2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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日本では2013年のダボス会議から知られるようになった「レジリエンス」。復元力や逆境力とも呼ばれ、経済やビジネスなどさまざまな場面で耳にするようになりました。環境の変化が激しい現代は、企業の寿命が人の寿命よりも短くなったと言われて久しいですが、創業100年を超えるような歴史ある企業は、さまざまな苦境を乗り越えて存続しうる「しなやかさ」を持っていると考えられます。本記事では、『長寿企業のリスクマネジメント〜生き残るためのDNA〜』の著者の後藤俊夫氏に、歴史ある企業が危機にどのように対応しているかをうかがいました。
――近年はコロナ禍に加え、ロシアのウクライナ侵攻、エネルギー問題やインフレなど、次々に大きな問題が起こっています。ただ、長い歴史を振り返れば、数え切れない危機がある一方で、企業や人々にはそれらを乗り越える術もあったのではないでしょうか。
そこで今回は、『長寿企業のリスクマネジメント〜生き残るためのDNA〜』著者の後藤さまに、歴史のある会社のレジリエンスの仕組みについておうかがいしたいと思います。よろしくお願いいたします。
後藤俊夫氏(以下、後藤):よろしくお願いします。
――著書では、創業以来100年以上存続して今日に至る事業体を「長寿企業」と定義されています。
※出典:『長寿企業のリスクマネジメント』(p.2)
また、企業が存続していく上では4つのリスクがあると書かれていました。これらが今まさに起こっている気がしますが、「人事リスク・事業リスク・天災リスク・倫理リスク」について、それぞれどういった内容かを教えていただけるでしょうか?
後藤:そうですね。まず、「人事リスク」は事業継承や社内の団結、「事業リスク」は技術革新や規制・法制度の変化、「天災リスク」は不可抗力のリスクで、大震災や大火事、政治体制の変化や戦争などが挙げられます。最後の「倫理リスク」は、法令遵守や、社会や生活者に影響を及ぼす不誠実な行為や意思決定です。
これらの4つのリスクは、それぞれ重要な要素ですが、中でも一番基本になるのは実は倫理なんですね。倫理というのはいろんな定義がありますけど、ひと言で言うと「良いことをする」ということなわけです。
※出典:『長寿企業のリスクマネジメント』(p.166)
自分の利益だけを考えるのではなく、さまざまなステークホルダーや社会にとって良いことをする。そこが欠けてしまうと人事もうまくいきません。そして、今は特に天災リスクが非常に重要になってくるわけですね。
※出典:『長寿企業のリスクマネジメント』(p.135)
例えば天災リスクが起きた時に、1社だけで立ち向かうことは非常に難しいですが、一人勝ちしか考えていない企業であれば、いざという時にも周りが助けてくれるはずはありません。そういう意味でも、やはり基本になるのは倫理です。つまり、倫理が欠けては他のものについても対応ができない。
そして、長寿企業の大部分は創業100年以上〜200年未満なんですが、過去100年間にいわゆる未曾有と呼ばれるようなリスクがいくつあったかを数えてみると、16個あるんですよね。
――「いまだかつて起きていないこと」が、そんなにしょっちゅう起きてるんですね。
後藤:この中にスペイン風邪は入れてませんが、昭和恐慌や第二次世界大戦の敗戦があり、比較的最近では2008年のリーマンショックがありました。そのリーマンショックも、未曾有というか「100年に1回の」というのが枕詞だったわけです。平均したら、6年に1回なんです。
――そうですね(笑)。
後藤:実は、コロナ禍で大変な時期だった2020年5月に、長寿企業にインターネットでアンケートを取ったんです。そうしたら、1,000年続く企業3社を含め、国内のいろいろな業界・地域から合計95社に回答をいただきました。
その中の1社が、約230年続いている和菓子屋さんなんですけれども、今の話と同じことを言っているわけです。7代目の会長さんが、従業員をみんな集めて「ビクビクしなくていい。これは未曾有と言われているけど違うんだ。10年に1回はこのような危機が来るんだ」と言ってるんですよ。
――なるほど。長寿企業では、そういった捉え方をされているんですね。
後藤:「こういうことは10年に1回ある。でも、うちはずっとうまく対応してきたから今があるんだ。それ(危機がやってくること自体)は当たり前だ」と。その時に会長さんは「みんなで心を合わせる」と言ったそうです。みんなというのは従業員なんですが、これまでもそうやって生き延びてきたんだと。
その会社は和菓子屋さんなので、ずっとデパートにお店を出していたんですけど、コロナ禍でデパートが閉店してしまった。営業を止めますから、40日間クローズなんですよね。だから、その時は売上ゼロになっちゃうんだけれども、年度で売上を締めてみたら、12月には昨年対比でほぼトントンか、むしろ伸びていたそうです。それは、従業員の団結と新商品の成功が主な要因でした。
――あれだけ先が見えない状況で、すぐに次の手を打っていたのは、すごい決断力と行動力ですね。
後藤:このコロナ禍で、長寿企業のそういったところも見えてきたんですね。そして、特にポストコロナについて申し上げれば、これからはこうした大変な状況はむしろ常態になるだろうと。
長寿企業がなぜ続いているかというのはいろんな見方がありますけど、1つの見方としては、やっぱり「リスクは未曾有じゃなくていつでも来る」と考えているんです。6年に1回のリスクというのは単純な平均の場合ですから、次は10年後に来るかもしれないし、2年後に来るかもわからない。
でも、今考えてみたら、コロナ禍が続いているのにウクライナ侵攻が起きたわけです。だから、「常にいつ危機が来てもいいような備えができているかどうか」というのが、先ほどの緊急調査の結果だったんですよね。
――長寿企業さんでは、具体的にはどういった備えをしているんでしょうか?
後藤:例えば、どんなことがあってもいいように手元流動資金を確保する。現預金を積んでおくということですね。先ほどの95社のアンケートでは、「現状の手持ち資金でどのくらい持ちますか?」という質問に対して、8割以上の人が「半年以上」と答えたんです。さらに、その中の二十数パーセントの人たちは「2年以上持ちます」と答えています。
※出典:『ファミリービジネス白書2022年版』(p.156)
手元流動性があるかどうかは必要条件の1つで、十分条件ではないので、資金があれば長く続くとは言えませんが。ここから分かることは、やっぱり「何か起きるかもしれないから、あるいは何かが起きることが常態だから」と考えて、それに対する備えをしているということです。これがあるかないかでは、大きな違いですよね。
逆に言うと、長く続くということは、長く手堅い商売をやってきているからなんです。手堅い商売というのは、薄利多売ではなくて、一定の利幅を取ってやっていく。そして、得られた利益を配当に回すのではなく、ある程度は内部留保する。それによって、何かが起きた時の財務的な体力をきちんと培っておく。そうした備えが連動しているんですよね。
――なるほど。企業の内部留保は問題視されることも多いですが、そういった側面もあるわけですね。
後藤:私は「ポストコロナの経営の答えは長寿企業にある」と言っています。その理由はいくつかありますが、まず1つは、やはり常にリスクが来ることを前提とした経営をしていること。これからは第2、第3のコロナや危機が来ることを前提とした心構えが大事です。
2つ目は、危機に対応するための財務的な体力をつけておくこと。3つ目は、ふだんから無理のない経営をしていること。最後にそれらを支えるものとして、常日頃お客さまや地域社会のことを考えて、何かあった時には手を携えて一緒に経営をしていく。
こういったことはみんな、長寿企業の中に答えが出ています。ポストコロナ、あるいはウィズコロナの時代において、歴史のある企業に学ぶことの重要性は、ますます高まってきているだろうと考えています。
後藤:例えば、この『長寿企業のリスクマネジメント』が出たのは2017年ですが、翌年に中国で翻訳が出て、ビジネス書の分野でベストセラーになったんですね。この本の出版と並行して、よく中国で講演をしていたんですが、その頃に、中国でも長寿企業に学ぶということが、1つのブームになっていました。
中国のナンバー1は習近平主席で、ナンバー2は李克強首相ですよね。2016年3月に、李克強首相が非常に重要な大会で「職人精神が大事なんだ」と話しています。中国語では「工匠精神」と言うんですけれども。
同じ年の12月には、翌年の経済・産業方針を決める非常に重要な大会があり、習近平主席も「職人精神が大事だ」と言った後に続けて「中国でも長寿企業をたくさん作らなくちゃいけない」と。お金をかけてもすぐに長寿企業が作れるわけではないんですが、国のナンバー1がそういう訓示をしたわけです。
やはり中国において、拝金主義や不動産や株といった短期的な利益を追求する風潮が多いことを憂いて、そう言ったんですね。職人精神ということなので、「真面目にビジネスをやれ」「良い品物を作れ」ということで中国のブランドを高めて、100年続く長寿企業を作ろうというのが、習近平主席のメッセージだったわけです。
そんな中で、2020年にコロナ禍が始まり、中国のSNSでも「今こそ長寿企業に学ばなきゃいけないんだな」ということをつぶやく人がけっこういたんですよ。
中国は100年企業が少ないですから、こういった大変な危機にどう対応すればいいかという模範事例がない。そこで、「やはり日本に学ばなくちゃいけないんじゃないか」という声が、一般の人々や経営者から出てきました。
ーー中国でも長寿企業が注目されていたんですね。日本の苦境が報じられることが多いですが、“100年に一度の危機”を何度も乗り越えてきた長寿企業が世界有数であることは心強い気がします。
※出典:『長寿企業のリスクマネジメント』(p.3)
ーーまた日本の9割以上が中小企業ということで、もちろん分母の問題は大きいと思いますが、中小企業が長寿企業になるというのもおもしろいなと思いました。普通に考えると、経営資源が豊富な大企業のほうが強い気がするのですが、日頃から無理のない経営をしていると大企業にはならないということでしょうか。
後藤:それについては、おっしゃるように両面があるわけなんですね。つまり、意識と結果です。中小企業は資源が乏しいということを否定はしないんだけども、そうとは言えない部分もあるわけですよ。
資源の絶対値で見るならば、間違いなく限られているんです。でも、実際に資源を運用する面から考えるべきなのは、「何を目指してどのくらいの資源があるか」ということなんです。そこを相対的に見なくちゃいけないと思っているんですよね。
例えば、「1兆円のビジネスをしよう」と思ったら、それに見合うような財務や人的な資源がたくさん求められるでしょう。でも、「1億円のビジネスをやるんだ」と考えたとします。
当然のことながら、1兆円と1億円の場合で、必要な財務も人的資源も桁が違ってくるわけです。だから、「どのくらいのビジネスをやるか」という目標を明確にすることと、それに向けての「必要な資源」と考えるべきだと思うんですよ。
多くの企業が規模の拡大や上場を目標にしているかもしれないですが、必ずしもそうじゃないだろうと。本来は、質的な高さを重要視すべきだと思うんですよね。
例えばBtoBでもBtoCでも、お客さまの数を増やすことより、限られたお客さまとの結び付きを強めるほうが大事なわけです。その質を高めることは、リピーターを増やすことになるわけです。
それから2つ目には、安いからではなく「良いものを買う」というお客さまが増えること。もちろん、安いほうがいいかもしれないけれども、例えば、もっと体に良くて安全なものを常に供給してくれる。安心なもの、安全なものを買いたいというお客さまを増やすことが大事です。そうなってくると、ただ単に1億円よりも10億円のビジネスのほうがいいというわけではないと思うんですよね。
ーー確かにそうですね。
後藤:特に中小・零細企業がどう生き延びるかということを考えた時に、非常に重要な答えが出てくると思うんです。ただ単に多くのお客さまを獲得するのではなくて、限られたお客さまとの「質の高い関係性」という言葉が重要になります。関係性を構築できたほうが、強いと言えると思うんですよね。
私がNECに入社したのは1966年で、当時は全社で900億円のビジネスだったんです。それが翌年に1,000億円になって、まだ入社2年目の私は「すごいな」と思って、とても印象に残っていました。
その後、私は1999年に57歳でNECを辞めるんですけど、その時は全社が4兆5,000億円になっていたんです。約50倍になったわけなので、すごく大きくなったように見えますよね。当時のNECは事業部制だったんですが、1つの事業部になるためにはざっくり年商100億円という暗黙のルールがありました。
4兆5,000億円ということは、だいたい100億円の事業部が450個あるということです。あるいは年商10億円の事業体が4,500個あると考えると、1つの事業体は中小企業から見てもそこまで遠い話ではないかもしれない。
その頃はよく「オンリーワン」という言葉が使われていました。国内なら7割のシェアを取るということなんですが、例えば10億円のビジネスでも、手堅い商売をして、しかもオンリーワンならば絶対に利益率も高いはずです。
そういった小さくても強い事業体の集合体としての4兆5,000億円だったら褒められるけれども、当時のNECは必ずしもそうじゃなかったわけです。だから、私は社内で「全社として何兆円のビジネスかということは、別に会社の優劣を決めることじゃないんだ」という発言をしていました。量よりも質だということですね。
利幅が高ければ収益率もいいと言えますが、もっと大事なのは「お客さまにどれだけ愛されるか」。「お客さまとの関係性をどれだけ密にするか」。その背後を掘り下げると、実は倫理にたどり着きます。長寿企業の戦略は、昨今のSDGsとかなり重なっているということですね。
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