということはありませんが、ご自身に合うほうを選んで使ってもらうとよいと思います。
坪谷:確かに総合的に勘案することを思うと、前でも後でも、面接と適性検査のどちらのことも考えて結果を決めるということではありますよね。
面接と適性検査で評価が割れたらどうするか
秋山紘樹氏(以下、秋山):具体的な例を挙げさせていただきたいのですが、選考フローの中で、最終面接前に適性検査をする会社があるとするじゃないですか。そこで、二次面接までの評価が非常に高く、面接官からの評価も良好だった応募者が、適性検査で「組織への適応が難しい」という結果が出た場合の取り扱い方ってすごく難しいな……と。
今のお話をうかがっていると、適性検査は評価の一つの要素として捉えるべきだという考え方は理解できます。ただ、実際の採用判断となると、感情的にも迷ってしまうところがあって(笑)。どこまでその情報を含めて答えを出せばいいのかが、正直なかなか難しいところだとは感じています。
実際はどういうふうに判断するのがいいんだろうなと、ちょっとモヤモヤしていたのでコメントさせていただきました。
内藤:そうですよね。適性検査の結果にどれぐらいのウエイトを持たせるかは、会社ごとの判断によって異なります。
適性検査の結果のほうを重視して、「この応募者はちょっとうちには合わない」と判断する会社もありますし、面接評価のほうを重視し、検査結果については迷った際の参考情報として用いるだけというケースもあります。適性検査の結果をどの程度重視するかに正解はなく、各社で決めていくことになるんですよね。
坪谷:そこには、ある種の会社のポリシーみたいなものが必要ですね。
内藤:そうですね。「検査結果も面接評価もどちらも確実な情報ではない」という前提に立ち、両者を勘案して決めていくのが大原則ですが、企業ごとに採用活動のために投入できるマンパワーや面接官の数に制約があるなど現実的な問題もあるので、そういうものも考慮に入れながら決めていくことになると思います。
「面接の精度」は現場が思うほど高くはない
坪谷:確かに、適性検査と面接のどちらかだけだと明らかに足りないところを、どちらも実施する上で「どちらの比重がどのぐらい」ということを考えることが大事ですね。
内藤:面接官は「自分の目は確かだ」と思っている人がけっこう多いんですけどね(笑)。
秋山:(笑)。
坪谷:わかります(笑)。
内藤:面接に関する研究は国内外に多数ありますが、調べてみると面接の精度は現場の人たちが考えているほど高いものではありません。ですので、面接を信じすぎないということも、人事として非常に大事な知識になると思いますね。
坪谷:そこに疑いを持つためにも、しっかり検査の結果「も」見て。
内藤:まさにそうですね。
適性検査の結果を本人に渡すかどうか
坪谷:両方が必要なんだということが、今のお話から非常にしっくりきました。次の質問は、適性検査を「採用で使う」ところからは少し離れますが、適性検査の「結果をどこまで開示するべきか」は人事をしている時にけっこう判断に困ったことがありまして。
やはり自己理解にもすごく役立つと思うので、本人にSPIシリーズなどの適性検査の結果を渡したいと思うのですが、問題ないでしょうか。
内藤:適性検査の結果は、自分自身の特徴や強み・弱みを把握する上で、受検者本人にとっても非常にメリットのある情報となり得るものです。ですので、基本的に本人に返していくというのは推奨されることだと思います。
ただし一方で、「良い・悪い」と受け取られてしまう内容のものは返却しにくい面があります。例えば、能力検査の結果については、その性質上能力が低いほうが良いということはまずありませんので、能力検査の得点を本人に返すのは難しい面があります。
これに対して、性格検査の結果の場合は、一般に「良い・悪い」という解釈にはつながりにくいため、本人の自己理解のために返却されるケースがより多く見られます。
坪谷:確かに、自己理解に役立てるという目的に照らすと、性格部分は推奨できる。一方で能力部分は良い悪いで捉えすぎてしまって、お互いにネガティブな印象を持ってしまうといった悪いことも起きうる。能力は難しいという感じですね。
内藤:そうですね。能力検査については「得点が低い時に結果をどう活かすか」という説明が難しいため、本人へのフィードバックにはあまり適してないと思います。他方、性格検査については、どのような結果であったとしても「自分の特徴は強みとして発揮されることもあれば弱みとして表れることもある。その両面を理解することで自らの行動を変えていく」という活用の仕方が、本人にとってもイメージしやすいです。
配属先のマネージャーや先輩への開示は本人の同意が必要
坪谷:ありがとうございます。次に、配属先のマネージャーや先輩に「今度こういう人が来るからよく知っておいてね」と適性検査の結果を渡すのはどうでしょうか。
内藤:検査結果の開示範囲に関しては、個人情報保護の観点から情報管理のハードルが高まっている環境があります。人事担当者や直属上司がメンバーの検査結果を人事管理やメンバーマネジメントの目的で活用するケースは多く見られますが、職場の同僚に開示するためには、事前に本人の同意を得ることが必要になってきます。このため、同僚に対する開示については手続き上のハードルが高いと言えますね。
坪谷:効果的かどうかというよりは、プライバシーの問題やルール上開示していい情報なのかどうかというところで、そもそも難しいという感じですかね。
内藤:そうですね。昔は、検査結果の一部を利用した「ゲス・フー(Guess Who:誰でしょう)・ゲーム」というものが企業でよく実施されていました。
適性検査には「この人はこんな人です」というコメントが表示されるものが多いですよね。そのコメント部分だけを誰のものか名前がわからないようにした上で配布し、グループのメンバー全員で討議しながら「どれが誰のコメントかを当てる」というゲームです。
ただし現在では、「検査結果のコメント部分を共有して行うグループセッションを実施したいと思いますが、情報の開示について了解いただけますか」という形で、事前に本人の許諾を取得しておく必要があり、実施するのがなかなか難しくなってきています。
適性検査の結果の開示のリスクは「決めつけ」
坪谷:逆に本当にやりたいなら、ルールをしっかり守り、本人の同意をしっかり取った上であれば可能ではあるのですね。例えば、周囲の人が性格適性を見ることで、職場に馴染みやすくなったり、仕事を進めやすくなったりするという効果はどのくらいあるのでしょうか。
内藤:最近、人の性格を16タイプに分類する検査が若い人たちの間で広まっていますが、それぞれのタイプに良い・悪いがあるわけではありませんよね。こうした情報は有益で、各人が自分のタイプを開示・共有することができれば、人と人の相互理解やコミュニケーション上でプラスに働きます。
もしみんなが自分に関する情報を開示してもよいという前提が成り立っているのであれば、性格検査を職場などで共有していくメリットはあると思いますね。ただ、その前提の確立が難しい環境にあります。
坪谷:確かに。でも、例えば「活躍するのはこういう人だ」ということを現場マネージャーなども知っている中で、「今度来るのはこういう人だよ」とわかっていると、きっと「ここは苦労するかもな」「ここを伸ばしてあげたら、より活躍しやすいかな」と考えやすくなりますよね。
さっきのお話と一緒で、決めつけになってしまうと逆効果にもなりそうなので、マネージャーの熟練度によっても判断が変わりそうです。
内藤:そうですね。メンバーの検査結果を上司に対してどの範囲まで開示するかは、各企業でも悩む点ではあります。上司に適性検査のことをよく理解してもらい、決めつけるような使い方は決して行わないとしっかり伝えた上で活用すれば、とても有意義な情報になると思います。
坪谷:一番まずいのは決めつけですね。
内藤:そう思います。適性検査の結果だけが急に送られてくると、上司もそれが何かを深く理解できず、「このメンバーはこういう人物なんだ」という目で見てしまう懸念があります。
検査結果が決して完全なものではなく、その精度には限界があることについてもきちんと理解した上で活用してもらう必要があるのですが、しっかりと勉強している人事の方々とは異なり、検査について詳しく説明を受けていない現場の上司にいきなり結果を開示することには一定のリスクが伴うと思いますね。
キャリアを考える上で「適性」は1つの参考に過ぎない
坪谷:なるほど。なりたての人事担当者だとしたら、たぶんこの決めつけのリスクというのも、初めはぼんやりしかわからないと思うんです。そういう時に、どのあたりを知っておいたらいいでしょうか? おすすめの本や学ぶべきことを教えていただけるとうれしいです。
内藤:心理検査の基礎について学んでおくことで、「結果は100パーセント信頼できるものじゃないんだな」ということを理解しやすくなると思います。
坪谷:大沢武志さんたちの書かれた『人事アセスメントハンドブック』という、分厚い本があるじゃないですか(笑)。人事界隈の人に「こういうのは、さすがにみんな読まないと思うけどね」というトーンで紹介したら、意外と多くの人が「古書で買いました」と連絡をくれて。みんな知りたいんだなと思ったんですよ。
内藤:(笑)。重たい本でかなり専門的な内容になりますけれども、あの本はすごく良いと思います。先ほどお話しした信頼性、妥当性、標準性についても詳しく説明されています。市販はされていませんが、中古では流通していますね。
坪谷:2万円ぐらいしてしまうんですけど(笑)。最近出た本とか、もう少しライトな本でもしあれば。
内藤:これも少し古いのですが、大沢武志さんの『採用と人事測定』(朝日出版社、1989年)、二村英幸さんの『人事アセスメント入門』(日本経済新聞出版、2001年)という本が入門書としてお勧めです。
また、少し自分の宣伝になってしまいますが(笑)、最近立教大学の小口孝司先生との共著で出した『キャリア形成に活かす心理学』(誠信書房 、2024)という本が、適性検査も含めた心理学の活かし方を理解する上で参考にしていただけるかもしれません。
大学生向けの入門書なんですが、キャリアを考える上で適性は1つの参考として捉えるべきであること、「自分はこれに向いている。だったらこの仕事だ」というふうに考えてしまう人も多いけれど、そう単純なものではないという話を書いています。
坪谷:みなさん直結で捉えてしまって混乱することは多いですよね。
「プレッシャーへの耐力」が低い人はプロジェクトマネジメント向き?
秋山:先ほど、適性検査で出てきた回答をそのまま受け取ってしまうという話があったと思うんですが、私の経験で印象的なことがあったんです。私が受けた適性検査で「プレッシャーへの耐力」という能力特性が10段階の中で2とか3という低い結果が出たんです。
正直、その結果を見たとき、「自分はこんなにもプレッシャーに弱いのかな」って少し気持ちが沈みました (笑)。自分の弱さを数値で見せつけられて、ちょっと落ち込んでしまったんですよね。
でも、ある時適性検査の専門家の方から興味深い話を聞いたんです。「そういう見方もできますが、実はこういう特徴がある人って、プロジェクトマネジメント力が高い傾向があるんですよ」って。
繊細だからこそ、人への思いやりがあったり、問題が起きそうなポイントを事前に見つけられる慎重さがあったりするんだそうです。この話を聞いて、数値の表面的な解釈だけじゃなくて、その背景まで考えるとぜんぜん違う見方ができるんだなってけっこう衝撃を受けた経験がありました。
内藤:そうですね。「どんな仕事にも向いている人」というのは世の中にはおらず、誰もが「この仕事には向いているけど、この仕事には向いていない」という面を持っている。性格的な適性というのは、そういう見方をしたほうが良いと思います。
また、一見すると弱みと思われる特徴も、見方を変えたり活用の仕方を変えたりすると強みになったりする。「これだから良い」ということでもない面がありますね。
坪谷:私が昔見た調査結果でも、介護や看護をする方は、ホスピタリティが求められるので、秋山さんのようにストレス耐性が低く見られがちな人のほうが活躍されるというデータを見たことがあります。
内藤:それはあると思います。「うちの仕事は本当にタフさが必要で」という会社であれば、その部分をちゃんと見極めていくのはもちろん妥当なのですが、求められる特徴や能力というのはやはり仕事との関係性によって決まってきます。
適性検査の結果の正しい開示方法とは
坪谷:同じ営業でも、自分で個人に保険を提案する営業の方と、複数の若手メンバーをマネジメントする営業の方だとまったく違うタイプの人が活躍するとか、いろんなケースがありますよね。
内藤:(笑)。活躍する人がぜんぜん違いそうですよね。
秋山:適性検査の結果を現場の方々に共有した時に、「この結果を見ると、この人はプレッシャーに弱そうだから、厳しい仕事は任せられないですね」と言われると、採用担当者も適性検査の結果の深い意味や、その特性が持つ別の可能性について知識がないと、「確かに……そのとおりですね」と表面的な解釈で終わってしまいがちです。
でも実は、その特性には別の積極的な意味もあるわけで、それを知らないまま判断してしまうのは、その人の持つ可能性を見逃してしまうことになりますし、組織の成長の機会も失うことになり、とてももったいないなと感じました。
内藤:そうなんですよ。検査結果を本人に返却したり、誰かと共有したりする時は本当に気をつけないといけませんね。難度が高いです。
坪谷:正しい受け止め方を学んで知らなきゃいけない。それをわかった上で、例えば現場のマネージャーから、「適性検査の結果をみんなに配るからちょうだい」と言われた時に、その難しさや受けとめ方を人事が説明する必要がありますものね。
内藤:適性検査とひと言で言っても、その内容や構成によって、結果が「良い・悪い」という形では受け取られにくく安心して返却できる検査もあれば、「決めつけ」で誤用されてしまうリスクがある検査もあります。
適性検査を選ぶ際には、採用選考の判断材料として使えるかという観点だけではなく、採用後に本人あるいは上司に返すことができる専用の報告書が別途用意されているかという観点も大切になります。
坪谷:「良い・悪い」ではなく、捉えようによって強みにも転じられるものは、本人の同意をしっかり得たうえであれば、みんなに共有する意義や使い勝手もあると。さらにフィードバック用の出力フォーマットがある検査を使っていると、共有もしやすくなるということですね。非常に勉強になりました。
秋山:ありがとうございました。
内藤:ありがとうございました。