『ソース原理[入門+探求ガイド]――「エネルギーの源流」から自然な協力関係をつむぎ出す』の出版を記念して開催された本イベントでは、ソース原理・ティール組織専門家の嘉村賢州氏が登壇。新しいリーダーシップのあり方や、組織づくりについて語ります。本記事では、カリスマ経営者の独裁政権にも「仲良しクラブ」にも陥らないためのソース原理の考え方を解説しました。
カリスマ経営者が引っ張っていく「パワー型」の組織
嘉村賢州氏(以下、嘉村):今日はその中でもソース経営の話をちょっとだけしたいと思います。とはいえ、せっかくティールの専門家でもあるので、ティールと絡めてちょっとお話しできればと思います。
坂東放レ氏(以下、坂東):ありがとうございます。
嘉村:オーナーのみなさんはティールをご存じだと思いますけど、レッド、オレンジ、アンバー、グリーン、ティールと人類が誕生してからいろいろな組織形態が現れてきています。だいたいこの図(資料)で説明されることが多いです。この図は(前のパラダイムを)含みながら越えているので、前のパラダイムも否定はしていないんですね。

それぞれの段階に発明があってティール段階まで来ていて「使っても使わなくてもいいんですよ」という感じです。最近はこっち(資料)のちょっと違う図を使っています。

レッド・アンバー・オレンジまでは、わりとカリスマ経営者がガツッとがんばるような組織です。これを「パワー型」と私は呼んでます。これもすばらしいところが、いっぱいあるんです。
坂東:そうですね。
嘉村:リーダーが引っ張ると達成できるんですよ。「結果がプロセスを癒やす」というように、例えば宮崎駿の映画を作ると、おそらく働いている人は大変じゃないですか。こぼれ聞こえてくる話によると、ですけど。
だけどあれが出来上がってエンドロールを眺めると「いやぁ、偉大な作品に関われて本当に良かった」という。これが「がんばったのにできなかった」「がんばったけどそれなりの映画だった」だったら、もう心が折れちゃいますよね。
だけど達成できると、それを癒やすぐらいの力がある。そもそも映画を参加型で作ることができるのか。やっぱり筋が通った優れたカリスマがいることでできるのかもしれない。
「仲良しクラブ」で終わってしまう組織
嘉村:だけどマイナスの点で言うと、仲間が疲弊しちゃったり多様性が大事にされなかったり。場合によってはリーダーの想定内で終わったり。レジデンスがないこともあるかもしれない。そんなパワー型の組織の歴史の中で、「いや、もっと多様性を活かした参加型のアプローチがあるんじゃないか」と逆転的な現象が起こってきました。
これがグリーンの登場です。多様性を活かしてワークショップをしたり、関係性が紡がれやすかったりもしますし、創発も生まれやすいですね。なにより自分のアイデアが戦略と結果に入りますから、やりがいも出てきます。これがグリーンの組織が増えてきた理由でもあるんですが、同時に欠点もいっぱいあると。
話し合いに時間がかかったり、みんなが忙しすぎて、結論がつぎはぎになりやすかったりすることですね。
意外に多いのが「みんなで決めた」が言い訳になります。みんなで決めるのがグリーンの特徴なので、なにか失敗したら「だってみんなも賛成したじゃん」と言えてしまうんですね。仲が良かったはずなのに社会的インパクトも出ず「仲良しクラブで終わっちゃっているよね」ということが、グリーンには多いですね。
実はこのグリーンをティールと思っている人がかなり多い。
坂東:はいはい、そうです。
嘉村:実はそうではなくて、この「パワーとラブの統合」がティールの姿なんです。ソース原理をちょっと学ぶと理解できるかもしれないですね。グリーンのことをティールと言ってしまっているパターンがすごく多いです。
もうちょっと補足すると、従来は制御統制モデルだったものが、自己組織化、自己修正モデルになっています。
自己修正とは、蚊に刺された時に刺されたところから、いちいち「どうしましょう」と脳に相談しないですよね。その細胞レベルで修復します。それと同じで組織になにか起こった時に、別に経営層に言うことなく現場レベルで解決できるのが自己修正です。
どっちかというと、グリーンはフラットや自律分散、ボトムアップと呼ばれる組織で、ティールはナチュラルヒエラルキーという。
坂東:ほうほう。ナチュラルヒエラルキー。
嘉村:1人の強いトップではないんですけど、リーダーシップが入れ替わるイメージです。「このアイデアに関しては、私が引っ張っていく」という専門性の高い人が、縦横無尽に入れ替わっている。まるで生命体・生態系的な組織メカニズムがティール組織です。
その姿がなかなか想像がつかない時に、ソース原理の話を勉強すると「あぁ、なるほど。そういうことなのか」とわかってきます。
ティール組織とソース原理はまったく別物
嘉村:ティール組織とソース原理はまったく別物です。提唱した人も違いますし、求めていたものもぜんぜん違います。ティール組織は「どうやったら人は輝いて、魂のこもった、疲弊しない豊かな人間関係の組織が作れるんだろう」ということを探求するもの。フレデリック・ラルーが提唱者です。
ソース原理の提唱者のピーター・カーニックはぜんぜん違う視点です。せっかくいいアイデアが持っていてもしぼむプロジェクトと、高度に達成できているプロジェクトがある。「その違いはなんなんだろう」と探求したのがピーター・カーニックですね。
当初、ピーター(・カーニック)とフレデリック(・ラルー)は知り合いでもなんでもなかったんです。それぞれがそれぞれの理論を発明した。今では2人はすごく親しい関係なんですが……。
ピーター(・カーニック)は本を書くことにまったく興味がなかったので、ずっと口で伝えてきました。でも「せっかくいい考え方を提唱しているんだから、(本を)書いたらいいじゃん」と、書に記したのがトム・ニクソンとステファン・メルケルバッハです。
そして今回はこのステファン・メルケルバッハの本が無事、世に出たという。両方とも理想論というより徹底的に事例から抽出しているので、希望を与えてくれるかなと思います。
坂東:めっちゃわかります。
カリスマ経営者の独裁政権から抜け出せる
嘉村:ソース原理を学んで、先ほど言ったアイデアが実現できるプロジェクトとできないプロジェクトで何が違うのかを理解すると、「せっかくいいアイデアだったのに……」というのを修復するのに役に立ちます。
スティーブ・ジョブズや宮崎駿、イーロン・マスクのようなカリスマ的な経営者は、どうしても独裁政権のにおいがしますね。でも独裁するんじゃなくて、みんなの良さを引き出しながら実現しないと。
大規模な組織になれば権力統治や有害な部下も山ほど渦巻いてきますが、それを解きほぐすのにもソース原理は活用できます。こういう論理はCEOや管理職が使うイメージですが、ソース原理は全員が勇気をもらえるし、全員にとって素敵な気づきがあるものなんです。そこもけっこううれしいところだなと思います。
それからグリーンの罠。実は多様性時代にはまっちゃって、なかなか組織活動として成就していないことも多い。そんな時にソース原理を学ぶと、多様性を大事にしながらもちゃんとインパクトを生み出すことができるようになります。
坂東:なるほど。