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箱根本箱のゆくえ。そして、これからの場づくりで考えること。-岩佐十良×海法圭×染谷拓郎-(全7記事)

5年後に同じチャンスは巡ってこない 人生の「もやもや期」を抜け出す処方箋

2019年1月17日、文禄堂高円寺店にて、「箱根本箱のゆくえ。そして、これからの場づくりで考えること。-岩佐十良×海法圭×染谷拓郎-」が開催されました。書店とホテルが融合した施設、『箱根本箱』。 蔵書数は1万2,000冊で、基本的にすべての本が買えることが特徴です。今回は、 箱根本箱のクリエイティブディレクター岩佐氏、 設計を担当した海法圭氏、ブックディレクションを担当したYOURS BOOK STOREの染谷氏が登壇。箱根本箱のこれまでとこれから、企画の立て方などについて語りました。本パートでは、岩佐氏と海法氏が、それぞれの取り組んでいるユニークな仕事を紹介しました。

建築業界の時間軸の変化

染谷拓郎氏(以下、染谷):メディアというのは、スピードが速いほうだと思うんです。それを建築で考えると、1つのものが3年や5年かかるときに、風を起こすムードに耐えきれなくなってしまうというか。建築って、基本的にはテンポラリーなものではないじゃないですか。

そこの最初にムードを作って、小舟を作っていくときと、建築でしっかり作っていくときのギャップみたいなものがあるかな、と思うんです。そこはあんまり一緒に考えなくてもいいんですかね? 箱根本箱は3年かかって作ったんですけど、もっと早くできればもっと違った形になっていたのかな? なんていうふうに思って。すごく難しい質問ですみません。

海法圭氏(以下、海法):よく言われるのは、建築の業界は、「建物が建つ」というかたちではあらゆる社会現象が一番最後に現れるということ。例えば今はいろいろな業界でシェアの話をしますけれども、建築の視点でスタートが同時だったとすれば、完成するのが3年後になる。

完成したときに「なんだかいまさらシェア?」というものが生まれることがありうる。ただ一方で、シェアという言葉もなかった時代に、同じような現象を生み出す小さな建物が生まれていたりする。そういうこともあるのが建築の面白さなのですが。

最近は建築の規模が小さくなり、スピードを求められるリノベーションが増えていることもあって、そういった社会の流れの速さによりリアルタイムにコミットしてきていて。社会の流れと空間が対応してきている印象があります。

染谷:そのギャップが少なければ少ないほど、アウトプットというか、ムードの中の流れにちゃんとヒットできるようになるということですよね。

海法:それが本当に良いかは別にして、そうですね。

染谷:そうかぁ。なるほど。残りあと10分になってしまいまして、そろそろお客様の質問の内容も聞いてみたいと思います。

岩佐十良氏(以下、岩佐):(質問リストを見て)これに答えていくの?

染谷:そうですね。今それぞれが進められているお仕事を、お話しできる範囲で聞ければうれしいなと思います。

地方都市の衰退を止めるカギは「教育」

岩佐:僕は、箱根本箱の他にやっている施設が3つあるんですね。1つは新潟県南魚沼市の里山十帖。それから、滋賀県大津市の商店街をリノベーションして商店街を活性化しよう、という超地域密着型の「講 大津百町」というホテル。これはプレオープンが2018年5月で、オープンが2018年8月でした。

それから、2020年3月オープンを目指して工事中なのが、長野県松本市の「松本屋」。「まつもとや」と読むのか、「まつほんや」と読むのか、今ちょっと考えているんですけれど、今度は教育をテーマにした本を中心としたホテルです。地方都市で一番重要な問題って何だろうねと考えたときに、教育だよねと。

つまり、地方にどうやって人を戻していって、地方都市の衰退を止めるにはどうしたらいいかというと、やっぱり地域の教育を抜本的に見直さなきゃいけなくて。松本はいい土地だし、しかも学都と言ってるところなんですね。

「教育の松本」と言っているので、そこに教育をテーマにした新しいタイプのコミュニティーホテルを作ろうということで、今プロジェクトを進めています。コミュニティー施設としての本屋を作りたいなと。

その他、まだ言えないんですけど、3つくらいが背景で動いていまして。1つは今設計に入るかどうかという状態なのと、もう1つは土地の取得が完了している状態。テーマがそれぞれ違って、それぞれの場所の地域問題や社会問題、さらに地域だけじゃなく日本の社会問題などをいかにして解決するか、ということをテーマに作っている感じでしょうかね。

染谷:じゃあ、宿泊施設が4つあるってことですか?

岩佐:松本までで4軒で、その他に3つ動いている状況です。

何かをやるタイミングは、実はワンチャンスしかない

染谷:岩佐さんが10人とか100人いたら、どんどんできるけど、岩佐さんお一人しかいないのに、この拡大スピードはすごいですよね。いつもお話を聞いていて、とんでもないスピードでどんどんやられているなって感じます。

海法:岩佐さんと打ち合わせができなくなってきていて。

染谷:そうそう。岩佐さんのスケジュールを確保できなくなってきている。打ち合わせとかがなかなかできない。

岩佐:申し訳ない。でも、やるときにやらないと、そんなにタイミングってないので。僕、社内でよく「何かをやるタイミングって、実はワンチャンスしかない」と持論を言っているんです。ワンチャンスって、1秒とか数日じゃないかもしれないけど、大きな流れで言ったらワンチャンスしかない。

染谷:こういう流れの中でってことですか?

岩佐:そう。大きな流れの中ではワンチャンスしかない。

染谷:5年後に同じことができると思ったら、それは5年後にはできない。

岩佐:そう。だから、「今やれることを精一杯やっていいよ」と言われたら、精一杯やるべきだし。5年後には、やりたいと言ってもできないときが来るので、「やっていいよ」と言われたときに思いっきりやっておかないと。

人間の感覚でいうと、常に同じスピードで、定期的に確実に階段を一段ずつステップアップして、ゆっくり上っていきたいわけなんだけれども、社会はそうはさせてくれないので。ソーシャルということを考えると、社会もそうさせてくれないし、待ってくれない。実際すべてのことがそうさせてくれないから、やれるときにサッとやればいい。やれないときには休めばいい。そういう考え方ですよね。

染谷:流れをつかむというか、張っていくようなところがすごい。

タイで暮らす日本人家族のための「ホテルのような集合住宅」

染谷:海法さんは今進められていることは?

海法:僕は一番大きいところでいうと、タイのシラチャという日本人街でプロジェクトがあります。

染谷:シラチャというと、バンコクとかそういうところからはけっこう離れている?

海法:バンコクからパタヤに行く途中にある、車で1時間半くらいのところですね。そこは日系の企業や工場が並んでいて、もともと日本人がたくさんいるところなんです。

実はそこには、単身者向けはあったんですけれども、日本人家族向けのサービスアパートメント(ホテルサービスを受けられる集合住宅)がなかったんです。そこで日本人家族が85家族集まって住む、ホテルのような集合住宅を作る、というのをやっています。

染谷:タイに日系企業の工場やブランチがあるところの家族が住んでいらっしゃる?

海法:そうです。お父さんが働いていて、お母さんは専業主婦、子供は幼稚園から小学生くらいまで、という典型的な核家族が多いです。敷地の一歩外に出たら異国なのに、その敷地の中には85人のお母さんが集って生活しているって、考えてみるとなかなか異様な状況なんです。

染谷:強烈な暮らしですね。

(会場笑)

染谷:閉じ方と開き方がすごく難しそうな。

海法:住宅の中だけは安心したいので、日本っぽさをすごく求められるんですけど、敷地の外はタイじゃないですか。そこに生活上大きな断絶が生まれる。なので、廊下を含めた共用部分が、両者の緩衝領域として日本の集合住宅以上に大事になってくる。廊下幅を原則3メートルにしたり、場所場所でしつらえが変わるような、豊かな共用部をつくろうと設計を進めています。

染谷:何年くらいに完成なんですか?

海法:まだ建設にも入っていないので、2年後とかそういう感じでしょうか。

染谷:2021年とか2022年にはできあがるんじゃないかなと?

海法:そうだといいなと思っています。

染谷:すごい。

昆虫の良さや大切さを伝える、昆虫食レストラン

海法:日本だと昆虫食のレストランを設計しています。

染谷:虫を食べる?

海法:昆虫や生き物のことを純粋にすごく好きな方がいまして、その方が昆虫食のレストランをやりたいと。単なるレストランじゃなく、昆虫の良さや大切さを伝えたり、昆虫にまつわる活動を展開したりする拠点でもあります。そんな場所を作ろうとしていて、そこの設計をさせてもらっています。

染谷:それもなかなか難しそうですよね。生きている虫もいる場所になるんですかね?

海法:ちょっとはいるかもしれないですね。そこはうまくプランニングとブランディングをしながら進めています。まぁ一般の方には昆虫食がすぐにはなかなか受け入れられないかもしれない点は認識したうえで、いかに共感してもらえる場所にできるかをチームで考えています。

染谷:お寿司屋さんとかでよく生け簀があって、そこでふぐとかを唐揚げにしたりしますよね。虫もそこで採って揚げるみたいな?

(会場笑)

わかんないですけどセミとか。そういうことではないんですか?

海法:そういうリアルな感じはまだないですね。

染谷:すみません。適当に言ってしまいました。それぞれスケールが違うお話でおもしろいです。

考えても計算しても、行動しなければ答えは出ない

染谷:今日来ていただいた中で、場づくりといってもいろいろあって、ソフトの場づくりでもあるし、ハードの部分もあるし、というところがあると思います。たぶん、みなさん自分のコミュニティを作りたいとか、場所を作ってみたい、という夢がある方もきっといらしていると思います。もう2時間たっぷり話してきてはいますが、そういう方に何かひとこと言ってあげるとしたら、どんなふうにお話をされますか?

岩佐:いやぁ、作ってみたらいいと思いますよ。まずは作ってみましょうよ。

染谷:とにかくまず作る?

岩佐:はい。僕の行動原則として、考えても話が始まらないので、まずやってみたほうがいい。みなさん悩んで悩んで、どうしようっていろいろ計算するんですけれども、計算してもたぶん答えは出ない。

染谷:僕も昔、超もやもや期があって、いろいろできなかったんです。最近はちょっと吹っきれるようになってきたんですけどね。なんか、もやもや期7年みたいな人っているじゃないですか。もう7年も前に考えたものをやってみたいんだけどって。それはもうやってみる。高速PDCAの回し方というのがすごく参考になるというか、おもしろい。まずはやってみると。

岩佐:やってみる。やってみたほうがいいです。

染谷:海法さんは? 

海法:僕は何か事業をしているわけではないので。でも、岩佐さんの言うとおり、早く何かしたいなっていう思いはあるんです。

岩佐:早くやったほうがいいよ。

(会場笑)

染谷:海法さんが事業をやられるとしたら、なにか設計事業じゃないようなね。

岩佐:おもしろいですね。

海法:設計だけでけっこう大変なんです。

岩佐:そうだね。雑誌を作るのもけっこう大変なんだよ。

時代の流れに寄り添う『自遊人』の柔軟性

染谷:岩佐さんは雑誌を作られながら、いろいろな場所づくりをされている。実は、今日はたくさんのお店に仕入れてもらって。

岩佐:これ(雑誌『自遊人』「未来を変える ソーシャルデザイン 。」/2019年2月号)を買っていただいた方って、どれくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

岩佐:ありがとうございます。(挙手が意外と少なかったので)まだ30部くらい売れますね(笑)。

(会場笑)

染谷:ぜひ! みなさん、これすごく読み応えがあります。

岩佐:間違いなく30部売れますね! ありがとうございます!

染谷:ソーシャルデザインですよね。

海法:ソーシャルデザインの歴史がしっかりまとまっていて、本当におもしろいです。岩佐さんと出会って8年くらいですけど、『自遊人』で、ソーシャルデザインが特集されるというのがなんだか感慨深いです。

染谷:それは岩佐さんのプライベートというか、主観的なところから入ったソーシャルデザインを使ってるからということですか? 

海法:自遊人さんの扱うテーマって、変化していく時代に寄り添う柔軟性が魅力の一つだと思うんです。そこで一冊まるごとの企画としてソーシャルデザインを扱うときがきたというのがすごい。

岩佐:僕が雑誌『自遊人』を2000年に創刊して、18年くらい作っていて、これは二番目によい特集です。二番目によい出来です。

染谷:一番は何ですか? って絶対に聞きたくなっちゃうけど、教えてくれないですよね。

岩佐:18年もやってると、時代もいろいろ変わってくるので、18年前に『自遊人』を創刊したときとは時代背景も違う。18年前に創刊してからの時代の流れに沿って、すごいものは他にあります。今の流れになってからは、これが一番いいです。

染谷:1冊の雑誌とは思えないくらい。1冊の書籍くらいのすごい情報量というか。読んでいて、本当に腹に落ちるまで何回も読まないとみたいなところも、すごく読み応えがあります。今日はぜひ、この場で購入をお願いします。お願いしますって言っちゃった。

岩佐:いや、ぜひ。本屋さんで買うのが重要だよね。

染谷:そうですね。

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