爆速成長につながる、シード期で大事なこと

萩谷聡氏(以下、萩谷):お時間となりましたので、開始していこうと思います。みなさん、お忙しい中ありがとうございます。今回「シード期からの爆速成長の秘訣」ということで、小笠原(羽恭)さんと川崎(裕一)さんと守屋(実)さんに来ていただきました。

守屋さんと川崎さんは今まですごく実績を上げられて、エンジェル(投資)もたくさんやられています。投資先でもいっぱい議論させてもらうんですが、いつもめちゃくちゃ解像度の高いアドバイスをしていただくので、ぜひ一緒にお話したいなと思ったんですね。

小笠原さんのSales Markerという会社は投資先なんですが、めちゃめちゃ成長しているので、「実際にその成長の秘訣って何なんですか?」というところを、ざっくばらんにディスカッションできればなと思っています。

(みなさんには)「シード期において、何が大事なんだろう」ということを、少しでも持ち帰っていただければいいなと思っております。

簡単にANOBAKAの紹介です。ANOBAKAは「チャレンジを至高の概念とする」という考えで、シード期の起業家を支援するベンチャーキャピタルです。「新しく事業を立ち上げてイノベーションを起こし、壁を突破していく起業家にどんどん投資をしていきたい」「日本経済を盛り上げていきたい」という会社です。基本はITセクターが多く、日本を中心にやっています。

今まで8年間くらいで約180社に投資させていただいておりまして、今は3号ファンドメインで50億円のファンドで、どんどん投資させてもらっています。Sales Markerも3号ファンドで出資させてもらいました。

あと去年の4月に生成AI特化ファンドも立ち上げています。生成AIの大きな流れで、新しいビジネスアイデアがどんどん出てくるかなと思っていて、投資を加速しています。ではさっそくですが、登壇者の方に自己紹介をお願いします。まず川崎さん、お願いします。

元スマートニュース役員の川崎裕一氏

川崎裕一氏(以下、川崎):川崎です。僕は今年の3月までスマートニュースという会社に10年間いました。

非公表なんですが、売上ゼロからある程度の金額にまで持っていくことができて。売上を作ったのが僕だから、一応僕は「売上の創業者ということでいいんじゃないか」と思っています。これは(スマートニュースの共同創業者の)浜本(階生)や鈴木(健)も「オッケー」と言っているから大丈夫なんだけど。

スマートニュースの前はスタートアップ企業に長くいて、古い話ネットエイジにもいたし、そこから(日本)シスコシステムズ、ネットイヤー(グループ)、はてなに行って。はてなには創業期にいて、広告事業を立ち上げて上場させました。

そのあと自分の会社をやってミクシィに売却しました。ミクシィの「モンスターストライク」が出るところで、ターンアラウンド(方向転換)してスマートニュースに。僕の得意技は、お金儲け。結果的にはグロースはわかるようになったので、今日はみなさんとそこらへんのお話ができればと思っています。よろしくお願いします。

萩谷:よろしくお願いします。

(会場拍手)

Sales Marker代表の小笠原羽恭氏

萩谷:続いて、小笠原さんお願いします。

小笠原羽恭氏(以下、小笠原):お願いします。Sales Marker代表の小笠原羽恭と申します。私はもともと新卒で野村総合研究所という会社に入りまして、エンジニアでキャリアをスタートしました。

最初はいろいろな基幹システムの開発や、新規事業の推進等をやっておりました。ブロックチェーンの技術を徹底的に極めたところ、役員直下の新規会社の立ち上げの案件に携わることができまして。

野村ホールディングスとNRI前身会社の立ち上げの経験を活かして、次にベイカレントというコンサルティング会社で戦略立案や事業推進に従事し、さまざまなプロジェクトを推進しました。そのあと自らの事業を立ち上げ、創業しました。

創業してから3年経ったくらいのタイミングなので、まだできていないこともありますが、リリース約2年半でARR(年間経常収益)20億円に到達しました。今日は(そこまで)どう成長させてきたかのお話をしたいと思います。少しでもみなさんの参考になることがあれば嬉しく思います。本日はよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

萩谷:ありがとうございます。CrossBorderから社名を変更してSales Markerになったんですね。近年のSaaSでも(Sales Markerは)最速で急成長している会社だと思うので、成長の秘訣を聞いていきたいと思います。

新規事業家の守屋実氏

萩谷:では守屋さん、お願いします。

守屋実氏(以下、守屋):守屋でございます。どうぞよろしくお願いします。僕自身は新規事業家だと名乗っています。今、55歳なんですけど、19歳の時に先輩が作った会社に混ぜてもらって、それからずっと事業の立ち上げのところでウロウロしている人間です。36年くらいやっているので、そこそこ年数が溜まっている感じですかね。

だいたいものごとは「1個のことを習熟するのに1万時間くらいかかり、ようやく専門性を手にする」と思うんですけど。一応日にちで言っても1万日は超えています。でも新規事業を立ち上げるのが上手かどうかでいうと、けっして上手ではないんですね。どうやったらうまくいくのかはよくわからないし。それこそ小笠原さん(のSales Marker)は、信じられない(くらいの爆速で成長していて)世の中の敵はSlackしかないもんね。

(会場笑)

守屋:(小笠原さんの会社は)それくらいすごいんですけど、そんなのは立ち上げたこともないし、スマートニュースみたいなすごい会社もやっていない人間なんです。

でも36年もやっていると「この先は行き止まりかな」「ちょっと具合が悪いかもな」「俺たちここは踏ん張りどころだよな」という勘どころは、ちょっとくらいはわかるようになってきた。それを持って僕はプロなんじゃないかと思って、新規事業家と名乗るようにはしています。

今日はその幾分の経験をちょっとでもしゃべれたらなと思っています。どちらかというと、今日は川崎さんや小笠原さんの話を、僕自身もたくさん聞きたいなと思って座っています。どうぞよろしくお願いします。

(会場拍手)

萩谷:ありがとうございます。そうそうたる会社の立ち上げに携わっているので、ちょっと表じゃ言えないことも、いろいろと教えてください。

守屋:言えないことは言えないんですけどね。

(会場笑)

萩谷:クローズドということで。

守屋:そうですね。個別に「もうちょっと深いことをちゃんとしゃべってよ」と言っていただければ、そこそこ深いことはしゃべれるかもしれないですね。

シード期にどうPMFを達成するのか?

萩谷:せっかくなので、お願いします。今、(ここに)いらっしゃっている方はどういう方が多いのかを把握できればと思うんですけど、スタートアップの方はどれくらいですかね?

(会場挙手)

萩谷:半分くらいですかね。事業会社の方?

(会場挙手)

萩谷:あ、なるほど。支援をされている方?

(会場挙手)

萩谷:なるほど。こんなかたちでやっていると。今日はこのお三方なので、あまりテーマはなくてもいいかなと思っているんですが、切り口になりそうなところを軽く(スライドに)書かせてもらいました。

シード期にどうPMF(自社の製品が最適な市場に提供され、顧客を満足させている状態)していくのか。いわゆるプロダクトマーケットフィットして事業を立ち上げて、そこからグロースさせていくのか。いろいろと具体的なお話を聞きながら、深堀りできればと思っています。

あとは組織。シード期や創業期は「どういう人がいるといい」「実際にこういう組織は失敗していたよ」など、少しヒントになることが見つかればいいなと思っていて。開発体制も含めてシード期には、エンジニアさんはどういう人を入れればいいのか。どういう人を営業で入れればいいのかもあると思うので、聞いていきたいと思っています。

また今の2つじゃ語りきれない落とし穴もあるかなと思うので、そういうところもうかがっていきたいと思います。後半は質問をどんどん受けつけようかなと思っています。「これは質問したいな」と考えながら聞いてもらえると、後半が盛り上がるかなと思うので、ぜひお願いします。

小笠原氏が語る、Sales Marker立ち上げまでの経緯

萩谷:じゃあPMFというところで、まず小笠原さんから「なんでそんなに伸びてきているんですか」という話を。まずは事業の概要と、最初はどういうふうに事業を立ち上げ検証し進めて、「これは来たな」と思うようになったのかを教えてもらえますか?

小笠原:ありがとうございます。最初の立ち上げの時は、実は別の「Glance」というサービスを提供していました。世界中のビジネス情報とスタートアップ情報、テクノロジーの情報を集めて、すべてAIで翻訳したものがスマートフォンに集まってくるという。

新規事業を立ち上げる支援をコンサルファームでやっていたので、それを効率化したいなと思いまして。中国語や英語、その他のヨーロッパ言語の情報にアクセスしづらかったので、それらを一括で収集し、最速で手に入れられるサービスを展開していました。

実はこの時に初めて萩谷さんと松永(和彰)さんにお会いさせていただき、調達を始めたんです。この時1件受注してもかなり安い金額で提供していたので、このまま1億円に積みあがるイメージがぜんぜん湧かなくて。

BtoBの業界の課題をKPIベースで洗い出し、セールスの領域にプロダクトの価値を絞った段階で初めてお会いしました。ベンチマークにすべきサービスや重要な問いを、松永さん、萩谷さんとディスカッションする中で、1回ピボットしました。

当初、CrossBorderを会社として立ち上げた時は、情報のクロスボーダーしかできていなくて、営業の領域において、データを活用するのがある意味一般常識にはなっていなかったんです。そこで、データを活用したセールスという新しい領域へクロスボーダーしていくイメージで、事業を作っていきました。

事業の立ち上げで苦労した点

小笠原:かなりいろいろなリサーチをしたんですが、その中で陥りがちな罠としてあったのが「自分でこのサービスやる必要があるのか」ということ。プレイヤーも多く、セールステック、マーケティングテックはグローバルで見たら無数にあるので、「これをやる意味がないんじゃないかな」と思いそうだったんですが……。

実は共同創業者が4名いるんです。COOはもともと営業領域でキーエンスで1位だったんですが、彼がコールドコールしていたときは、業界平均的には、新規開拓で100件アプローチして1件しか取れないと聞きました。

こういった非効率な営業の領域には絶対に課題があるはずで「これは解決しなければならない」と心に決めました。営業の非効率「100件に1件」を変えるにはどうすればいいか。いろいろなサービスを模倣するのではなく、トップダウンで考え、軸を保ちながら進めていくにはどうしたらいいのか。それが最初に苦労した点でした。

萩谷:なるほど。トップダウンで考えていって、どれくらいからお客さんに当てていったのか、お客さんの意見を聞いたのかどうか?

小笠原:そうですね。すでに「Glance」の時から順調に売上も伸びていたので、これを基盤にビジネスとして本格的にやっていこうかなと思って会社を立ち上げたんです。でも、よりグロースしていくとなったら、単価を高めないといけないし、課題の深掘りをしなければいけない。どんな課題にフォーカスするのか、見極めていくことになったんです。

最初にセールステックを作ってプレゼンした時、「新規性が足りないな」とご指摘いただいて持ち帰ったんですね。

ちょうど年末で、みんなが大晦日やお正月ムードに包まれている中、「新規性とは何か」を辞書で調べ、テキストに書き起こしていって。ニーズがあれば新規開拓もうまくいくんじゃないかと思って、大晦日も正月もずっと徹夜で調べた結果、アメリカのインテントデータというのを見つけたんです。

そこで「これは絶対に新規性がある」と思って、もう一度プレゼンしに行ったんです。なんとか出資を決めていただけたのですが、実は出資が決まる前にすでに営業活動を行い、すでに受注も獲得していました。そのため、結果として受注の後に出資が正式に決まるという流れとなりました。

資金調達している最中に、お客さまへヒアリングを実施し、受注を得ることができました。プロトタイプ(試作品)も並行して開発していたので、安心して出資をご判断いただけたと記憶しています。

プロダクトがない状態で商談が成立

萩谷:確かにそうでしたね。けっこうな単価感で何件か、しっかりお客さんを取れていた記憶があるんですけど。

小笠原:そうですね。

萩谷:その時はまだインテントデータを使ったプロダクトは開発前で、コンセプトで売っていた感じですか?

小笠原:おっしゃるとおりです。まだデモ画面しかなかったので、デモ画面とプレゼン資料だけで提案を行っていました。ちょっと動くものを見せて「3月末にリリース予定です」と説明しながら、3月初めからテストマーケティングを行いました。すると、最初の1~2回の商談で「これ、いけるかもしれない」と可能性を見いだせたタイミングがあり。

そこから、プロダクトがない状態でも商談が成立し、「これは絶対に作るべきだ」と思って。当初3月末を予定していたリリースを、急遽3月14日に早めてもらったんです。CTOに「契約を取っちゃった」と言ったら、かなり戸惑いもあったようですが、そこを乗り越えてなんとかリリースにこぎつけたという感じでした。

今まで広告で使われていたデータを営業に活かす

川崎:僕からいいですか?

萩谷:どうぞお願いします。

川崎:インテントデータって何なんですか?

萩谷:確かに。

小笠原:失礼しました。サービスの概要についてまだ説明していなかったですね。インテントデータとは、ユーザーの検索行動やウェブ上の活動をもとに、企業がどのような製品やサービスに興味を持っているかを分析するデータです。

弊社では、このインテントデータを活用し、売上を「顧客数✕単価」、さらに顧客数を「ターゲット企業数✕商談化率✕成約率」という形で分解し、商談化率を向上させるプロダクトを提供しています。

この手法は、インテントセールスという分野に属していて、米国のGartner(ガートナー)社によると、アメリカの6割の企業が実践しているマーケティングセールス手法です。さまざまな検索行動を分析し、どの企業にどういったニーズがあるのかがわかれば、そのニーズに沿った効果的なアプローチが可能になって、結果として効率的な商談獲得と受注につながるというわけです。

キーワードの設定にもいろいろな要素があって、ターゲットとなる企業の担当者情報やアプローチのチャネルなども工夫する必要がありますが、これらの要素が整うことで商談獲得率が通常の2倍3倍に変わっていったり。

例えば、HRBrain社の事例を公開させていただいているのですが、商談数10倍という成果を達成されています。このように、売上の最大化に大きく貢献できるソリューションを提供させていただいております。

川崎:ありがとうございます。

萩谷:今まで広告で使われていたデータを、営業に活かしたということですよね。

小笠原:はい。おっしゃるとおりです。

<続きは近日公開>