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エイジ・ダイバーシティ―世代間ギャップを越えるマネジメント論―(全3記事)

「オリンピックで金メダルゼロ」の日本柔道界を変えるには 井上康生氏が取り組んだ「人」ではなく「こと」を見る改革

Unipos株式会社が主催する「Unipos Summit 2023~日本企業・組織の空気を変えろ~」より、「エイジ・ダイバーシティ―世代間ギャップを越えるマネジメント論―」のセッションをお届けします。ジャーナリストの浜田敬子氏をモデレーターに、全日本柔道連盟・井上康生氏、Zアカデミア学長・伊藤羊一氏、食べチョク秋元里奈氏が登壇。「世代間ギャップ」の乗り越え方について議論が交わされました。

今まで積み重ねてきた成功体験を捨てる

浜田敬子氏(以下、浜田):みなさんがそれぞれのカルチャーや経験を持っていますが、昔は「年配者が持っている経験」が価値だったわけですよね。だけど、今のように変化が早い時代には、かつての成功体験が邪魔になることもあると言われます。

だからよく、年を重ねるとアンラーンが必要だと言われます。つまり今まで積み重ねてきた成功体験を捨てることが必要だと言われてますが、羊一さんは自分でアンラーンを心がけをしていらっしゃいますか?

伊藤羊一氏(以下、伊藤):めちゃめちゃあります。さっき冗談っぽく「Tシャツ」って言いましたけど、毎日Tシャツを着てると、自分の年齢とか忘れるんですよね。

浜田:ふーん。私もTシャツにしようかな(笑)。

伊藤:そうそう。たぶん康生さんもTシャツを着ると、急に20代みたいになりますよ。僕は今、55歳なんですけどね。

浜田:形から入っても大丈夫。

伊藤:形から入ります。あとは「言葉」ですよね。今、大学1年生と一緒に住んでるんですが、「先生として、俺は君たちにこういうふうに……」「諸君」とかは絶対に言わないですよ。「羊一さんと呼べ」とは言わないんですけど、みんな「羊一さん」って言うし、そういう空気を作るのはめちゃめちゃ大事。

浜田:言葉遣いは大きいですね。

伊藤:しゃべる時も、「指導モード」とかはまったくないですよね。「どうなの?」って聞く感じで、実は形から入ることはすごく大事な感じがします。

上の世代にも下の世代にも「根拠」をどう示していくか

伊藤:あと、これは井上康生さんもおっしゃってますけど、「自分が優秀である」と思ったらダメなんだけど、自分1人じゃ何もできない。社長なんかはまったくそう思われてると思うんだけど、そんな感じがしますよね。

浜田:そうですね。前職が『Business Insider Japan』という、読者がミレニアル世代とZ世代だったので、私が一番読者から遠かったんですよ。そうすると、私たちの編集部の中で一番ミレニアル世代の人たちの意見を聞かないと、読者のことがわからない。なので「これどう思う?」とすぐに聞くと、やはりぜんぜん違うんですね。

おもしろいと思うこととか、タイトルの付け方とか、写真をどういうふうに撮るかも、若い世代に学ばなきゃいけないなと思いました。そういうふうに「聞く」ことは、すごく大事かなと思ってます。

伊藤:スポーツの世界でも明確にあるのが、僕でもわかります。昔はみんな、部活動で水を飲むのが禁止だったじゃないですか。ところが今は「絶対に水を飲め」って話になっていて、変わってることはいっぱいある。それって、シニアの人も受け入れていくものなんですか?

井上康生氏(以下、井上):そうですね。科学的な根拠を示した上で伝えていけば、理解していただける部分は出てきているんじゃないかなとは思います。じゃあ、なんで水を飲む行為がいいのかを、上の世代の方々にも説得していく。また、下の世代にも説得していくためにも、根拠をどう示していくかはすごく大事なポイントです。

ただ単に「体に悪いから」「成長しないから」「ケガをするから」だけでは通じない部分があるので、そこをどうマネジメントしていくはすごく大事なポイントかなと思いますね。

伊藤:なるほどですね。

人の意識を変えるには、トップが何度も言い続けること

浜田:ありがとうございます。じゃあ、そろそろ2番目のテーマに移りたいと思います。2番目は、エイジ・ダイバーシティを組織の力にするためには、どういった仕組みを作っていけばいいのか。

人の意識を変えることって非常に難しいと思っているので、何らかの仕掛けや仕組み、習慣づけが必要なのかなと思っています。

事例をご紹介すると、富士通が先日、入社2年目の女性が管理職になったんですね。先ほど羊一さんがおっしゃっていた、まさに「機能」としての管理職です。

つまり、年を取ったから偉いとか、経験があるから偉い、仕事ができるというのではなくて、その職に適した能力のある人を管理職にしていくことで、世代間ギャップを超えることに挑戦しているのかなと思っています。

浜田:ここは秋元さんからうかがいたいんですが、先ほど「ディー・エヌ・エーにはカルチャーがある」とおっしゃいました。そのカルチャーが根付くための、何らかの仕組みはあったんですか?

秋元里奈氏(以下、秋元):私が入った時はすでに(組織が)大きかったので、その瞬間にいたわけではないんですが、自分の組織を作っていく中でゼロから作る難しさをすごく感じていて。なので当時、ディー・エヌ・エーに昔からいた人とかにいろいろ話を聞いたんですね。

やはりトップが言い続けることはすごく大事で、本当に何回も何回も同じことを言い続ける。それこそ、「肩書きはあくまで役割だ」って1回言っただけだと、そうではない環境で育ってる人たちばっかりなので、なかなかすぐには浸透しないんです。

毎日のように言い続けていたり、それこそ評価制度に紐付いていて、実際に組織として体現されているとじわじわ認知されてくるというのが、まずは1つですね。

あと、うちの会社で今すごく意識しているのは、そうは言っても役職がついてる人の振る舞いがすごく大事かなと思っています。例えば「誰が言ったかではなく、何を言ったかが評価されるよ」とうちの会社で言ったとしても、私に意見するのってやはり怖いんですよね。

浜田:そうですよね。

秋元:もちろんガンガン意見くれる子もいて、それはすごくありがたいんですが、肩書きがついてしまうとどうしても言いづらかったり、そもそもバイアスが存在してしまう。

まずは、人によって個人差があるということを理解した上で、年代間のギャップ以上に個人間の差が大きいので、年代で括らずに個と向き合っていく。

1on1の時にはコーチング的なアプローチというか、「どういうバイアスがこの人の成長を阻害しているか」を、ちゃんと引き出してあげる。すごく細かい話なんですけど、そこが最終的には大事になってくるかなと思ってやってますね。

「ロンドンオリンピックで金メダルゼロ」の柔道界を変える

浜田:ありがとうございます。井上さん、「柔道界では先人たちを敬うけれども、現場の練習は今の時代に合わせて変えていっている」と、お話しされていました。

それまでの指導者が比較的伝統的なやり方をやっていて、井上さんのもとに来たら科学的なトレーニングになった時に、戸惑ってしまうこともあるかと思います。どういうふうにみなさんに伝え、変革に馴染んでもらっていたんですか?

井上:いきなり変えていくか、もしくは徐々に段階的に変えていくかは、シチュエーション次第で変わってくるのかなとはとても感じました。

例えば私が代表監督になった時は、「ロンドンオリンピックで金メダルゼロ」という結果のあとだったので、一気に変えていかなきゃいけないということで踏み込みました。

組織を作る中でも、これまでは「オリンピックで優勝しました」「世界選手権で優勝しました」という著名な方々が全日本のコーチを仕切っていた。先ほどの話じゃないですけど、そこから役割に応じた方々を配置してかたち作りしていきました。

しかしながら、「あのコーチで大丈夫か?」「誰だ?」みたいに言われてたんですが、私が9年間代表監督を務めていく中では、実はその方が(コーチになった時が)これまでで一番成績を収めるようになったこともあった。

その他でも、日本柔道界の現状を見た時に、「海外との戦いにおいてフィジカル面が弱い」ということが露呈された。じゃあ、そこをどうするか。これまでは柔道界の中だけで対応してたんですが、フィジカル面のコーチとしてボディビルダーの方に入ってもらって、フィジカルの改革を行っていた。

そこでもまた(反対の)声が出るんです。「(柔道は)ボディビルの試合じゃないんだ」「筋肉をつければ勝てるのか」と言われていたんですが、「そうじゃない。こういう根拠のもとに入れてるんです」という話をしていきながら(改革を行っていきました)。たぶん、それでもまだフィフティーフィフティーだと思います。

じゃあ次に何が大事かと言ったら、「結果」しかなかったです。最大限の努力をしていきながら、結果を出していく。そこでまた大事になってきたのが、「なんでこの結果が生まれたか」をちゃんとかたち作りして、また話をしていくこと。

時間がかかるかもしれないですけど、そういうところを丁寧に一つひとつ積み上げていった部分はありました。

改革できたのは、日本柔道界が破れたところだったから

浜田:まさに先ほど秋元さんがおっしゃった、「人」じゃなくて「こと」(を見るということ)ですよね。それまでの名声や実績じゃなく、目標は何か、一番適している人は誰か。井上さんが代表監督になった時は比較的若かったですよね。その改革、よくできましたね。

井上:先ほども言ったように、日本柔道界が破れたところだったので、正直変えられやすい部分もあったと思います。

浜田:(日本柔道界の)危機だと。

井上:ですからそういう部分では、私自身は幸運な監督の1人だったんじゃないかなとは思います。しかしながら、これまでは伝統的なかたちが根付いてたので、そこを変えていく作業のためにいろんなことを考えて、いろんな方々と力を合わせて進めていったところはありました。

浜田:何が必要なのか、どんな人材が必要なのかで人を集められた。いろんな分野の方が入って、結果的にすごくダイバーシティな組織になっていったということですよね。

井上:そうですね。「目的はここだ」というところを定めていきながら、手段は本当にいろいろあっていいかなと、私自身は思いました。

組織力においても強化の方策においてもそうですが、多角的な視野を持った上で取り組んでいけるようなシステムを考える。これは何度も言うように、自分自身の力だけではなくて、周りのスタッフやコーチ、時には選手やそれ以外の関係者の方々とともに一緒に取り組めたからこそのかたちではないかなと思ってます。

昇格も降格もある、ヤフーの評価

浜田:羊一さん。組織を変える時のやり方、おもしろいですね。

伊藤:今、頭がプツプツ動いてます。つまり、伝統がしっかりしていて未来永劫強かったら結果出るから、逆に変えるは必要ない。

浜田:変える必要はないですよね。

伊藤:変わらないし、変える必要もない。でも、日本柔道が破れた時に監督になられたから、変えやすいし変えなきゃいけなかった。しかもそれって正解がないわけですよね。だって、今までのとおりではやれないから。

一方で、インターネットの世界やヤフーなんかもそうなんですけど、そもそもエイジ・ダイバーシティってめちゃめちゃあるじゃないですか。というか、別に「年上だからやる」とかないじゃないですか。これって、たぶん正解がないからなんですよ。

浜田:ヤフーもそうですか?

伊藤:そうですね、バラバラです。年功序列とかありえないですよね。正解がない中でやるには、ダイバーシティに頼らざるを得ないよねっていうのは、第一としてある。じゃあそれをどうやってやるの? といった時に、これは食べチョクやディー・エヌ・エーのご経験でどうかを聞きたいです。

評価も「こと」に向かってるかどうかは、ヤフーもそうなんですよね。昇格も降格も普通にある。おそらく一般の大企業からすると、あまり降格ってないと思うんですよ。

浜田:降格がない組織は多いかもしれません。

伊藤:(ヤフーでは)昇降格が普通にあるわけです。降格しても「今回は成果を出せなかったから降格だね。でも、次がんばろうよ」ということができてさえいれば、「まあしょうがないですね」ってがんばれるわけです。昇降格をわりと柔軟にするのは、めちゃめちゃ大事なことです。

仕組みを作るとともに重要なのは、対話や説明

浜田:年代を崩していくためには、上がる一方のキャリアじゃなくて、昇り降りできるよく「ジャングルジム型キャリア」が必要だと言われます。つまり、降格は人間的に全否定されたわけではない。

伊藤:ぜんぜん(否定しているわけじゃない)ですよ。

浜田:スポーツも代表落ちすることもある。でも、それで人生が終わるわけじゃないし。それでも日本企業は、特にこれまで男性にとっては「上がること」「出世」が命みたいな文化です。

伊藤:そうなんですよね。例えばちょっと調子が悪いとか、「介護があるから仕事に集中できない」というのもあるわけですよ。

浜田:ありますよね。

伊藤:こういう中で降格せざるを得ない時もあるし、「燃えます」という時もある。変えなきゃいけない時に、例えば(柔道の)練習でボディビルダーを入れるとか、こういうことを施策としてやる。

次に仕組みを作るとともに、どれだけ説明責任(が果たせるか)であったり、「私はあなたにこれをリクエストします」という対話や説明がめちゃめちゃ必要なんだなと(話が)つながりますよね。

浜田:特に、降りなきゃいけない人に対してですよね。

伊藤:(そこで必要なのが)たぶん、1on1なりなんなりのコミュニケーション。今、1on1って別に流行りでもなんでもなくて、必要だからやるんだと思うんですが、正解がないからこそいろいろ試さなきゃいけない。だから、ちゃんと説明する。こういうことなんだよなって思いましたね。

みんなが「こと」に向えるため、「人に向かう」ことの意義

浜田:一方で若い世代に対してなんですが、秋元さんのところは、秋元さんより年下の方もいらっしゃいますよね。秋元さんより比較的若い世代の方たちって、そこでも意識の差はありますか?

もっと言えば、創業メンバーとそうじゃない人・中途の人だと意識差もあったりすると思うんですけど、それぞれ会社に何を望んでいるのかってみんな違いますよね。

秋元:そうですね。

浜田:そこは、どういうふうに擦り合わせをしていらっしゃるんですか?

秋元:前職の時は「ことに向かう」が正しいと思っていたんですけど、最近は「こと」に向かうために、一瞬「人に向かう」時も必要だなって思っています。みんなが「こと」に向えるために、メンバーの一人ひとりの「個」にしっかり向き合うという意味での「人に向かう」です。

うちの会社はいわゆるスタートアップなので、ある意味、そもそも成長意欲の高い人が集まっているという前提ですが、それでもやはり個人差があったり、大切にしたい価値観は少しずつ違ったりするんですよね。それこそ、どれくらい家族に比重を置くかとか。

浜田:ライフとワークのバランスとかも違いますよね。

秋元;そうですね。そういう価値観の違いが、日々の仕事のちょっとしたズレに出てくるんです。事象として見えるのは仕事のズレだったりするので、「価値観の違い」が答えであるということに、たどり着くことがなかったりもたまにするんですよね。

なので、何か起きた時には個人に向き合う。どうして(本人が)そう思ってしまったのかも含めて、コーチング的なアプローチ。本人がまだ気づいていないバイアスがあったか、本人がまだ言語化できてないけど大切にしている価値観を一緒に言語化していくプロセスを、意識してやるようにしています。

正解が決められないからこそ解釈の余地を残す

秋元:羊一さんにもうかがいたいなと思ったんですけど、それこそダイバーシティが重要な一方で、一定は企業のカラーみたいなのがあると思っていて。さっき「中途半端だと若者が辞めちゃう」という話があったと思います。

例えばうちの会社だと、そもそも企業を成長していかなきゃいけないので、会社として成長人材が必要なんです。そうじゃなくて、例えばインフラ的なすっごい大きい企業で、とにかくしっかり価値を提供し続けるみたいな。

浜田:あと、オペレーショナルなところをしっかりやる人が必要ですよね。

秋元:部署によっても、求められることが違うじゃないですか。なので全員に向けるというか、「うちの部署はこうだからという画一化したコアな価値があって、その中でジェンダーとかダイバーシティを絶対に尊重する」というのはあるんですが、全部を受け入れるというよりかは、一定はカラーがあるのかなと思ってるんですよ。

伊藤さんはすごくいろんな会社見られていると思います。ディー・エヌ・エーも成長企業だったので、そういう意味だと、もし「違うな」と思ったら居場所を変えることは、私はぜんぜんネガティブじゃないんです。

伊藤:そうですね。

秋元:無理やり全員に合わせなくてもいいのかなって思ってるんです。

伊藤:そうですね。まず当然のことながら、会社の状況によってミッション・ビジョン・バリューは変わってくる。だから、伝統的で安定的に収益を出す大企業はそういうミッション・ビジョン・バリューがあってしかるべしだし、実際にそうなんです。

ミッション・ビジョン・バリューと多様性って、相対するように感じるところもあるけど、ベースに多様性があって、「とにかくみんな違ってみんないい。だけど、ここだけは共有しとこうね」というのが、ミッション・ビジョン・バリューやカルチャーなんだと思うんです。

相反するところがあるけど、「ここだけは共有しようね。そこができないんだったら他で働こうね」というか。逆にここがオープンになっていれば、「このカルチャーいいね」と言って(新しく人が)入ってくる。本当に「軸」ですよね。軸をどう設定するのかは、会社とかチーム次第ですよね。

あまりガチガチに決めるのは良くなくて。そうすると「俺らのチームとは(方向性が)違うんだけど」みたいになってしまいます。

例えば昔、ヤフーで「迷ったらワイルドに行け」というのをバリューにしてたんですが、エンジニアやセキュリティの部署では「どうやってワイルドにやるんだ」みたいなところがあって。

「ワイルド」と雑にやっておけば解釈の幅ができるから、それで解釈の余地を残しておきながらも共有して、あとは話す。だって、正解とか決められないもん。

浜田:ありがとうございます。

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