2024.10.10
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テキサス大学オースティン校 卒業式 2014 ウィリアム・マクレイヴン(全1記事)
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ウィリアム・マクレイヴン氏:パワーズ学長、フェンヴス学務長、学部長の皆さま、教員およびご家族、ご友人の皆さま、そして、最も重要な2014年の卒業生の皆さまに御礼申し上げます。
私にとって、今夜この場所に立てることは、本当に光栄なことです。私がテキサス大学を卒業して37年が経ちましたが、卒業式のことはたくさん覚えています。
前夜のパーティのおかげでひどい頭痛だったことや……。
(会場笑)
のちに結婚することになるガールフレンドがいたことなどです。
(会場歓声)
それにしても覚えておくというのは大切なことです。その日、私は海軍への入隊を任命されたことも覚えています。しかし、誰が卒業の挨拶をしたのかだけ、覚えていないのです。そして、その人が言ったことを何ひとつ思い出せません。
このような事実があるため、私のスピーチも記憶に残らないものになるかもしれませんので、少なくとも短めに終わらせるようにします。
(会場笑)
大学のスローガンは「ここで始まることが世界を変える」です。今夜、約8000人以上の学生がテキサス大学を卒業します。厳密な分析で非常に有名なAsk.comによると、平均的なアメリカ人は人生で1万人の人々と出会うそうです。
1万人というと、とても多い人数です。しかし、もしあなた方全員がたった10人の人生を変えれば、そしてまたその10人が他の10人の人生を変え、また他の10人……ということになれば、5世代、つまり125年間のうちに、2014年の卒業生は8億人の人生を変えることになります。
(会場歓声)
8億人。アメリカ合衆国の人口を2倍以上上回る人数です。もう1世代加えると、世界の人口80億人すべてを変えることができるのです。もし、10人の人生を永遠に変えてしまうなんて難しいと思うのなら、それは間違っています。イラクやアフガニスタンでは、毎日起きていることなのです。
若い軍人が、バグダッドの道を右ではなく左へ進むことを選んだおかげで、彼と一緒にいる10人の兵士が待ち伏せ攻撃を受けずに済む。アフガニスタンのカンダハールで、女性下士官が何かが間違っていると気づき、歩兵小隊を500ポンドの簡易爆弾から遠ざけ、12人の兵士の命を救う。
ひとりの決断によってこれらの兵士が救われたということだけでなく、彼らの子供たちも、孫たちもと何世代もが救われたことになるのです。ひとつの決断、ひとりの人間によって。
世界を変えることはどこででも起き、また誰にでも可能なことです。なので、ここで始まることが本当に世界を変えうるのです。しかし、問題は「あなた方が変えた後の世界はどうなるか?」ということです。それはずっと良くなるはずだと、私は自信を持っています。
しかし、老婆心ながら言わせてもらえるのなら、より良い世界にするためのいくつかの提案があります。これらの教訓は、私が軍隊時代に学んだものですが、制服を着る仕事に就くかどうかは関係ないことを約束しておきます。ジェンダーや民族・宗教的背景、志向、社会的地位などにも関係しません。
この世界での、私たちの苦労は似ています。そして、それらの苦労を乗り越え前進するための教訓です。自分自身を変え、周りの世界を変えることで、すべてを平等にします。
私はネイビーシールズ(アメリカ海軍の特殊部隊)に36年間いますが、すべてはテキサス大学を卒業し、基礎訓練のためにカリフォルニアのコロナードへ行った時から始まりました。
基礎訓練は6ヵ月に及び、柔らかい砂の上での厳しいランニング、サンディエゴでは深夜の冷水の中での水泳、障害物のあるコース、終わりのない体操、眠れない日々、そして常に寒く、濡れていて、みじめな気持ちでした。
6ヵ月間ずっと、弱い心や体を見つけてはネイビーシールズから除外しようと目を光らせる、鍛え上げられた兵士たちに悩まされました。しかし、訓練では同時に、定期的なストレスや無秩序、失敗や苦しみといった環境の中で、リーダーシップを発揮できる訓練生も探していたのでした。
私にとって、シールズの基礎訓練は6ヵ月に詰め込まれた挑戦の時期でした。ここに、私がシールズの基礎訓練から学んだ10の教訓があります。あなた方が人生で先へ進むにあたって、きっと役に立つでしょう。
シールズの訓練では毎朝、指導官―当時は皆ベトナム戦争の退役軍人でした―が兵舎室へ現れ、最初にすることは私のベッドのチェックでした。正しくできているか、つまり、角が四角くなっていて、シーツがシワなく伸び、枕がヘッドボード下の中央に置かれ、予備の毛布が棚の下にきちんと折りたたまれているかを見られました。
それは単純で平凡な仕事ですが、私たちは毎朝ベッドを完璧にすることを求められました。その当時は、少しバカバカしく思えました。特に、私たちは真の兵士、戦闘のために鍛え上げられたシールズを高く志しているという事実と照らし合わせても。
しかし、この単純な作業の智恵が、本物であると何度も思い知らされました。ベッドを毎朝整えると、その日の最初の仕事を完了したことになり、それだけで褒められたような感じがして、その他の仕事も次から次へと頑張れるような気になるでしょう。
そして、1日の終わりには、ひとつの仕事の達成が積み重なって、いくつもの仕事の達成になります。ベッドメイキングとは、人生の小さな物事を強固にしてくれるものでもあるのです。小さな物事を正しく行えないのなら、大きな物事を正しく行うことなど決してできないでしょう。
もしも惨めな1日を過ごしたとしても、家に帰ると自分が整えたベッドが待っています。そして、そのベッドがあなたに明日をより良くする勇気を与えてくれるでしょう。だから、世界を変えたければ、ベッドメイキングから始めましょう。
(会場笑、拍手)
シールズの訓練の間、訓練生たちは全員ボートの乗組員にされました。1チーム7人で、小さなゴムボートの両脇に3人ずつと、指示を出す1人の艇長という形です。毎日、乗組員たちはビーチに編隊を組み、磯波帯を通り抜けて沖まで数マイル漕ぐよう命じられます。
冬には、サンディエゴ郊外の波は8~10フィートもの高さになり、突き刺すような波の中を、全員が飲み込まれずに漕ぐのは非常に難しいものでした。ひと漕ぎひと漕ぎが、艇長の数えるとおりに揃っていなければなりません。全員が等しい力を働かせないと、ボートは波に跳ね返され、ぶっきらぼうにビーチへと押し戻されてしまいます。
ボートが目的地にたどり着くためには、全員が漕がなければなりません。世界はひとりでは変えることができないのです。誰かの助けが必要です。出発地から目的地へ行くには、友人、同僚、他人の善意、そしてあなたを導く強い艇長を持ってください。世界を変えたければ、漕ぐのを手伝ってくれる誰かを見つけましょう。
数週間の苦しい訓練をとおして、150人で始まった私のシールズのクラスは42人にまで減りました。いまや7人のボートチームが6組だけです。私は背の高い乗組員たちのボートに乗っていましたが、私たちの中で最も優れたチームは背の低い乗組員たちでした。「マンチカン組」と呼ばれていました。
5.5フィートを超える身長の者はいませんでした。マンチカンの乗組員は、アメリカンインディアン、アフリカ系アメリカ人、ポーランド系アメリカ人、ドイツ系アメリカ人、イタリア系アメリカ人が1人ずつと、中西部出身の元気な若者2人でした。彼らは、漕ぎ・走り・泳ぎ、すべてにおいて他の乗組員より優れていました。
マンチカンたちが泳ぐ際に小さな足につけるかわいらしい足ひれを、他チームの大きな男たちがいつも陽気にからかうのですが、どういうわけか、アメリカや世界の各地から集まったこの小さな男たちは、笑い続けながらも、誰よりも速く泳ぎ、私たちよりずっと先に岸にたどり着くのでした。
シールズの訓練は偉大な等化器でした。肌の色や民族的背景、教育、社会的地位ではなく、成功したいという志だけを重要視していました。世界を変えたければ、足ひれのサイズではなく、心の大きさで他人を測りましょう。
週に何度か、指導官が私たちを並べて制服の検査を行いました。それは徹底的なものでした。帽子は完璧に糊がついているか、制服はきれいにシワが伸びているか、ベルトのバックルは輝いているか、そして穴やシミなど。
しかし、どれだけ帽子に糊づけし、制服の皺を伸ばし、ベルトのバックルを磨いたとしても、十分ではないようでした。指導官は何かしら粗を見つけます。
この制服検査に引っかかると、訓練生は走らされ、服のまま海に入りって頭からつま先までずぶ濡れになってからビーチの上を転がらなければいけません。全身が砂まみれになるまでです。この状態のことを「シュガー・クッキー」と言います。
(会場笑)
さらに、その日の間は冷たく濡れて砂まみれの制服のままで過ごさなければなりません。
多くの訓練生が、すべての努力が無駄だったという事実を受け入れられませんでした。どんなに制服を正しく着ようとも、認めてもらえないのですから。そういった訓練生は、訓練を乗り切れませんでした。彼らは訓練の目的を理解していなかったのです。
彼らは永遠に成功することはできなかったでしょう。永遠に指導官が認めるような完璧な制服の着こなしもできなかったでしょう。どんなにちゃんと準備をし、良く振る舞ったとしても、シュガー・クッキーに終わることがあるのです。それが人生というもの。
世界を変えたければ、シュガー・クッキーを乗り越え、前に進み続けることです。
訓練の日々では、複数の運動種目に挑戦します。長距離走、遠泳、障害物コース、長時間に及ぶ体操など、根性を試されるものです。どの種目にも超えなければならない基準値やタイムがあります。
もし、これらを超えられなければ、名前がリストに載せられます。そしてその日の終わりに、リストに載った者は「サーカス」へ招待されます。
サーカスは、辞めてしまいたいと思うほど精神を打ち砕かれるような2時間の追加体操のことです。サーカスを喜ぶ者は誰もいません。サーカスは、その日あなたは認められなかったということを意味しているのです。
サーカスは、さらなる疲労を意味し、さらなる疲労は翌日への悪影響を意味します。つまり、さらなるサーカスを招き兼ねないということです。
シールズの訓練では時々、全員がサーカスのリストに載ることがありました。しかし、定期的にリストに載る者におもしろいことが起きました。2時間の余計な体操をしたこれらの訓練生は、日に日に強くなっていったのです。サーカスの苦痛は、体の内側を強くし、身体的な回復力を鍛えたのです。
人生はサーカスで満ちています。あなたも失敗するでしょう。よく失敗するかもしれません。それは辛いものでしょう。やる気を失うかもしれません。その時、あなたは芯の部分を試されているのです。しかし、世界を変えたければ、サーカスを恐れてはいけません。
訓練生は、少なくとも週に2回、障害物コースを走らされました。障害物コースには、10フィートの壁、30フィートの網、有刺鉄線下のほふく前進を含む25の障害があります。しかし、最も困難な障害物は「人生への滑走路」です。
それは3段で30フィートのタワーが片端にあり、1段のタワーがもう片端にあるものでした。その間に200フィートの長いロープが張ってありました。まず3段のタワーを登り、頂上へ着いたらロープをつかみぶら下がります。そして手で自分自身を手繰り寄せながら対岸へと進まねばなりません。
障害物コースの記録は、私のクラスが始まった1977年に樹立されました。その記録は塗り替えられそうもなかったのですが、ある日ひとりの訓練生が人生への滑走路を頭から滑り下りると決めたのです。
ロープの下に体をぶら下げゆっくり下るのではなく、彼は勇敢にもロープの一番高い所にまたがり、前方へ突っ込みました。それはとても危ない行動でした。馬鹿げているし、危険を伴います。失敗すれば、けがをしてコースからも外されます。
何のためらいもなく、その訓練生は危険な速さで滑り下りていきました。数分かかるどころか半分の時間で済み、コースの終わりには、彼は記録を破ってしまいました。世界を変えたければ、時に頭から障害物を滑り下りなければいけません。
陸戦訓練の間、訓練生はサンディエゴの沿岸から離れたサンクレメント島へ飛ばされました。サンクレメントの水はホオジロザメの生息に適しています。
シールズの訓練を通過するためには、一連の遠泳を完了しなければなりません。ひとつは夜間水泳です。泳ぐ前に、サンクレメントの海に生息するサメの種類について指導官が楽しげに訓練生へ伝えます。覚えている限りでは、今までに食べられた訓練生はいないということも。
しかし、こうも伝えられます。もしサメが自分の周りを取り囲み始めたら、そのまま止まり、泳いで逃げようとしないこと、怖がる素振りを見せないこと。もし空腹のサメが夜食を求めて突き進んできたら、すべての強さを奮い起して鼻先をパンチすること。そうすればサメは泳いで逃げていくでしょう。
世界にはたくさんのサメがいます。泳ぎを完成させたければ、サメを攻略しなければいけません。だから、世界を変えたければ、サメに背を向けてはいけません。
ネイビーシールズとしての仕事のひとつに、敵艦への水中攻撃の指揮があります。訓練ではその技術を広範囲にわたって鍛えました。戦艦攻撃の任務では、敵地の外からダイバーが2人組になって潜り、2マイルを超える距離を潜水したまま泳ぎます。使えるのは標的へたどり着くための深度計と羅針盤のみです。
泳いでいる間中、水面下にいても、明かりが照らしてきます。海水面が自分の上にあるとわかると安心できるものです。しかし、桟橋(さんばし)に繋がれた船に近づくにつれ、明かりは薄れ始めます。鋼鉄の船が月明かりを阻むのです。それは周りの街灯も阻みます。周りのすべての明かりを阻むのです。
任務を遂行するためには、船の下に潜り、一番深い部分の真ん中を通っているキール(船を支える材)を見つけなければいけません。それが目標です。しかし、キールというものは、目の前にある自分の手さえ見えず、船の機械音で何も聞こえず、方角を見失って失敗してしまうような、最も暗い場所にあります。
シールズのメンバーは皆、任務中一番の暗闇の中、キールの下を行く時というのは、落ち着いて気持ちを静める必要があり、すべての戦術と身体的な力と内側からの強靭さを用いる時だと知っています。世界を変えたければ、一番の暗闇の中でベストを尽くすことが必要です。
訓練の9週間目は「地獄の週」と言われていました。6日間眠らずに体と精神を継続的に酷使し、残る1日は干潟での特別な日でした。その干潟はサンディエゴとティファナの間にある地域で、水が流れてティファナ沼地を形成しており、それは泥に飲み込まれてしまいそうな沼地です。
干潟まで船を漕いでいき、それから15時間、凍える寒さと吹きすさぶ風、そして指導官から見捨てられるという絶え間ないプレッシャーに耐えなければならないのは、地獄の週の水曜日でした。
その水曜日の夕方、太陽が沈み始めると、私の訓練クラスは「実にひどい違反行為」をしたとして、泥の中に入るよう命じられました。泥は男たちを皆飲み込み、頭だけが見える状態になりました。
指導官は、辞める人間が5人しかいなければ、泥から出てもよいと言いました。たった5人で済めば、私たちは過酷な冷たさから解放されるのです。干潟を見渡すと、数名の訓練生がギブアップしそうになっていました。太陽が昇るまでにまだ8時間以上あります。これから8時間は骨まで凍える寒さが続くということです。
訓練生たちの、ガチガチいう歯の音や寒さであげるうめき声があまりに大きく、何も聞こえなくなるくらいでした。すると、ある声が夜の中にこだまし始めました。その声は歌っていました。歌はまるで音程が外れていましたが、とても熱意にあふれたものでした。
一つの声だったのが二つになり、二つが三つになり、すぐにクラス全員が歌っていました。指導官たちは、歌い続けるともっと長く泥に浸からせると脅してきましたが、私たちは歌い続け、するとどういう訳か泥が少し温かく感じられ、風は弱まり、夜明けが近いような気がしてきたのです。
私が世界を旅して学んだことは、希望の力、ひとりの人間が持つ力です。ワシントン、リンカーン、キング、マンデラ、そしてパキスタンの少女マララでも。ひとりの人間が、希望を与えることで世界を変えられるのです。だから、世界を変えたければ、泥から首を出している時に、歌うことから始めましょう。
最後に、シールズの訓練所には鐘があります。訓練生がどこからでも見えるよう、訓練所の中央に吊るされた真鍮(しんちゅう)の鐘です。辞めたくなったら、この鐘を鳴らすのです。
鐘を鳴らせば、もう朝5時に起きる必要はありません。鐘を鳴らせば、凍えながら泳ぐ必要はなくなります。鐘を鳴らせば、もう長距離走や障害物コース、体操をする必要はなくなり、訓練の辛さを我慢しなくてもよいのです。
鐘を鳴らすだけで、辞めることができます。世界を変えたければ、決して、決して鐘を鳴らさないことです。
2014年卒業の皆さん、間もなく卒業の時です。間もなくあなた方の人生の旅が始まります。間もなく世界をより良く変える時がやってきます。それは簡単なことではありません。しかし、あなた方は次世代の8億人の人生に影響を与えられる2014年卒業生です。
日々、小さな仕事を完了させることから始めて下さい。人生を通してあなた方助けてくれる人を見つけて下さい。すべての人を尊敬して下さい。人生は平等ではなく、失敗することも多くあると心得ましょう。
しかし、いくらかの危険を冒すのなら、考え方を強く向上させて下さい。強きをくじき、弱きを助けましょう。そして、絶対にあきらめないで下さい。
これらのことをすれば、次の世代、その次の世代も、私たちがいる今よりずっと良い世界に暮らすことができます。ここから始まるものが、本当に世界をより良く変えることでしょう。
ありがとうございました。さようなら!
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