
2025.03.07
メール対応担当の8割以上が「カスハラ被害」に クレームのハード化・長期化を防ぐ4つの対策
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長野弘樹氏(以下、長野):片野さん、自己紹介から進めていただいてもよろしいですか。
片野秀樹氏(以下、片野):みなさん初めまして、片野秀樹と申します。本日お集まりいただいた方、そしてオンラインの方もありがとうございます。
無事、『休養学』が刊行に漕ぎつけられました。これも、みなさまのお力添えがあってのことだと思っています。また、手に取っていただいている方が多くいらっしゃるとうかがっています。本当にありがたいお話だと思っています。1人でも多くの方に、しっかり休んでいただきたいという気持ちで、この本を出版させていただきました。
私の自己紹介ですが、片野秀樹です。今はベルクスという会社に所属していて、執行役員をしています。あとは一般社団法人日本リカバリー協会の代表理事、一般財団法人博慈会老人病研究所の客員研究員、一般社団法人日本未病総合研究所の公認講師と、いろいろさせていただいています。大元は、ベルクスと日本リカバリー協会だと思っていただければと思います。
研究歴について、簡単に書かせていただきました。本の中にも大学の名前が入っているのですが、なぜ(さまざまな学問を)渡り歩いているのかも、みなさまに一言お話しできればと思います。
まず、研究を始めた当時は「休養学」という学問がなかったのですね。「では、どこに頼っていったらよいのか?」と、いろいろなところを渡り歩いていました。一番最初は、東海大学の健康科学部の研究員として研究をスタートしています。
休養というのは健康の3要素の1つです。みなさんご存じだと思いますが、1978年に当時の厚生省が、健康づくりの3要素は「運動」「栄養」「休養」だと発表しました。そこから50年近く経って、健康の3要素がみなさんに浸透しています。
そうであるならば、休養を勉強するなら健康科学の分野がいいかと思い、健康科学部に入りました。ただし残念ながら、そこでも休養にはなかなかたどり着けませんでした。「ちょっと違うのかな?」ということで、医学の分野に行きました。
片野:東海大学の医学部に行ったのですが、医学では「疲労」ではなく「倦怠感」という言葉が使われます。「病気から来る倦怠感」という言葉は、よく耳にすると思います。
この本にも書きましたが、みなさんが病院に行って、お医者さんに訴える主訴は「痛み」が一番だと思います。「先生、痛いんです。なんとかしてください」と言って訪問されることが多いのですが、痛みと同率で「倦怠感=疲れ」を訴える方が多いんですね。
したがって、医学の分野に行くと休養を学べるのではないかと思ったのですが、そこもドンズバ(ピッタリ)ではなかったんですね。医学部では、病気からの何らかの倦怠感、疾病からの倦怠感を研究しているので、健康な人の休養とは少しずれています。なので、またこれも違うなと思いました。
疲れていることがパフォーマンスを抑制してしまうことがあるので、運動分野であれば休養について研究できるんじゃなかろうか、学べるんじゃなかろうかと、日本体育大学(以下、日体大)に行きました。
日体大に行って、大変勉強になりました。それぞれの(専攻分野の)中では、一番ここがフィットするかなという気持ちではいるのですが、ここもドンズバではなかったんですね。
長野:「ここも違う」と。
片野:はい。世界中で、疲労に関しての研究が一番進んでいるのが日本です。日本の中でも疲労科学で一番進んでいるのが、神戸の理化学研究所です。そこの先生たちにお世話になって、いろいろと勉強させていただきました。でも、疲労というと、やはり脳科学的な疲労に入っていってしまうんですね。それで、ここも「違うな」と。
「どこがフィットするかな? もっと深く勉強できるかな?」と思っていたのですが、なかなかバッチリ・ピッタリ合うところがなかったので、いろいろ渡り歩いていました。自分の中では身になったと思っています。こんなところが今までの経験です。自己紹介の中で、ちょこっとだけご紹介させていただきました。
長野:ありがとうございます。
長野:今、お話を聞いていて、(片野氏の経歴と)つながりました。この書籍に書いてある内容が、どれも盛り込まれているなと思っていて。
「だるさ」みたいな倦怠感の部分もあったし、日体大での研究分野はどちらかというと「回復」に近い分野じゃないですか。そういったところも書籍に書いてあったし、すべての経歴がつながって線になって、休養学につながったのかなと勝手に思いました。
片野:はい。いろいろ勉強させていただいたので、その集大成としてこういうかたちになったというのは、そのとおりだと思います。
長野:ありがとうございます。ぜんぜん違うことを言っていたらどうしようかと思いました。
片野:そのとおりだと思います。
長野:そもそも、なぜ休養を学ぼうと、志されたのでしょうか?
片野:みなさん疲れているからです。本に書かせていただいたんですが、1999年に厚生労働省(旧厚生省)が「疲労研究班」というものを作って、国民の疲労調査をされました。当時、国民の6割近くが「疲れている」と答えたんですね。最近、我々の日本リカバリー協会でも調査したのですが、8割に増えているんです。
長野:増えている。
片野:はい。20年間で2割増えているんですね。
長野:じゃあ、20年後は100パーセントじゃないですか。
片野:そうなるということですよね。
長野:(笑)。
片野:恐ろしいですよね。
長野:恐ろしいですね。
片野:「対策は何かしていますか?」と聞いても、なかなか追いついていない。対策は人に頼ってもいいのかというと、そうではないと思うんです。自分自身でコントロールしていかなければならない。ただ、「どうやったらコントロールできるのか」を学ぶところがないんですよね。
先ほどお伝えした、健康づくりの3要素の「運動」「栄養」「休養」のうち、「運動学」は学校で学べるんですよ。「栄養学」も同様で、大学でも学べます。でも、健康づくりの3要素の最後の「休養」は学べないんですね。
おそらくみなさん、小学校から大学までで休養について学んだ経験はないと思います。「なんとなく寝ていれば治るよ」とお思いになられている方は多いと思いますが、本の表紙に書いたとおり、寝るだけでは休養にならない。
もちろん寝ることは大切ですし、寝ないと人間は死んでしまいます。でも、寝る以外にもいろんな休養があると知っていただけると、それをしっかり取り入れることによって、自分自身で対策が取れるんじゃないかと思いました。そんなところをみなさんに知っていただきたいということで、休養学をやってきました。
長野:なるほど。そういうことに興味があって、こういう学びをされたんですね。ありがとうございます。本に書いてあることともかぶると思うんですが、「休養学とはいったい何なのか?」ということや、今出てきた「疲労」や「休養」を、次のスライドから教えていただいてもよろしいですか。
片野:はい。これはOECD加盟国で調査した結果です。「日本人は睡眠時間が短い」というのは、みなさんも目にすることがあるかもしれませんし、耳にすることがあるかもしれませんが、そのとおりなんです。世界で一番短いんですね。
これは2018年のデータですが、442分というと6時間20分くらいですね。だいたいこの調査をすると、ワースト1とワースト2は韓国と日本が行ったり来たりします。お隣の国、韓国も睡眠時間が短いんです。
私が一時ドイツにいたものですから、「ドイツってどうなんだろう?」ということが書いてあります。彼らは休みが多く、休み時間も多いでしょうから、長く寝ているだろうと思うかもしれませんが、やはり平均くらいです。日本と比べると、だいたい1時間くらい長く寝ていらっしゃいます。
片野:ですから、「日本人は睡眠時間が短い」というのは間違いないです。日本人は睡眠時間が短いというと、「じゃあ、なんで?」という質問がよく来るんです。なぜだと思いますか?
長野:国民柄みたいなものかなと思っていて。勤勉であることが美徳、みたいな風潮があるのではないのかなと思います。
片野:そうですよね。「一生懸命働いて、他の国の人たちよりもたくさん働いて、勤勉に働いているから、睡眠時間が短くなってしまうんだ」とお思いだと思いますが、(スライドを指しながら)これが世界の年間労働時間なんですね。
長野:意外と……。
片野:日本は意外と平均よりも少ないんです。そして、先ほど睡眠時間が短いと言った韓国の方は、(年間労働時間が)平均よりもずっと長いんです。
長野:確かに。
片野:1日8時間計算だとすると、日本人よりも30日くらい長く働いている。ドイツは、やはり休みが多いんですね。日本人よりも年間30日くらい長く休んでいることになります。日本人って……おかしくないですか?
長野:おかしいです。
片野:労働時間はそれほど長くないのに、睡眠時間が短い。私はここにちょっと疑問を感じました。「日本人は働きすぎだ、勤勉だ」と勝手に思っていますし、働くことが美徳だと思っています。でも、実際にはそれほど働いていないんです。
長野:……本当だ(笑)。
片野:ですよね。じゃあ、何をしているんですか? あるいはこの時間があるんだったら、もっと休養が取れるんじゃないですか?
長野:確かにそう思います。
片野:そういうことをいろいろと考えていったことが、本の中のエッセンスとして入っています。
片野:まず、休養を考えていく時に、やはり疲労を考えなければならないんですね。じゃあ疲労ってなんなのかというと、体から出る生体アラーム、危険信号です。
危険信号には3つあります。「発熱」は、みなさんおわかりですよね。熱が出ているということは、体の中で炎症が起こっている。ですから、早く家に帰って、早めにお風呂に入って、お休みになる。あるいは、お風呂は入らないというチョイスをされるのが一般的だと思います。
「痛みがある」というのも、おわかりになると思います。神経を刺激しているとか、何らかの障害が起こっているから痛みが発生している。これも、仕事を止めて早く帰ってお休みになる、あるいは過度な運動をそれ以上はしないということになりますよね。
ここまではわかるんですが、「疲労」って、意外と見落としがちなんですよ。
長野:確かに。発熱と痛みだったら、「病院に行ってください」みたいな。でも、「疲れたので仕事を休みます」というのはあまり聞いたことがないです。
片野:そうなんです。発熱や痛みがあると、朝、会社に電話して「すみません。熱があるので休ませてください」と言って、上司から「じゃあ、休んだほうがいいよ」って言われるんですね。でも、「すっごく疲れているから休ませてください」と言うと、「バカやろう。みんな疲れているんだ」と。
長野:(笑)。
片野:「早く来い」「お前だけじゃない」と言われると思うんですね。でも、それはこれを知らないからなんです。疲労を抱えたまま仕事を続けることは、体から出る危険信号を無視して活動を続けているということなんですね。ですから、疲労を危険信号だと捉えていない国民性があるんです。
長野:なるほど。
片野:「がんばって働くことが美徳だ」と、おっしゃっていましたよね。それがあるので、疲労で休むと「怠け」と言われてしまうんです。でもそうではなくて、よくよく考えると、これは体から出る危険信号なので、「この信号が出た時には休みなさい」と考えなきゃいけないんですね。
なぜ危険信号が出た時に休まなきゃいけないのかは、本の中で触れさせていただいています。その1つとして、日本疲労学会が出している疲労についての定義をご紹介します。
「疲労とは、過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた『独特の不快感』と『休養の願望』を伴う身体の活動能力の減退状態である」。これを疲労の定義としています。黄色くラインをつけたところが私たちのターゲットなので、ここを中心に見ていただきたいです。疾病については、病気の範疇になるので切り分けます。
健康の分野で考えると、過度な肉体的・精神的活動のあとの、活動能力の減退状態が疲労であるということです。みなさんはよく、「すごく疲れた」「疲労が溜まっている」とおっしゃいますよね。それって、ここで言う疲労とはちょっと違うのがなんとなくわかりますか?
ここで言っている疲労は、肉体的な活動をすると能力が減退します。例えば100メートルを走ったあと、2回目に100メートルを走ると、(2回目は)1回目と同様の活動能力は出せないです。これは活動能力が下がっているということですね。
また。頭を使うことで言うと、「暗算問題を10分続けます」といっても、1分目と10分目では暗算の能力が落ちますよね。精神的な負荷によって活動能力が下がってしまうということです。ですから、下がった状態が疲労であって、みなさんが疲労だと感じているのは「疲労感」です。疲労と疲労感は違います。
長野:違う。
片野:そこをしっかりと切り分けなければならないんです。
片野:「すごく疲れている」と、よくおっしゃる方は疲労感が強いということです。でも、疲労感と疲労は別物なので、別で考えなきゃいけないんですね。
例えば先ほどの100メートル走の話で言うと、「1等になったら100万円もらえます。ビリになったら100万円払わなければならない」ということで走っていただくと、仮に1等になった時だと疲労感はないはずなんです。
長野:たぶん、ないです。死にものぐるいで走っても、めっちゃうれしいでしょうね。
片野:そうですよね。でも、ビリになったら100万円取られる。これは半端ない疲労感だと思うんです。
長野:確かに。プレッシャーがすごそうですよね。
片野:はい。でも、「100メートル走った」という活動能力は一緒なので、疲労は一緒ですが、疲労感は違います。この疲労感と疲労の乖離によって、今は世の中でいろいろ問題が出ているんですね。本来であれば、疲労と疲労感はいつも両輪のように一緒に動くんです。ですから、疲労感がある時に素直に受け止めると、疲労・活動能力は下がっています。
ただ、動物は常に一緒に動いています。うちはミニチュアダックスフンドを飼っているんですが、犬を散歩している時に動かなくなるんですね。リードを引っ張っても動かないのは、「疲れた」というサインなんです。動物は「自分が疲れた」という感覚と、「活動能力が減退している」というのが、いつも一緒なんです。
長野:伴っていると。
片野:なぜかというと、活動能力が下がっている時に動き続けると、敵に襲われた時に食べられてしまうからなんですよ。
長野:なるほど。
片野:危険なので、動物は自分が疲れていて本来の能力が発揮できない時は動かない。本来の能力が回復するまで動かないことが、危険から避けて通るための能力なんですね。ただ、人間は脳が発達したんです。
長野:だから、疲労と疲労感に乖離が出て差分が出ると。
片野:そうなんです。
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